ネオホンコンの街を連邦軍教導隊を名乗るモビルスーツが急襲する。
街を守るため。
アムロはガンダムで出撃した。はじめての重力下の戦闘。そこにアムロはなにを見たのか。
次回、「第15話 重力の井戸~ククルス・ドアンのシマ」
君は生きのびることができるか。
デニムは自分は下士官に向いている、と思うことがある。
終戦直前には少尉にはなってはいた。
給料は上がるし、船には個室も与えられる。だが、どうにも兵隊どもと壁が出来るのが気に入らない。
同じ釜の飯を食って、泣いたり笑ったり。殴りあったり仲直りしたりしながら生きるのが楽しい。
右も左もわからなかったヒヨッ子がある日1人前に、発進シークエンスをこなせるようになっている。
初陣で全弾をなにもないところにばらまいてしまった新兵が、的確な射撃でメインカメラをぶち抜いてみせる。
そんな体験がデニムは好きだった。
もちろん、それが殺したり殺されたりが必然でない仕事場ならなおさらいい。
という訳で、デニムはいまの仕事が気に入っていた。
デニムが苦手なのはお偉いさんとの交渉ごとだった。
軍人が長いせいか、上の立場の人間には「イエッサー」しか言えなくなってしまっている……というほどでもない。
が、これは敵わない。と思う相手にはどうしても下手になってしまうのだ。
目の前にいるウォン・リーなどはその典型だった。
アナハイム・エレクトロニクス社のアジア地区における責任者である。
「クランバトルの開催でシティに迷惑はかけないと誓約書をもらっているのだぞ!」
痩せ気味の身体であり、地位に相応しい高級スーツで身を包んでいる。
それともウォン・リーが着ているからスーツが高級に見えるのか。このあたりはすっかり威圧されてしまっているデニムにはわからない。
「実際に迷惑はかかっていないわけで」
「きみたちが招いたクラバのバイロットが操縦するモビルスーツが、衛星軌道上からクラバの会場に不時着しただけでも大問題だ!!
ほんの数百メートル、着地地点がズレれば大惨事になっていたのだ!!」
「いえ、でもそれは」
デニムは手渡した報告書を指さした。
この手の事務仕事が苦手なデニムは、報告書のまとめを部下のジーンに任せていた。
ジーンはなかなか仕事が出来る。功さえ焦らなければ、かなり使える男だった。
「大気圏突入寸前に、連邦軍教導隊を名乗るモビルスーツの攻撃を受け、応戦のために出撃のさい、誤って大気圏に突入。『こんなこともあろうかと』装備していた耐熱フィルムで、幸いにも燃え尽きることもなく、クラバ会場に着地し、偶然、初戦の相手に決まっていたザクを踏み潰した。」
うーん、嘘だなあ。
と、デニムは思った。
一応、アムロの言ったことをそのままレポートにしたのだが、無理だ。
「私はこう思ってるのだがね、デニムくん。」
ウォン・リーは厳しい顔で言った。
地位も権力もある。
オマケに腕っぷしまでかなりのものなのだ。
「クワトロ・バジーナ氏は、『白い悪魔』を自分の主催するクランバトルに招くのに、宣伝効果を狙ったのだ。
モビルスーツの単独での大気圏突入は難事ではあるが特別な装備があれば不可能では無い。
むしろ、危険なのは着陸地点にされた側だ。
通常は人里離れた荒野や、海面を選ぶ。それを。」
「我々はまったく知りませんでした。」
デニムはそこはきっぱりと答えた。
クワトロにも確認したが、ポメラニアンズからの連絡は「いったんシャトルでバイロットと機体を降ろしたあとで、ホンコンに向かう」との内容しかなく、詳しい日程や使う便についての詳細はない。
と、すればあのアムロというパイロットがひとりで考えて、実行したのであろう。
まさに「白い悪魔」だ。
「ウォンさん。」
傍らの男が声をかけた。
ゴツい。
大男というわけではないが、鍛え上げた体は鍛錬のあとを物語る。
顎の無精髭すらその男の精悍さを引き立てるかのようだった。
「デニムはつまらんウソをつく男では無い。
たしかに納得はいかないが、クワトロ・バジーナの戻りを待とう。」
「あんたがそう言うならな。」
ウォン・リーはしぶしぶそう言った。
心から納得したというわけでもない、
アナハイム・エレクトロニクス社の自警団ホンコン支部。その支部長をつとめるその男の顔をたてた、というそれだけの理由のようだ。
たしかに腕はたつ。
デニムとしてはクラバに誘いたいのだが、保護している子どもたちの手前、あまりヤクザな仕事にはつきたくないらしい。
彼の子供たちはネオホンコンの中学校や高校に通っているのだ。
だからここから動きたくないという理由で、彼はウォン・リーからのアナハイム本社の保安局でのポストをも、断り続けている。
ウォン・リーのスマートフォンが鳴った。音声通信だ。
ウォン・リーは嫌な顔をした。
大事な話し合いの最中である。通常はまずメッセージを送るものだ。
「わたしだ、いまクランバトルの責任者と重要な」
その顔色が徐々に緊張したものに変わっていく。
「なんだと! ティターンズが!?
テロリストとそいつが乗ってきた機体を差し出せだと。」
自警団長はたちあがった。
デニムもたちあがる。
「規模は? モビルスーツが6機だと?」
「うちからも出しますかい?」
デニムは自警団長に尋ねた。
団長は首を振る。
「やつらはビームライフルを持っている。クラバ用のモビルスーツでは相手が悪すぎる。市街地でも射つのがティターンズだ。」
「しかし、あんたのザク一機だけじゃあ。」
「ここは俺の街だ。俺はここを守るためにいる。」
そう言って部屋を出ていく背中がでかい。
元ジオン兵ではあるが、まるで中世の剣劇ドラマで見た凄腕の用心棒を思わせる。
「ドアン!!」
そう呼びかけたデニムに、後ろをむいたまま、ドアンは手だけ上げて応えた。
なるほど。
いまのネオホンコンはドアンと彼が保護した子どもたちの暮らす場所。
ここはククルス・ドアンの縄張り(シマ)なのだ。
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黒塗りのガンペリー三機はゆっくりとネオホンコンの上空を旋回している。
それぞれがモビルスーツ二機を積める巨大な輸送機だ。
だが指揮をとるサングラスの男は狼狽していた。
そのさらに上空に濃緑色の戦艦が、浮遊している。
ソドンだ。
「なぜだ! なぜあんなものがいる!
ここは地球だ! 地球はアースノイドのものだ!」
「ソドンから通信入ります。一般回線です。」
バスクは歯噛みした。一般回線ではその内容を容易に周りに傍受されてしまう。 つまりめったなことは言えないのだ。
画面にジオンの制服をきた女性が映った。
「ソドン艦長ラシット中佐である。
一般都市へのモビルスーツをもっての侵攻に対し、説明を要求する。」
「こちらは連邦軍教導隊指揮官バスク・オム少佐だ。ジオン軍こそ、そこに滞在するのは領空侵犯であろう。ただちに撤退を要求する!」
「現在ソドンは、モビルスーツの実戦テストのために地上に降下中である。
モビルスーツのテストのためなら、連邦軍も軌道上での短期滞在は認められている。
今回のソドンの任務は、重力下でのゲルググ改ならびにギャンの作動をクランバトルにおいて性能評価を行うことにある。すでにネオホンコンシティの市長および、当地のクランバトルオーナーであるクワトロ・バジーナ氏とは話がついている。」
ひと息ついてから、ラシットは進めた。
「テロリストが潜んでいるならば、それは警察の仕事だろう。なぜ軍の教導隊が出張ってくる?」
「話を続けてください。」
画面から見えないところで、シャリアはラシットに囁いた。
「ここで戦闘になれば、どうやってもホンコン市街に損害がでる。
このままガンペリーを撃墜しても落下するのは、ちょうど繁華街だ。なんとか郊外におびきださないと。」
「ゲルググで出撃されますか?」
「モビルスーツ同士の戦いはそれだけで、周りに甚大な被害をもたらせてしまう。
地上に降りているエグザべ中尉と連絡はとれますか?」
「可能です。」
エグザべとはすぐに連絡がついた。
昨日、マチュたちをつれて「白い悪魔」に接触し、今日はその機体を見学させてもらう事になっているはずだった。
「中佐!!」
エグザべの声は明らかに焦っていた。
「状況はわかりますね?
ティターンズです。テロリストがなどと言っているが、目標は『白い悪魔』の可能性が高い。機体とアムロ・レイを保護し、ソドンに戻ってください。いまどこに?」
「使われていない旧港湾施設のある街のはずれ、です。」
エグザべは言った。
「クラバの普段使ってる倉庫がいっぱいでここの倉庫に彼の機体をおいてたそうです。」
「よし! いいぞ。そのまま、ソドンに搭乗してもらおう。きみたちは――」
「アムロ・レイが出撃すると!!」
「な!」
シャリアは実際に、大気圏突入直前ににアムロがティターンズにシャトルを攻撃されたことを知らない。だから思ったのだ。
“なんという好戦的な。まさに「白い悪魔」だな。”
ガンペリーが向きをかえた。
旧港湾施設へと飛翔する。
ハッチが開き、すでにモビルスーツは発進体勢を整えていた。
モビルスーツが作動すればそれは高熱源体として感知される。
市街地までは数キロは離れてはいるが、モビルスーツはとにかく、デカイのだ。
倉庫の扉が開き「白い悪魔」が姿を現した。
ソドンからもその姿ははっきりとらえられた。
シャリアの五体に戦慄が走る。
間違いない。
イオマグヌッソ事件のとき、向こう側から現れた識別不能のモビルスーツだ!!
「あーーーー」
コンソールに向かったコモリ少尉がウンザリした声を出した。
「――ジークアクス、発進シークエンス作動!」
「だ、誰が許可を」
「誰もしてませんて。」
操舵手が諦めたように言った。
バスクさんに増援よんでもらおうかなあ。
ハイザックは配備されはじめたとこだから、たぶん軽キャノンの改修モデルだとすると、たった6機ではアレとアレとコレとソレでは、ちょっと物足りない気がする。