モニターの中では、最後のマラサイが、両脚を破壊されて月面に膝をついていた。
「……終わったな。」
N・ロックが静かに言った。
怒鳴りもしない。
むしろ、その声の静けさのほうが恐ろしかった。
「おわってないよ。」
アンキーがニヤニヤと笑った。
「クランオーナーに無断でクランバトルを行ったんだ。オマケにうちのアムロとポプランを勝手に巻き込んでくれてね!」
「それはなにかの法に触れるのかな?」
「別に。ただ、こんなことはよくあるんでね。
金でカタを付けることにしている。
あと動画はこっちで管理するから、」
N・ロックはすこし興味を引かれたようだった。
「それがクラバの流儀なのかい?」
「そうだよ。もともと非合法でやってたんだ。ギリギリまで潰し合うのはかえって面倒になる。」
「……わかった。請求書を回してくれ。」
さすがに肩を落として立ち上がろうとするN・ロックに
「で? 話はどうするのさ?」
とアンキーが言った。
「招いた客を拉致し、暗殺しかけておいていまさら話し合いもできないだろう。」
その言葉に、ユリアンが顔を上げた。
「そうとも限りませんよ。」
「こういう不始末が起きた以上、ぼくが『いやうちの会社のもの暴走でした』と言ったところで、ヤン氏が信用すると思うかい?」
「N・ロックさんの言葉は信用するような気がします。」
「まあ、わたしとゼロもそれについては証言してやるよ。あんたが、宙港でアムロたちを迎えるつもりだったってのはウソじゃないだろ?」
N・ロックはしばらく沈黙した。
「……ならまだ話し合いの余地はあると思っていいのか?」
「まあ、クランバトルの方はね。ヤンとユリアンをどうにかしようという方はについてはわたしは分からん。」
N・ロックはアンキーを見た。
その口元に笑みが戻っている。
「ありがたい。ならついでに次の会談をセッティングしてもらえるか?。」
「はあ? わたしがかい?」
「そうだ。こちらがセッティングしたんではまた暗殺や拉致を心配しないとならないだろう。だから場所と時間はそちらに任せる。」
「……ほっといて、このままばっくれるかもよ?」
「それはない。」
N・ロックは、明言した。
「ジュニアクランバトルのデモンストレーションはあれだけ盛り上がったんだ。次の興行をすぐにでも打ちたいだろう。だが選手がいない。」
「……」
「こちらなら、選手や資金面も提供することができる。」
アンキーが眉を上げる。
「あのデモンストレーションを見てまだ提供できる選手がいるのか?」
ゼロ・ムラサメがその肩に手を置いた。
「アナハイムムーンのニュータイプ部隊は、わたしの“作品”だ。」
「まさかっ!!」
「ドゥーたちほど、弄ってはいないが。そこそこには使える……はずだ。」
「加えて、フラナガンスクールからも3名を採用する予定だ。本当は8名の予定だったが、あのデモンストレーションのおかげで辞退者が続出してね……」
ユリアンはなにかに気がついたように、目を見開いた。
「……あの試合にそんな意味があったんですか!?」
「そうだよ。
正規のクラバのほうは、なかなか参入が難しい。なので、アナハイムは、ジュニア部門を新設して、そっちの主導権を握ろうとした。
そのために、フラナガンスクールの生徒を引き抜きにかかった。フラナガンスクールのほうは、そんなことをされちゃあたまらないので、フラナガン博士直々にこいつを阻止できないかと相談を受けた。
わたしとしてもアナハイムに好き勝手にジュニアクランバトル部門を、立ち上げさせるわけにはいかなかったんで、まあ……」
アンキーは肩をすくめてみせた。
「持ち札全部叩いて、あの試合を組んだわけだ。実際にはカードが、足りなくて、ユリアンに声をかけさせてもらったんだけどね。」
「なんだか……申し訳ないことをしたみたいな言い方ですね?」
「そりゃそうだ!
クラバなんてまともなやつのやることじゃない。やらんですませれば、それにこしたことはないのさ。」
N・ロックは身を乗り出した。
「それにもかかわらず、アンキー社長は、クランのオーナーをしている?」
「食ってくためには仕方ないんだよっ!」
「それだけにしては、あなたの行動は随分と戦略的だ。たんに儲けるというより、クランバトルの社会的地位を高めるように動いている。」
「わたしが?」
「そうだ。この前のニューディサイズの反乱をクランだけで、鎮めてみせたことなんてまるで、クラン所属のパイロットの優秀性を世間にしらしめるためにやったようだ。」
「考えすぎだろ―――」
N・ロックは、腕を組んだ。
しばらくじっと考え込むように俯いた。
「連邦とジオンが希少資源の輸出を巡る争いをクランバトルで決着させるらしい。」
やや、あって、彼はポツリと言った。
「面白い趣向だし、少なくともまた戦争に発展しなくて世間は胸を撫で下ろしているが、アナハイムではこれを、両国で常習化するのではないか……と見ている。」
「だろうね。それによって、アナハイムという一企業が、外交交渉に近いレベルの政策ごとに口出しをできる可能性も高まった。」
N・ロックは驚いたようだった。
なんどか口をパクパクさせたあと、その表情が満面の笑みに変わる。
「―――そうかっ!!
クラン側もそうなることがわかっていて、動いていたわけだ!
全部が全部、きみの発案……ではないよね?
黒幕は誰なんだ? ジオン公王府? 連邦軍のゴップ? そこらが本命かな。
いや穴狙いなら、ネオ香港のクワトロ大尉か。あるいは、ニューヤークのガルマ・エッシェンバッハ……」
「ひとりじゃないんだよ、N・ロック。」
アンキーはどこか疲れたように言った。
「別に談合したわけでもない。何人かが同じことを考えたんだ。そのなかには、ニューディサイズのエイノーもいたかもしれない。
ここにいるゼロ・ムラサメも関係していたかもしれない。
いずれにせよ―――けっこう多くの者たちが考えたんだ。争いはなくならないにせよ、クラバによる解決がベストではないにせよ、これ以上『戦争』を、続けてはひとは終わってしまうって、な。」
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N・ロックは、結局、彼らを残して先にラウンジを後にした。
ヤンやユリアンを自分側に引き込むことも、クランバトルへの参入も、話しは進まなかったが、謀殺未遂のあとだ。上々だろう。
次のセッティングは、おそらくアンキーか……あるいはヤン自身がしてくれるだろう。
なにもかも放ったらかしにして、逃げ出すとは思えない。
そして。
N・ロックは彼らが気に入った。
ヤン・リーにはまだ会えていないが、ユリアンの言動の端々からヤンの人となりが分かる。
そもそもあのような聡明な少年に愛される人物ならば、ぜひ仲間として一緒に仕事がしたい。
だが。
流石に、拉致と謀殺未遂のあとでそれが、実現可能だと考えるほどN・ロックは能天気でもなかった。
宙港のターミナルを出て、タクシーをつかまえ、アナハイムの支社に急ぐ間、N・ロックはひたすら考え込んでいた。
やがて、アルファベットを組み合わせただけのやや無味乾燥な社のマークが見えてきたころ。
その顔に、やっと笑みが浮かんだ。
「―――なんだ! カンタンなことじゃないか!」
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一方、予定時間から遅れること3時間。
ヤンたちはやっとのことで、グラナダへ到着した。
「アムロ! 遅いぞ。」
宙港で待っていたアンキーがまず噛み付いた。
「地上でのバギー移動です。これでもいそいだほうですよ。」
「おまけに、勝手にクラバをしやがって!」
「向こうが勝手にしかけてきたんですが?」
「おまえはポメラニアンズの所属選手なんだぞ? わたしやクワトロの許可なしにクランバトルを行ったら罰金が課せられる。
まあ……」
アンキーの唇が邪悪に吊り上がった。
「実際の負担は、アナハイムムーンが出す訳だが。」
「まあ、ぼくらの方はいいとして」
アムロは一歩ひいて、連れてきたメンバーを紹介した。
「元連邦軍大尉で、ネオ香港大学のヤン・リーさん、後輩で同じゼミのアッテンボローさん、“薔薇騎士団”団長のウォルター・フォン・シェーンコップさん、元連邦のパイロットのポプランさんです。
ええと……」
ヤンさんを呼びつけたアナハイムムーンの責任者の方は?
と、アムロは尋ねた。
「もし、あんたらがまだヤツらと交渉してもいいなら、わたしがあらためて、会談をセッティングすることになってる。」
アンキーはニヤニヤと笑った。
「とりあえず、ネオ香港からの長旅、お疲れさん。今夜はゆっくり再会の祝杯でも上げるんだね。宿はとってあるし、レストランも予約しているよ。」
「それもまさか、アナハイムムーンに請求する気ですか?」
「なにを言うんだ、アムロ。」
アンキーの口が耳まで避けそうになった。
「なんで、アナハイムムーンに請求しない理由があるんだ?」
ヤンとユリアンの再会シーンは次回で!
ついでに言うとアンキーは、ポプランも勝手にポメラニアンズの所属だったことにして、その分もアナハイムムーンに請求する気まんまんです。