第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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仮想現実によるア・バオア・クー戦と、クランバトル
両方並行してやってみることにしました。
また会話シーンが続きますが、ご容赦ください。







GQuuuuuuX season2 第3話 相反する世界~奇術師と彗星

ネオ香港の夜景は、宇宙の星に似ていた。

 

海に張り出したホテルの最上階――

全面ガラス張りのバンケットホールには、柔らかな金色の光が満ちている。

 

軍服、礼装、民族衣装、そして最新のフォーマルスーツ。

地球と宇宙、双方の文化が入り混じった空間だった。

 

今夜のパーティは公式行事ではない。

ジオン側は、近々行われるクランバトルの打ち合わせのために、ソドンとグレイファントムの2隻の強襲上陸艦を降下させている。

 

事務レベルの会談、ということで、その全権は、公王府直属艦隊司令官シャリア・ブル准将が担うことになっていた。

 

地球側は、軍のトップとしてゴップ将軍。そして「親ジオン派」の議員たち。

このバーティから少しでも利益を得ようとする財界の大物などが、押しかけていた。

 

ソドンとグレイファントムの降下から、このパーティまではほんの数日しかたっていない。

詳細を詰めようとすればするほど。

調整をしようとすればするほど。

 

参加したいと願うものの数はうなぎ登りになり、収拾が付かなくなるのは目に見えていた。

 

「マラサイとバーザムはどちらもいい機体だ。」

 

ゴップは挨拶によってきた男に、グラスを掲げた。

もともとの知己である。細面の神経質そうな顔の男はウォン・リーといい、アナハイムエレクトロニクスの極東地区の支配人である。

 

「それはどうも。」

ウォン・リーは気の乗らない様子でそう返した。

 

「だが……噂では、それをジオンにも売り込もうとしているとか。噂ならよいが。」

 

「月面の連中は、研究開発も販売も独自の権限で行っております。

閣下のご意向を伝えることは出来ますが、100%こちらの言うことをきくかは、お約束はしかねますな。」

 

「正直だな。」

ゴップは笑みを浮かべた。ここいらは互いに腹芸である。

 

主賓であるジオンの一行はまだ姿を見せていない。

いろいろと準備があるのだろう。

たとえば―――

ここにはいないことになっているアルテイシア・ソム・ダイクンの存在をどうするか、など。

 

「そちらは?」

 

「ああ、これはわたしの甥です。ネオ香港大学の学生ですが、社会勉強のつもりで連れてまいりました。」

 

ウォン・リーの後ろに立つ青年は、二十代の半ばにみえた。

穏やかな表情の青年は、しかし緊張することもなく、ゴップに頭を下げた。

 

「初めまして、閣下。元連邦軍ティアンム艦隊に籍をおいていました。

ヤン・リーです。」

 

もと軍人なら、そこは敬礼だろうが。

と、ゴップは思ったが、パーティ用の笑みは絶やさない。

 

「そうか。予備役かね?」

 

「いえ、正式に除隊しました。」

 

これはのちのちの年金の受け取りなどに大きく差が出てくる。

 

「ネオ香港大学では、なにを?」

「以前から興味がありました史学の研究を。」

「ほう? 将来は参謀本部への復帰でも希望かね?」

 

実際に本部には、士官学校から軍大学、一般の大学で政治学や史学を学んでから、配属されるという経歴をもつものもいる。

 

「いえ、史学科の研究員ですね。差し当たって難しいのなら、大学図書館の司書を……」

 

ゴップは記憶を探った。

ヤン?

そのま名前には記憶がある。

ソロモン落としに反対し、左遷させられたティアンム艦隊の参謀にその名があった……

 

「“奇蹟”のヤンか!」

 

連邦側がモビルスーツを持たなかったジオン独立戦争の初期において、圧倒的なジオンの猛攻のなか、自軍を損なわずに、撤退を続けさせた指揮官の名だ。

 

わざと攻め込ませたあと、補給路線を断ち。

敵を撤退に追い込む。

 

上層部はともかく、部下やともに戦うものたちからの人気は抜群に高かった。

彼のいる部隊は、生き残れる率が恐ろしく高かったからだ。

戦場の魔法使い。ミラクル・ヤン。

戦後の軍縮でまっさきに除隊させられたが……

 

「“奇術師”さん!」

明るい女性の声に、一同は振り向いた。

褐色の肌の美女だった。

スーツに身を固めたハンサムな男性と一緒だった。

 

「これは……“薔薇姫”。」

ヤンは驚いたようだった。

 

「お知り合いかな、ララァ?」

スーツの青年が尋ねた。

 

「ええ、この前お話した、ネオ香港大学の案内をしてくれた方ですわ。」

 

「ゴップ将軍。わたしから紹介させていただきます。」

ウォン・リーが進み出た。

「ネオ香港の実業家クワトロ・バジーナです。クランのオーナーでもある。」

 

「ゴップ閣下。ご紹介に預かりました、クワトロ・バジーナです。これはわたしのパートナー、ララァ・スン。」

「初めまして、将軍閣下。」

 

ララァは優美な仕草で、頭を垂れた。

相手は、連邦軍の重鎮ではあるが―――

そういった連中の扱いは、実はララァはイヤになるほど慣れている。

 

「この度は……」

言いかけて、ゴップは咳払いをした。

「今回は、クランバトルのためにいろいろとご苦労おかけしている、と聞いて、いる。

ご協力に感謝する。クワトロ・バジーナ氏。」

 

情報部の。あるいはネットの噂では、クワトロ・バジーナが、あの男だと。

そう示唆されている。

ただ、証拠だけがない。

 

「このまえ、話題にしたわたしの甥だよ。

元連邦軍の大尉でいまは学生だ。名はヤン・リー。」

「初めまして、クワトロ・バジーナさん。

ネオ香港大学の史学科に籍を置いているので、“薔薇姫”……ララァさんの進学の件で相談を受けました。

ララァさんとは、ある仮想戦記のファンサイトで知り合いました。」

「名前は聞いている……“奇術師”殿だったな。ララァが大変お世話になった。」

 

クワトロは微笑んで握手を交わした。

 

「今日は“レトリィバァ”くんは一緒ではないのかな?」

 

「彼はパイロット養成の専用コースにも通っていまして。

残念ながら今日は時間がとれませんでした。

―――そんなところまでご存知なんですか?」

「“パートナー”なので、ね。」

 

クワトロは、テーブルからグラスを取ると一つをララァに渡した。

 

「シミュレーターを使って、ア・バオア・クーの戦いを構築しようとしているときいたが。」

 

「……はい。いえ、ほんの思考の遊びです。もしシャアによるソロモン駐留軍へ漸減が行われず、ソロモンを中心に打撃戦力を蓄えた連邦軍が、ア・バオア・クーへ侵攻を行ったら。という仮説です。」

 

「そのような仮説は戦後、なんども検討されてきたと思うが?」

 

「ニュータイプ、の存在があります。」

酒は苦手なのかヤンはもっていた紅茶のカップにブランデーを垂らした。

……紅茶が好きなのはわかったが、酒に強いのか弱いのかわからない量だった。

「あの時期、すでに連邦軍は、軽キャノンの量産をスタートさせていました。

一方でジオンの国力はほぼ枯渇しつつありましたから、ア・バオア・クーでの戦力比は一対三か、それ以上になっていたはずです。」

 

「補給基地としてのア・バオア・クーの存在をプラスしても支えるのは難しい戦力比だな。」

 

「そうです。単純に言えば、連邦がア・バオア・クーを抜いたところで、和平交渉になるところです。」

 

「そうだな。いくつかの戦略研究室が出したのも同じ答えだ。」

 

「そこで、問題なのがニュータイプの存在です。」

 

クワトロは首を傾げた。

「連邦はニュータイプの存在そのものを公には認めてはいないはずだ。」

 

「それなら、先読みの異常に鋭いパイロット、と言い換えてもけっこうです。

そのようなものたちは、時と場所を限定すれば単機で戦局をひっくり返すような活躍をする。」

 

「……そうかな? 個人の武勇ではなかか戦局までは覆らないものだが。」

 

ヤンは、両手でカップを支えた。

 

「……失礼ですが、あなたも軍人ですか?」

 

「元、だがね。元連邦軍大尉だ。きみと一緒だな。」

 

「そうですか。存じ上げなくて。」

ヤンは、ブランデー入の紅茶を覗き込むように視線を落とした。

「……なら、あなたは、今回のゲームの設定通り、ソロモンに集結した連邦軍艦隊がア・バオア・クーに侵攻したら、ジオンの敗北は必至であったと思われますか?」

 

「そうだな。三倍以上の戦力は、戦術レペルで逆転できるものではない。

ア・バオア・クーは落とされる。」

 

ゴップは。

何人かのパーティ列席者が、こちらの会話に注目しているのに気がついていた。

こんな話はやめるべきだ。

とくに、これが、ジオンからの来賓を迎えるバーティであるのだから尚更だ。

だが、興味が上回る。

 

話をしているのは、“ヤン・ザ・マジシャン”とシャア・アズナブルだ。

はたして、圧倒的な国力の差を超えてジオンが勝利した秘訣はなんなのか。

 

「ならば、ジオンは結局のところ負けることになります。こうしてジオンが完全勝利してなお、経済規模も人口も連邦が上回っているのですからね。

もし、あなたが、ジオンの指導者だったら、どのように連邦と戦いましたか?」

 

わずかに、クワトロ・バジーナの口元に浮かんだ笑い。それが苦笑に近いものだということは、ヤンにはわからない。

 

「……そうだな。

わたしなら、宇宙から連邦軍戦力を一掃したところで、月面都市を巻き込んで、コロニー国家の独立を宣言する。」

 

「中立、ないしは連邦よりのコロニーへの攻撃は行わないと?」

ヤンの口調が、わずかに変わった。

 

「月面都市やサイド6が中立し、ギレンに攻撃されたコロニーが日和見を決め込んだのは、ジオンが戦えないと判断したからだ。

ルウム戦役後の連邦艦隊残存戦力を一掃してしまえば、おのずと彼らはジオンにシッポをふる。

毒ガスなどで、市民もろともに虐殺する必要などはなかった。」

 

「コロニー落としについてはいかがです?」

 

「難しい問題だな。たしかにジャブローが健在である限り、連邦の戦闘継続意欲は高いかもしれない。

だが、仮に行うにしても、連邦軍の宇宙戦力を壊滅させてからだ。実際に、歴史上行われたコロニー落としは、連邦残存艦隊より妨害をうけて、軌道をずらされている。

それに、質量弾ならば資源用の小惑星の欠片で十分だろう。制御はよりしやすく、地球環境への影響も限定的だ。

タイミングとしては、地球軍が反攻用の艦隊を建造し終わった段階だな。」

 

「なるほど、なるほど。」

ヤンは明らかにこの対話を楽しんでいるようだった。

「地球降下作戦などは行わないと!?」

 

「そうだ。ジオンが一番やってはいけないのが、地上における“破竹の大進撃”だ。ジオンの動員できる戦力では、地上の広範囲の地域を制圧し続けることはできない。

一時的に、連邦軍を破っても取りこぼしが大変なことになる。

反撃を受け、撤退し、モビルスーツも同水準のものを投入され、そして」

 

クワトロは額に手を当てた。

ウォン・リーが心配そうに顔を覗き込んだ。

「大丈夫かね、大佐?」

 

「大佐?」

 

「いや、ただのあだ名みたいなものだよ。」

ウォン・リーはそう言って、甥の肩を叩いた。

「ジオンは勝ったんだ。それは歴史的な事実だよ。ゴップ将軍、長居をいたしました。わたくしどもはこれで」

 

「まあ、待ちたまえ。」

ゴップはにこにこと笑った。

「戦場の奇術師の考案したシュミレーションにはわたしも興味がある。

ようはいままでの戦略のみのシュミレーターでは、あまたのエースたちの活躍が戦局にどう影響したのかがトレースできない、というのだろう?」

 

「はい。ですので、今回のシュミレーションにおいては、モビルスーツ訓練用のシュミレーターと組み合わせて、できるだけモビルスーツの戦闘そのものを有人操作してみようと……」

 

「実に興味深い!!

ならば、クワトロ“大佐”! あなたもぜひ参加いただけないだろうか。

連邦軍からもパイロットを都合しよう。」

 

クワトロは、傍らのララァを見やった。

彼が昨晩、彼女から提案されたのは、まさにそういうことであったが、クランバトルのルール決めからの会場の手配も含めて、これから、かなり繁忙となる彼は、それを、断る気でいたのだ。

だが、これは面白いかもしれない。

 

映像化してライブ配信すれば、かなりの収益が見込める。

 

「わかりました。わたしのクランからもメンバーを募りましょう。わたし自身もパイロットとして参加させていただく……」

 

「い、いえ、出来れば、これだけの戦略眼をお持ちの“大佐”にはジオン側の総司令官として参加いただこうと思っていたのですが……」

 

「「「そんなもったいない!!」」」

 

ゴップ、ウォン・リー、ララァの声が重なった。

ネットの噂とは無縁のヤンのみが、キョトンとしていた。

 

 

 

 

 

会場の照明が突然、暗くなり、ライトはパーティルームの入口を照らした。

 

「ジオン公国からのご来賓が到着されました!」

 

 

 

 

 

 




また長くなってしまいました……
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