最後はアレで〆ましょう。さあ、お手を拝借……
それはただの岩に過ぎない。
人類は、コロニーの建設の資源として、いくつもの小惑星を運んできた。
ソロモンも、ア・バオア・クーも、有用な資源を採掘し終わったただの岩塊だ。
そこに居住区を作り、武器を装備して「要塞」としたのは、人間のエゴに過ぎない。
ソロモンは、すでに無人と化している。
移動のための核パルスエンジンも失い、ただの小惑星に戻ったソロモンは、だからこそどうしようもなかった。
ただの膨大なる質量。
ひとのコントロールを離れたそれは、誰にも、どうしようもなかった。
全員が。
それを呆然と見つめている。
アムロも。クワトロも。セイラも。
マチュも。ニャアンも。エグザベも。
ガトーが歯を食いしばった。
またしても!
またしても自分は、ソロモンを救えなかったのか!
シン・マツナガは、動けなくなったビグ・ザムの装甲を切り裂いた。
コクピットモジュールをそっと引きだす。
「ハーディ・シュタイナー、生きているか?」
「よけいな、マネをするな。」
ハーディ・シュタイナーはむしろ苦々しげに言った。
「これはただのシミュレーションだぞ。
撃墜されようが爆散しようが、このシミュレーターからログアウトされるだけだ。
痛くも痒くもない。」
「途中で退場したものは、打ち上げの時に余興に一芸披露があるのを忘れたか?」
「ふん! ソロモン衝突を決定づけてしまった阿呆にも参加の資格はあるのか?」
「自分のしたことを理解しているようだな。」
事ここに至れば、もはや笑うしかない。
「わかっている。ノズルは片方だけ破壊すべきだった。そうすれば、ソロモンの軌道はそらせたかもしれない。だがどこかの阿呆が、全てのノズルを破壊してしまった。
もはや、ソロモンを止める方法はない。
衝突までのわずかな時間に、
ア・バオア・クー内部の戦力をすべて脱出させるのは不可能だ。
ジオンは本国防衛の要を失う。このあとおそらくは和平になるのだろうが、それはジオンの敗北……ということになるのだろうな。」
「ビグ・ザムの全力射撃場は、いままで一度も試されたことはない。」
なぐさめるようにシン・マツナガは言った。
「威力の調整ができなかったのは、現場の責任ではないよ。」
さきほどまで、ジオングとガンダムと軽キャノン改を相手に奮戦していたララァも大人しくなった。
「ララァ!」
「ララァ……大丈夫か?」
「ココ! 平気なの?」
「……ああ。」
ララァは呆然と周りを見回した。
モニターにうつるものたちは、彼女にとって大事なひとたち。
「……終わった……みたいです、大佐。」
「“夢”の記憶かい。きみを混乱させていたのは?」
「そう……ね、アムロ」
ララァは首を振った。お団子にまとめた髪が解れて、広がっている。
「大丈夫。わたしはわたし。あなたに殺されてもいなければ、大佐も死んではいない。」
「あたりまえだ!」
クワトロが無理に明るく言った。
「ここはたんなるシミュレーター仮想世界だ。ここで何が、起ころうが、現実に影響することなはない!」
「そうです。シミュレーターではダメでした。やはり……」
ララァはあとの言葉を飲み込んだ。
(本当に戦わなければ『上書き』は出来ない)
「……見届けましょう。」
セイラが静かに言った。
「ア・バオア・クー戦の結末を。」
トリコロールカラーの機体がそこにすべり込む。
「違うよ! 姫さん。
まだ、終わらないよ!」
マチュのガンダムだった。
かなりの損傷を受けているが、まだ動く!
……逆に言えば動くだけだった。
ニャアンのパープルガンダムと、エグザベのキケロガもやって来る。
「まあ、仮想現実だからね。」
「違うよ、天パ!!」
マチュは唇を尖らせて言った。
「ここからが、ホントの大どんでん返しだよ。」
「いや、それは無理だろう。」
クワトロも苦笑いを浮かべている。
「あの質量はとめようもない。まもなくあれは……」
クワトロの記憶がフラッシュバックする。
(……グラナダに?)
「気がついたみたいだね、シャアさん。
ぜんぶ、条件がそろった!
そろっちゃった!」
ラ
ラ
ラ
ララ
ニュータイプたちの目の前を、光り輝く蝶の羽根が染めていく。
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「な、なんです! 今度は!」
アッテンボローは叫んだ。
「独立戦争末期。
連邦軍は、月のグラナダにソロモンを落とそうと目論んだ。」
ヤンは、ブランデーの小瓶に手を伸ばした。だが今度はアッテンボローも止めなかった。
「シャア大佐率いる特務艦隊は、これを阻止するために、特攻。守備艦隊を突破して、ソロモン内部に上陸。核爆弾で、ソロモンを爆散させようと試みた……だが、それは失敗した。」
「ヤン。」
アッテンボローは恨めしそうに言った。
「ん? なんだい?」
「ブランデーを一口、残しておいてくれませんか。こっちもシラフじゃいられない。」
ヤンは笑って、ブランデーをアッテンボローに渡した。
一口煽ってから、アッテンボローは大きく息をつく。
「つまり、これは」
「もはや、ソロモンのグラナダ落下はだれもにも止められない。みながそう思ったとき……」
モニターの中のソモロンが、内側から湧き上がるような光に包まれていく。
「要するに、ゼクノヴァがおこった!……ってことですか?
だれが!? なんのために?」
「シミュレーションAIが、ゼクノヴァの発生原理を理解しているとほ思えないね。」
ヤンは、ブランデーをたっぷりと注いだ紅茶を口に運んだ。
「誰が、なんのために、と言うがね。ゼクノヴァは“現象”だよ。そこに人の意志は必要ない。」
「つ。つまり」
「ネオ香港大学のAIは、仮想世界のなかでゼクノヴァの発生条件がそろったと、理解したのさ。」
次章「グラナダの嵐」。
ジュニアクラバのデモンストレーションバトルと、アナハイムムーンの暗躍にご期待ください。