第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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銀英伝もかなり読んだつもりなんですが、細かいところが抜け落ちてます。
ユリアンって、ヤンのことふだんなんて呼んでましたっけ。







GQuuuuuuX season2 第8話 仮面喜劇~祝宴

アンキーが一同を連れてきたのは、かなり古びた印象を与える店だった。

場所は、グラナダでも地下深いエリアにある。

大気という防波堤のない月面では、人も施設も常に、宇宙線や落下物にさらされている。

基本的に、重要な施設は地下深くに作られることが多い。建材や防護機構の進化によって、いまでは「外が見える」場所が高級である、というふうに人々の意識も変わっていたが、このエリアは、天井も低く、ひとつひつとつの店もこじんまりしていた。

 

まるで、初期の開拓民が、みんなでテーブルを囲んだころのような食堂とも、家ともつかないその古びたレストランは、月面都市が建設された当初から営業しているという触れ込みだった。

 

照明は暖色系。

ダンスホールでは、何人かの酔っ払いが踊り、バーカウンターには酒に弱いものなら、ラベルだけで二日酔いになりそうな強い酒がならんでいる。

 

案内された個室の丸いテーブルは、8人が座ると少し窮屈なくらいの広さだ。

 

「ここって、さっきN・ロックさんが話に出してた店ですよね。」

ユリアンが物珍しそうに、周りを見回した。

 

アンキーが応える。

「そうだよ。この店の名前がでるなんて、なかなかの食い道楽だね、あの男は。」

 

「なにがうまいんだい?」

ポプランが尋ねた。

シャトルで食事をとってからは、ほとんど固形物は口にいれていない。

 

「せっかくのグラナダなんだからここの名物を食べましょうよ。」

アッテンボローが言った。

 

「月面らしいもの、というと?」

ユリアンが首をかしげた。

 

「さあ? 月面産の食材でつくったもの、とか。」

 

「とりあえず、持ち帰りの弁当を四人前。」

ゼロ・ムラサメが、淡々と言った。

「ここに参加させてやらなかったから、わたしの子たちがひねている。」

 

「そもそもぼくらが参加してよかったんですか? ヤンさんたちだけで、ゆっくりしてもらったほうが」

アムロが恐る恐る尋ねた。

 

「気遣いはうれしいけどね」

ヤンが言った。

「わたしはきみのことは“仲間”だと思ってる。実際にユリアンをこのデモンストレーションに参加させる際にはきみにも相談した。」

 

「そうでした……すいません。よい結果にならなくて。」

 

「とんでもない! きみの懸念していたことも含め、すべてが的中した。」

ヤンはちらっとユリアンを見た。

「ユリアンが、生まれて初めてのモビルスーツ戦闘で相手を撃破したのは予想外だったが」

 

ユリアンは首をすくめた。

「……すいません……」

 

「それも謝るような話じゃないな。

とりあえず乾杯といこうぜ! 我らが未来のエース殿の輝かしい殊勲と、無事の再会を祝して!!」

 

ヤンやユリアンはそれについて言いたいことはあったようだが、ポプランはかまわずみなにグラスを回した。

 

発泡酒、蒸留酒、カクテル、果実酒などてんでに頼んだ飲み物がはいったグラスを掲げて、一堂は、乾杯した。

 

 

 

料理は美味かった。

前菜として供されたのは、皿にベトベトと張りついたゼリー状の食べ物で、全員を驚かせたが、口にいれるとそれは、上等なテリーヌだった。

初期の宇宙開拓移民の食事っぽく作られていたが、それは単なる演出で、続いて出された野菜のスティックにつけて食べるとまた美味であった。

 

ゴロゴロと大ぶりにカットされた根菜と肉のスープ。

そこからは大皿料理が続いた。

 

アムロは、懸命に取り分け係を実行した。

そこまでマメな性格でもないのだが、行動をともにすることが多いマチュやニャアンはこの手のことには、たまにしか気が付かないタイプなので、鍛えられたということらしい。

で、あとのメンバーは、シェーンコップにポプラン、ゼロ・ムラサメにアンキーである。アムロがやらずに誰がやる。

 

年長者のヤンにやらせるのも気が引けたし、ユリアンはすまなそうにしていたが、今回は彼の無事を祝う席のはずだ。食事や会話を楽しんで欲しかった。

 

一通り、酒がまわり、話しが弾んだ。

話題になったのは、ユリアンの「死んだフリ」だ。

 

「クラバでは、完全な動作不能か、メインカメラの破壊で決着となるのが一般的なんだ。コクピットへの故意の攻撃は反則負けになる。」

 

「故意がどうかは、微妙な判定になるな。」

アムロの解説にポプランは首を傾げた。

「主観的要素が大きい。」

 

「そうです。実際にこのルールが適用されて反則負けになったケースは、ぼくが知る限り一度もありません。非合法時代のクランバトルではなんども選手の死亡事故はあります。

例えば、昨年、イズマコロニー宙域で行われたクランバトルでは、元連邦のスーパーユニカム、シイコ・スガイが『限りなく故意に近い』形で死んでいますが、あれも反則負けはとられていません。」

 

アンキーが聞こえないふりをして、シャンパンをあおっている。

 

しかしだな、とポプランは反論した。

 

「今日のあれ。あれもクラバということにはなってたよな?

やつらは別にコクピットを避けてくれる様子もなかったし、だいたい2対6ってなんなんだ?」

 

「それも問題なんですよ。もともとクラバでもなんでもないものを『クラバだ』って言い張ることで、戦闘を成立させてしまうってテクニックがあるんです。」

 

アンキーが知らん顔で、大声で、ウェイターを呼んだ。

 

「じゃあ。むこうは本気で殺しにかかって来てたのに、こっちはクラバルールで相手をしてやってたって事か!?」

 

「……まあ、そんなこともあったりなかったり……」

 

「じゃあ、たとえば、だ。メインカメラをやられただけの相手が突然反撃してきたらどうなる!?

あるいは、パイロットが気絶したふりをしてからの攻撃とか……」

 

「メインカメラを失うと、単にそれはカメラだけじゃなくて、様々な主要センサーも動かなくなります。

まともには動かせませんよ……でも、確かにその状態から反撃してくる相手もいます……」

 

 

「そうかっ!

だから、あんたは半壊したマラサイにトドメをさして回ってたのかっ!」

ポプランは叫んだ。

 

「あたりまえですよ。なんだと思ってたんですか?」

「いや、その白い悪魔的なナニカかと。」

「かんべんしてください。」

 

 

「ぼくが勝てたのは運がよかったからなんですね……」

二人の会話をきいていたユリアンが、ポツリと言った。

 

「たしかに運の要素は半分くらいはあるかもね。」

アムロは言った。

 

「じゃあ残りの半分は……?」

 

「それも運だよ。」

「じゃあ、全部運じゃないですかっ!」

「半分はただのラッキー。あとの半分はきみの才能と我慢が呼び込んだ運だよ。」

 

ユリアンの顔が少し赤くなる。

 

「……ひよっとして褒めてます?」

 

「当たり前だな。わたしのアンを落としたんだからな。」

ゼロ・ムラサメが、グラスを掲げた。

 

 

 

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一通り、料理がでたあと、ポプランは立ち上がった。アッテンボローを手招きする。

 

「なんです?」

「バーカウンターのほうに行かないか?

もうすこし強い酒が飲みたい。」

「ここでも飲めるのでは……」

 

言いかけてアッテンボローは気がついた。

ポプランは、ヤンとユリアンを2人きりにしてやりたかったのだ……

 

「さっき、バーカウンターを通ったときに、なかなか美女の二人連れが手持ち無沙汰にしてるのが、見えたんだ。」

 

正直なことは絶対に言わないポプランである。

 

 

アンキーもアムロを手招きした。

「ちょっと場所を変えるぞ。」

「なんですか? お酒なら」

「ギャラの話だ。クランの者以外には聞かせたくない。ボックス席を用意させる。」

 

 

シェーンコップとゼロは、次々と皆が席を外すのを苦笑いしながら見守った。

 

「薔薇の騎士どの?

あんたの噂はいろいろ聞いているが、ポプランのあとを追いかけなくて良いのか?」

 

「撃墜王と同じ女を追いかけたくはないな。

俺はもっと、じっくり口説くのが好みだ。

―――ところで、モビルスーツの操縦以外はなんでもこなすという評判のゼロ・ムラサメだが、ダンスはできるか?」

 

「まあ少しはステップを踏めるか、のていどなら。」

 

「俺の足を粉砕しないと約束するなら、一曲付き合わないか?」

 

「まあ……この白衣のままでよければ。

わたし失敗しないので。」

 

 

 

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気がつくと、テーブルにはヤンとユリアンだけが残っていた。

 

 

ヤンは、デザートのプリンをひとさじ食べた。

甘いものが貴重品だった時代があるのだろう。

小さなプリンは、脳天を突き抜けるほど甘い。

 

「……紅茶が欲しいな。」

と、思わずヤンは言った。

 

「あとでぼくがいれますよ。」

ユリアンが言った。

 

しばらく、ふたりは黙っていた。

 

「ユリアン。」

「はい。」

「よく頑張ったな。」

 

ユリアンは、少し目を伏せた。

 

「……すいません。やっぱり、ぼくにはモビルスーツでニュータイプや強化人間と渡り合うなんて無理でした。

提督やアムロさんの言うことをきいていれば……」

 

「提督は勘弁してくれ。」

ヤンは、大袈裟に首を振った。

「……ユリアンは普段からしっかりしすぎているからな。我が家の経済事情からこの選択肢を選んだんではないかと、逆に申し訳なく思ってたんだ。」

 

「そ、そんなことは!

パイロットコースにも通わせてもらってるし。」

 

「まあ、それが役にたったわけだ。」

 

ユリアンは、顔を上げた。泣き出しそうだった。

 

「提督!」

 

「いや、提督は勘弁してくれって。

いくつか、わたしのほうも朗報が無いわけじゃない。

……ビスト財団の特別奨学金がもらえるかもしれないんだ。今回のシミュレーションバトルの功績でね。」

 

「ほんとなら凄いですけど」

ユリアンは疑り深そうにヤンを見つめた。

「どこ情報です?」

 

「キャゼルヌ先生だよ。」

 

ユリアンは飛び上がった。

「そ、それなら可能性は高いですよ!」

 

「そうなんだ。それと、ひょっとしたら、卒業後、キャゼルヌ先生の研究員に助手として残れるかもしれない。」

 

ヤンは、プリンをもうひとさじ食べながら、にっこりと笑った。

 

「だからなんというか……わたしのことは気にしなくて大丈夫だよ。

今回の報酬は、ユリアンの口座に入れておいて、将来のために役立てるといい。」

 

ユリアンは、しばらく何も言えなかった。

 

「……提督は、」

 

「提督はやめてくれ。」

 

「ぼくが近くにいるのが負担になっていますか?」

 

「とんでもない!」

ヤンは、困ったように笑った。

「だが、わたしは軍にいた数年間でもう一生分働いたような気がしてるんだ。

あとは好きな歴史の研究をしてのんびり暮らしたい。なんというか―――隠遁生活みたいなものかな。それに付き合わせるには、ユリアンはあまりにも可能性に満ちている。」

 

ユリアンは考えた。

ヤンが好意でそう言っているのはよくわかる。

だが、ユリアン自身は自分の「才能」にそこまで自身があるわけではないのだ。

 

確かに飛び級扱いで、大学で授業を受けている。だが、同じ程度の才能のあるものは、同じ学年でも何人もいる。

むしろ、モビルスーツ……とくにスパルタニアンの操縦にこそ自信があったのだが、今回のデモンストレーションバトルで、上には上がいることを思い知らされたのだ。

 

「どうすればいいのか、は時間をかけて考えるんだ。」

ヤンは、もうひと口、プリンを食べてから、諦めてコーヒーを追加オーダーした。

「学生時代なんて、そのための時間だからね!」

 

 

 

 

 




かくして、月面の喜劇は幕を閉じる。
新しい舞台をあけるのは。
ヤンか。N・ロックか。
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