第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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ネオ香港のほうをもうちょっとかきたかったので。
次回は、またグラナダに舞台は戻ります。







【特別編】愚か者の宴

ア・バオア・クーを巡るシミュレーションは、連邦軍の勝利で終わった。

 

ア・バオア・クーを守る戦いにおいて、ジオンはア・バオア・クーを放棄して、脱出を試みたのだ。

だれがどう見ても、連邦軍の大勝である。

 

ただし、ゼクノヴァにより膨大な質量を異空間に放出したソロモンは、軌道を外れ、ア・バオア・クーとの衝突は避けられた。

 

この時点で、運営はゲームを終了し、パイロットとして参加していた者たちを強制的にログアウトさせるべきだった。

……と言うのはあと知恵だ。

 

ログアウトは各自でするだろうし、これがゲームだとわかっている者たちは、めったに見られない“ゼクノヴァ”を目の当たりにするのをしばらく楽しむかもしれない。

 

あるいは、先般の『イオマグヌッソ事変』において失われたア・バオア・クーを感慨をもって眺めるかもしれない。

 

だが、この“仮想ア・バオア・クー戦”の最後の30分に起こったことは、こう呼ばれることとなった。

 

 

―――ワルプルギスナイト。

 

 

魔女たちの祭典のごとく、参加したものたちは、敵も味方もなく、攻撃しあった。

 

わずか30分。

 

のほほんと見ていた運営より、青くなったクワトロ・バジーナの提言で、ようやく強制ログアウトが行われたときには、この30分で落とされたモビルスーツの数は、それまでの数十時間での戦闘の合計を上回った。

 

クワトロ・バジーナは、自分の招待選手に、撃墜数に応じた歩合を約束していたため、この30分で、有料配信による莫大な利益をほとんど放出するはめになったのだ。

 

 

要するに。

 

と、批判するものは言う。

 

ネオ香港大学のシミュレーターを司ったAIが、ゼクノヴァを顕在化させてしまったのがいけない。

参加したものたちは、かつて独立戦争を戦い抜いた本物のパイロットたちが多い。

ある種、厳粛な気持ちで参加したこのイベントを、『ゼクノヴァ』がすべて、ひっくり返してしまったというのだ。

 

しょせん、これはゲームだ。

仮想世界で、行われたイベントだ。

誰が死ぬ訳でもない。

なんの損害も生じるわけではない。

 

『ゼクノヴァ』がそれを改めて気づかせてしまったといえるのだ。

 

 

「俺はまだ暴れ足りねえぞっ、ジェリドぅ!!」

 

 

大混乱のきっかけをつくったこのセリフは、誰が言ったものかはわかってはいない。

だが、少なくともジオンの元首や、“白い悪魔”は、あとから聞いたときにそれがわかって、ため息をついた。

 

…とはいえ、そいつを責めてもどうなるものでもない。

 

退避行動に移れば、攻撃はしない。

命令はそうだったが、ジオン側から攻撃されれば、当然反撃はする。

 

反撃すれば、流れ弾が退避中のジオン側の艦船を攻撃してしまうこともある。

 

攻撃されれば、もちろん反撃する。

 

あくまで、現実をシミュレートした世界だったから、彼らは撤退を選んだのだ。

これは結局のところ、ただのゲームであり。

しかもむこうから撃ってきたのであれば、なにを遠慮することがあろうか。

 

いったんはア・バオア・クー宙域から、撤退しつつあったジオン軍は反転し、連邦軍に襲いかかった。

 

連邦軍も負けてはいない。

 

S、E、Wフィールドにいったんは待機させた艦隊を、Nフィールドへと投入した。

 

 

「ホワイトベースがNフィールドを離脱。こっちに向かってくれてるわ。」

セイラが言った。

「破損箇所はともかく、補給のほうはなんとかなりそうよ、アムロ。」

 

Nフィールドに光る無数の光点は、そのすべてが爆発の証だ

フィールドそのものが崩壊するかのような戦力が投入されている。

 

 

「セイラさん。これ、もうまともな戦闘じゃありません。」

アムロは低く言った。

「みんな、勝つためとか負けるとか関係ない。落とせるから落としてる。」

 

「わかっているわ。」

セイラの声は静かだった。

「だからお願い。アムロ、あなたは敵を減らすのではなく、戦場を切って。退避路を作ってちょうだい。」

 

「……だれをどこから避難させるんですか?。」

 

めずらしく咎めるような口調に、セイラは目を見開いたが、

「……そうね、」

一瞬おいてから微笑んだ。

「マチュ、ニャアン。あなたたちはアムロの後ろにつきなさい。深追いはしなくていいわ。」

 

マチュは不満そうにセイラを睨んだ。

「姫さん。わかってない。」

「どういうこと?」

「もう、これはゲームだから誰が誰に落とされても構わないの。ただ、落とされちゃまずいひとがいる。」

「だれなの? それは。」

 

「おまえのことだ、アルテイシア。」

クワトロのセリフに思わず、セイラはジオングを睨む。

 

アムロは慌てて言った。

「そうなんです。

こんな混乱のなかなら、誰が誰を落としても恨みっこなしなんですが……ジオンの元首を撃墜してしまうと、あとでいろいろややこしいです―――しかもセイラさんは、連邦軍で参加してるので狙われるのはジオンのパイロットに、です。

連邦のエース『戦鎚』が、ジオンの元首アルテイシアであることは、いずれどこかでパレます。

そのときに、あなたを撃ち落としてしまった元ジオン軍人がどんな目で見られるか―――」

 

セイラは憮然とした。

それは―――ついさきほど、ヤザンにも指摘されたことだった。

 

「そうなのだ。だから、お前はできるだけ、わたしたちの影に隠れて、ログアウトまでの時間をやり過ごせ―――」

 

「あなたもだよ、シャアさん。」

マチュがきっぱりと言った。

「キャスバル・レム・ダイクンを撃墜しちゃったパイロットが周りからどう思われるか―――」

 

「いまのわたしはクワトロ・バジーナ大尉だ。、それ以上でもそれ以下でも」

 

「大佐は少し黙りましょうね?」

ララァ・スンが、艶然と微笑むが、その笑みが怖い。

 

言葉の軽さとは裏腹に、マチュの目はまだ光の残滓を追っていた。

 

アムロのガンダムの腕が、そっとその肩に触れる。

 

「マチュ……これはゼクノヴァなのか?」

 

「わからない……わたしとニャアンの体験したゼクノヴァとは違うよ。デラーズのソーラレイのときともまた違う。たぶん……AIがいままでのゼクノヴァ現象をシミュレートして表現してるだけだと思う。」

 

「ソロモンの約3分の1が無くなっているみたいだ。ちょうどいまグラナダ上空に浮かんでいるソロモンみたいだ。」

 

 

「ララァ。」

クワトロが呼びかける。

「感じることができるか?」

 

ララァはすぐには答えなかった。

まるで戦場全体の声を聞いているようだった。

 

「……みんな、酔っているわ。」

「酔っている?」

 

「死なないとわかったからじゃない。逆です。」

ララァはゆっくりと言った。

「ほんとうは死んでいたかもしれない戦いを、いま、何度でもやり直せると思ってしまった。嬉しいのでも、悲しいのでもない。ただ、終われなくなっている。」

 

クワトロは苦い顔をした。

「愉快な話ではないな。」

 

「ええ。」

ララァが応じる。

「その通りです。だから終わらせなくては。

運営の“奇術師”さんに連絡して全員を強制ログアウトさせてください。」

 

「ジオングのコックビットからでは無理だ。撃墜以外の形で正常にログアウトしないと……」

 

「どこなら『撃墜』されたと見なされずに、ログアウトできるのです?」

 

「最寄りだと」

クワトロはNフィールドを拡大した。

「空母ドロスにジオングを着艦させれば……」

 

「アルテイシア様、アムロ、マチュ、ニャアン、聞こえた?」

ララァは言った。

「目標は空母ドロス。

戦場を突っ切って、大佐をドロスに着艦。

仮想空間から全員を強制ログアウトされるように進言してもらいます!」

 

接近してくるホワイトベースから識別信号付きの照明弾が撃ち出され、暗い宙域に青白い線を引いた。

退避路の標識だった。

 

その直後ゲルググが、その線を横切って突進してくる。

カイのものらしきガンキャノンのキャノン砲がそれを吹き飛ばした。

 

「……どうも。」

カイは彼にしては、礼儀正しく挨拶した。

「クワトロさんに、その彼女も御一緒とは。行き先を言っていただければ、ホワイト急便はよろこんでお送りいたしますぜ。

おっとその前に補給かな。なにをするつもりか分からねえけどもう武器も推進剤も残ってねえだろ?」

 

 

 

 

 

 




シイコ・スガイはぜんぜん出すチャンスがなかったのですが、実は彼女は、普段からコロニー外の活動にワイヤーによるベクトル移動を使ってた辺境のエルディアコロニーの出身者で、彼女の弟が「姉さんを殺したニュータイプを一匹残らず、駆逐してやる」とか喚いて、クラバに参入してくる、という話をふと思いついたので、どっかで書くかもしれません。
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