最終局面。
天才対ニュータイプ。
落下中のレイダーの腕をギャプランが掴んだ。
スラスター類が健在なギャプランに引かれて、レイダーの落下速度が減速する。
「怪我はねえか?」
モビルスーツ同士の直接接触によるプライベートな会話である。
「大丈夫。ヘルマコングロマリットのコクピット設計はほかのモビルスーツも取り入れるべきね。」
「そりゃ、どうかな。コストがかかりすぎる。」
「もうすぐ救助用のサブフライトシステムが来るわ。」
ソム・エドワウは顔を顰めた。
「……ここまでは、あなたの提案通りよね。」
「……たしかに、ジオンのパイロットへの安全性には随分と気を使ったつもりだ。だが、こっち側はそうでもねえ。
ジェリドの機体が、サブフライトシステムに回収されたところまでは、確認してるんだが、おまえにどつきまわされて、はたしてコクピットが無事かどうか。」
「コクピットへの直撃は避けたつもりよっ!?」
「質量による打撃だ。衝撃はあるだろう。
ジェリドがひき肉になってなけりゃいいが。」
「やめてよ!」
救助のサブフライトシステムが接近してきた。
バーニヤが不完全なレイダーを連れて、ヤザンは先にソムの機体をサブフライトシステムに載せた。
レディファーストというか、ジオンの元首に敬意を払ったというべきか。
だが、そもそもレイダーのバーニヤ類をそこまで破壊してのけたのもヤザン・ゲーブルなのだが。
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「白いモビルスーツが勝つわ……」
「どっちも白くないですけど?」
ララァのそのセリフは、モビルスーツ戦闘を観戦する際の口癖のようなものらしい。
“白いモビルスーツ”は彼女のメタ記憶のなかのガンダムを指しているらしいので、こんど機体を選ぶ機会があったら、絶対に白ベースにはしないぞ、と思うアムロである。
「ま、またかわした!!」
ユリアンは拳を握りしめて、身を乗り出している。
変形途中からの加速。
機体は予想もつかない方向に放り出され、そこから正確な射撃を送り込んでくる。
それをポプラン機がかわす。
ギャプランは飛行形態のままだ。
変形に要する半秒のすきが、いまは致命的になる。
一方、シャリア・ブルのスパルタニアンの変形速度は、1秒弱。
その刹那の時間に、加速を行うことで、とんでもない機動を行っている。
オートバランサーなどは、効かない。
どう動くのか、操作したシャリア・ブルにも判断が出来ぬ状態で、正確無比な射撃をポプラン機に浴びせてくる。
「凄いな……あれが、“灰色の幽霊”か。」
ヤンがつぶやいた。
「でも、そうは長く続けられません。」
ユリアンが言う。
「機体そのものに、ダメージが蓄積されます。
実際に月面での戦闘では、相手の機体は、途中で分解しかかりました。」
「そこまで時間はかからないよ。」
紅茶党のヤンだが、ひとのうちにお呼ばれしてまで、それを貫く頑固さはないようで、カンチャナの入れたコーヒーを大人しくすすっていた。
「時間をかけるつもりはない……という方が正しいか。」
「奇術師さんは、モビルスーツ戦闘にも詳しいの?」
マチュが尋ねた。
あだ名呼びをしているということは、何となくヤンのことが気に入ったのだろう。
「士官学校で習った時はまだ、戦闘機の時代さ。くわしいどころか、まったくの素人だよ。
だが、ポプランという男のことは、すこしは知っていてね……」
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シャリア・ブルは、待っている。
元戦闘機乗りだというポプランは、飛行機形態のままで、戦いを続けている。
高速移動ならともかく、ドッグファイトになってしまっていては明らかに人型にならねば不利だ。
ギャプランの変形速度は、スパルタニアンのそれを凌駕する。だが、その半秒のスキをつく。
シャリア・ブルはそのつもりでいた。
装甲はギャプランが上だ。相打ちでは勝てない。
“しかし”
シャリア・ブルは舌を巻いた。
“よくかわす”
キケロガのような有線アーム砲、あるいはビットのような多方面からの攻撃。
そんなものがなければ、この男に必殺の一撃を送り込むのは不可能ではないのだろうか。
ポプランは、今この瞬間を楽しんでいた。。
戦場での「楽しい」は、地上のそれとは違う。
命のやり取りの中で、相手の動きを読み、自分の動きを隠し、その刹那の先を行く——その感覚だ。
セイバーフィッシュで戦っていたときも、そうだった。
ザクよりも遅く、ザクよりも脆い機体で、それでも落とされなかった。
「楽しい」からではない。
「楽しくなってしまう」のだ。
シャリア・ブルの変形機動が、また来た。
スパルタニアンにしても本当の意味で「飛行」する為には、飛行機形態にフォームチェンジしなければならない。
人型のままでは、高度を維持できないのだ。
変形速度そのものは、スパルタニアンのほうが遅いのだが、その瞬間に不規則機動をかけることで、それを、チャンスにかえている。
“怖い。怖いよなあ”
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スパルタニアンの銃弾がかすめ。
ギャプランは、ガクンと速度を落とした。
そのまま、縦に回転するように落下。
「落ちた!」
「落とした!?」
観戦していたクランバトルファンは、千万ではきかないだろう。
(少し説明をしておくと、『クラバファン』はどちらかに賭けている連中だ。単に見ているだけならその数倍はいたはずである)
全員が、身を乗り出し。
希少資源の仲介でひともうけすることになっていた月面都市の商社のものたちは、シャンパングラスを叩きつけた。
戦闘機がこのような状態になってしまっては、もはや立て直すことは不可能だ。
重力のない宇宙空間ならともかく。
この地上では。
そして、このような回転をはじめてしまった戦闘機を救出するのは、サブフライトシステムを使っても不可能に近い。
「ポプランさん!」
ユリアンが悲痛な叫びをあげた。
「……あれは……」
アムロが、なにかに気がつく。
ヤンもまた―――
「ユリアン! あれって―――」
完全に死に体のギャプランが。
突然、発砲した。
2機の機銃の火線が、スパルタニアンを包み込む。
「―――死んだまね!?」
「そうだね。デモンストレーションのバトルのときのユリアンからヒントを得たんだろう。流石だね」
ヤンが、コーヒーを口に運びながら言った。
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だが、まだ。
弾丸の嵐をどう掻い潜ったのか。
部分的に損傷を負いながらも、スパルタニアンは健在だった。
ギャプランは、人型に変形し、体勢を立て直した。
航空機では致命的な縦回転による制御不能状態も、可変機なら一度、人型に変形することで、制御は可能になる。
「……これも凌ぐのか……」
ポプランがつぶやく。
「ニュータイプってのは、普通じゃないな。」
「勝手なことを言う」
一般回線が、ポプランの声をひろったらしい。笑いを含んだ口調でシャリア・ブルが返した。
「そのわたしをここまで追い詰めてる君は何者かね。」
「いやいや、普通の天才ですよ、閣下!
さて、まともにやってもダメ。不意打ちも凌がれる……あとやれることと言ったら」
ギャプランの高度が下がりすぎている。
戦闘エリアに留まるためには、変形して飛行機形態になり高度を稼ぐしかない。
だが、そのスキをシャリア・ブルが見逃すか。
その瞬間の攻撃をしのぐ自信がないからこそ、いままで、ポプランはすっと飛行機形態で戦っていたわけだが。
両者ともに動けない。
バーニヤをとめ、自由落下に身を任せている。
戦闘空域離脱まで、あと10秒。
9、8、7、6……
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「わたしは戦場で魔術を使う……なんて言われていてね。」
ヤンはモニターを見ながら唄うように言った。
「そんなことはない。凝り固まったセオリーをいったん壊してしまえば、かなりずるい事も出来る。タネも仕掛けもちゃんとある。それだけのことなんだ。」
“違うだろう”
全員が心のなかで思った。
「本当の魔法はポプランの機動のようなことを言う。」
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5
4
3
―――ポプラン機が、変形にはいった!!
シャリア・ブルが間を詰める。
ギャプランの変形はゼロコンマ5秒。
その瞬間に決着をつける。
だが、接近したスパルタニアンに。
「な、なに!」
さすがのシャリア・ブルが狼狽の声を発した。
「変形をキャンセルだと!!!」
飛行機ともモビルスーツともつかぬ奇怪な形態のままに、ふるったギャプランのヒート剣が、スパルタニアンの機銃を両断していた!!
「メインカメラから首元まで」
飛行機形態にあらためて変形したギャプランが、高度をかせぐために上昇する。
「バッサリ行くつもりだったんだが、これも避けるかい。」
「——こんな機動をどこで!」
シャリア・ブルの声に、わずかな困惑が混じっていた。
「灰色幽霊殿。」
ポプランは言った。
「なんだ。」
「あんたの動きは読めない。」
「それはこちらも同じだ。」
「いや、少し違うんだな。」
シャリア・ブルは、黙った。
「あんたは、機体が制御を失った状態で動いてる。
だから読めない。」
ポプランは言った。
「だが、俺は——機体が制御を失った状態でも、自分がどこに行くかは、わかってる。」
「——どういう意味だ。」
「感覚の話です。」
スパルタニアンが、また変形機動に入った。
機体が、制御を失う。
機体がどちらに飛ぶか分からない。だがそれは同時に、相手もスパルタニアンの攻撃がどこから来るか分からない、というとことを意味している。
さらに。
シャリア・ブルのニュータイプ感覚が相手の動きを先読みしようとする。
だが。
ポプランは、動かなかった。
スパルタニアンの機銃はすでに破壊されている。
できるほのは、接近戦―――ヒート剣による攻撃のみだ。
ポプランの機体がようやく飛行機形態からの変形をはじめた。
もらった!
このタイミングなら。
だが、その変形プロセスが妙な具合で滞る。
“またも変形キャンセルか! 同じ手は”
だが
「ポプランがまた変形の途中キャンセル使おうとした」
その意識が、わずかに襲いかかるスパルタニアンの動きを鈍らせた。
ガッ!!
そのまま変形を終えたギャプランが、ヒート剣を剣を受け止めた。
ギャプランのヒート剣は両腕に備わっている。
もう片方の腕の剣が。
今度こそ、スパルタニアンの頭部をかすめた。
致命傷ではない。撃破判定はつかない。
だが―――
一部のモニターにノイズが走る。
ギャプランの追撃をさけるため、シャリア・ブルはギャプランを蹴飛ばした。
脚部。バーニヤ一部損傷。
さらにギャプランが変形にはいった。
今度は?
そのまま、変形を終えて、スパルタニアンの上空へ。
そこで変形を。
―――せずにまっすぐ突っ込んできた!
加速しながらの変形。
ギャプランの姿が消えた。
見えないところで、人型に変形を済ませたのだろう。
ヒート剣の一撃を、シャリア・ブルは辛うじてガードした。
「これもよけるのかい? “幽霊”のダンナ?」
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「わたしのやってることは手品の類だとすれば、ポプランの機動は本物の魔術だよ。」
ヤンは淡々と言った。
「変形のキャンセルという特殊な機動。
それを使ってくるのか、こないのか。」
画面のなかの、スパルタニアンは防戦一方だ。
「疑心暗鬼に陥ったシャリア・ブル閣下は、すべてが受け身に回ってしまう。ニュータイプの“先読み”もそれは人間の行うものだ。“判断”がくるってしまえばすべてが裏目にでる。」
「あの頭部の損傷具合では、だいぶセンサーに影響が出てるはずですよ。」
アムロは、どちらも知り合いなだけに、応援も出来ずに困っている。
そもそもこの戦いはどちらが勝つのが「正しい」のか。
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ギャプランの姿が、またもモニターから消えた。
いや、損傷したセンサーが映さない角度に回り込んだのだ。
翼の一部。肩部分装甲。補助姿勢制御バーニヤ。
致命傷は避けているが、みるみる損傷の数が増えていく。
「まいりましたね、これは」
「だったらとっとと、落ちてくれねえかな?」
「私は木星帰りでね。重力に引かれて落ちることにトラウマがあるのですよ!」
そうか―――
シャリア・ブルは、ため息をついた。
人類が足跡を残した宇宙の最深部。
あそこも見ようと見ればするほど、精神を削られる深淵ばかりがばっくりと口を開けていた―――
ノイズで白く瞬くモニターを。
そのほかのモニターを。
シャリア・ブルは次々と切った。
ザズッ!
頭部に斬撃を受ける。
メインモニターとしての頭部はこれで破損したはずだ。
だが、「頭部」として形が残っている限り、撃破の判定はでない。
シャリア・ブルは目を閉じた。
すべての知覚をニュータイプとしての「感覚」に委ねる。
「——!」
ギャプランのヒート剣が、翼端を掠める。
「かわした!?」
ポプランが呻く。
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「天パ!!」
マチュが身を乗り出した。
その手の中で作りかけの餃子が無惨につぶされる。
「ヒゲマンの動きが変わった。」
「そうだ。あれしかぼくにも手が浮かばない。
本当に変形するのか、見せかけなのか。時間をかければクセを見つけて判断はできるけど、その前に勝負が着いてしまう。」
「なにをやってるの、ヒゲマンは!」
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ポプランは、気づいていた。
シャリア・ブルが、変わった。
さっきまでと、何かが違う。
動きが——静かになった。
無駄な動きがない。
変形機動もない。
ただ、スパルタニアンが、空中に在る。
「灰色幽霊のダンナ?」
「なにかな、天才パイロット君。」
「嘘だって言ってくれよ。あんたいまセンサーを全部切ってんだろ?」
「いやあ。」
シャリア・ブルは破顔した。
「よくわかったね。」
ポプランは、少し黙った。
「——なんで。」
「邪魔だから。『見て』しまえば、きみの魔法の術中に嵌る。」
ポプランは、ギャプランを停止させた。
バーニャを止めて、しばらく空中に在る。
自由落下の始まり。
戦闘空域離脱まで、あと何秒か。
「閣下。」
「なんだ。」
「今から俺が何をするか——わかります?」
「まあ、だいたいは。」
「本当に?」
「——少し、ぼやけている。」
ポプランは、笑った。
「正直だ。」
シャリア・ブルは、答えなかった。
ギャプランが、動いた。
変形に入る。
センサー外の死角で。
だが、もともと『見て』いない者に死角は存在するのだろうか。
シャリア・ブルの感覚が、感覚だけがそれを捉えた。
また変形キャンセルか。
それとも本当に変形するのか。
どちらかわからない。
だがどちらでもいい。
どうせ見えていないのだから。
「これでキメるぜ。灰色幽霊!!」
いやあ……終わらんかった。
なんか進めにくくて、しょっちゅう、視点を変えてしまったんで読みにくいかな。心配です。