いまのところ、その最たるものがユズリハ夫妻なのですが、今回登場する彼なんかもけっこうひどい扱いです。
でも死んでませんで。
ソドンに乗っていったらどうです?
と、シャリア・ブルには誘われたが、クワトロは断った。
ソドンのクルーにもあまり姿を見られたくなかったのだ。
ジオンの赤い彗星を知っているもの達の間でも「クワトロ・バジーナ」が通せると思い込めるほど、クワトロは自信家でもなかった。
しかし、政治や軍事には全く関係ないクランバトルの興行プロデュースの仕事が、アルテイシアとシャリアにとっては死に値するとは正直、驚いた。
野垂れ死ね、とでも言うのだろうか。
一人ならばそれもいい。
だが、今の彼にはララァがいるのだ。
そしてどうも彼に最適な仕事はモビルスーツ乗りらしい。
軍人ではなく、復讐者でもなく、人類を導く為政者てももなく、モビルスーツ乗りだ。
モビルスーツを駆ることそのものが彼は好きだったのだ。
これは最近、気がついた。
ジオン・ズム・ダイクンの遺児であるということ以外に、自分に生きる意味があることは楽しい気分だった。
そして「生きがい」はともかく、伴侶に出来るかもしれない女性を見つけた。
あとはよき友人というところか。
ネオホンコンに向かう輸送船のデッキで彼は思う。
強い日射しから肌を守るために、つばの広い帽子をかぶったララァがとなりで微笑んだ。
「お友だちなら、シャリアさんがいるじゃないですか?」
冗談ではない。
隙あらば殺しにくる相手が友人か。
「あとは学生のときのお友だちとか。」
ガルマ・ザビはたしかに友人といえた。
彼を手にかけなくて、クワトロは本当によかったと思っている。
彼はジオン軍を退役して、いまは北米のどこかに居るはずだ。会いに行きたいものだが、いまの自分では会ってしまえば迷惑がかかるかもしれない。
ジオンの国家元首の兄で。国家元首たる妹から命を狙われている男が旧王族の唯一の直系男子とあったりしていたら。
「たぶん、もうすぐお友だちが出来ますよ。」
シャリア同様に、ララァもまたこちらの心を読むようなことをする。それに先読み……未来予知のようなことを。
ニュータイプがそんなに便利なものならば自分はニュータイプでなくてもいい、とクワトロは思うのだ。
潮風がここちがよい。
こんな日々が続くことをクワトロは願っていたが。
クワトロのスマートフォンが鳴った。
クラバを任している部下からのメッセージだ。
メッセージを見て顔をしかめたクワトロを見て、ララァが心配そうにたずねた。
「なにかあったのですか?」
「『白い悪魔』の参戦をアンキーが正式に確約してくれたので、今日のクランバトルの最後にそのことを大々的に告知するようデニムに指示しておいた。」
「なにかトラブルでも?」
「いや、これ以上ない形で成功している。」
クワトロの口元に笑みが浮かぶ。
「……そうか。これが『白い悪魔』のやり方か。」
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デニムは戦争終結後、ジオン公国軍を除隊した。正確には除隊させられた。
軍隊とてふつうの会社組織とかわらない。
要はどこに配属されるか。誰のもとで働くかで、キャリアは大きく変わってくる。これは単に上司が有能で、自分を正当に評価してくれればそれでいい、という問題ではない。
ふつうの会社組織ならば「苦労」で済むところが容易に「戦死」になってしまうのだ。
彼が仕えた上官のなかでは、シャア・アズナブルというのはかなりマシな部類ではあった。
グラナダ攻防戦で行方不明になり、おそらくはソロモンの一部を消失させた謎の現象ゼクノヴァに巻き込まれて戦死したのだと思われていた。
数ヶ月まえにひょっこり姿を現した。
連邦軍元大尉のクワトロ・バジーナと名乗っていた。
以前は仮面をしていたことが多いとはいえ、髪の色すら変えていない。
“クランバトルというのををやってみようと思う。手伝え。”
そう言われて頷いたのは、いままでデニムが仕えた上司のなかでもシャアはかなりマシなる部類にはいったからと、あとはデニムが仕事にあぶれていたからだ。
地上でのクランバトルは初めての試みだったようだが、当たった。
宇宙空間とは違って、モビルスーツを格闘されるのにはかなり制限がある。
飛び道具を使うのは、市街地のコロシアムでは無理だ。たとえ演習場を使っても周りが危険すぎる。
だから基本的には、ヒートサーベル、ヒートホークを使用しての格闘戦になった。
巨人同士の格闘戦!
それは大きさのよくわからない宇宙空間でのひきのいい映像が難しい銃撃戦よりも、確実にウケた。
そしてついにクランバトルの合法的解禁。
正確にはサイド6が認めただけで、地球連邦政府が認めたわけではない。
だが、流れは確実にきている。
クランバトルがある程度軌道にのると、シャア……クワトロ・バジーナは現場をデニムに任せてあちこち出歩くことが多くなった。
目的もなくフラフラしているのかと思ったらそうでもない。
難民キャンプを回ることが多かったので、篤志家を気取っているのかと思ったらインド系の血を引くと思われる美女を連れて帰ってきたこともある。
そのなかでもオーストラリアのトリントン基地にはなんどか足を運んでいる。
モビルスーツの開発や改修を行っているところなので、なるほどそちらに興味があるのかとデニムは理解していたが、今回はビッグニュースを知らせてきてくれた。
トアールコロニー近辺でのグラバの不敗のエース『白い悪魔』の参戦を取り付けて来たというのである。
その告知をしておくよう指示を受けたので、デニムは今日のグラバの最後にそれを盛り込んだ。
「いいかっ!! 俺は誓う!」
カスタマイズをし過ぎてかなりゴツくなったザクは真っ黒にカラーリングされている。
拡声したバイロットの声は、会場にも響き渡るし、当然、メディアもそれを拾っている。
「クラバで散った仲間のためにもこの俺が必ず、『白い悪魔』をこの手で倒す!!」
その腕には両手持ちの巨大なヒートホークが握られていた。強そうだ。いや事実、参加以来勝ち星を順調に重ねている。
名をマッシュという。
『黒い三連星』といえば、独立戦争初期にはずいぶんと名を挙げたエースだったのだが。
双眼鏡でそのリアル映像をながめながら、デニムは思った。
三人とも戦後はきっちり除隊となった。
士官学校ではなく、現場の叩き上げだったので「現場」が無くなってしまったあと将来を悲観したのだろうか。
デニムも似たようなものだった。
マッシュはそのなかでも成功した。
独立戦争時代の名声の名残りをうまく利用して政界に打って出たのだ。
だが、むかしのヤンチャぶりが治らなかったのだろう。
スキャンダルで市長の職を辞職するはめになった。
以降「禊」と称して、ネオホンコンのクランバトルに参加している。
なにが禊なのかわからないが、地位を捨てて危険な場所に身を置いたことは、なにか有権者の心情にアプローチするものがあったのか、次回の選挙で返り咲きを狙っているそうだ。
マッシュ元市長は斧を差し上げて高々と宣言した。
「勝利の栄光をこの手に!!」
ぐしゃ。
頭上から降ってきた白いモビルスーツが、それを踏み潰していた。
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アムロは、地上を眺めた。
よく晴れていて、陸地の形がはっきりとわかる。
概ね。
というか、予想以上に正確にネオホンコンを目指せたようだ。
とはいえ着地は市街地にと言う訳にはいかない。
少し離れたところに広大な空き地が見えた。
拡大してみると数機のモビルスーツの姿も見えた。基地設備はないからなんらかの駐屯地なのだろう。
通信が回復したので一般通信で先ほどから、誰何を問う連絡がはいっている。
正直に、アムロはシャトルで地球に降りる途中で、事故でモビルスーツで単独の大気圏突入をするはめになったと説明しておいた。
“トアールコロニーのテム工廠の試作モビルスーツ『ガンダム』です。シティ西南のモビルスーツ駐屯地へ着陸します。”
「そこはいま、クランバトルの会場となっている。いま主催者側に確認をとる。」
間に合いませんよ!
とだけ言ってアムロは、バーニヤをふかした。
ちょうど真ん中に黒いモビルスーツが立っている……あそこを目印に機体をコントロールすれば。
アムロにして見れば、生まれて初めてのモビルスーツでの大気圏突入だった。
バーニヤをふかして着陸位置を制御する。
アムロは成功した。
成功しすぎた。
ガンダムは目印に設定した黒いザクの真上に着地してしまったのだ。
お、おれを踏み台にしたあ!
と言ったとか言わなかったとか。