宇宙空間にある小惑星基地ならともかく、大型艦を発着できる施設は、それなりに大掛かりとなる。
突然、戦艦クラスの船がやってきたら、港湾関係者はパニックになるのだが、今回は、相手が相手だった。
―――公王府直属艦隊旗艦ソドン。
なにをおいても優先するしかない。
「係留されたところをモビルスーツで攻撃とか……」
「それはいくらなんでも有り得ないと思います。」
ソドン艦長ラシット中佐は、謎多きテストパイロット、ソム・エドワウに答えた。
「こんなところで、戦闘が発生すれば、グラナダ市街地にも被害が及びます。
市街地にはアナハイムの月面支社もあります。」
ソドンを係留したドッグそのものが、与圧されている。つまりノーマルスーツに着替えずに、そのまま市街地に出かけられるのだ。
これはかなりの好待遇だといえた。
「アムロたちは?」
「到着しました。ブリッジに案内してよろしいですか?」
「もちろん! なぜそんなことを確認するの?」
「例のヤン・リー一行も一緒ですから。
特に“薔薇騎士団”のウォルター・フォン・シェーンコップもいます。彼をソドンのブリッジに案内することは、“薔薇騎士団”とジオンが特別な関係にあると、喧伝されかねません。」
ソム・エドワウは少し考えた。
相談相手になるべき、シャリア・ブルは地球においてきてしまっている。
「……かまわないわ。でもマ・クベ将軍には、ことの次第は、連絡をしておいて。」
連邦やサイド6、月面都市群には、強力な傭兵集団をジオンが抱きこもうとしているとおもわせてもよい。
だが、マ・クベ配下のジオン正規軍にはそうはいかない。
強力な陸戦兵力を抱き込むことで、公王府が正規軍に対抗しようとしていると思われたらかなわない。なるだけ早めに手を打っておくしかない。
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「では行ってくるよ。」
N・ロックが肩にかついだバッグには、編集用のタブレットや何日かぶんの着替え、お気に入りの軽食などが入っている。
「だ、だいじょうぶなんでしょうか?」
若いスタッフのひとりがおろおろと言った。
「ああ、配信は予定通りに頼むよ。もし、けっこう日数がかかるようなら。そのときはそのときだ。」
安心していいのか、そうでないのか。
それすら部下たちに掴ませない飄々とした態度で、N・ロックは、オフィスを出た。
建物の外には、グラナダ宙港のバギーが止まっている。
「やあ。」
と、車の外で待っていた運転手が手をあけた。
「あんたがN・ロック?」
「そう……ですが?」
大柄なN・ロックの胸の辺りまでしか背がない。ジオンの軍服に身を包んでいるが、まだ子どもだ。
しかも女性だ。
「乗って。ソドンまで案内する。」
そう言って助手席のドアを開けた。
「あなたがジオン軍の……?」
「軍人じゃないんだけどね。制服は借りただけ。」
車はN・ロックがシートベルトをする間もなく、動き出した。
とんでもない加速である。
最初のT字路をタイヤを軋ませて、かろうじて曲がる。
「ち、ちょっと、ちょっと!!」
N・ロックはさすがに悲鳴をあげた。
「く、くるまの運転は! 免許はもってるんですか!?」
「はじめて。」
運転手は背筋の凍るようなことを平然と言った。
「免許は、モビルスーツパイロットの資格あるから、上位互換。」
「た、頼むから、オートパイロットにしてくれ!!」
「おおとぱいろ……?」
「ハンドルの左下の青いボタン!!」
少女がボタンを押すとうそのように、走行は安定した。
“こちらはナビゲーションシステムです。”
機械音声が告げた。
“目的地をお知らせ下さい”
「第一宙港ソドンまで。」
“かしこまりました。所要時間は約47分です。”
ふう。
N・ロックはため息をついた。
隣りの少女を見つめる。
整った可愛らしい顔立ち。赤毛のショートカットだ。一瞬、ローティーンかと思ったが、意外とスタイルがいい。実際の歳はもう少し上なのかもしれない。
「あ……ああ、はじめまして。N・ロックです。」
「マチュ」
少女は短く答えた。
「ジオンの軍人ではないということだけど、」
「一応、ジオンではテストパイロット。契約はまだ生きてるはず……かな。」
「なぜきみが逮捕にきたの?」
「逮捕? 連れてくるように頼まれただけだよ。
グラナダは自治都市だからね。正規の軍人が任務で市街地に入るのはいろいろ、面倒なんだってさ。
でもって、姫さんは天パと話しがしたいだろうし、ニャアンは初対面のひとは苦手だから、なんていうのかな、消去法でわたしになったわけ。」
説明をしてくれているのだろうが、まったく分からなかった。特に後半。
「じゃあ、マチュさんは、モビルスーツのテストパイロットなんだね? ジオン所属の。」
「うん。でも一応身分は学生かなあ。ジオン工科大に通ってる。
でもって、ときどきクランバトルもやっている。」
クランバトル……赤毛の少女……マチュ……
「きみが、“狂犬”マチュか!」
「そんなふうに呼ぶ人もいるんだけどね」
オートパイロットなのだから寛いでしまっても、いいのだが、マチュは律儀にハンドルから手を離さず、正面を見つめている。
「なんでそんなリングネームなのか、わかんないんだよね。」
そりゃあんな運転をするからだろう!
とN・ロックは思ったが、賢明にも口には出さなかった。
N・ロックは、職業柄、若い、見た目の良い女性と接することは少なくない。
けっして、それが苦手ではないが、自身の見た目として、けっこう威圧感のある外見であることも自覚していた。
「マチュくんは、グラナダははじめてかい?」
「……ニャアンのほうが長い、かな。わたしは少しよっただけだね。」
「そうか。じゃあ、セブンイレムーンの『ゴールドキッチン』シリーズは知らない?」
「なにそれ?」
「コンビニで売ってるパックの惣菜だよ。酒の肴にもいいし、もちろん小腹が空いたときにもオススメなんだ。」
N・ロックは、自分のバッグの中から、パッケージを取り出した。
美味しそうな唐揚げの写真に、“ゴールドキッキンゼネラルサンダースのプレミアムチキン”と書かれている。
「取調べのときに飯が出なかったら、マズいと思って買っといたんだけど、味見してみない?」
マチュが頷いたので、N・ロックは封を切って、フォークに唐揚げを突き刺して、差し出した。
マチュは律儀に、ハンドルから手を離さない。
そのまま、口を開いてみせる。
「食べさせろ」という意味だと解釈して、N・ロックは、唐揚げを口に放り込んでやった。
むぎゅ。
むぎゅ、もぎゅ、むぎゅ。
ごっくん。
「うん、美味しい。スパイスが効いてて、あぶらの甘みとよくマッチしてる。」
「そりゃ、よかった。本当はあたためたほうが、イケるんだけどね。」
2個目を、マチュがもぐもぐしたあと、N・ロックは尋ねた。
「ヤンくんたちも、ソドンにいるのかい?」
答えを……というよりは、この少女がどんな立ち位置なのかに興味があったのだ。
本当に『消去法』で選ばれただけの使い走りか。それとも、ヤンやアンキーとの『会見』に大きく関わっているのか。
「たぶん。今ごろは、もうソドンに着いてるはず。」
屈託なくマチュは答えた。
「じゃあ、これは“逮捕”ではない?」
「ああ。なんか天パから、アナハイムの手の届かないところで、あんたと会いたいからって言われたからセッティングしたみたいだよ。」
「それは―――アンキーさんが?」
「いや、違うと思う。」
マチュは首を傾げた。
「アンキーはヒゲマンと仲良しだけど、無理なことを頼めるほど、立場は強くないから。」
さっきからこの少女の話は分かりそうで分からない。
それが、固有名詞のせいだとわかったN・ロックは、とりあえずわかりにくいところを尋ねてみた。
「天パってだれのこと?」
「アムロ・レイ。」
「クランバトルの白い悪魔、か!」
N・ロックは呻いた。
「ヒゲマンっていうのは?」
「シャリア・ブル。公王府直属艦隊の司令官で、なんか面倒見のいいやつ。」
クランバトルの無敵のエースとジオンの准将閣下か繋がっていたのか!
ならば、ソドンを動かしたことも、逮捕状を出したことも説明がつく。
「そうか……シャリア・ブル准将が、ソドンを……そして『逮捕状』という形で、こっちをひっぱったと……」
「すこし、違うよ。」
3個目を飲み込んでから、マチュは言った。
「ヒゲマンと天パは、もちろんお互い知ってるけどさ。なんかヒゲマンは天パのことちょっと怖がってて、苦手みたい。
仲がよいのは、天パと姫さんね!
アナハイムが手配したシャトルの席が五人分だったんで、わたしやニャアンをグラナダまで連れてくるように、天パが姫さんに頼んだの。
ソドンを使ったのは、たぶん自分も一緒に来たかったからじゃないかなあ。」
「姫さん?」
「アルテイシア・ソム・ダイクン」
次回!いよいよ!
こんどこそ! ヤンとN・ロック氏ほ対決が!
「ヤン・リー……ジオン公王府で働く気はなくって?」
「いや、セイラさん、話をさらにややこしくしなくても」