第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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悪い癖で、バトルシーンがなしですすんでしまったので、無理やり入れてみました。
アンキーさんが使った技は裡門頂肘です。
重力6分の1の月面で震脚の威力は削がれるでしょうが。






GQuuuuuuX season2 第7話 月面の嵐~保安部

グラナダは、取り立て治安の悪い街ではない。

なにしろ、ついこの前まで、ギリシア・ザビのお膝元。第二の首都と呼べるだけの資本も投じられている。

アンキーにしても、なんども来ている街だった。

だから油断したのかもしれない。

 

グラナダの商業区画は、月面都市にしては珍しく、天井が高い。

吹き抜けのドーム状の空間に、ビルが並ぶ。

ビル同士は、ペデストリアンデッキで繋がっている。

 

人工照明は、地上の昼間を模して設計されている。

ショーウィンドウ。カフェ。行き交う人々。

 

アンキーは、ひとりで歩いていた。

考えなければいけないことは山ほどある。

 

ユリアンは、言葉巧みにアナハイムムーンの手に落ちた。

いやそれは、アンキーからみるとそう見えるだけで、実際には、モビルスーツの模擬戦において優秀な成績を

おさめた少年をアナハイムが、歓待しているだけだ。

 

とにかく頭を冷やしたかった。

 

ジュニアクランバトルの選手をどう集めるか。

資金繰りをどうするか。

アナハイムムーンをどう使うか、使われないようにするか。

 

ショーウィンドウのガラスに、自分の顔が映っている。

疲れているな、と思った。

 

「カネバン有限公司のアンキーさんですね。」

 

声をかけてきた男は、スーツ姿だった。

ふたり。

並んで歩いてくる。

 

観光客とは、歩き方がちがう。

 

「同行願います。」

 

アンキーは、立ち止まった。

ゆっくりと、周囲を確認する。

 

前のふたり。

背後に、気配がふたつ。

 

四人。

 

「アポの覚えは無いけれど?」

 

「N・ロック氏からの直々のご招待です。」

 

アンキーは、小さく息を吐いた。

 

ジュニアクランバトルの主催者を、街中で囲む。

丁寧な言葉を使いながら、逃げ場をふさぐ。

 

「そうかい。」

 

アンキーは、ショーウィンドウのガラスに映る背後のふたりの位置を確認した。

 

「じゃあ、行こうか。」

 

一歩、前に踏み出した。

 

前のふたりのうち、右側の男の重心が、手を差し出した。

スタンガンが握られている。

その手首を掴んで、ひじに拳を落とした。

自分の握ったスタンガンを肩口につきたてて、男は悶絶する。

 

もうひとりの襟首をつかみながら、体ごと左の男にぶつける。

ふたりが絡まって崩れる。

 

振り返る。

 

背後のふたりが、距離を詰めてくる。

懐から銃を取り出した。

 

夜も更けてはいるが人通りはある。

まさかこんなところで!?

 

と思った瞬間、後ろから蹴りとばされた。

歩道に顔面を打ち付けそうになるが、くるりと受け身をとって立ち上がった。

 

ふざけんな。

か弱い女ひとり、確保するのに何人使ってやがるんた!!

 

「痛めつけてもいいのか?」

背後の男声がする。

 

前からくる男が応じた。

 

「殺すな。口がきければそれでいい。」

 

「おい!」

アンキーは怒鳴った。

「わたしは同行するって言ってんだぞっ!」

 

「そうかい?」

 

前の男が銃をあげた。

さすがに弾丸ではない。電気ショックを与える矢を放つテーザーガンだ。

 

「いいかい。」

男の唇が残忍そうに歪んだ。

「これは“しつけ”ってやつだ。アナハイムに逆らったら“痛み”を与えてやらねえとなあ。」

 

「ひとつ、忠告しといてやろうか?」

 

「負け犬の遠吠えか?」

 

「いや、人生の摂理だ。

―――加虐趣味者は、荒事を商売にするには、向かない。」

 

「そんなもんかね? 理由をきいてもいいか?」

男は余裕たっぷりだ。この距離ならば、テーザーガンは外さない。

 

「―――仕事を楽しみすぎるからだ。」

 

なにかが、すうっと、男とアンキーの間に割って入る。

オトコは構わずに引き金をひいた。

彼のテーザーガンは連射が出来る。もし、通行人に命中してしまってもかまわない。

死んだら―――少しは寝覚めが悪いかもしれないが。

 

ふわっ。

 

と、白衣の裾がひるがえった。

 

放った矢は、白衣の女の指に挟み止められていた。

 

アンキーは怒鳴った。

「おそいよ、ゼロ!

いじめられちまうとこじゃねえか!」

 

白衣の女のメガネの奥の瞳が笑っている。

 

「てめえ! 何者だ。」

叫びながら男はテーザーガンを連射した。

 

くる。

と、白衣の女が周る。

ひるがえった白衣が、矢を巻き込んで、逸した。

 

「やめとけ!」

背後から静かな声がした。

「こいつはゼロ・ムラサメだ。」

 

「なっ……!!」

テーザーガンを放り出し、今度はホンモノの銃を取り出そうとしたが。

 

「ハッ!!」

アンキーが踏み込むと同時に、みぞおちに肘を叩き込む。

体を二つに折って、男は悶絶した。

 

「おみごと、おみごと。」

白衣の女―――ゼロ・ムラサメはバチパチと手を叩いた。

楽しげに背後の男を振り返る。

 

「さて、あんたらはアナハイムムーンのどこの所属かな?」

 

最後に残った男は、刃物を取り出した。

 

トン。

と、その手首をゼロの手刀がうつ。

 

有り得ない角度に曲がる手首。

 

悲鳴もあげられないほどの激痛に、倒れ込もうとするその首根っこを掴んで、ゼロは男を持ち上げた。

 

「口が聞けるように残したんだ。

早く語れ。アナハイムムーンのどこの所属だ。」

 

「ほ、保安部6課……」

 

わかった、と言ってゼロはもう一度折れた手首を掴んだ。

今度こそ悲鳴を上げて、男は失神した。

 

「なんだ。折れた骨をくっつけてやっただけなのに。」

ゼロは不満げにそう言うと、アンキーを振り返った。

「さて、行こうか。」

 

「行くって、どこへ……」

 

「N・ロックのところだよ。あんたを連れてくるように頼まれていてね。」

 

 

 

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配信コンテンツの編集に余念のないNロック氏は、呼び出しコールに不快な表情を浮かべた。

コンテンツのアイデアを考えている時、撮り終わった素材を編集しているときが、彼にとってはもっとも至福の時間と言って良い。

 

彼が、その作業に入っているときは、チームのものたちは、連絡を取るにしてもメッセージに留めている。

 

N・ロックはなんとか笑顔を取り繕うと、応答ボタンを押した。

相手は保安部の部長である。そうしない訳にはいかない相手だった。

 

「どうしました?」

 

「どうしたもこうしたもあるか!」

元は軍人だったらしいが、気の短い人物である。

顔が怒りで朱に染まっているのが、モニター越しでもわかった。

「アンキーを連れてくるように出動させた部隊が全滅した。」

 

N・ロックは面食らった。

 

たしかに彼は、アンキーとの面談を依頼したが、それは保安部の部隊を出動させたり、それが全滅したりするようなものではなかったはずだ。

むこうも新進の企業のトップである。

アナハイムからの招待を断ったりはしない。

 

むこうは、デモンストレーションを通じて、自分の選手のレベルの高さを見せつけた。

だが、それはありったけの選手をつぎ込んだあとのない結果である。

 

潤沢な資金と選手を提供できれば、アナハイムムーンとはウィンウィンの関係が築ける―――問題は話の持っていき方だ。

 

アナハイムムーンが、あまりにもクランバトルの政治利用を前面に出したり、高圧的にならなければ、成立する。出来る話だ。

 

「保安部の実行部隊を出したんですか?」

 

「そうだ。全員が病院送りだ。」

 

アンキーのことについては多少は調べている。

もとは悪名高いジオンの海兵隊の出身らしい。白兵戦の心得もあるだろうが、保安部の実行部隊がふいをついて勝てない相手ではない。

いや、ふつうにご招待すればすむ話なので、そもそも実行部隊が出る必要もないのだが。

 

「うちの隊員を蹴散らしたやつは、ゼロ・ムラサメと名乗っていた。」

 

「ああ…」

そういうことですか。

N・ロックは、アンキーと共通の知り合いであるゼロ・ムラサメにも仲介を頼んでいた。

ゼロがアンキーに接触したときに、運悪く、うちの保安部も居合わせたということか。

 

「その女は、おまえの依頼でアンキーを迎えに来た、と言ったそうだ。」

 

「そりゃまあ……そういうお願いをしましたからね。」

 

N・ロックの飄々とした態度に、保安部長は完全にブチ切れた。

「うちの分隊が全滅してるんだぞっ!」

 

「全員が入院してるって、言ってませんでした?」

 

「ああ、そうだ。骨折したものも含めてもう全員退院しているが……」

 

なるほど。ゼロにも充分、自制心はあったのだのだな、とN・ロックは思った。

 

「軽傷でまあ、なによりでした。

ゼロ・ムラサメにはこちらから厳重に抗議しておきますよ。ではこれで。」

 

N・ロックは、まだなにか言いたそうな保安部長の顔をモニターから消した。

―――5分もしないうちにまた、呼び出しのコールが鳴った。

今度は、彼の直属の上司からだった。

 

「保安部がカンカンになっている。」

困惑したように彼は言った。

「なにがあった?」

 

「そちらは保安部からどう聞いてます? 経過に齟齬があるといけないので……」

 

「命令通りにアンキーを確保しようとしたところに、ゼロ・ムラサメが乱入したと。」

 

「ゼロ・ムラサメは、アンキーとぼくの

共通の知り合いなんですよ。

だから仲介を頼んだんです。保安部が動いてるなんて、きいてないですよ。」

 

上司は居心地悪そうに、視線を逸した。

 

「た、たしかに保安部を動かしたのは、気が早かったかもしれん……だが、すでにヤンたちはネオ香港を出立している。

それまでにカネバン有限公司と話をつけておきたいだろう……」

 

「暴力で拉致してしまったら、つく話もつかなくなりますよ……」

 

上司は腕組をし、天井を見上げ、困ったように指でデスクを叩き……

しばらくしてから言った。

 

「N・ロック君。わたしはきみの実力はよく知っいるつもりだ。」

 

「それは、どうも」

 

「近い将来、経営陣に迎えるつもりでいる。役職としてはクランバトルの運営と配信を統括する部門だ。つまり対連邦、対ジオンとの『外交交渉』とアナハイムムーンの武力の双方に大きな権限をもつ重要なボジションとなる。」

 

「……」

 

「そのような立場の人間はな。出てきた結果を享受し、それを利用することを考えてくれればいいんだ。

自分で、格下の企業との会談のセッティングをしたり、配信コンテンツを企画したり、制作したりする必要はない。」

 

N・ロックは黙って頷いた。

ありがたい言葉に感無量、と言った面持ちだが、内心なにも考えていなかった。

 

「今回の件は、保安部のほうはわたしから取り成しておく。

ヤンたちが、グラナダに到着しても!自分でほいほい出迎えに行くんじゃないぞ?

幹部はもっとどっしりと構えているべきなんだ。」

 

 

上司からの通信が終わって、数分。

N・ロックは、二杯コーヒーを飲んだ。

 

それからおもむろに、チームのスタッフに音声連絡をとる。

 

「編集データはあがりですか!?」

 

「いや、それなちょっと気をそがれちゃってね。ひと息入れてるとこなんだけど。」

 

「そりゃ珍しいっすね。そう言えば、さっき次の配信企画を投げといたんで見てください。」

 

「ええ……」

N・ロックは、モニターをスクロールさせた。

「ええ? またジャミトフかよ! いや、面白いんだけどさ、多すぎない?」

 

「だって、N・ロックさん、ジャミトフとバスク使うと採用率高いじゃないですか。」

 

「そりゃそうだな。おもしれぇからなあいつら。

ここで使ってる分には悪さも出来ないし。

まあ、あとで見とくわ。それとほら、例のヤン・リー一行がグラナダに着くだろ?」

 

「はい、あ、でも送迎は保安部がやるって聞いてますよ。」

 

「そのまえにちょこっと打ち合わせしときたいのよ。宙港のラウンジ抑えられる? そう、入国審査まえの!

シャトルの到着に合わせて、場所抑えといてよ、あとユリアンも連れていくから。」

 

 

 

 

 

 

 




なんでN・ロックとゼロが知り合いなのかというと、アナハイムムーンのニュータイプ部隊「ガールズ」(仮称)の強化を手がけていたりします。
後書きで書くのアンフェアなので、どっか本文中にも入れときます。
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