月面のアナハイムムーンを中心に、アナハイムエレクトロニクスはクランバトルへの参入を狙っています。彼らは、既存のクラバは難しいので、ジュニア部門を新たに立ち上げることを計画します。その人材確保ためにグラナダのフラナガンスクールに目をつけました。
一方。クランバトルの大立て者、アンキーはその機先を制するために自ら、クランバトルのジュニア部門を立ち上げ、そのデモンストレーションのために、カミーユ、ジュドー、ユリアン、アン・ムラサメ、ドゥー・ムラサメ、エルピー・プルを集めます。
月の軌道上で、デモンストレーションのための試合がはじまりました。
フォン・ブラウンとならぶ月面最大の都市、グラナダ。
人口は五千万。
ひとつ国家に等しいこの大都市には、アナハイムエレクトロニクスのグラナダ支社のオフィスも置かれている。
広大なスペースを占めるその施設は、あるいはグラナダの行政府よりも広いかもしれない。
さらに、月面工場や研究所など、グラナダ市外の施設を含めればアナハイムムーンに属するものは数万人。
独自の守備部隊もそなえている。
サイド6や月面都市が備える払い下げのザクの部隊ではない。
自ら開発した最新鋭機マラサイを中心とした打撃戦力である。
戦艦や巡洋艦といった航宙戦力こそもたないが、これはもう立派な軍隊ではないのか。
そして、アナハイムムーンもまたひとつの国家だと言えるのではないだろうか。
そのグラナダ支社のミーティングルームに、内定者たちが集められている。
通常ルートの募集ではない。
フラナガンスクールの卒業予定者たちだ。
それはすなわち、彼らがニュータイプである。ということを意味する。
もともとジオン軍に入隊する予定の人材を、報酬とプライドを餌に半ば無理やりスカウトしたものたちである。
ミーティングルームはモニターを正面に、ゆったりとしたひな壇となっていた。
アナハイムムーンのニュータイプ部隊だと、紹介された美少女たちが、甲斐甲斐しく、飲み物を世話している。
アナハイムムーンにとって、クランバトルの興行権をめぐって対立関係にあるクラン、ポメラニアンズの開催するクランバトルのジュニア部門。、そのデモンストレーションの見学とのことで集められ他のだ。
「……そろそろ、ネオ香港大学でシミュレーションの実況がはじまるんですが。」
ひとりが不満そうに、手元のタブレット型デバイスに視線を落とした。
「もし、連邦がア・バオア・クーに攻め込んだら、という設定のシミュレーションなんです。
そっちを見てはダメですか? 子どもの操縦する練習機の模擬戦なんて見てもなんの参考にもなりませんよ。」
「さっきも言ったけど、パイロットはちゃんと厳選しているようだよ。」
自身もまだ「子ども」の年齢である内定者に、生意気な口を叩かれても、アナハイムムーンの責任者N・ロック氏は特に気にもとめなかった。
「だれなんです? ぼくら以外のノラのニュータイプでも見つけたんですかね。」
「近いな。だが参加者のなかには実戦を通じて、優秀な成績をおさめたものもいるようだよ。」
「実戦?」
「デラーズ紛争とニューデイズサイズの蜂起だよ。」
「そこに少年兵が、参加していたという話はきいていませんね!」
「……まあ、きみたちの知らないことなど、いくらでもあるからね。」
表情は穏やかだが、その口調に秘められたモノに、ゾクリと身を震わせた内定者は、なおも言いつのった。
「そいつらはいったい何ものなんです!
そんな優れたパイロットの才能があるものなら、フラナガンスクールに入学していたはずです!」
「まあ……きみの言う『ノラのニュータイプ』もいるし、あとはムラサメ研究所の出身かな……」
内定者たちは、顔を見合せた。
なにかと倫理を問題にされる強化人間の研究所でもムラサメの評判の悪さはグンをぬいている。
「……わかりました。後学のために拝見します。」
精神までもモビルスーツの型に叩き込む。
ムラサメ研究所の強化人間の『性能』には、彼らも興味があった。
「……でしたら、なおのこと、練習機スパルタニアンの使用はもったいなくないですか。」
別のひとりが言った。
「可変機ならではの、変形による高機動での攪乱が、リミッターだらけの練習機では使い物にならないはずです。
ぼくも一度、乗ったことがありますが。
変形に時間がかかりすぎる上に、旋回や加速中の変形が出来なくなっています。」
それはもちろん、危険だからリミッターをかけているだけなのだが、自分ならば使いこなせる……発言者はそう自負しているようだった。
「いい質問だ。」
Nは楽しそうだった。
「これはお題にしようか。
加速、旋回中に、変形が出来ない可変機に乗ったニュータイプが、8番目に思いつくこととは?」
アナハイムムーンのニュータイプ部隊の少女たちが、いっせいにフリップに筆を走らせる。
は?
なにが始まった。
異様なものでもみるように、彼女たちを見つめるフラナガンの卒業予定者たち。
「はい!」
髪の長い少女が手を挙げた。
「おっ、はやいね。
ではお願いします。『加速、旋回中に、変形が出来ない可変機に乗ったニュータイプが、8番目に思いつくこととは』」
少女は、フリップをあげた。
変形しかけたスパルタニアンが、ブースターをふかしている絵だ。けっこう上手い。
「加速してると変形できないから、さきに変形をしかけてから、加速をかける!」
ニュータイプ部隊の少女たちが、感心したようにおおっと声を出した。
Nはうんうんと頷いた。
「うーん、あんまり面白くは無いんだけど、正解だしちゃったかな、これは」
「何を言ってるんですか! そんなことができっこないし、もしやったら」
そのまま。彼は硬直した。
残りのものたちも、ぽかんと口を開けている。
モニターのなかでは。
ピンクのスパルタニアンが、人型から航空機型へ変形する途中で、急速旋回を行おうとしていた。
当然、どちらかの形態になって、使用すべきスラスターが、異常作動をする。
そのために、なにかに蹴飛ばされてような勢いで、スパルタニアンの動きを変化させた。
そのあとを一瞬遅れて、蛍光弾の軌跡が駆け抜ける。
つまり、ピンクのスパルタニアンがそんな無茶苦茶な動作を行わなければ、撃墜判定……少なくとも命中によるダメージ判定はとられていたはずだ。
ピンクのスパルタニアンと対峙するのは、明るいグリーンに塗装されたスパルタニアンである。
3対3ではじまったこのデモンストレーションだが、開始早々にグリーンスパルタニアンの一機がなにもできないまま、体当たりをうけて、動作不能になっている。
機体そのものは大きな破損が見られないから、おそらくはパイロットが失神したのだろう。
戦いは2対3だ。
ムラサメ研究所の強化人間が乗るというピンクの、スパルタニアン側が有利だが、グリーンのスパルタニアンのパイロットも負けてはいない。
とんでもなく正確な射撃で、ピンクのスパルタニアンを狙い続ける。
さきほどの無茶苦茶な高機動が無ければ、とっくに直撃をもらっていただろう。
「はい」
別の少女が手を挙げた。
「いいね。『加速、旋回中に、変形が出来ない可変機に乗ったニュータイプが、8番目に思いつくこととは?』」
「変形の途中で、やっぱ変形をやめてみる。」
「そりゃあ、8番目じゃなくて、58番目くらいだろっ!」
Nは、だあだあだあと笑いながら、内定者たちに話しかけた。
「どうだ? きみたちもやってみるかい?」
「な、なにをやってるんです? 大喜利じゃあるまいし!」
「お、大喜利じゃないって!?」
解答した少女は。笑みを浮かべながら怒ってる。
「ひ、ひとの解答を土足でっ!」
“不味いな―――”
Nは、内定者たちの顔色が青くなっていくのを見ながら思った。
“不味い。アンキーの狙いは最初からこれか。”
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「な、なんだよ! こいつ!」
カミーユは、叫んだ。
彼の射撃。完全に相手をとらえたはずの攻撃は、再び外された。
人型から飛行機型へ。
飛行機型から人型へ。
目まぐるしく変形を繰り返す。
加速途中での変形には、リミッターがかかっているはずだが、どうもムラサメの強化人間たちは、さきに変形プロセスを開始し、そのなかで急制動を行っている。
「ジュドー! スパルタニアンにこんな機能があるのか?」
カミーユは、盾をあげた。
変形途中のまま、駆け抜けるドゥーの機体から放たれるマシンガンの蛍光弾が、盾を染める。
「モビルスーツの性能そのものはそっちが、くわしいだろう!?」
ジュドーは、エルピー・プルとアン・ムラサメの二機からマークされている。
かわしつづけながら、スキを狙うが、反撃に転じることは出来ない。
「もともとスパルタニアンは、思ってた以上に優れた機体剛性をもっていたのかもしれないな……」
カミーユは、機体を横滑りさせながら、人型への変形を終えたドゥー・ムラサメ機が、剣を抜くのを見つめた。
「機体の変形速度が遅いのも、高速起動中に変形が出来ないのも、パイロットに対する安度を高めるためにそうしているのかも……」
逆に言えば、ドゥーの変形途中での加速、旋回は、変形が7~8秒かかってしまうことを逆手にとったトリッキーな技だ。
モビルスーツ戦闘に対する恐怖心を、精神的な枷で封じられている強化人間、なかでもドゥーは、自分自身をモビルスーツのパーツの一部だと、思い込まされている。
だがらこんな無理もできるのだ。
冷静な判断ができるものなら。たとえ、可能であってもやろうとは思わない不規則な機動。今回は大丈夫でも次回は、機体のどこかに無理がでて、自壊するかもしれない危険な技。
カミーユ自身も理屈はわかってもやろうとは、思わない。
「腕を上げてる?」
ドゥーが話しかけてきた。
パイロット同士の会話など、正式なクラバではありえない。
賭け事の対象になっている以上、単純に「八百長」を連想させるからだ。
だが、今回はデモンストレーションということで、回線は生きている。
「その機動は危険だよ、ドゥー!」
カミーユは言った。
「スパルタニアンはリミッターをはずせばかなり使える機体みたいだ。でもいまのドゥーの使い方では、いつバラバラになるかわからない。
もうやめるんだ!」
「ボクのことはボクがいちばんよくわかってるよ。」
モニターに映る少女は不満そうに、くちびるを尖らせていた。
「そもそも、こんなに強制変則変形からの攻撃をかわされるとは思ってなかったんだから!
あと、それになに、きみの射撃の正確さは!」
「……お互いに、あのひとの弟子みたいなもんだからな……」
そうだ。
今となっては、ずいぶん昔に感じるが、カミーユとドゥーは、トアールコロニーで開催されたモビルスーツ大会のエキシビジョンで、戦ったのだ。
そこには、白い悪魔……アムロ・レイもいた。
“踏み込みが足りない!”
“背中にも目をつけるんだ”
“弾幕の中は、ほかの攻撃を気にしないで良い分、安全だ”
……その教えをぜんぶ、ものにできた訳では無いが、たしかにドゥーにもカミーユにも彼の指導は生きている。
接近戦!
カミーユも剣を抜いた。
上段から振り下ろすドゥーの一撃を、カミーユの剣が迎え撃つ。
本当の戦闘なら、すでにビームサーベルが使われているし、クランバトルなら主にヒート剣やヒートホークだ。
だが、これはたんなる金属の塊である。
本体に当たれば「斬られた」という判定がつく。
それだけである。
両者のスパルタニアンは、まったくの同性能。
なのに、カミーユが押し込まれた。
なぜ?
押し返そうとした瞬間、ふわっと力が抜けた。
スパルタニアンの体勢が揺らぐ。
そこに首を薙ぐように、ドゥーの一撃が襲いかかってきた!
機体を仰け反らせ、かろうじてカミーユはその斬撃をかわす。
「だからなんでよけられちゃうのかなあ……」
不満そうにドゥーは言った。
「きみやジュドーはたまたま『成った』ニュータイプ。ボクは自分で選んだニュータイプ。ボクのほうが優れてるはずなんだけど。」
カミーユvsだったらフォウのほうが、物語的に面白いんでしょうけど、フォウの設定だと十代説ともう少し上説があって。
あと、フォウはココ・シャロンことララァと一緒にいないと精神が安定しないしいう設定を勝手につくってしまったので、グラナダ出張は難しいかも。