ちょつと短め。
別にギャラの話もなく、アムロはアンキーの男性関係についての愚痴をしばらくきいていた。
マラサイとの戦闘が「クランバトル」ということになったからには、それ相応のファイトマネーは支払われるのだろう。
それが、いくらになるのかは実はいま現在のアンキーには話しにくいのだ。なにしろ、アナハイムムーンからいくらふんだくれるかにかかってくるわけで……。
アムロは酒は強い方ではない。
まして、数時間前に襲われた身だ。
深酒をする気にはなれない。
「アナハイムのN・ロックって一体なにものなんですか?」
「わたしもよくは知らないよ!」
ウイスキーを炭酸水で割ったものを飲みながら、アンキーが言った。
「だが、必ずしもアナハイムムーンの忠実な狗ではないような気はする。今回の襲撃が、彼の知らないところで行われた……というのもウソではなさそうだ。
ヤツのことなら、ゼロに聞け。アナハイムのニュータイプ部隊には、ムラサメ研究所の手が入っている。昨日今日の知り合いではないはずだ。
あとは……そうだ、ユリアンだな。
なんどかN・ロックに会っているし、あの坊やは、たぶん人をみる目はありそうだ。」
「ああ、アンキーさん、ここでしたか。」
アムロとアンキーのいるボックス席に、ひょっこりと、ヤンとユリアンが顔を出した。
「アッテンボローとポプランはもう少し呑んでいくそうです。
シェーンコップとムラサメ博士は姿が見えませんが、まああのふたりは心配しなくても大丈夫でしょう。」
「むしろちょっかいを出した相手が心配なレベルだ。
“薔薇騎士団”陸戦の鬼、シェーンコップ少佐か。なかなかの知り合いがいるんだな、ヤン。」
「連邦軍時代からの縁ですね。正確には建造中のコロニーから、作業員とその家族を脱出させたときからの知り合いです。」
「エル・ファシルコロニーか。」
「ご存知でしたか?」
「ふん! そのころわたしは、中立サイトに……」
アンキーは首を振ってそれ以上、なにも言わなかった。
「……実は、アナハイムムーンとの話し合いの件ですが、ご相談したくて」
「なんだ? 暗殺されかかった相手と話をするのか?」
「一応は」
のほほんとした顔をしているが、ヤンという男、少なくとも胆力については、並大抵ではない。
「アナハイムムーンと交渉する価値がある―――と判断したわけだね?」
アムロは座る位置をずらして、ヤンとユリアンに席を空けた。
「向こう側の責任者N・ロックさんてどんなひとなのかな?」
ユリアンは。テーブルの上で、指を組む。
「N・ロックさんは——」
言葉を選ぶように、ゆっくり話し始めた。
「最初に会ったとき、正直、苦手だと思いました。」
「苦手?」
アンキーが興味深そうに身を乗り出した。
「どこを見ているのかわからない人なんです。笑っているんですけど、笑顔の奥に、ずっと何かを計算しているような目があって。」
「それはわるい人間の目ってこと?」
「それがそうとも限らないんです。」
ユリアンは首を振った。
「話してる内容が、なにかにはめようとしているのか、それとも善意のことなのか——最初はわからなかっただけで。」
「結局どっちだった?」
アムロが尋ねた。
「全部、こっちをはめようとしてました。」
「じゃあ、ダメじゃないか!」
「でも彼は少なくともちゃんと対価を払おうとしていたんです。」
ユリアンは考え込むように言った。
「……ずっと試されていたような気がします。
おまえは、こっちの提案にほいほい乗ってくるだけのアホなのかって。」
「完全に悪役の思考だよ、それは。」
アンキーが明言したが、アムロに、それってアンキーさんと似てますね、と言われて黙りこんだ。
「アンキーさんと取引できるんだったら、N・ロックさんとも話はできるでしょう。ただ……アナハイムムーンは、N・ロックさんの私物ではない。
今回のように彼が意図しないところで、アナハイムムーンが暴走することだってありうる。」
「つまり、N・ロック個人は取引の相手として評価できるけど、アナハイムムーンという組織はそうじゃない……っていうことかい?」
アンキーが言った。
その目は、ヤンを見ている。
ここまでほぼ無言のヤンは、どこか困ったような笑顔を浮かべていた。
ユリアンは―――
そういう表情のときのヤンは、実はそれほど困っていないのだ、と知っていた。
「それも含めて、一度、N・ロックという人物と話しがしたい。」
ヤンは言った。
「その場所と時間のセッティングをアンキーさんにお願いしたいのです。」
「難しいね、そりゃ」
アンキーは顔をしかめた。
「アナハイムムーンが手出できない……しかも影響力が及ばない場所?
月面にはないね。サイド6や地球だと、今度はN・ロックが移動するのが難しいだろ?」
「ひとつ思いついたことがあります。」
アムロが手を挙げた。
「アナハイムムーンも手が出しにくく、またN・ロックさんもあとでアナハイムムーンから責任を問われにくいところ。」
「どこだい、それは?」
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メインスクリーンに大写しになった女性士官は、まさに叩き上げ、といった印象だった。
茶色の髪を後ろで束ねている。
厳しい表情は、こちらを威圧するに十分だった。
中佐の記章をつけている。
「……正規の逮捕状です。」
部下が小声で囁いた。
「わかっている!」
応えた男は、アナハイムムーンでも経営陣に属する。
アナハイムをひとつの国としてみるならば、閣僚に匹敵する地位だろう。
だが、相手が悪い。
なにしろ相手は本物の国であってしかも、現在の世界における覇権国家だ。
「なにか質問はあるか?」
女性佐官が言った。
「い、異例ですな。」
男は精一杯応えた。
「ジオン軍が、我社の社員を逮捕?
警察権は行政府の管轄でしょう。いったい何の権限が会って―――」
「我がソドンは、ジオン軍ではなく、公王府の直属だ。当然、警察権も管轄している。容疑はそこにある通り、民間人へのモビルスーツを使っての殺害未遂だ。」
「あ、あれはクランバトルで―――」
「それはそちらが勝手に言っているだけで、月面のクランオーナーからはどこからも届出は出ていない。」
「―――!」
「今回の事件の一連の責任者であるこの、N・ロックなる人物をソドンに出頭させよ。」
男は忙しく頭をめぐらした。
グラナダは独自の政府をもっているが、一応は、ジオンの都市である。
なぜ、この件に、ジオン公王府が興味をもち、首を突っ込んできたのか。考えられる理由はいくつもあった。
現実には、マラサイ部隊を使った、ヤン一行への強襲は保安部長の独断であり、彼自身もN・ロックも関与するところではない。
だが、ならば自分や保安部長を出頭させるのか。それはなんとしても避けたい。
それに、N・ロックならば、この場をなんとかおさめてくれる―――そんな期待もあった。
“すまん、N・ロック! 優秀な弁護士をつけてやるからな!”
男は、スクリーンの女性佐官に頷いた。
「わかりました。あくまでも私たちはこれは、誤解に基づく冤罪であることを、主張いたしますが、取り調べには全面的に協力いたします。」
もちろん、女性士官はラシット艦長です。
うしろで、対マラサイ戦に参加出来なかったマチュやソムがブツブツ言ってますが、とりあえず画面には映らないように注意しながら交渉しています。