アムロとララァだけちょっと変です。
まあ、ニューダイプですからねえ。
Nフィールドの哨戒部隊も、こちらに気づいていた。
ミノフスキー粒子をここまで濃密にばらまいてしまうと、本隊への無線通信もままならないのだろう。
彼らは発光信号を打ち上げた。
すぐに増援が駆けつけることになるだろう。
機体は、軽キャノンがほとんど。キャノン砲をオミットし、盾とビームサーベル、ビームガンを備えた軽キャノンは2機だけた。
“思ったより、軽キャノン改が少ないな
……”
とクワトロは思った。
このシミュレーターの中の世界は、連邦のV作戦にシャアの妨害が入らず、ガンダム奪取が行われなかった世界だ。
もっと、軽キャノン改が多くなってもおかしくはないと思うのだが。
そうか。
接近戦か。
例えば、当初からガンダムに天才的なパイロットが乗り込み、その動きを学習、トレースしたプログラムを、量産機に組み込むことが出来れば、軽キャノン改のほうが、機動性からもコスト面からも軽キャノンより優れていると言えるのだが、そんなジオンにとって、悪夢のような偶然は起きるはずがない。
敵のキャノンが発射された。
実弾だ。
手持ちの武器も、バズーカのようだ。
威力は大きいが、弾速、弾数、連射速度。どれをとっても、対モビルスーツ戦には、ビームに劣る。
“なるほど。対ビグ・ザム仕様の部隊と出くわしたか。”
クワトロは、ジオングの両腕を射出した。
ありえない方向からの一撃。
それは、連邦のモビルスーツ隊に、混乱をもたらすはずだ。
だが、クワトロが攻撃するまでもなく。
左。右。下。上。
ほぼ同時に発射されたビームが、軽キャノンを貫く。
同時に4機撃墜。
クワトロと同じことを考えていたエグザベが、キケロガの有線ビーム砲で行った攻撃だった。
索敵しそこなった敵に、囲まれた―――連邦軍のモビルスーツ隊はそう考えたはずだ。
こちらにむいていたキャノンやバズーカの銃口が敵を求めて四方に散らばる。
そこに。
ビグロが突進した。
ビームが、一機を貫き、さらに加速しつつ、クローアームに軽キャノンをひっかけて、もう一機に叩きつける。
鮮やかな攻撃にある意味呆れるクワトロの横から、ザクが躍り出た。
独立戦争初期は無敵を誇ったザクだが、すでに軽キャノンに比べれば、攻撃力、機動性、防御面もふくめ型遅れの機体になりつつある。
だが、ケリィがあえて、ザクをえらんだのは―――。
ザクのマシンガンが、一機の軽キャノン改を捉えた。
命中はしているが、盾にガードされ、ダメージにはならない。
そのまま、接近するが、せいぜいヒートホークしか持たないザクに比べ、ビームサーベルを装備した軽キャノン改は、接近戦ならばむしろのぞむところだった。
ビームサーベルを抜き放ち、ザクに襲い掛かる。
ザクはヒートホークを、抜こうとはしなかった。
その左手で無造作に、その一撃を払い除けただけだった。
左腕は。
通常のマニュピレーターではなく、その腕先がクローアームに改造されている。
その鉄の爪が、軽キャノン改の腹部を貫いた。
ザクの動きではない。
まるで、ムーバブルフレームとマグネットコーティングを施した現代の最新鋭機、いやニュータイプの乗ったサイコミュ搭載機にのみ許されるような滑らかで無駄のない動き……
「そうか! リユース・P・デバイスか!」
ケリィは、先の対戦中に片腕を失っている。パイロットとしては大きなハンデだが、それを埋めるべく、彼のザクにはリユース・P・デバイスが搭載されている。
この仮想空間のザクにもそれを導入したのか!
一応、独立戦争時にあった技術なので反則にはならない。
“墜ちろ!”
ジオングの指先から一度に発射されるビームは五門。指先がすべてビーム砲になっている。
さすがに、一度に5機撃墜とはいかないが、2機の軽キャノンが爆散する。
いや。ビームは両腕にあった。
さらに2機がダメージを負った。撃墜には至らないが一機は両脚を破砕され、もう一基はメインカメラが、ふっとんでいる。
もう戦闘はできない。
連邦の哨戒部隊は撤退を選んだ。
破損した僚機を抱えながら、戦場を離れていく。
「……撃たんのかな? ガトー少佐。」
敗北して逃げ出したものを後ろから撃たぬのも武人の心意気か、と思ったがそうではなかった。
「このまま、追撃しましょう。」
ガトーが提案した。
「彼らが撤退する場所には、艦隊がいる。増援のモビルスーツ部隊もいる。
すべてが我々の獲物だ。」
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強い。
ララァはなんどめかの呟きをもらした。
未だガンダムに有効打は与えられず、失ったビットは3基。すべてビームサーベルによる攻撃である。
動きが……読まれている。
ララァのみた夢の中で、彼女自身がアムロと対峙したことは何度もあった。
いつもネックは大佐であり、彼がしゃしゃり出てくることで、彼女が落とされたり、大佐がやられたり。
そうした意味では、このシミュレーションは、ジャマの入らないアムロと2人だけのデートと言えた。
いやいや。これは危ない考え方だ。
まるでモビルスーツ戦を「楽しいお遊び」として条件付けされたアン・ムラサメのようではないか。
「夢」がどうであれ。わたしはわたし。
わたしは。
わたしと大佐とアムロのために、唯一の未来を護る。護ってみせる!!
また、一基。
ビットが破壊された。
今度はビームライフルによるものだ。
やはり……ビットの動きが読まれている。
新しいビットを出すべきか。
ララァは迷った。
新しいビットを射出すれば、それはアムロにこちら位置を把握させてしまうことになるだろう。
だが、アウトレンジが可能なこの距離では、ビットの精緻な操作は難しい。
仕掛けるか。
それとも。
ララァの視界の隅で、爆発の光が起こる。
一度の射撃で複数のモビルスーツが落とされた。
それはおそらく。サイコミュ兵器が使用された証だ。
大佐が戦闘に入った。
予定の時間よりは早いが、おそらくは哨戒部隊と遭遇したのだろう。
ならば。
アムロをここから引きはなさないと!
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来る!
新たなビットが来る!
それはすなわち、その方角が、ビットの母艦たるモビルアーマーの、ララァのいる方向だ。
爆発的な推進力をもつ可変機ならば、ビットをいったんこちらにおびき寄せたところで、一気に反転。ビットを置き去りにして、本体をたたくことも可能だろう。
だが、アムロのガンダムはそこまでの性能はもたない。
地道に。
「そこっ!!」
ビームライフルの一撃が、また一基のビットを砕いた。
ララァが居場所を晒したのは、誘いだ。
クランバトルで海千山千のパイロットどもと駆け引きをしてきたアムロにはわかる。
ララァは、この空域からアムロを引き離そうとしている。
おそらくはそのタイミングで、ジオンの精鋭部隊が、Nフィールドを急襲するのだろう。
その手にはのらない。
アムロにして見れば、ビットさえ落としてしまえば、ララァは無力である。
モビルアーマーそのものにも武装はあるだろう。
サイズからすれば、巡洋艦クラスのメガ粒子砲くらいは積んでいるかもしれない。
だが、もともと巨大なビットを内部に収納するために、モビルアーマーそのものも巨大にならざるを得ない。
いくら防御力を高めても、機動力を上げても、艦隊の対空砲火にとってはいい的にしかならないのだ。
“アムロ!!”
ララァの叫びは直接、脳内にこだまする。
視野がプリズムのような光にみたされ、その中にララァの姿が浮かび上がった。
あくまでそれはアムロのイメージなのだろう。
彼女のお気に入りのゆったりと下貫頭衣に、髪をお団子に結っている。
彼女は―――怒っていた。
“ちょっと! 無力はないでしょ!無力は。”
マチュといい、ララァといい、どうしてニュータイプの感応力を無駄遣いするのだろう。
“ごめん……じゃあ、ええっと……『全然、脅威じゃない』”
“かえって堪えるのだけど!?”
ビットが螺旋の軌道を描く。
その中をララァの“とんがり帽子”が進む。
メガ粒子砲は二門。同時に火を吹いた。
アムロは辛うじて回避した。
ビームライフルを掠めた一撃が、砲身を融解させる。
「ぼくは!」
ビットの攻撃を避けながらアムロは叫んだ。
「もう二度と、ララァを殺したくないんだっ!」
「それならっ!!」
ララァも叫び返した。
「一回くらいは、そっちが落とされなさいよ!」
前後左右から。
いや上からも下からも。
ビットは自在に動き、アムロを追い詰めた。
盾の下半分が誘拐し、足元をビームが掠める。
ビームの弾幕を掻い潜るように、アムロがまた一基のビットを切り裂いた。
「そこっ!」
ビットをきり払った直後のガンダムに、新たなビットが迫る。
かわしようもない致命の一撃。
「アムロ!!!」
「え? なんかやっちゃった?」
「ビームそのものを切るものではありませんっ!!」
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「なにをやってんだろう、天パとララァさん。」
マチュやニャアンにもその『声』は届いている。
ニュータイプ以外には聞こえない。
「傍から見れば死闘なんだけど、やってることは痴話喧嘩だよね。」
「マチュ。ジオンのニュータイプ部隊が来る。」
クワトロ・バジーナにもその声は届いていた。
誰にも聞こえないように、口の中で呟く。
“ララァ! ヤツとの戯言はやめろ!”
だが、少なくともララァとアムロが、戦闘を通じて2人だけの世界に入ってしまったのは理解できた。
ララァの想い人であるクワトロには、なんとも不快な。
「沈めっ!」
ジオングの指から5連のビームが放たれる。
前方のマゼランに叩き込まれたそれは、誘爆を起こし、直衞に上がっていたモビルスーツを巻き込んで火球を造る。
「うわおっ! ナイス八つ当たり!」
ニャアンが叫ぶ。
「八つ当たりなの、あれ?」
「それ以外になんかあるかな?」
両腕から。胴体内から。
ビームが次々と放たれる。
マゼランが、サラミスが。
次々と爆沈していく。
「させない!」
セイラの軽キャノン改が加速する。
放たれたビームガンを、ジオングは華麗に回避した。
巨体のくせに運動性能は悪くない。
「ミサイル弾幕! 来るよ!」
ジオングの後方から、接近するモビルアーマーが発車したミサイルが、マチュたちの進路を遮る。
ニャアンは両手に握ったマシンガンを発射。
次々とミサイルが撃ち落とされていく。
「早いよ、あのモビルアーマー!」
「たぶん、ビグロっていう機体……左前方、三時。キケロガ発見。たぶん……エグザベが乗ってる。」
足元方向から湧き上がるように発射されるビームをマチュとニャアンは、なんとか回避した。
キケロガの有線ビーム砲だ。
かつて、シャアは赤いガンダムをもって、キケロガと相打ちにまでもっていったが、あのガンダムにはサイコミュが搭載機されていた。
いま、マチュとニャアンが乗っている仮想空間のガンダムにはそんなものはない。
「エグザベ君! そいつらはわたしに任せて、きみは艦隊を!」
「り。了解しました、ガトー少佐。」
ニャアンが叫んだ。
「行かせるかっ! エグザベごときに!」
「え? けっこう面倒見てたつもりなんだけど!」
様々な思いを乗せて。
闘争は激化していく。
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「Nフィールド、被害拡大。」
アッテンボローは、そう報告しながら、尊敬する先輩の手からブランデーの小瓶を遠ざけた。
「……あのね。ただの紅茶の香りづけだよ。」
「仕事が終わってから飲みましょうね?」
「ユリアンはどうしてるかな。そっちも気がかりなんだ。」
「そろそろ、グラナダのデモンストレーションは終わってるはずです。結果を取り寄せときますよ。
Nフィールドはどうします?」
「アムロくんはどうかな?」
ヤンは、ブランデー抜きの紅茶をすすりながら言った。
「クワトロさんが無理やりねじ込んだ、あのビットを使うモビルアーマーにかかり切りです。
というか、艦隊殲滅も可能なビットを操る敵と、単独でやり合えてるだけでも奇跡なんですが。」
「クワトロ氏のジオングは?」
「……なんと言うか。無双状態ですね。」
アッテンボローはサブモニターの数値を指さした。
艦艇、モビルスーツ。被害の数が刻々と跳ね上がっていく。
「遭遇した哨戒部隊を叩いて、その敗走を追う形で、仕掛けたのも上手かった。」
ヤンは呟いた。
「数で勝り、警戒を怠ってはいなかったはずのNフィールドの連邦戦力が、かなり削られている。」
「その分、S、W、Eフィールドは順調に敵を押し込んでいますよ!」
アッテンボローは明るく言った。
問題は押し込んだあと。要塞からの攻撃が直接届く空域での戦闘や、場合によっては要塞内部での潰し合いなのだが。
「少し、進撃が早すぎるな。」
ヤンは呟いた。
「各フィールドは侵攻を少し遅くするよう指揮AIに指示を。」
「え、ジオン軍の後退に追従して、戦力を少しでも削ったほうが」
ヤンは、黙って傍らの小型のモニターに目をやった。
「ソロモン……ですか? なにか指示がありますか?」
「なにもないよ。ソロモンはそのままで。」
第5話の分量はこのくらいかな。