今回から「第8話」ってことになります。
作りとしては、通常のシャトルだとしても、乗っているのはヤンたち5名だけである。
食事もかなり豪華なものが提供されたし、酒類も提供された。
もっとも紅茶は、あまりヤンの口には合わなかったようである。
美人のキャビンアテンダントではなく、すべて機械によるサービスだったのは、シェーンコップとポプランには不満だったようだが、仮眠も足を伸ばしてゆっくりとることが出来たし、ここまでのフライトは、まあ満足いくものだった。
ここまでは!!
最初に気がついたのは、アムロだった。
「グラナダ宙港に降りるにしては、すこし角度が変ですね。」
「確かにな。」
ポプランが席に備わったフライトモニターを操作した。
「……というか、もうグラナダを飛び越えている。どこに連れていくつもりなんだか。」
「たぶん行先はアナハイムの研究所兼兵器開発工廠だな。」
シェーンコップが目を細めた。
「まえに仕事を請け負ったときもそこに連れていかれた。」
「秘密基地ですか!」
アッテンボローが叫んだ。
「ワクワクしますねえ!」
「そんなにたいしたものじゃない。」
シェーンコップが言った。
「ちゃんとマップに表示されているし、所属はグラナダだ。ただ実質的に治外法権なだけで。」
全員の視線はヤンに向かう。
戦場の奇術師は、困ったように顔の前で手を振った。
「い、いやなにも思いついていないよ。
まずは交渉に出てくるはずのアナハイムが、いきなりこんな拉致まがいの行動にでるなんて、予想しちゃいない。」
「まるで、ティターンズですね。」
アムロが呟いた。
「どういう意味です?」
アッテンボローが尋ねた。
「どう考えても自分たちが不利になるようなテロ行為、暴力沙汰などまさか、ここまでバカなことはしないだろうと思うことを平気でしかけてくるんです。
結果として、予想の斜め下となって、こっちもあわてる羽目になるんですが……」
「その発想はいいな。」
ヤンが笑った。
「ようするに、そういう発想をする奴らだということを把握しておけばいいわけだ。たが―――」
彼はちょっと眉をひそめた。
「ユリアンの話では、アナハイムムーンの責任者のN・ロック氏はそんな無茶をする人物には思えなかったけどねえ。」
シャトルは、滑らかに着地した。
はるばるネオ香港から、拉致されたヤンたち一行は、面倒な税関手続きを免除された。
かわりに出迎えたのは、武装した屈強な男たち―――アナハイムムーンの保安部である。
彼らは銃の安全装置まで外し、その銃口を突きつけて、一行を取り囲んだ。
「ようこそ、アナハイムムーンへ。」
芝居がかった口調で、隊長格らしき男が挨拶した。
「滞在がどのくらいになるか、それが快適なものになるかどうかは諸君らの態度にかかっている。十分心して行動するようにな―――」
彼の視線がシェーンコップに移った。
その瞬間、彼の体は硬直した。
「出迎えご苦労。」
シェーンコップは、わざとらしく咳払いした。
「その玩具は本当に必要かね?」
「い、いえ!
そんなことはありません!」
「ならそれを下ろして安全装置を掛けておいてくれ。暴発でもされると困る。」
「イ、 イエッサー!」
「この趣向は、今回お招きををいただいたN・ロック氏の発案かな?」
「ノ、ノー、サー!」
「なにをやってるんですか、隊長!」
まだ若い保安部員が、完全に操り人形と化した自分の上役に話しかけた。
「こいつらを拘束して、ぜったいに逃げられないようにしてから、『交渉』しろって、保安部長からの命令では?」
ドスッ!
鈍い音がして、若い保安部員は崩れ落ちた。
「薔薇騎士団のウォルター・フォン・シェーンコップが来るなんて聞いてないぞ。」
世間知らずな若い隊員以外は、すでに銃を収めて、敬礼をしている。
だれかが辛うじて呟いた。
「わたしはちゃんと同行者の名簿を送ったよ。」
ヤンが静かに言った。
「ということは、きみの言う『保安部』が独断で行ったことなのかな。
それならまだ交渉の余地はあるが」
隊長はダラダラと汗を流した。
「まずはユリアンに合わせてもらおう。まさか彼にまで危害を加えているとは思わないが……」
隊長は助けを求めるように左右を見回したが、全員が視線を逸した。
「……どうなんだ?」
「も、もちろんそんなことはありません、サー!」
隊長は裏返った声で答えた。
「彼はいま、グラナダ宙港で、N・ロックとともに、皆さんの到着を待っているはずです。」
「なるほど。ではこの出迎えは、単なる手違い、という訳だね。」
というヤンの言葉にすがりつくように、隊長は首をコクコクと振った。
「なら、さっそく我々もグラナダ宙港に移動しようじゃないか。バギーを用意してもらえるかな?」
アナハイムムーンの研究施設の保安部員たちが有能だったことは言うまでない。
月面を移動できるバギーは、30分もかからずに用意された。
もっとも、一行の出発にはもう少し時間がかかった。
ポプランがスパルタニアンを操縦してみたいと言い出したのだ。
デモンストレーションで使用されたスパルタニアンは、地球への返還前に調整と修理を兼ねて、ここに収用されていたのを聞きつけたのである。
「そ、それは難しいかと……」
研究員は、こちらも脂汗を流しながら反論した。
「失礼ながら、パイロットの経験はおありでも、月面の重力下は、地上とも宇宙とも違ったコツがいります。
まして、スパルタニアンは可変機です。
操縦のクセなどもありますので……」
「大丈夫だろ? たかが練習機だ。安全性は高いはずだ。」
そ、それが……
と、研究員は口ごもる。
とはいえ、ポプランの押しとシェーンコップの威圧には耐えられるものではない。
色々と紆余曲折しながらも、研究員が話たところによれば……
アナハイムムーンでは、スパルタニアンの製造ライセンスを買取り、実際に生産を始める予定でいた。
実際の契約はまだなのだが、アナハイムからの依頼を相手方が蹴るわけは無いという思い込みから、彼らは、すでにデモンストレーションで使用されたスパルタニアン全機を修理と調整の名目で収用し、安全のためにつけたリミッターをはずし、マグネットコーティングまで施してしまったというのだ。
「マシンガンはザクの流用ですが、実弾を装填しています。実はこれから作動テストの予定で。」
「いいじゃないか!」
ポプランはヒュウとくちぶえを吹いた。
「テストもしといてやるよ!」
「無理ですって。いくらパイロット経験者でも可変機は違うんです。
ましてリミッターをはずしてマグネットコーティングをかけた機体の変形速度は、1秒をきります。未経験のパイロットでは失神必死です。
どうしてもモビルスーツに乗りたいのなら、ザクを貸し出しますので」
「なにを言ってる! 俺はモビルスーツなんて乗ったことないぜ。」
研究員の額に「絶望」という文字が点滅した。
わけのわからない訪問者の生命を心配したというよりは、貴重なスパルタニアンが失われてしまうのを恐れたのだろう。
だが、ポプランの行動は、さらにその斜め下を行った。
Vサイン。
え、え、なに?
とまどう研究員にポプランは言った。
「2機だ。2機用意してくれ。
俺と……あそこの天パの分。おっと、シェーンコップ少佐、あんたはどうする?」
シェーンコップはさすがに苦笑いして首を振った。
薔薇騎士団は、モビルスーツも保有しており、シェーンコップも一通り操縦はできるだが、初めての可変機を訓練もせずに乗りたがるのは、ポプランぐらいなものだった。
「あ、あちらの方は、モビルスーツの操縦はできるのですか?」
アムロはバッと見では、凄腕のパイロットには見えない。そこらのインドア気味の学生か……技術者。
実際に彼はこの展開に、とまどったようだった。
「ぼくはちょっと可変機は初めてで……」
「大丈夫、大丈夫! あんたなら絶対大丈夫!」
「その根拠は?」
「なに、オールドタイプのカンってやつかな……」
それはただの「カン」ては?と一同は思ったが、あえて口にするものはいなかった。
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斜め下をいくことで、かえって相手の裏をかいた形になる。
ティターンズがかつてそうだったように、このときのアナハイムムーンの保安部はまさにそれだった。
それは相手が常識的で、悪く言えば硬直した組織であった場合にはかなり有効だ。
だが、さらに非常識なものが混じっていた場合には……
「薔薇騎士団のシェーンコップだと?」
モニターの中で保安部長は、怒りのあまり残り少ない髪を逆立てていた。
「所詮は、傭兵団のボスだろうが。
それも団員を率いている訳でもない。」
それを言い出したら、彼らアナハイムムーン保安部も正規軍ではない。雇い主が固定されているだけで、傭兵の一種には違いないのだが。
「しかし……バギーとモビルスーツに分かれたというのは面白いな。」
保安部長はにやりも笑った。
「どうしても残さないと禍根が残るのは、バギーに乗ったヤンとシェーンコップだけだろう。
スパルタニアンに乗った2人は……死んでもらおう。」
「な、なにを……!」
「マラサイは何機だせる?」
隊長はギョッとして言い淀んた。
「……い、ええ……6機です。」
「取り逃してもつまらん。全部出せ。
報告書には、先方の希望でスパルタニアンを使ったクランバトルの申し入れがあったので応じたが、不慮の事故が起こったということにしておく!」
なんでもクラバで通るいやな世の中ですが、クラバってことにしちゃったら支払いも発生します……
けっこう、高くつく……