と思いつつのハマーンいじめ。
三人目のパイロットを決めてきた―――と言われ、なにを勝手なことを、と考えたゴップであったが、名を聞いて驚いた。
オリビエル・ポプラン。
モビルスーツを嫌い、最後まで戦闘機で戦い抜いたエースで、退役した人物だ。
どこから引っ張ってきた!
と問うたゴップに、ヤザンはニヤリと笑った。
「ヤン提督のご紹介でね。」
本当は、ジオン公国元首アルテイシア・ソム・ダイクンの紹介なのだが、そこまで話をややこしくするつもりもはない。
「前にも提案した通り、3対3の飛行戦だ。
こっちは、俺とジェリドにポプラン。機体はギャプランを使う。
むこうは、アルテイシアとシャリア・ブル、それにハマーン・カーンの三名。機体は、レイダー、スパルタニアン、キュベレイを使用する。」
無茶苦茶だ。
「レイダーは聞いてる。
ヘルムコングロマリットのモビルスーツに、強化パーツ『レイダーシルエット』を装着して機体で、アルテイシア姫の専用機だ。
だがスパルタニアン? キュベレイ?」
「スパルタニアンは、訓練用の可変機だよ、閣下。
最初から可変機に慣れさせるために、ネオ香港のパイロットスクールでも取り入れられてるぜ。」
二人が話しているのは、極東地域再開発委員会5周年記念バーティである。
ちょうど、ネオ香港に滞在中であったゴップが招かれるのはともかく、ヤザン・ゲーブルはどうやって潜り込んだのだろう。
「訓練用のリミッターを外して、マグネットコーティングしてやると、けっこう使えるんだ。」
「使い物になるのか?」
もともと大気圏内を飛行できる機体のないジオンがあとから「練習機で戦わされた」などと、いちゃもんをつけてこられるのではかなわない。
「なる。」
「試したのか、それは?」
「月面で、三倍の数のマラサイを圧倒している。」
それなら、それで心配になるのが、ゴップという老練の政治屋である。
「そんなに優れた機体なのか?
しかもジオンのパイロットはニュータイプぞろい。
いや、ヤザン。おまえの腕は信じてはいるが、我が連邦側があまりにも不利にならないか?」
「3機目のキュベレイだが……こいつは飛べないんだ。」
「は?」
わけのわからない展開に、ゴップの目が丸くなる。
「それでは……参加出来ないだろう。」
「レイダーをゲタがわりにして飛ばせる。」
「……」
「もともと、キュベレイで参加したいと言い出したのは、ハマーンお嬢様のワガママらしい。
で俺は俺で、稼働時間の短いギャプランじゃ不利なんでなんとかしろと文句をつけた。
でもって、アムロとヤンが解決してくれたわけだ。」
また、ヤンか。
ゴップは、なにがなんでもあの退役大尉を復帰させようと心に決めた。
単純に金や地位では動かないだろう。
脅しは逆効果だ。
だが、ほかにも方法はある。
彼の希望通り、何年か大学で教職か研究職をさせたあとで、あらためてスカウトする。
連邦「軍」ではなく、政治の世界へ。
「おお、ゴップ閣下。」
穏やかな笑みを浮かべて、シャリア・ブルがグラスを掲げて、近寄ってきた。
「これはシャリア・ブル閣下。」
ゴップもグラスを掲げた。
この手のことに慣れたゴップは、ヤザンと彼の話しがひと段落するまで、シャリア・ブルが見守っていたことに気がついている。
「おん自ら、クランバトルにご参加とは!
大戦の英雄の参戦に、ヤザンとふたり震え上がっておりましたところですよ。
今日は、アルテイシア姫はご参列いただいていないようですな。」
「レイダーにキュベレイを乗せる訓練に励んでおりますよ。」
相変わらずの妙な仮面だが、所作のひとつひとつは上品で、礼儀正しい。そのギャップがどこか、滑稽な印象を与える。
ゴップは、ヤザンを見やった。
「このことをもうジオンに……?」
「ジオン側が不利になる事案だぜ?
むこうがOKしなきゃ、やれるわきゃないぜ、閣下。」
パイロットがそこまでやるのは、逆に越権行為もはなはだしいのだが、ゴップは穏やかな笑みを浮かべただけだった。
「ヤザン大尉の案を飲んでいただけた……ということでよろしいか?」
「もちろんです。」
「しかし、重力下の戦闘では、お得意のビット攻撃も使えないはず。よく了承いただけました。」
シャリア・ブルも口元に笑みを浮かべている。
変な仮面は―――役にはたつ。目元が隠されているため、真の表情がわかりにくいのだ。
「飛びますよ―――ファンネルは。」
静かにシャリア・ブルは言った。
「ビームは使えませんが、そのままミサイルとして、判定してもらいます。炸薬は搭載しませんし、重力下では、稼働時間も精度も大幅に低下しますが、ある種の誘導ミサイルとして機能いたします。」
楽の音が変わった。
パーティとしてみた場合、今宵はもう佳境は過ぎ、帰ろうとするものもそろそろ出るよう、そんな時刻だ。
つまり、他人に聞かれたくない。
注目も浴びたくない密談には、最適の時間であり、空間だった。
ヤザンはグラスを飲み干すと、カンと音をたてて、それをテーブルにおいた。
「ギャプランのビームガンは、機銃に変更済みだ。」
とはいえ、あまり長い時間は、話せない。
「姫さんの鉄球は弄りようがないから、武器の殺傷力は、ジオンのほうがうえだ。
―――逆に、こっちは機体を落としても、パイロットを、傷つけちまう心配は少ない。
そっちは元首閣下に名家のお嬢様、艦隊司令官の准将様で、こっちは、連邦軍の嫌われ者が3人だ。命の重さの配慮はこんなもんだろう?」
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「ハマーンさん! ソムさん!
背中にも目をつけるんだ。」
うぐああああ
天と地がひっくり返る感覚に、ハマーンは吐き気を感じた。
アムロのスパルタニアンの模擬弾を避けるために、ソム・エドワウは、レイダーを錐揉みするように旋回させながら、急激に高度を下げる。
キュベレイは、その背に死にものぐるいで、しがみついているのだが、なんとなく、昆虫がとまってるように見えなくもない。
「ソムさん! もう少し、こちらの射線軸を先読みして!」
「無茶を言わないで、アムロ!」
麗しき公王陛下の声は悲鳴に近い。
それでもなお、じゃれあっているような繋がりを感じてしまう。
天才。
若きカリスマ。
ゆくゆくは、アクシズを。いやジオンを背負ってたつ逸材。
ハマーンは周りからそう評価され続けてきた。
本人もまた、そのつもりで研鑽を重ねてきた。
ある意味、ハマーンはとても幸せな生涯を送ってきたのだ。
己の努力が報われる人生ほど、幸せなものはない。
モビルスーツの操縦もそうだ。
彼女を超えるパイロットはアクシズにはいなかったし、キュベレイというモビルスーツを十全に使いこなせれば、地球圏にも敵はいない。
その自信が。
ぐるぐる回る視界とともに、自信も誇りも絞り出されていく。
残るのはカサカサに乾燥したチッポケな自分。
「ハマーン、分離しなさい。」
え、ウソウソ?
レイダーから手を離したら「落ちる」。
「バーニヤで方向移動は可能です。自由落下と判定される前にもう一度、レイダーが拾ってあげるかから大丈夫」
「ハマーンさん、難しく考えなくていいです。レイダーを踏み台にしてジャンプする感覚です。疑似標的が12個、空域内にありますから、そのうち任意の6つを腕の機銃のみで破壊してください。
終わったら、またレイダーの背に戻ってください。」
!!!!!!っ
「というか、これが出来ないと、わたしが戦えないわ。あなたを載せたままだと、ハンマーも使えないのよ。」
こうなると!
ハマーンは心のなかで叫んだ。
こうなるとわかっていたなら、キュベレイを使いたいなんて言うんじゃなかった!!
「背中に目をつける」のは、カミーユとジュドー、ドゥーは履修済だったりします。
「弾幕のなかは意外と安全」は誰も実行してません。