やっと終わったのにまた別の風呂敷を広げてしまいました。
アムロの新機体がいよいよ!?
アナハイムエレクトロニクス極東支部の支配人ウォン・リーは基本デスクワークの人間だが、現場の空気を嫌がることはない。
新しい、武器を使わないクランバトル(バトリングと名付けられた)のスタジアムは、突貫工事で仕上げられた。
スタッフルームは、かろうじて空調は効いているが、壁も天井もコンクリートや配管パイプがむき出しになっている。
椅子は折りたたみのパイプ椅子だ。
ウォン・リーはそのひとつに無造作に腰を下ろした。
部屋の調度一式よりも、彼のスーツは高かったがとくに気にする様子もない。
「資金繰りのほうはどうだ?」
声をかけられた部屋の主は、もう工事もひと段落ついただろうに、まだシャツと作業用のバンツ姿だ。
工具やさまざまな安全装置を吊るせるように、わざとダブダブにつくってある。
「ここの興行が順調なんだ。」
クワトロ・バジーナは、汗を拭きながら、手持ちのポットからお茶を注いで、ウォン・リーのまえに置いた。
「先だっての仮想戦のシミュレーションの配信も好調だ。
おかげでなんとか目処がたった。」
「ジュニアクランバトルのほうは―――」
「アンキーから、ユリアン・ミントとの契約と、ドゥーとトロワの貸出しを求められたが、もう少し先……フラナガンスクールの候補者が卒業して、実際にクランバトルを初めてからでいいそうだ。」
「せっかく盛り上がっているのに、クランバトルをさきのばしにしてしまうのか?」
「それまでは、“リアリティショー”というコンテンツで繋ぐらしい。
アナハイムムーンのニュータイプたちと、フラナガンの候補生たちが、来るべき本番に向けて、ともに訓練を重ねる。その過程で、誰と誰がM.A.V.になるかをコンテンツとして配信するそうだ。」
「……すると、やはりアナハイムムーンが絡むのか。」
ウォン・リーは吐き捨てた。
もともと普段から仏頂面の人物だが、アナハイムの月面支社にはいろいろと思うところがあるらしい。
「そうだな。
実質的に地球の本社から、半ば独立した組織になっているのは。以前、あなたからも聞いている。
ペズンから逃げ出したジャミトフたちを保護したまま、連邦側に引き渡そうともしない。」
「あまりにも独断専行が過ぎるので、監督と組織の刷新も兼ねて本社から『皇帝』を送り込んだところだ。」
「『皇帝』?」
「あだ名だよ。本社の専務取締役だ。
名はラインハルト・ローエングライム。
若いがキレ者だ。クランバトルへの参入も、もともとは彼のアイデアだよ。」
ウォン・リーはいまいましげに言った。
「彼なら、アナハイムムーンをあるべき姿に戻してくれると期待していたんだが……」
「ダメだったのか?」
「一定の効果はあった。少なくともジュニアクランバトルを組織として立ち上げ出来そうなところまで、この短期間に持っていけたのはたいしたものだ……だが」
ウォン・リーは首を振った。
「組織の刷新のほうはうまくいっていない。
いや、彼の言に耳を貸すものは少なくないのだが、反発するものはかえって過激化している。」
「……暗殺か?」
「いや、もっとだ。もともとアナハイムムーンの保安部は、最新式のモビルスーツを備えた実戦部隊だ。『女王派』はそちらをガッチリと抑えている。場合によっては武力行使も辞さない構えらしい。」
ウォン・リーは世間話のように話しているが、その内容に、クワトロ・バジーナは興味を惹かれたようだった。
「『女王派』……ディアナ信仰か!
月面都市群の新興宗教だな。
グラナダ建設中に発見された冷凍カプセルに眠る少女を信仰する。」
「そうだ。
支社長以下、一部の幹部はそれにハマっている。
もちろん、信仰は自由だが、その教義に基づいて、社の利益を、いや世の平穏を乱すようならば、そのままにしておくことは出来ない。」
「しかし、その少女は、カプセルで眠っているだけなのだろう?」
クワトロも顔をしかめた。彼は理性的な人間であり、愚かさには不快感を示す。
(自分は棚に上げて、だが)
「たしか、一緒に発見された碑銘に、彼女の名がディアナ・ソレルであること。
彼女が月の民『ムーンレイス』を束ねる女王であること。いつか地球の文明が滅亡したときに、月こそが唯一の人類の後継者となることが書かれていた、というが。」
「信者というものは、勝手に教義を作り上げるものだよ、クワトロ・バジーナ!」
ウォン・リーは言った。
「サビ家の強権のまえに、縮こまっていた社会の影の部分がいっせいに吹き出し始めている。
そして、次の火種になりそうなのが、我がアナハイムエレクトロニクスだというわけだ!
まったくシャレにもならんね。」
クワトロ・バジーナは顎に手を当てて、しばらく考え込んでいた。
「……仮想戦での参加パイロットへの支払いの穴埋めは目処がたったし、バトリングの事業は軌道に乗ったようだ。」
クワトロ・バジーナは顔を上げた。
「一度、グラナダを尋ねてみるか。
そうだな。名目は月面でのクランバトルに、トロワとドゥーを参加させる、ということでいいだろう。」
ウォン・リーはしかめっ面のまま頷いたが、内心はまったく別の思いだった。
ラインハルトの援軍として、クワトロに是非にもグラナダに行って欲しかったのだ。
自身の力とともに、場合によっては、クランバトルの一流選手たちを戦力として動員することもできるのが、クワトロ・バジーナである。
だからと言って正面きって依頼しても、容易くは動いてくれない。
興味という餌をなげて、食いついてくれるのを待った方が効果的である。
クワトロはさっそく、連絡を取り始めている。
「デニムか? しばらくネオ香港を離れるぞ。留守中頼む。
当面……わたしとトロワ、ドゥー。
モビルスーツも同行する。百式とヘビーアームズ、サイコガンダムRだ。
ケリイにはわたしから連絡しておく。」
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学生生活をアムロは満喫していると言ってよい。
月面旅行で、遅れた分のカリキュラムは、なんとか取り戻しつつある。
授業の合間に「クラスメイト」たちと無駄話に興じるのも楽しい。
家に帰ったら帰ったで、マチュやニャアンががほぼほぼ一緒なので、孤独感に襲われることもない。
もともと技術屋肌でインドアのアムロだが、マチュたちとは、なんとなく気が合っている。
「白い悪魔!」
アムロのクラス『火蜥蜴』ではお互いにニックネームで呼び合うのが、普通になっている。
アムロのニックネームは、自動的に『白い悪魔』に決まってしまった。
拒否権はないらしい。
そう呼びかけてきたのは『軍曹』である。
もと連邦軍の兵士で技術屋だったらしい。
夜道で会ったら、こどもが泣き出すような風貌だが、人間は悪くない。
自称“武闘派”の当クラスでは、アムロははなんというか―――尊敬されている。
先だってのア・バオア・クー仮想戦でその実力を実証してしまっているし、同じジオン工科大学に通う美少女(しかも2人!)と同棲中。
インド系の美女とのデートも目撃されているのに加え、先日はネオ香港大学に通うカーン家のお嬢様も尋ねてきた。
女性陣にはあまりの艶福家ぶりに、眉を顰める者もいるが、男性からは、あたりまえの如く崇拝されているのが、いまのアムロである。
「このまえ、連邦のテストパイロットが尋ねて来てたがありゃなんだ?」
「クリスチーナ・マッケンジーさんのことですか?
『アレックス』のバックパックシステムのことで相談を受けてただけですし、それに彼女はバーニイさんって旦那さんがいますよ―――」
ひ、人妻まで!!
と、軍曹は絶句したが、気を取り直した。
『白い悪魔』の自慢話をきく以外に、用事があったのだ。
「大学のほうからな。俺たちがクラス対抗戦のために設計してたモビルスーツに興味を示してくれてだな。
実際に試作機を作ってみたらどうかって案が出たらしい。」
そうですか!
アムロもいろいろとアイデアを出したモビルスーツである。
クラス対抗戦そのものは、ア・バオア・クー仮想戦のため、休止になってしまっていたが―――
自分も設計に携わったモビルスーツが、本当に作られて動くのは、技術者として嬉しくないはずがなかった。
「でもモビルスーツを、しかもけっこう新機軸を採用しますからコストもかかるでしょう。よく大学がOKしてくれましたね!」
「そりゃあ、制作費なんて、それに乗って、おまえがクランバトルに出てくれれば一瞬で回収できるだろ?」
そっ!
その考えか!
アムロはとっさに断ろうと思ったが、考え直した。
“ガンダム”をゼク・ツヴァイとの相討ちで失っているため、彼には決まった機体といものはない。
クラバは出場回数を減らすつもりではいまが、まったく出ない訳にもいかないだろう。
その都度機体を借り受けて、出場することも出来るのだが、機体をいちいちレンタルするのは、クラバ用語でいうところの『巣なし鳥』であり、出場者の身入りはだいぶ少なくなるのだ。
そういった意味では、機体を決めてクラバに出場し、それを買い取ってしまったほうがいい。
「名前は『ディジェ』にしたぞ!」
軍曹はウキウキと言った。
「『白い悪魔』に乗ってもらえるなんてな!
幸運な機体だよ!」
というわけで、またクロスオーバーが増えてしまいました。