エグザベは、ニャアンの手作り餃子が食べられるのか!
様々な謎と運命が交錯する第9話。これにて大団円。
双方のモビルスーツとも、射撃用の武器は失っている。
場所は成層圏だが。
それはあたかも古来の剣豪同士が、戦う様に似ていた。
ギャプランは左右に二本の剣。
スパルタニアンは、孤剣ひと振り。
バーニヤにより、ある程度高度を保ちながら、互いを伺う。
“センサーを切られちゃあ、変形キャンセルによるマジックは通じないか”
ポプランは、じっとスパルタニアンを見つめた。
“なら―――アレだな。”
「いくぜ! 灰色幽霊!」
スパルタニアンより、高い位置をとったギャプランが、大きく両腕を振り上げる。
自らの位置を利用した重力と加速を利用しての、真っ向からの一撃。
それは、この状態では皺めて受けにくいものではあった。
ともに機体のあちこちに損傷を負っている。
モビルスーツ形態のままでは、そう長時間、上空に留まることはできない。
単純な機動力は、ギャプランがスパルタニアンを上回る。
つまり、上をとられて、さらに重力も手伝っての一撃をかわすのことは不可能だった。
動かなければ頭上から。
左右に動いても袈裟斬りで、仕留められる。
だが、目を閉じたシャリア・ブルは、微笑みさえ浮かべていた。
“動かない―――動けないのか?”
変幻自在の機動でも、変形のキャンセルでもない。
ただ、「動かない」ことで、シャリア・ブルは、ポプランに迷いを生じさせる。
ポプランの唇に浮かんだのは―――苦笑いだ。
“さすがに、大戦の英雄さんは場数が違うねえ。”
そのシャリア・ブルのさらに予想外をいくためには―――
ポプランは両手を振り上げ。
そして、振り下ろした。
剣の届く位置ではない。
両の剣は、ギャプランの手を離れて、スパルタニアンに向かう。
ポプランは剣を投擲武器として使用したのだ。
しかも片方ではなく、両方を。
シャリア・ブルが動いた。
当たれば充分な損傷を与えられる角度とスビードで、剣は放たれている。
だが、ファンネルでもあるまいし、射出したあとの剣は直線を動くだけだ。
かわした。
その瞬間、ギャプランが突っ込んでくる。
ん? なにを?
ギャプランにすでに武器はない。
剣をかわした一瞬が、後手になったが、シャリア・ブルは残ったヒート剣を振るう余裕はあった。
「うおおおっ!!!」
あまりにも。
あまりにも真っ向からの突撃だった。
ギャプランが掲げた両腕のシールドを穿いて、さらにその首元に、剣が深々と突き刺さる。
これで、ギャプランのメインセンサーは、ほぼ死んだはず。
ドガッ!
凄まじい衝撃が、コクピットを揺らした。
もとが練習機であるスパルタニアンのコクピットの安全設計は「それなり」でしかなかった。
た、体当たり!、だと?
加速をつけた全質量。
それは、シャリア・ブルが放った剣のダメージがいかに大きくても、それで止まるものでは無かった。
“これが狙いか!”
シャリア・ブルは、オリビエル・ポプランという男に呻く。そうせざるを得ない。
全身の装甲材は、最新鋭機であるギャプランが、練習機のスパルタニアンを上回る。
雑に考えれば、ふたつをぶつければダメージは、スパルタニアンのほうが多く受ける。
そして。
このまま押し込まれて、戦闘空域を離脱してしまえば「先に」離脱してしまうのは、下になったシャリア・ブルのスパルタニアンだ。
ここまで。
一見、無茶苦茶な暴走にみせて、ここまで計算したのか。
シャリア・ブルは感動すら感じている。
総合的な推力でもスパルタニアンは、ギャプランに劣っている。
抵抗しても無駄だ。
だが、空域から押し出される前に。
まっしぐらに落下しながら、シャリア・ブルは剣を持つ手にすべての力を注ぎ込んだ。
剣は、ギャプランの首に突き刺さったままだ。
「悪いが、落ちるより早く、首を落とすよ。頭部破壊でわたしの勝ちだ。」
「すごいな、灰色幽霊のダンナ」
ポプランが笑った。
「だが俺の勝ち……かな?」
ギャプランの手が虚空に伸びる。
そこには―――なにもないはずだ。
だが、ギャプランの手は掴んだ。ヒート剣を。
“ここまで”
シャリア・ブルは痺れるような感動を覚えた。
“ここまで、読んでいたのか…この男は”
先ほど、シャリア・ブルに投げつけたヒート剣。
それに加速しながら落下することで、追いついたのだ。
とはいえ、両機が密着して状態では、斬撃など繰り出せるものではない。
抉じ入れるように、切っ先をスパルタニアンに肘に突き刺す。
それでスパルタニアンの腕の動きがとまった。
両機は。
もはや動く余力もない。
真っ逆さまに。
落ちていく。
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「決まる。」
マ・クベがつぶやいた。
「ジオンの敗北、か。」
「場外負けのルールで、同時にモビルスーツが圏外にでても?」
ハモンがランバ・ラルに尋ねた。
「実際には『同時』ではない。」
ランバ・ラルは答えた。ここまで戦ったシャリア・ブルを責める様子はない。
「下になったスパルタ二アンが先に戦場を離脱したと見なされる。」
すでにあたまのなかは、コストが跳ね上がる希少資源とそれを使用しなければならないコロニーの修復工事を計算していた。
工事の遅延。あるいは増税も検討しなければならないかもしれない。
そらにともなって、軍備のいっそうの縮小も。
ハモンはランバ・ラルとマ・クベが同じような表情を浮かべているのを、微笑ましく、見守った。
行政と軍部。
双方を代表する権力者が同じ結論にたってしていた。
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2機のモビルスーツが、戦闘空域を離脱した。
試合の終了が告げられる。
「終わりだぜ、灰色幽霊のダンナ」
ポプランが話しかけた。
「まあ、今回は機体性能のおかげだ。すげえよ、あんたは」
返答は―――なかった。
「ポプランくん! きみこそ、まさに天才だよ!」
モビルスーツの触れ合いによるものではない。
一般回線による声は、上空から聞こえた。
「モビルスーツは同時に作動不能。
圏外に落ちたのは、たしかに下になったわたしの機体のほうが、一瞬早くなるのだろうが、誤差の部分だ。」
「……」
「それよりもパイロット本人が、まだ戦闘空域に留まっているのだから、今回のルールに乗っ取れば、これはわたしの勝ち、ということになるのかな?
悪いね、ポプランくん。」
ギャプランの背後。
つまりはるか頭上に、小さな人型がかろうじて見えた。
スパルタニアンのコクピットから脱出したシャリア・ブルだ。
ノーマルスーツも兼ねたパイロットスーツはむちろん、耐ショック性能も備え。
今回は大気圏内戦闘とのことで、パラシュートももも装備されていた。
だが、シャリア・ブルはまだそれを開いてはいない。
両手両足を広げて、落下速度をわずかに減速させていた。
「脱出したのか!? いつ……」
「きみに、腕を破壊された直後だよ。スパルタニアンは練習機なものでね。安全設計のなかには射出式の脱出装置も備わっているんだ。
―――まあつくづく思ったが、戦闘中のモビルスーツから脱出など考えるものではないね。
死ぬかと思った。」
サブフライトシステムが、回収にやってきた。
うち一機に無人となったスパルタニアンを乗せ、もう一機に自分のギャプランを固定したあと、ポプランは、シャリア・ブルをギャプランのマニュピレーターで回収した。
コクピットを開けて、シャリア・ブルを招き入れる。
「狭いがしばらく辛抱してくれ。」
ポプランは、サブシートにシャリア・ブルを座らせた。
「この高度から、生身は無理だ。」
「それはわかってる。パラシュートはあるが、どうもここからだと、海に落ちそうだな。海水浴はまだ経験がないんだ。」
「シャリア・ブル!! 無事ですか?」
一般回線だ。
声が毅然としていることに、シャリア・ブルは満足した。
「ソム殿もご無事ですか?」
「わたしは大丈夫!
ハマーンも敗戦はショックだったみたいだけど、怪我はないわ。念の為、医療チェックを受けてる。
ただ―――」
美姫は言い淀んだ。
「―――ジェリド・メサがまだ意識を回復しない。」
「あなたがドツいたパイロットですな。
外傷がないのに意識不明なのですか?」
「外傷は、骨折が7箇所に、打撲が16箇所……」
それは、目を覚ましたくないのでなないかな、とシャリア・ブルは思った。
意識が戻った時の激痛への恐れが、意識回復を妨げている―――
「まあ、目が覚めたらとんでもない激痛にのたうち回ることになるだろうから、いまのうちに必要な外科処置をとっちまおうってことで、いま、医者が手術をはじめているところだ。」
ヤザンの声が割って入った。
「それと―――ポプラン。よくやった。」
「へえ?」
褒められたのが意外だったのか、若き天才パイロットはへんな声を出した。
「俺は負けちまったんだが。」
「試合には、な。
いま、連邦側からの猛抗議を運営の連中がうけてるが、今回の試合ルールからすると判定は覆らんようだ。
だがまあ―――勝負としてはこっち勝ちだぜ?
なあ、シャリア・ブル閣下?」
「まあ……追い詰められたことまでは否定しないよ。」
シャリア・ブルは正直に答えた。
「なあ、ポプラン。
おまえは、オールドタイプでもモビルスーツに乗りたいと思うものにとって、光の道だぜ。
精進しろや、これからも!!」
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ジオンが勝った!!!
これで連邦側の持ちかけてきた希少資源の輸出停は解除されるだろう。
補正予算の必要もなくなり、マ・クベもまたイオマグヌッソ事変で失った戦力の回復に邁進できる。
だが、いちばん喜んでいるのは、ゼロ・ムラサメだった。
「素晴らしい! 素晴らしい! 素晴らしい!!
さっいこうだよ! オリビエル・ポプラン。
ニュータイプだけに開かれた宇宙空間での必需品『モビルスーツ』をオールドタイプでもここまで使いこなしてみせるとは!
これから、人為的な強化の水準をはるかに下げることが可能かもしれない。
それどころか―――人類のほとんどが宇宙に進出ててもなお―――ひとはオールドタイプのまま、存在し続けることが出来るかもしれないんだ。」
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「あとでアンキーさんが、改めて声明を出すらしい。」
アムロが、自分のデバイスに届いたメッセージを見ながら言った。
「とにかく、安全性を高めるために、モビルスーツの破壊以外で決着させる項目が多かったのが、幸い―――連邦側にとってはアンラッキーだった。たしかによくよめば、エリアアウトの場合は、モビルスーツの一部でもエリア内に残っていれば、場外負けにならないことになってるし、それは乗ってたパイロットでもいいんだ。」
「主催はクワトロ大尉では?」
ユリアンが尋ねた。
「クランバトル界隈では、アンキーさんの方が大物なんだよ、ユリアン。」
ヤンが笑みを含んでそう言った。
「それに、クワトロ大尉は、知る人ぞ知るだが、出自の問題がある。彼がジオンの勝ちを宣言したのではおさまらないものも多いだろう。」
ドアのチャイムが、鳴った。
ドアを開けると、エグザベとコモリである。
「一体なんなのだ?」
アムロに招かれて入ってきたエグザベは、露骨に不満そうだった。
「大事なクランバトルの途中で。任務中だったんだが。」
「ラシット艦長に許可はとりましたよ?」
アムロは、言った。
「今回のクランバトルについての所見を、マチュとニャアンからリポートしてくるように言われたのでしょう?
立派な任務です。」
なおも抗議しようとするエグザベを、ジュワワーという音がかき消した。
ニャアンが鉄板に餃子を投下した音である。
「何はともあれ」
マチュとヴァーニが、皿や調味料を取り出して並べ始めた。
「お腹がすいた―――とガンダムが言っている。」
さてひと段落ついた感じです。
しばらくアムロたちののんびりキャンパスライフを書いてもいいし。
アナハイムムーンの支社長派と専務派の武力衝突を書いてもいいし。
でもそのときは、専務専用モビルスーツ『ブリュンヒルト』の設定も考えたい。
なにを書こうかな。