第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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ジュドーたちと、ドゥーたちがそれぞれスパルタニアンに文句を言うだけで、一話終わってしまいました。
スパルタニアンについては、練習用の可変機で、それはそれで画期的なものなのですけどね。
ちなみにコスト面も加味すると、超優秀です。
外付けのミサイルポッドでも積めば、戦場に出られるくらいには。






GQuuuuuuX season2 第4話 激突する世界~選手たち

 

グラナダの宙港地区にある小さなレストランは、観光客向けというよりも、地元民や港湾関係者が仕事帰りに立ち寄るような店だった。

荷物を、宿泊先のホテルに送るように手配してから、ユリアンはそこの二階席に腰を落ち着ける。

 

壁は古いポスターや整備マニュアルの切り抜きで埋まり、天井には壊れたスラスターのノズルが照明代わりに吊るされている。

空調は、微かに香辛料の匂いが混じっていたがすぐに慣れて、気にならなくなった。

妙に落ち着く空気だった。

 

テーブルには料理が山のように並んでいる。

 

月産の合成肉のステーキ、香辛料の効いた麺料理、グラナダ名物らしい濃いスープ。

ユリアンの前にも皿が次々と置かれた。

 

食事は、大学の食堂か、寮でヤンと二人でとることか多い。

経済的には、ヤンの貯金と奨学金で生活しているその食事は質素で、慎ましやかなことが多かった。

ヤンは「育ち盛りなんだからもっと食べないと」と気にはしてくれるのだが、ヤン自身があまり健啖なほうではない。

ユリアンだけが、多く食べるのも気が引けた。

 

「遠慮すんな遠慮すんな!」

ジュドーが笑いながら言う。

「長旅のあとなんだから、まず腹いっぱい食えよ。クラバの打ち合わせは明日だ明日。」

 

「そーそー!」

エルがグラスを掲げる。

グラスのなかで金色の泡が弾ける。

「歓迎会なんだからさ。難しい話は禁止!」

 

「乾杯ー!」

 

ビーチャが勝手に音頭をとり、グラスがぶつかり合った。

ユリアンはグラスを一口あおって、口を抑えた。

……アルコールだ。

 

未成年の飲酒については、地域によって基準が大きく異なる。食前酒として一杯はわりと許されているところが多い、とユリアンの知識のなかにはある。

 

特に上流階級と言われるものたちの間はそうだ。

十代の半ばともなれば、パーティに参加することもある。

乾杯の一杯でひっくり返っている訳にもいかないので、家でも少し慣らす意味で、食前酒は出されることが多いらしい。

 

「あ、酒だめだっけか?」

ジュドーが気遣ってくれる。

 

「あ、いえ。でもあんまり飲んだことがないので。」

「じゃ、無理せずにそれだけにしとけよ。」

 

そういうジュドーは透明な泡のたつ液体を飲んでいる。

 

「それは?」

「炭酸水だよ。明日の午前中は、学校があるんだ。」

 

店内は一気に騒がしくなる。

 

モンドはすでに料理に夢中だった。

 

「この店の麺うまいんだよなあ。なあカミーユ、ほら食えよ。」

 

向かいに座っている少年は、少し困ったように笑った。

 

「いや、食べてるよ。」

 

その少年――カミーユは、ジュドーたちよりもどこか繊細そうな雰囲気をしていた。

整った顔立ちで、姿勢も良い。

 

だが笑うと、急に年相応の少年らしさが出る。

 

「でも確かにおいしいね。」

 

「だろ?」

ジュドーが得意げに言う。

「グラナダで一番うまい店なんだ。俺たち常連。」

 

「ただしツケが効くのが大きいけどな。」

 

モンドがぼそっと言う。

 

「うるせえ!」

 

また笑い声が起きる。

 

ユリアンは思わずつられて笑った。

 

ここに来るまでの緊張が、少しずつほどけていく。

 

学校でも研究所でも、周りはいつも年上だった。

教授や教官、軍人、研究者。

 

こんなふうに、同年代の人間と騒がしく食事をするのは久しぶりだった。

 

「それでさ、スパルタニアンってどうなんだ?」

ジュドーがステーキを切りながら聞いた。

「変形は、やっぱ難しい?」

 

「あ、はい……」

ユリアンは少し姿勢を正した。

「最初は戸惑いますけど、慣れると……」

 

クラバの話は明日に、と言ったくせにやはり、そっちが気になるらしい。

 

「変形は、飛行機型から人型へが5秒。人型から飛行機型が6秒……ってスペック表にあったけどそんなもん?」

 

「いえ、実際はそれぞれプラス2秒って感じです。けっこう振り回されますね。慣れないと目も回るし……」

 

ジュドーは難しい顔をした。

 

「なあ、カミーユ……」

「わかってるよ。それじゃあ、敵前での戦闘中の変形は危険だ。

たしかに変形はパイロットへの負担は大きいよ。

だから、ゆっくりにしたんだろうけど……」

 

カミーユもアルコールは飲んでいない。

料理を食べる手も止めて、考え込んでいる。

 

ユリアンはとんでもない違和感を感じた。

可変機は、バーニヤを一方向に揃えることで、高加速を可能にする。

それは必要な戦場にすこしでもはやく到達するためであって、到着したのちは、人型に変形して戦闘にはいるのだ。

 

なぜ、戦ってる最中に変形が必要なのだろう?

それに「ゆっくり」?

操縦体系までが入れ替わることに、7~8秒で対応しなければならないのが、なんで「ゆっくり」なのだろう?

 

そもそも、ジュドーたちは可変機の運用がわかっていないのだろうか?

 

「戦闘中の変形は、もともと想定されてないです。」

ユリアンはふたりの勘違いを解きほぐすべく、ゆっくりと言った。

「すこしでもはやく戦場にかけつけるための可変機なのであって、敵を目の前にした状態での変形は必要ないんです。」

 

ジュドーとカミーユは顔を見合せた。

 

「ああ、じゃあ、これは間違いじゃないんだ!」

タブレット型のデバイスを取り出して、カミーユが、叫んだ。

 

「どした、カミーユ?」

「加速中や旋回中にリミッターがかかって、変形が出来なくなってるんだよ。なにかの間違いかと思ってたのに……」

 

「そ。そんなの無理ですよ! 機体に負担がかかるし、パイロットにも……」

 

「仮にだけどさ」

カミーユは神経質そうに、口の周りを拭いながら言う。

「ビットに囲まれたらどうする?」

 

突拍子もない質問に、ユリアンは絶句した。

ビットが、ニュータイプのみが操作できる遠隔攻撃兵器であることは、知っていた。

だが、それは探知の範囲外から基地や艦隊を叩くための武器だ。

それを単機のモビルスーツ相手に使うという状況がもうわからないし、そうなったら逃げるしか……

 

「そうなんだ。」

カミーユは言った。

「クワトロ大尉からきいたプランはこうだ。ビットにわざと包囲させてから、機体を変形、急加速で離脱。

ビットが追ってきたら、ある程度、引きつけたところで、急速反転。ビットを起きざりにして、敵の本体に突進する。

ビットを引き戻すまえに、相手に致命的なダメージを与える……」

 

「そんな可変機の使い方はありませんっ!」

 

「まだ教科書にないだけだろ。」

ジュドーは平然と言った。

「飛行形態と人型。それぞれの動きも違う。使える武装も異なることになるかもしれない。それを使い分けながら相手を攪乱するのが可変機の真骨頂だろ?」

 

「でもそんな使い方……パイロットの技量が……機体の強度が……」

 

「まあ、スパルタニアンは練習機だからな。」

 

カミーユもジュドーもユリアンに対する悪意などは微塵もない。心から歓迎してくれているのはわかった。

たが、2人と自分には、越えられない壁があるように思った。

同じくらいの年齢なのに。

 

この2人はいったいなにを経験してきたのだろう。

 

「いっそのこと、アーガマにお願いして、ZETAとZZを貸してもらおう。か。」

 

「それじゃあ、ジュニア部門のデモンストレーションにならないよ。同じ機体同士で技量を競わせたいんだろう?」

 

カミーユとジュドーの会話は、ユリアンを置き去りにしていく。

 

「武装は、機銃だけ……」

「いや、サーベルはあるはずだよ。仕様書にそうなってる。」

「ビームサーベルか? クランバトルには危険すぎないか?」

「そんな出力はないよ! たぶん切りつけたところの色がかわるだけの模擬剣だろよ、それにペイント弾。」

「相手は、ドゥーたちだろ?

機体の限界が苦しいのはむこうも同じ条件のはずだ。」

 

 

オレンジジュースのはいったグラスが、そっとユリアンのまえに置かれた。

 

さきほど、ジュドーの妹だと紹介された少女だった。

 

「ごめんなさい。」

リィナ・アーシタはすまなそうに頭を下げた。

「お兄ちゃん、モビルスーツの戦術のこと、話ができるのって久しぶりなものだから。

つい夢中になっちゃって。」

 

「い、いえ……」

 

「ユリアンさんは、パイロット候補生なの? 」

 

「い、いや。ぼくはもともとネオ香港大学の学生なんです。パイロット養成コースのほうは趣味で……」

 

リィナはバッと顔を輝かせた。

 

「そうなんですか! ぜひお話し聞かせてください。」

 

 

「なんだ。リィナはネオ香港大学が志望なのか?」

 

夢中で話をしてるようでも、リィナのことは常に気にしているジュドーが振り向いた。

 

「まだ、決めてるわけじゃないんだけど……ちゃんと奨学金をとるから、お兄ちゃんには迷惑かけないようにするから。」

 

「……いや、たしかアルテイシア様は、『リィナの学費とその間の生活費を援助する』って約束したはずだ。」

完全に悪そうな笑顔を浮かべたジュドーは、大きく頷いた。

「大学に進学したらそれも学費だよな。

リィナ、心配しなくてもお兄ちゃんがジオンから学費をふんだくってやるぞお!」

 

 

 

--------------

 

 

同時刻。

こちらの会合もある意味、気の置けない仲間ではあるが、ジュドーたちほど盛り上がってもいないし、出席者たちもダレていた。

 

アンは一応、きちんとワンピースを身につけ、椅子に腰を下ろしている。

ドゥーは、巨大なビーズクッションに体を埋めて、話をきいているのかいないのか。

エルピー・プルは、ゼロ・ムラサメを相手に、スパルタニアンのダメ出しを、もう30分も続けていた。

 

「……よくわかった。もういい。」

トロワ・ムラサメが、言った。

 

エルピー・プルはこのなかでもっとも歳下だったし、まだ実戦を経験していない。

そして、出自もムラサメ研究所ではなく、ジオン内部の研修施設である。

フラナガンの手の及ばない。おそらく彼でさえ二の足を踏む様な禁忌に手を出している場所だ。

 

エルピー・プルは、そこで作られたクローンである。

 

「とにかく、リミッターだけでも解除させようよっ!」

エルピー・プルは、真剣に言うのだが、ゼロはそれを微笑ましげに見つめるばかり。

 

「ドゥー! アン! なんとか言ってやって!

スパルタニアンがダメダメなのは、あなたたちもわかってるでしょ?」

 

「……心臓が自分の身体に文句言ってもしょうがない……」

“強化人間をダメにするクッション”にもぐったドゥーは、面倒くさそうに答えた。

「あるべき身体にあわせて、鼓動を刻むだけだよ。」

 

「むこうも同じ機体を使うのだから、条件は一緒のはずです。」

赤毛をおさげに結った少女が言った。

アンは、一時期、ムラサメ研究所を離れていた。

つい先日。

ペズンの動乱では、ニューディサイズ側で、ドゥーやトロワと戦っている。

なので、その表情と態度は少し固い。

「思い切り遊べないのは、残念だけど、仕事として割り切ります。」

 

「もうっ!」

エルピー・プルは不満そうに天井を眺めた。

 

グラナダの一流ホテルのスイートルームだった。

 

「トロワ。」

ゼロ・ムラサメは、この中ではもっとも戦闘に特化した強化人間に話しかけた。

「おまえならどう戦う?」

 

「クランバトルは正直苦手だ。

“殲滅”のほうが楽だな。」

 

ゼロの笑みが深くなる。

トロワは……軍が望む強化人間に極めて近い。精神的な条件付けを加える必要もなく、戦いへの禁忌がまったくなく、与えられた任務を淡々と遂行する。

 

「そういう意味では、いまネオ香港大学で行われているあの“仮想ア・バオア・クー戦”。あっちに参加したかった。」

 

「時代が違いすぎるよ、トロワ。」

ゼロ・ムラサメが言った。

「あの時代にヘビーアームズのような広域殲滅型の機体などなかったからな。」

 

「そうか? ビグ・ザムなどけっこう俺向きだと思うが。」

 

「バカを言え。改良を施されたいまのビグ・ザムとはわけが違うぞ。

初期型は、稼働時間が30分にも満たない欠陥品だ。最終的には進むも退くも出来ずに袋叩きにあうぞ。」

 

「その間に、俺なら一個艦隊を潰せる。」

 

オマケに自分の命もいとも簡単に投げ出せる。

 

“だからこそ、そう簡単に死んでもらっては困るのだがな。”

ゼロの心中の呟きはあるいは、自分の創造物へのある種の愛情ではあるのだろうか。

“死んでしまったらデータがとれないじゃないか”

という照れ隠しのような囁きと必ずセットにはなるのだが。

 

「……負けるつもりはないんだ。」

ゼロはトロワを見つめながら言った。

「わたしはモビルスーツの戦闘についてはからきしだ。

どう戦うか。おまえの考えをききたい。」

 

「俺は、ヤツらをよく知らない。」

トロワは淡々と言った。

「ジュドーとカミーユの戦闘も直接はみていないし、話をする機会もなかった……だが、強力なニュータイプなのは分かる。」

 

ドゥー、アン、エルピー・プルの視線もトロワに集中する。

 

「確実に勝つなら試合前に、仕掛ける。殺さなくても、モビルスーツの操縦ができない程度の怪我を追わせれば充分だろう。」

 

「……っ!!」

 

「冗談だ。」

 

ずぶずぶずぶ。

ドゥーがクッションに沈み込む。

 

「……おまえが冗談を言えるとはなあ。」

ゼロは本当にうれしそうに破顔した。

 

「ヤツらと一度会っておきたいのは本当だ。特に三人目。ユリアン・ミントというヤツは知らない。

ネオ香港から来たということだか、名前をきいたことがない。」

 

「名前をきいたことがない?

まあ、ネオ香港もけっこうな人口を抱えてるからな。」

 

「……少なくともクランバトルと黒社会ではきいたことがない。」

 

それはおまえの人脈が特殊すぎるだけろう?

 

 

 

 

 

 




次の舞台はネオ香港。
仮想ア・バオア・クー戦。
ジュニアクラバのデモンストレーションと、ほぼ同時進行なので、交互に書いていきたいと思います。
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