N・ロックの8時間会談は、はてしなく続いてしまうので、会議での報告という形で、投げました。
なにを話したかは、このあとも触れる機会があると思います。
銀英伝キャラをまた投入してしまいました。
まる三日。
N・ロックは拘束された。
アナハイムムーンおよび、弁護士は何度も連絡をしようとしたが、「本人が連絡を断っている」という信じられないような理由で断られた。
アナハイムは、これに抗議したが、それはグラナダ自治政府を通してのものになり、返答にはとんでもない時間がかかるだろう。
少し前まで、実質的にザビ家の独裁下に置かれていたグラナダは、ジオン本国に対してかなり及び腰なところがあった。
次の一手は?
保安部長は、アナハイム月面守備部隊の総力を結集して、ソドンを占拠することを訴えた。
公王府直属艦隊旗艦という特別な地位にあるあるソドンではあるが、現在、アルテイシア・ソム・ダイクンはお忍びで、ネオ香港に滞在中。司令官であるシャリア・ブル准将も交渉のため、地上にいる。
乗っている者のなかで、最高位は艦長であるラシット中佐であり、それならば、武力に訴えてもなんとかなる、というのが、彼の主張だったが、さすがにこれはアナハイムムーンの幹部たちから一蹴された。
そんなとき。
N・ロックがひょっこり帰ってきたのだ。
暴行を受けた様子もなく、栄養も十分に取らせてもらっていたようだが、さすがに疲れた様子である。
「うまくいきました……概ね、ですが。」N・ロックは、報告をしたいのですが、と言った。
あわてて、彼の上司は、グラナダ支社の最高幹部を集めた。
--------------
「いったいなにがどうなったのかね。我社への嫌疑は? きみの処遇は? クラバへの参入は!?」
矢継ぎ早やに発された質問に、N・ロックは、ため息をひとつついた。
取り調べ、といえばこの状況のほうが、よほど「取り調べ」であった。
N・ロックの席のみが、ライトを浴びせられ、一方の取り囲んだ最高幹部たちの席は闇に沈んでいる。
「なんの資料も用意できておりませんので、口頭での報告になることをご容赦ください。」
「うむ―――それはかまわん。休む間もなく会議の場所に引きずり出してしまったのだからな。」
「全体としては、かなりうまく条件を引き出しました。
まず、逮捕要件となった保安部がモビルスーツをもって、客人を襲った件ですが……」
「あれは、クラバだ!」
隅の席からしゃがれた、声がした。
顔ははっきり見えないが、保安部長だ。
「……どこのクランからも届けが出ていないことは、ソドンでも把握しています。ですが、クランバトルにおいては、実際の届けがあとになることも、ままありうるとこのと。
ジオン側としては、単なる届出漏れによるクランバトルとして、罪には問わない。
つまり、アナハイムムーンの営業停止や罰金、関係者の処罰などは行わなくてもいい、というところまでなんとか漕ぎ着けました
……ただし、そうすると実際にクランバトルを行った主体が問題になります。
アナハイムムーンは、クランバトルの興行権をもっていないのですから。」
「そ、そんなものはどうにでも……」
また保安部長だ。
この集まりでは、ほぼ末端の地位なのだから、息せき切って発言などしない方がいいのに、と内心思いながら、N・ロックは続けた。
「幸いにも、これについてはサイド6のカネバン有限公司から申し出がありました。
被害にあったのは、自分のポメラニアンズ所属の選手であり、彼らに対する慰謝料を込みのギャランティが支払われれば、自分のところが届け出もれをしたことにしてもいい、との申し出です。」
「つまり、ジオン公王府はヤンたちを襲ったのとを不問にすることを承知してくれる。ただし、それはポメラニアンズとの和解が出来ていることが条件となる。」
N・ロックの上司は少なくとも冷静だ。
「その通りです。」
「いくらだ?」
N・ロックは数字を口にした。
かなりの金額だったが、ひとりを除いては冷静に受け止めた。
例外のひとりというのが、保安部長だった。
「そ、そんな金を払う必要がどこにあるんだ! こちらはマラサイ6機を破壊されている! 被害者だ!」
「ふむ……減額交渉の見込みはどうだ?」
「交渉しての金額です。実際のところ、この条件でボメラニアンズと和解できれば、刑事以外の処分、つまり、社内的な懲戒処分も求めない、という言質をとっていますので、ここで拗らせる必要はないか、と。」
「つまり誰かを解雇や降格させたり、左遷などの人事的処分を行うかどうかも、こちらに一任してもらえる、ということか。」
仄暗いライトの中に、N・ロックの上司と保安部長の顔が浮かび上がる。
「悪い条件ではないな、保安部長?」
さすがに、自分の立場を自覚したのだろう。
保安部長はガクガクと首を縦に振った。
「次に、ジュニアクランバトルについてですが」
ライトが静かにひとりの人物を浮かび上がらせた。
アナハイムムーン。専務取締役。
若いがとんでもないキレ者だ。
実際に幹部のひとりであるN・ロックもほとんど会ったことはない。
「いろいろと面白いことになっているのだな、N・ロック。」
「報告は随時、上げてます。何処で止まっているのかはさだかではありませんが。」
「わたしの命令は、クランバトルへの興行権を含めた参入だ。」
専務は静かに言った。
「今後の外交的な交渉において、『戦争』に代わる意味合いをもつことになるであろうクランバトルを開催できる権利は、アナハイムにとって重要な一歩となる。」
「それは……承知しております。」
「既存のクランバトルは元が非合法なものだけに、既存のクランがほかの参入を阻む傾向がある。ならば、そのジュニア組織を立ち上げて、まずはそちらで主導権を握る。
そのためのプロジェクトに、おまえを起用する……正式な報告はそこまでだ。」
「恐れ入ります。」
なにを恐れ入るのかわからないのだが、会社用語というやつである。
「そのためのパイロットの確保。強化人間と、フラナガンスクールからのスカウト。
そこまでは順調にすすんでいた。」
「はい。ですが、ポメラニアンズのアンキーがいち早くデモンストレーションバトルの興行をしかけてきました。
これは……今回の会談ではっきりしました。
アナハイムからの引き抜きを懸念したフラナガンスクールがアンキーに依頼した妨害工作が今回のデモンストレーションです。」
「まわりくどいやりかただが、効果はあったな。」
専務の唇に笑みが零れた。
彼は有能なものが好きなのだ。部下はもちろん、敵であっても。
「最高レベルの試合を見せつけることで、フラナガンスクールの卒業予定者たちに、クランバトルを戦うことを断念させた。」
「その通りです。」
「あれだけのハイレベルの試合のあと、しかも辞退者が続出してしまったのでは、アナハイムがジュニアクランバトルを開催するのは無理だ。
だが一方で、ポメラニアンズもこのままでは資力も人材も足りない。
そこで、おまえは資金と選手の提供を餌に、ポメラニアンズと共同でジュニアクランバトルを開催することを目論んだ。」
「専務」
後ろにたつ秘書が、耳打ちした。
「N・ロックに語らせましょう。」
「そうだな。」
幼なじみ、だというこの秘書には、彼も若干、柔らかい表情を見せる。
「続けてくれ、N・ロック。
わたしはおまえの話も計画も理解している。だがここにいる者のなかには『そうでもない』輩もいるようだが。」
「はい。」
ほとんど、話したことはないが、この人物にはウソはつけない。というより、必要ない。
起こったことを話せば、納得はしてくれるだろう。
それによるN・ロックの処遇はまた別の問題だ。
「わたしは、デモンストレーションバトルでまだポメラニアンズに所属していなかったユリアン・ミントとの契約を働きかけ、彼の保護者であるヤン・リーをグラナダに招きました。彼は、デモンストレーションと同時期に開催されたネオ香港大学でのシミュレーション『ア・バオア・クー仮想戦』の主催者であり、連邦側の司令官も務めた人物です。
わたしは仮想空間におけるシミュレーションバトルも配信コンテンツとして成立すると考え、ヤン・リーもこちらに抱き込むことを考えました。
当初においては、かなりの経費をつぎ込むことになるジュニアクランバトルとは異なり、こちらはすぐ黒字化が見込めます。
業務計画については―――」
「いまは細かな数値はよい。」
専務は、わずかに顔をしかめた。
「で、おまえが招いたヤン一行を、うちの保安部がモビルスーツ部隊で襲撃した……ということなのだな?」
「そ、それは違います!」
保安部長が叫んだ。
「狙ったのは、同行のパイロット二人です。アナハイムムーンの研究施設から、改修テスト待ちのスパルタニアン2機を借り出し……いえ、強奪した二人です!
ヤンたちの乗るバギーには一切手を出すなと厳命しておりました。」
「保安部の報告書には、スパルタニアンを動作テストのために貸し出し……マラサイによる襲撃はそのテストのため、とありますね。」
専務秘書が、切り込むように言った。
「いまの保安部長の発言は、保安部の報告書とも異なっています。たしかにこれは―――逮捕案件ですね。」
保安部長は口をパクパクさせて黙った。
「そしてその犯罪のあとでもまだ、ジュニアクランバトルについての話しができると。」
専務は楽しそうに言った。
「N・ロックはそう言うのだな?」
「……はい。」
N・ロックは背筋をのばして答えた。
「取り調べ中に、ポメラニアンズのアンキーとも話をすることができました。
我々の提供するパイロット、機材、資金は彼女にとっても重要なものです。」
「ポメラニアンズがソドンにいた!?
やつらは裏で繋がっていたのか……」
N・ロックの直属の上司が呻くように言った。
「ある意味、罠に嵌められたのはこちらかもしれません。」
N・ロックは言った。
「ですが、少なくともアンキーの提案はWinWinです。
むこうも前の試合でパイロットを出し尽くしています。これではカードが組めません。」
「契約が出来そうなのか?」
「さすがにアナハイムとの契約は、二の足を踏んでいます。なので」
ここが勝負どころだ。N・ロックは丹田に力込めた。だがあくまでも、声は冷静に。
世間話でも、するように。
「クランバトルとその配信コンテンツの制作チームを独立させ、別会社とします。
契約はそことポメラニアンズとの間で締結します。資金+人材を提供すれば、書面上はどうあれ、主導権はこちらが握ることは可能です。」
会議室が一斉にざわめいた。
アナハイムのような大企業にとって、これは完全にアリな話だったのだ。
むしろ、その程度のことで、クランバトル参入への道が開かれるなら……
「具体的には、いまきみのプロジェクトで動いているメンバー全員を放逐する形になる。
彼らがそれを納得するだろうか。」
「わたしが説得しますよ。
―――わたしもアナハイムを退職させてもらうつもりですので。」
「早まるな、N・ロック!」
上司が立ち上がって叫んだ。
「おまえはまだまだ上の地位を狙える!
今回の件も―――きみに貧乏くじを引かせてしまったことは承知している。その中でこれだけの成果を持ち帰ったきみを高く評価したいのだ。」
「いえ、ありがたいお話しなんですが」
あくまで、飄々とN・ロックは言った。
「これはしばらく前から考えてましたんで。
わたしはエンタメを創る側で居続けたいんです。現場の仕事を放り出して、自分の権力でなにができるのかを実験し続けるのを『仕事』と称する立場にはあまり興味が無いんです。」
保安部長殿には、かなり痛烈な皮肉を言ったつもりだったが、当の本人はきょとんとした顔をしていた。
「言ってくれるな、N・ロック」
専務は気づいたようだった。
端正な顔に笑みを浮かべると続けた。
「少なくともそんな人物は、わたしにとっても唾棄すべき存在だ。案外と……気があったかもしれないな、我々は。」
N・ロックは曖昧に笑った。
専務が、有能な人物であることはわかったが、仕える人を選ぶことは間違いない。
「派閥争いというのは、面倒なだけかと思っていたが」
専務は、声を落として傍らの秘書に話しかけた。
「こうまで、露骨で、組織を腐らせるものなら早急に手を打たねばならん。場合によっては外科手術も必要になるかもしれない。
どう思う、キルヒアイス?」
次回より新章。
作者が忘れてましたが、希少資源をめぐってのクラバがいよいよスタートいたします!