ジュドー・アーシタは、うんと年下の女の子に弱い。
これは別に彼が十代にして、多くの時代、地域で犯罪となりかねない特殊な趣味をもっていたわけでは、決してない。
ようするに、彼は妹であるリィナ・アーシタを心から愛し、彼女と同世代かそれより下の女子と戦うなど考えてもみなかったのだ。
ところが、いま彼が敵にしているエルピー・プル、アン・ムラサメはどちらもその条件にぴったり当てはまってしまっている。
戦えるかっ!!
ジュドーのスパルタニアンはもっぱら回避専門である。
エルピー・プルもアン・ムラサメも戦うのが楽しくてしょうがない様子だ。あるいはそういう条件付けをされているのかもしれない。
“クソッ! どうすりゃいいんだ?
さすがはムラサメの強化人間か。”
アンやエルピー・プルの操縦技術はジュドーにひけはとらない。
とはいえ。
こっちはこっちで付け入るスキは、ある!
二人はともに嬉々として戦闘に没頭はしているが、せっかくの二対一なのにも関わらず、協力し合うことがまったくないのだ。
“こいつらとは戦えないけど”
ジュドーは決心した。
“おしおき、ならできる!”
一方、カミーユは、ドゥー・ムラサメの変幻自在な機動に翻弄されている。
変形途中の状態から、さらに加速や旋回を無理やり行うドゥーの機体は、とんでもなくトリッキーな動きを生み出し、さすがのカミーユの射撃もそれを捉えることはできない。
とはいえ、カミーユは落ち着いているようだ。
ドゥーの戦法は機体に著しく負荷がかかる。
いつまでも続けることはできない。
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グラナダのアナハイムムーンのミーティングルームの空気は重く沈んでいた。
ひとり。
最初からいろいろと強気なことを言っていた内定者のひとりがおずおずと言った。
「…すいません。内定は辞退させてください。」
それを皮切りに、次々と同様の発言が相次ぐ。
「こ、こんなレベルの戦闘にはとてもついていけません!」
「ぼくも無理です。就職は辞退します。」
「ありがたいお話なんですけど…やっぱり、ワタシ、ジオン工科大学への進学を…」
「ムリムリムリ! ムリィ!!」
ああそうかい。
N・ロック氏は、笑顔のなかに感情を隠す男だ。
最初から、アンキーの目的は、こいつらにクランバトルのトップクラスの戦闘を見せつけて、アナハイムムーン入社を辞退させてしまうことだったのか。
そのために派手にデモンストレーションを開催し、最高クラスのパイロットを手配した。
彼自身のニュータイプチームだけでは、興行には弱い。人数も足りない。
N・ロック氏の構想では、せっかくのM.A.Vシステム。
だれとだれがペアになるかの心理戦をふくめて、バトルシーンだけではないコンテンツを立ち上げるつもりだったのだ。
まだ、タイトルは決まっていないが
「今日、M.A.V.になりました」
毎回、何組かが強制的にM.A.V.を組まされる「シャッフル・クランバトル」
舞台が連邦軍本部で行われる「ラブ・ジャブロー」
など面白そうな企画もいくつか出ていたが、だいなしだ。
“案外、卒業生をジオン以外に流出させないために、フラナガンスクールがポメラニアンズに頼んで手を打ったのかもしれないな”
N・ロックは、恐慌状態の内定者たちに声をかけた。
「それは、きみたちの意志に任せるよ。内定にはなんの拘束力もないからね。」
内定者たちが、落ち着いたところであらためてわざと軽い感じで言った。
「しかし、とりあえず、このクランバトルを最後まで見てからでもいいんじゃないのかな。」
一方で彼のニュータイプ部隊の美少女たちは、キャッキャッと笑いながら、クランバトルを心から楽しんでいるように見えた。
“やはり…心理的な強化は不可欠なのか。”
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ドゥーとカミーユの接近戦は、互角だった。
近接戦闘の技術そのものは、ドゥーが上。だが、カミーユには、先読みのカンのようなものがある。
ドゥーのサーベルを受け止め、かわし、時おり、反撃をいれてくる。
ドゥーは焦った。
スパルタニアンのリミッターと、その頑健さからぶっつけ本番で生み出したのが、あの「可変中の旋回」だった。
だが、一回で終わるはずのそれを、すでにドゥーは何度も使ってしまっている。
それもこちらからの攻撃ではない。
カミーユの正確無比な射撃をかわすためだ。
ドゥーは、ムラサメ研究所により、自分をモビルスーツの『心臓』だと思い込むように条件付けされている。
だからこそ、スペック表以上に、スパルタニアンが動かせることもわかった。
そして……
ドゥーは自分の胸に拳を当てた。
これ以上、無理な機動を行えば、スパルタニアンが分解するかもしれない、という事も。
ゼロのヤツは言っていた。
ニュータイプになれるものなんて、全人類のほんのひと握り。
モビルスーツもまんぞくに扱えないオールドタイプは、地表にへばりついたまま、環境変化で死滅していく。
そうならないための強化人間の研究だ。
ドゥー、おまえたちこそが本当のニュータイプ。
宇宙時代の人類の道標となる存在なんだ。
ああ、ヤダ。
だったら、自然発生のニュータイプなんて、むしろ不自然で唾棄すべきものなのに。
ボクはニュータイプのことが気に入っている。
アムロ・レイとか…このカミーユとか。
切り結ぶ。
いくつかダメージを与えた。だが撃墜判定には至らない。
こちらもダメージをくらった。
だが、カミーユのほうがダメージは深いはず。
もう一度!
もつ一度だけ、高速機動を試す!
ギリ、もう一回だけならいける!
「カミーユッ!!」
ドゥーは、叫んで距離をとった。
「これで決める!!」
「やめろ! ドゥー。」
カミーユも叫んでいた。なぜそう言ったかはわからない。ただ、ドゥーが危険だと。
そう思ったのだ。
ドゥーのスパルタニアンが変形を始めた。
その途中で、ブースターを全開。高速機動に入る。
“あと一回! あと一回だけなら!”
「カミーユっ!! これでえぇっ!」
スパルタニアンのコクピットはコストダウンのため部分リニアシートしか採用していない。
つまり、カミーユの視界からは、ドゥーは完全に姿を消したはずだ。
だが。
ドゥーの目の前で、カミーユもまた変形に入る。
完了までに10秒近くかかるスパルタニアンの変形は、単なるスキでしかない。
もらった。
だが、ドゥーの撃った蛍光弾の先から、カミーユのスパルタニアンの姿が消えた。
まさか。
ドゥーと同じく「変形中の加速」をやったのか!?
ならばこちらも。
ドゥーは変形→加速を行った。
バキバキ!
機体のどこか、いやドゥー自身の身体が、軋み、壊れる音がする。
「うわあああっ!!」
かろうじて捉えた照準のなかにカミーユのスパルタニアンの姿があった。
ふたりは同時に引き金をひいた。
ピンクとグリーン。
互いの蛍光弾が、相手の身体を染め上げた。
ちょっと短めですね。
テンポよく行きたいと思います。