エルピー・プルとジュドーにフラグはたてました。
いいのか悪いのか。
カミーユとドゥー。
二人の対戦は相打ちだった。
「同時撃破」の判定である。
これで、あとは。
“この2人のじゃじゃ馬におしおきをしてやればいいんだな”
ジュドーのスパルタニアンの盾が「破損」の判定を受けた。
エルピー・プルとアン・ムラサメ。
戦い方は似ている。
かなり、アグレッシブ。悪く言えば、直線的で読みやすい。
だが、それはヤザン・ゲーブルやクワトロ・バジーナに認められたニュータイプであるジュドーだから言えることであって並のパイロットならば、なにが起こったか、分からないうちに撃墜されてしまっていたかもしれない。
「ちょこまか、ちょこまか……!」
エルピー・プルが叫んだ。
「なんで当たんないのよ!」
「当たるわけないだろ。」
ジュドーは吐き捨てるように言った。
「そんなふうに、見えたまんまで突っ込んでくるなら!」
アン・ムラサメは黙っていた。
だがその口元はだらしないくらいに緩んでいる。
いまにも涎でも垂らしそうだった。
おともだち。
おともだち。
おともだちと一緒にたのしいお遊び!!
だが沈黙しているぶんだけ、照準は冷たい。
プルが前へ出るたび、その死角へ、ぴたりと回り込んでくる。
似ている。
アグレッシブで、速い。
けれど同じじゃない。
プルは感情で飛び込んでくる。
アンは、感情を楽しんでいる。
そこが少しだけ違う。
ジュドーのスパルタニアンを蛍光弾が掠めた。
すでに盾は破壊判定を受けている。
スラスターの一部に破損判定を受けた。
「くっ……!」
「ほらっ、もう避けきれないよ!」
プルが笑う。
「でもやっぱりあんた、おもしろい!」
「おもしろいで済ますな!」
ジュドーが機体をひねった瞬間、アンの射線が脇腹をかすめた。
警告音。右脚部、出力低下判定。
だが、アンの射った弾丸は、同時にプルのピンクのスパルタニアンを掠めている。
ダメージ判定…あり!
「ジャマなんだよ! アン!!」
エルピー・プルがどなった。
「わたしが、ジュドーを落とすんだから。あんたは引っ込んでろっ!」
「ダメだよ、プル。」
アンは楽しげに言った。
「一緒に遊ぼうよ。」
アンのばらまいたマシンガンの弾は間違いなく、プルを巻き添えにしていた。
「…このっ!」
エルピー・プルの出自はムラサメ研究所ではない。
もともとはジオンの研究所で、ニュータイプの才能ありと認められた者の遺伝子を使って作られたクローンである。
見た目は、10歳を少し越える程度だが、実際は各種の薬品や遺伝子レベルの調整が行わているだけで、実年齢は幼児に近い。
そのプルが呆れ果てるほどに、アン・ムラサメは怖い。
戦いそのものを「遊び」。対戦相手を「おともだち」と認識するように、条件付けをされているというが.……。
これは危ない!
エルピー・プルは決意した。
アン・ムラサメは、この戦場において、彼女の味方ではない。
敵、とまでは言いきれないだろうが、単なる不確定因子だ。
ならば、早急に決着をつける。
プルの機体が前へ出た。
「アン! いまから10秒、射撃中止!」
「わかった!」
プルのスパルタニアンが変形にはいる。
変形に7-8秒の時間を要するスパルタニアンで、敵前でそんなことをすれば、単なる的だ。
だがそこで、ブースターを吹かす。
ドゥーが提案し、いま目の前でやった変形途中の高速機動だ。
速い。だが速さの代わりに、機体の悲鳴まで丸聞こえだった。
ジュドーの顔色が変わる。
「おい、やめろ!」
「やめないっ!」
プルは笑っていた。
「ここで取れば、ボクの勝ちだもん!」
変形途中での姿勢制御。
推進軸のねじ込み。
危ないっ!とジュドーは思った瞬間には、もう身体が動いていた。
プル機の左翼がぶれた。
続いて、脚部スラスターが一つ死ぬ。
ぐるり、とスパルタニアンの機体があらぬ方向へ回った。
「きゃっ――」
制御を失う。
「プル!!」
ジュドーのスパルタニアンが突っ込んだ。
撃つんじゃない。捕まえる。
肩をぶつけ、腕を伸ばし、空転するプル機の胴を抱えるように受け止める。
衝撃でジュドーの機体にも赤い警告が灯った。
判定―――大破。
だがかまうものか。
「バカ! 無茶しすぎだ!!」
モニター越しのプルが、きょとんと目を見開く。
ほんの一瞬だけ、年相応の子供みたいな顔だった。
その一瞬で十分だった。
アン・ムラサメは、待っていたのだ。
照準が重なる。
救助に入れば、止まる。
止まれば、撃てる。
「――もらいっ。」
アンの蛍光弾が、ジュドー機の背中を染めた。
「しまっ……!」
同時に、抱え込まれていたプル機にも判定光が走る。
制御不能のままの被弾。回避不能。
ピンクの光が重なって、二機を包んだ。
ジュドーは歯を食いしばった。
「うわ、最悪……!」
「ジュドー!」
プルの叫び。
ジュドーは、なんとか機体を安定させる。
判定は。
「ジュドー機、エルピー・プル機撃墜。」
「やったあっ!!」
アンの歓喜の声が響いた。
カミーユ・ビダン、ドゥー・ムラサメ、ジュドー・アーシタ、エルピー・プル、撃墜。
残ったアン・ムラサメは、スパルタニアンの右手を突き上げた。
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ユリアンは。
じっと耐えていた。
気分は最悪だった。
吐きかけた吐瀉物をなんど飲み込んだことか。
もう何回転したのだろうか。
何十時間。何日が過ぎたのだろうか。
いや。そんなはずはない。
ユリアンな苦笑した。
ほんの数分がたっただけだ。
凄い。
機体を制御することもカメラを動かすことも出来ないので、部分的にしか分からないが、凄い戦いだった。
ユリアンは、ネオ香港のスクールで、使用してきたこのスパルタニアンという機体に愛着をもっている。
さまざまな制限はかかっているし、リニアシートのコクピットやマグネットコーティングといったコストのかかる高級装備はない。
だが、そのポテンシャルはかなり高いはずだった。
変形に時間がかかるのは、マグネットコーティングがないためと…パイロットの安全性を高めるためだ。機体の剛性だけを考えれば、噂にきく百式やZETAのような瞬時の高速変形も可能なはずだ。
高加速、旋回時の変形はオミット。
それにより、ジュドー曰く、『可変機特有の高速変形による撹乱ができない』。
それはその通りなのだが。
ユリアンは、何度目かの自分のゲロを飲み込んだ。
酸っぱい、苦い、熱い。
加速、旋回時に変形ができないのなら。
先に変形を初めてから。加速する。
ドゥーが、そしてカミーユがやってのけたのはそれだ。
―――まるで、大喜利の回答だ。
ユリアンは。パーティの会場で出会ったアナハイムムーンの大物と彼が従えていたニュータイプ部隊の少女たちを思い出していた。
アナハイムエレクトロニクスか。
就職先としては悪くはなかった。
だが、彼がパイロットの課外カリキュラムに通うようになったのは、ヤン・リーがもし、この後、また軍にひっぱられることがあっても、ヤンを守れるようにするためだった。
“提督ごと雇ってくれないかな…”
アナハイムは、宇宙世紀における民生品やコロニー建築までを一手におさめる超巨大企業だ。
そこで、サラリーマンをやっているヤンの姿は想像しにくかったが、すくなくとも軍人よりは向いているような気がした。
くるくるくるくる。
ユリアンの視界は回る。
ドゥーの裏技を試そうとしたエルピー・プルの機体が、制動を失い、部品を撒き散らしながら、キリモミ状態になりかける。
ジュドーがそれを抱きとめた。
アンの放つマシンガンの蛍光弾が、2機をまとめてショッキングピンクに染め上げる。
.―――終わった。
観衆もアンも。ジュドーもカミーユもドゥーもエルピー・プルもそう思っている。
だが、そうではない。
ユリアンのスパルタニアンは、制動を失ってくるくると回っているだけで、撃破の判定を受けているわけではないのだ。
わずかでもバーニヤを使って機体を制しようとすれば。
いや、マニュピレーターをわずかに動かしても、アンはそれを察知するだろう。
アンの体当たりのショックで、制動を失ったままの状態で。
ユリアンは、アンの機体が照準のなかに入るのを待った。
くるん。
照準は、アンの機体の右肩を掠めた。
まだだ。
一撃で撃破認定を取らないと。
ぐるん。
こんどはユリアンが引き金をひくチャンスを逸した。
ぐるん。
アンは機嫌よく、ライブ用のドローンに向かって手を振っている。
ぐるん。
ユリアンは、自分の心を押し沈めた。
ごく僅かの殺気。そんなもので、反応してしまうニュータイプもいるときく。
ぐるん。
―――ここだ!
狙いはつけられない。
射撃のための姿勢制御もできない。
ただ、照準のなかに、アン・ムラサメの機体が入った瞬間に、引き金を引いた。
明るいグリーンの蛍光弾は。
アンのスパルタニアンを同色に塗りあげていた。
「ドゥー・ムラサメ、アン・ムラサメ、エルピー・プルチーム。全機撃墜を確認。」
機械音声が試合終了を告げた。
「カミーユ・ビダン・、ジュドー・アーシタ、ユリアン・ミントチーム。残機一。
よって…ユリアン・ミントチームの勝利といたします!」
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N・ロックは、元内定者たちを見つめた。
この結果に、彼らは呆然としている。
とっくに脱落していたはずの機体が。
突如、息を吹き返して、最後の最後に勝利をむしり取ったのだ。
“ほんとに気絶していたのかな?”
N・ロックは、心の中で呟いた。
“もし、計算して『フリ』をしていたのなら、何がなんでもうちに欲しい人材なんだが。”
「あ、あの、すいません…」
元内定者のひとりがおずおずと手を挙げた。
「あ、なにかな? 今日、参加してもらった分はちゃんとギャラは出るよ。後で振り込んでおくから!」
「い、いえ、そうではなくて…やっぱりは、アナハイムエレクトロニクスからジュニアクランバトルに参加させてください。」
「ほう? どうして気が変わったのか、教えてもらえるかな?」
「その…ユリアン…でしたか、彼のパフォーマンスを見て。操縦技術だけが、勝利のぜったい条件ではないと、そんな気がしました。
勝つための意志とか。そこに至る創意工夫とか。
も、もちろん、操縦技術のほうもこれから、磨きをかけます。卒業までには、変形を初めてからの加速による不規則機動も必ずマスターしておきますから…」
「いや、あれはルールとリミッターの裏をかいた半分反則技だからマスターしなくていいよ。」
同様に、アナハイムムーンのジュニアクランバトルへの参加をあらためて表明したものがあと二人。
八名の内定のうち、三人が確保できたことになる。
「あとは任せるよ。」
ニュータイプ部隊の少女にそう言って、N・ロックはひとりミーティングルームを出た。
ことが終わってしまうと、突如、冷淡とも思える態度になる。それがこの男の数少ない欠点かもしれない。
“しかし、このメンバーでは独立してジュニアクランバトルリーグを立ち上げるのはムリか…となると、アンキーのつくったリングに上がるしかない。”
唇が笑みを作る。
“せいぜい、高く売りつけてやるか。”
さあて。この試合の後始末。
そして、ネオ香港のシミュレートも。