アナハイムムーンは、人身御供として、プロジェクト責任者を差し出した。
渦巻く陰謀。
おそるべき国家権力に彼はひとり立ち向かう!!
予定より15分ばかり遅れて、バギーは宙港に到着した。
間近にみる宇宙戦艦は、やはり迫力があった。
このソドンは、いわゆる、戦艦、巡洋艦、輸送艦といった区分には分類されない。
モビルスーツを多数収納し、敵陣深くまで、戦艦を凌ぐ頑丈さと、戦艦に準じる火力をもってそれを送り届ける。
強襲上陸艦―――と呼ばれる。
宇宙世紀において、このように分類されるのは、このペガサス級(ジオン流にいえばソドン級)のただ一種だけだ。
大気圏からの離脱、再突入、さらには地上でもミノフスキークラフトによって、移動が可能という、ある意味万能艦ではあるが、建造コストもバカ高くなる。
もともとは連邦の設計によるものであり、このソドンも連邦軍の艦だった。
“赤い彗星”が奪取し、ソドンと改名、改修して大戦を戦い抜いた。
そして現在は、ジオン公王府直艦隊の旗艦となっている。
コストが高いといいながらも、ジオンはその後も、同タイプの強襲上陸艦を建造している。
公王府直属艦隊を設立するにあたって、ジオン公国軍からまわされたのが、そういった新造艦ではなく、老朽化しつつあるソドンだったのが、いかにもジオン公国の懐事情と、ジオン公国「軍」とジオン公王府との微妙な関係を象徴しているようで、N・ロックには興味深かった。
乗船口には、すらりとした金髪の女性が待っていた。サングラスをかけていたが、とんでもない美人なのはわかる。
「マチュ、遅かったわね。」
マチュは買い物袋を差し上げた。
「セブンイレムーンの『ゴールドキッキン』シリーズ。買ってきた。
ノブりんの奢り。
これからミーティングなんでしょ?
みんなで食べて。」
「のぶり……ん?」
「どうもわたしのことみたいです。」
N・ロックはサングラスの女性に言った。
軍服ではなく、スーツだし、任務中の軍人特有の緊張感がない。
おそらくは公王府の行政官―――しかもかなり上層部の者だろう。
「それは失礼を。N・ロックさん。」
サングラスの女性は少しだけ、口元をほころばせた。
いいっ!
これはとんでもない逸材だ!
クールでありながら、微笑みひとつで、ひとを魅了する。
「……どうも、マチュは、気に入った相手にはあだ名をつけるようです。」
「ははは……なら、ぼくのことは気に入ってくれたってこと?」
マチュは、買い込んだ「ゴールドキッキン」の惣菜の袋のひとつをアルテイシアに渡した、もう片方の袋は自分で食べるつもりらしい。
「行き過ぎたエンタメは、邪悪にも見える」
ぼそりとマチュが言った。
「……って、ガンダムが言ってる。」
しゃ、あとでね、姫さん。話しがどうなったか教えてね。
そう言ってマチュは駆け出した。
ひ、姫さん?
N・ロックは、サングラスの女性を見つめた。
「……わたしもあだ名で呼ばれることか多い。ということはあの子に気に入られているってことかしら。」
サングラスの女性は、また微笑んだが、こんどはN・ロックは心の底からゾッとした。
「あ、アルテイシア・ソム・ダイクン……陛下。」
「ジオンの元首はいまは、ネオ香港に滞在中です。
わたしのことは、ソム・エドワウと呼んでください。」
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「たしかに美味しい。
美味しいんだが……」
アムロは首を傾げた。
「なんだか、その……フェイクっぽい感じがするのはなんでだろう。」
ララァが、パッケージを眺める。
「セブンイレムーン……ゼネラルサンダースのプレミアムチキン……」
「きっと、ノブりんのせいだよ!」
マチュはものすごく酷いことを、明るく言った。
とりあえず、まずはN・ロックとヤンの二人で話をさせよう、ということになって、そのほかのメンバーは大部屋待機である。
アムロやアンキー、ソドンで移動してきた、マチュ、ニャアン、ララァとその侍女達。
ユリアン、シェーンコップにポプラン、アッテンボローたち。
飲み物は炭酸系で、酒はなし。食べ物は、マチュが買い込んできたセブンイレムーンの「ゴールドキッチン」シリーズの惣菜である。
わりとほのぼのとしたお茶会ですみそうなところに、N・ロックをヤンのもとに案内したソム・エドワウが戻ってきたので、また空気がピリつく。
―――はずなのだが、この連中の頭のなかはどうなっているのだろう。
シェーンコップ、ポプラン、アッテンボローは顔を見合せて、苦笑いを浮かべた。
マチュは、アムロやララァと、『ゴールドキッキン』シリーズの食べ比べに余念がないし、ユリアンは、侍女たちと紅茶の入れ方について談義をしている。
ソム・エドワウは、シェーンコップの前の椅子に腰を下ろした。
「薔薇騎士団の団長さん。
あとで少しチカラを借りるかもしれないわ。」
「その言い方では、貸すとも貸さないとも言えないな。いくら美人の頼みでも。」
「マ・クベ中将に一度、あって欲しいのよ。」
「あのなあ」
さすがのシェーンコップが呆れた。
「いまのあんたは、テストパイロットのソム・エドワウだろう。ちっぽけな傭兵団の団長が、ジオン軍の実質的なトップと会うのに否も応もないが、あんたはなんの権限でそれを言いだしたんだ?」
「思いたいように思ってもらっていいわ。
わたしはマ・クベをあなたに紹介できる権限があるし、あなたもマ・クベもそれは嫌ではないでしょう?」
「中将閣下と会って、なにを話せばいい?」
「それはあなた方が決めることです。わたしとしては、公王府“のみ”に薔薇騎士団とのパイプができたという状態を解消してもらえればよいのです。
おそらくは、国家間の武力衝突がなくなったあとの、テロ対策についての相談になるのかと考えますが。」
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N・ロック氏はドアを開けた。
部屋は、思ったより広かった。
丸いテーブルがいくつか。そこに椅子が備えられている。
窓もなく、やや重くるしい雰囲気はある。
宇宙仕様の戦闘艦の一室だからこれは当たり前といえば当たり前だろう。
壁の一方が、ドリンクサーバーになっている。
メニューはかなり豊富で、もともとこの部屋が、尋問やら取り調べではなく、休憩室や待機室に使われていたことがわかる。
あとはモニター。
時計代わりに時間が表示されていて、そこには、これからのタイムスケジュールがぎっちりと書かれていた。
ヤンとの会談のあと。
今度はN・ロックは、ユリアンと話すことになっている。
それからアンキーとの会談。
そのあとジオン側からの事情聴取の時間があって、取り調べらしいものといえばそのくらいだ。
さらにそのあと二回目のヤンとの会談。
そのあとにまたアンキーとの時間が設けられている。
目安の時間も記載されていて……そこまででざっと8時間……!!
ヤン・リーは、丸テーブルのひとつに腰を下ろしていた。
目の前にはティーポットとティーカップ。
どこか眠そうな目は、緊張感のカケラもない。
年齢は20代半ばのはずだが、どこか老成した印象すら受ける。
これが元連邦軍大尉。戦場の奇術師。
奇跡のヤン、か。
軍にいたとは思えない、という印象だった。
「どうぞ、おかけください。」
ヤンが言った。
「ドリンクサーバーは無料です。おすすめはココナッツソーダだそうですよ。
長丁場になりそうなんで、どうぞご自由に。」
N・ロックは、とりあえず椅子に座った。
「……たしかに長いですね。グラナダの法律では取り調べの時間は最長でも4時間……
弁護士に連絡はできますか?」
ヤンは笑った。
「却下だそうです。」
「なるほど。ジオン公王府の権威は、グラナダの法律をも上回ると?」
「いえいえ。ジオン公王府は、自らも法の縛りの前では厳格ですよ。
単純にこれは『取り調べ』ではないからです。」
あっさりと彼は言った。
「すでに、あなたの逮捕状にあった嫌疑はすっかり晴れています。」
「ええっ……と、いつです、それは」
「約1分くらいまえですね。」
「それはわたしが、この部屋にはいった瞬間、ということでしょうか?」
「何秒かのズレはあるかもしれません。」
一筋縄ではいかぬことを悟ったN・ロックは、立ち上がって、ドリンクサーバーから飲み物をとった……無難にコーヒーにした。
一口飲む。
……わりと美味い。
「……これはひょっとすると、逮捕ではなく、『アナハイムムーン』が妙なちょっかいを出せないようにセッティングされた『会談』なのですか?」
「……単に打ち合わせ、と言ってもいいんですが。」
ヤンは手元のスティク型のデバイスを操作した。
モニターが切り替わる。
N・ロックと同じか、それ以上にぎっちりと予定が詰め込まれていた。
「これは?」
「わたしの『打ち合わせ』のスケジュールです。」
ヤンはもさもさと頭をかいた。
「N・ロックさん以外にも、ポメラニアンズも、うちのユリアンをスカウトしたがっています。それに、ジオンも!
なにを勘違いしているのか、わたし自身もその対象になっているらしい!
みてください。『ソム・エドワウ』との会談だけで、3回組まれています。」
「こ、これは……」
いや、考えてみればありそうなことだった。
あくまで噂。評判程度に過ぎなかったが、ミラクル・ヤンがもし、大戦時に、艦隊を指揮出来ていたら、ジオン独立戦争の勝敗は逆になったのでは、と。
そこにもし「白い悪魔」が、連邦に加わっていたら!!
そんな仮想戦記マニアの妄想は、ついこのまえ、実現してしまった。
シミュレーターのなかではあるが、「仮想ア・バオア・クー戦」として。
あらためて、ヤンを自分の陣営に迎えたいと思うものが、いくら増えても驚かない。
「―――という訳でこれはあくまでも打ち合わせです。
もっと、いうならそちらから望んた打ち合わせです。
ですので、いつでもお帰りいただくことは可能です。」
ヤンはどこか楽しげでさえあった。
指さしたドアには、少し隙間がある。
つまりこの部屋は、施錠すらされていないのだ。
N・ロックはドアの方をちらと見てから言った。
「帰ると思います?」
ヤンは笑った。
「まさか。 」
N・ロックはいそいそと、自分のバッグのなかから、そしてマチュの買い物袋から、セブンイレムーンで買った惣菜やスイーツを並べ始めた。
「ヤンさんは紅茶党ですか? こっちのスコーンは、紅茶にもよく合いますよ。」
映像化されたら、全カットのお話が続きます……