第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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またなんのアクションシーンもないまま、進んでしまいました。
久々に「彼」の登場。







GQuuuuuuX season2 第10話 アナハイム動乱

宇宙移民を行うとき、「まとまり」をつくるべく、本来、地上で特権階級にあったものたちも一部、率先してコロニーに、移住した。

サイド3ではその傾向が著しく、ダイクン家、ザビ家、カーン家、少し家格は劣るが、ラル家などはその代表である。

 

その一角は、リゾート目的で開発されている。

特権階級のものたちのためではない。

金さえ積めば、庶民にも解放されている。

 

そのなかでも最高級の格付けを誇るホテルのプライベートプール。

そこで、彼女はもう、泳いでいた。

あの最も体力を消耗するというバタフライという泳法だった。

滑らかな肌の下で、筋肉が躍動する。

 

恐ろしいまでに白い肌。

 

プールそのものが、流れていた。

それに逆らって彼女は泳ぎ続ける。

 

 

「時間は?」

「かれこれ20分以上でございます、シェーンコップ少佐殿」

 

ホテルのコンシェルジュを傍らに連れたシェーンコップは、呆れたようにゼロ・ムラサメの泳ぐ姿を見ている。

 

「この欠陥プールを、か?」

 

「欠陥などとは!

とんてもない。まあ……設計の段階でコロニーの自転を計算にいれなかったのは事実ですが。

流水機能を使うのは、あの方以外にはいらっしゃいません。」

 

「この流れでは魚も溺れる。」

シェーンコップは、プールの脇に設えられたバーカウンターにドリンクを注文した。

「おーい、ゼロ! おまえ宛てのメッセージが届いている。上がってこい。」

 

ザバァ

 

水しぶきが飛んで、プールサイドを濡らした。

 

目の前に女神の彫刻のごとき、肢体が降り立つ。

 

「……堪能したか?」

「ここのプールはよいね。楽しんでいる。」

 

差し出されたタオルで、髪と体をさっと拭うと、ゼロ・ムラサメはその見事な曲線美を、白衣の下に隠した。

白衣がビーチドレスやパレオの代わりになるとは、博学のシェーンコップも知らない。

 

「マ・クベやランバ・ラルとの悪巧みはすんだのか?」

トロピカル……といえば聞こえはいいが、とんでもない原色のカクテルを、これもありえない曲線を、描いたストローで飲みながら、ゼロが尋ねた。

 

「まあ、ジオンとの間に『対テロリストについての包括的協定』を結ぶことになるだろう。」

 

シェーンコップが飲むのは、夕日の色をしたカクテルだ。

まさに日が沈む時のような艶やかなグラデーションがグラスの中で再現されている。

 

「それより、おまえ宛てのメッセージだ。急ぎのようだ。」

 

ゼロはタブレットを受け取った。

 

差出人は―――N・ロックだ。

 

アナハイムムーンの強化人間チームのボス。そしてクランバトルへの参入を指揮する大物である。

 

「やあ、ムラサメ博士! バカンス中だと聞いているが、緊急の依頼なんだ。博士以外に頼れる相手がいなくてね。」

画面に現れた男の「圧」がすごい。

もともと体格のいい男で、縦にも横にもたっぷりと幅を必要とする。いまは顔しか写っていないが、その顔の、目も鼻も口もでかい。

それでいて、人懐こい笑みを絶やさず、口調はなめらかだ。

「依頼――は依頼なんだが、『相談』でもある。

直接会って話がしたいのだが、許可願えるだろうか。」

 

メッセージはそれだけだったらしく、画面のN・ロックは口をつぐんだ。

 

ゼロはシェーンコップを振り替える。

シェーンコップは首を振った。

「……アナハイムムーンとはなんどか仕事はしているな。だが、N・ロックは直接には知らん。」

 

「……面白いやつだよ。」

ゼロは答えた。

「あそこの強化人間部隊―――公式にはニュータイプ部隊ってことになってるけど、彼女たちを強化したのはわたし。」

 

「そうなのか?」

シェーンコップの目がキラリと光った。

「彼女たちは、アナハイムムーンの配信コンテンツのタレントだと思っていたぞ。

よく笑うし、泣くし、怒るし。そしてしょっちゅうふざけている。

おまえの強化人間はその―――」

 

「記憶を奪うほどの強化はしていない。」

ゼロは物憂げに答えた。

「だが、そうだな―――恐怖心は戦闘に邪魔だから、感情はかなり抑圧した。」

 

「とてもそうは見えないが。」

 

「N・ロックが、彼女たちに感情を取り戻させたのさ。やつのつくる“エンタメ”の力とかでね。

なので、わたしはやつに一目おいている―――なにを『相談』されるかはともかく、会うだけなら何時でも会ってやるつもりだ。」

 

モニターのN・ロックが破顔した。

 

「いやあ、それはありがたい。時間は? いつなら空いている?」

 

「おい!」

ゼロは、コンシェルジュを睨みつけた。

「ビデオメッセージのはずだな。いつから、すり変わっていた?」

 

「まあ、博士! ホテルの方を責めてはダメですよ。

ちょっとしたフェイク画像を作るのは、こっちはお手のものだしね。」

 

言ってるそばから、プールサイドに、当の本人が姿を表した。

一応、リゾートらしく、紺のアロハに身を包んでいる。

 

「ムラサメ博士、会談に応じてくれてありがとう。ところで、場所はズムシティのリゾートホテルで、時間はいまからでいいかな?」

 

「30分後、ラウンジで。」

髪を乾かして、濡れた白衣を濡れてないのに着替えてくる。

ゼロ・ムラサメにもそのくらいの身だしなみの心得はあるのだ。

 

 

 

 

ホテルのラウンジは、吹き抜けになっている。

周りは南国を思わせる観葉植物が、生い茂る。

天井もないのだが、天候そのものが予定で運行されるコロニー内では突然の雨で、ラウンジが使えなくなる心配もないのだろう。

 

N・ロックは、コーヒーを飲みながら、配信予定の動画編集をしている。

完成したデータを送信したところで、ゼロ・ムラサメが現れた。

相変わらずの白衣で、それ以外を着用している所をN・ロックは見たことがない。

 

 

隣にはさっきプールサイドで一緒だった貴族然とした男と一緒だった。

 

 

すると彼がウォルター・フォン・シェーンコップか。

どこのどういう繋がりでこのふたりが一緒にいるのかはわからないが、都合がいい。

実に都合がいい。

 

 

N・ロックは立ち上がって、突然の訪問への詫びと会見に応じてくれたことへの感謝を述べた。

 

ゼロは面倒くさそうに手を振って、彼を黙らせた。

そのまま、向かいの席に腰を降ろす。

しばらく、互いに探るように相手を睨んだ。

 

「……要件は?」

 

「ふたつ、あるんだ。」

まず、と言ってN・ロックは、タブレットを操作した。

「ひとつは―――護衛です。」

 

ゼロは隣にすわったシェーンコップの方を見た。

 

「わたしより、そっちの仕事だな?」

 

「仕事として薔薇騎士団を雇うなら、誰をいつまで護衛するのかを明確にしてもらわんとな。」

 

「薔薇騎士団に正式に依頼するには、アナハイムムーンを通さなければならないでしょう?

これはアナハイムには内緒に、すすめたい。」

 

「だからわたしに?」

 

「そうなんだ。博士がすごく強いことは知ってるからね。報酬は、いまはまだ『経費』で用意できるから」

 

ゼロにとっては。

というより、ムラサメ研究所にとってはかなりありがたい額だった。

 

「しかし、よりにもよってなぜわたしを?」

 

非公式ながら腕利きの護衛なら、この宇宙世紀にもいくつも、存在する。多くが、「護衛」と「暗殺」をどっちも請け負うヤバい集団なのだが。

例えば―――

古代から延々と続く暗殺集団「魏一族」。

己の髪すら武器にする恐るべき「笠神一族」。

宗教系の暗殺集団「天陣衆」。

そこから別れた「天雷衆」。

 

一対一なら引けをとるつもりはないが、ことが護衛ならば個人よりも集団のほうがアドバンテージがある。

 

 

「もうひとつの依頼なんだが」

N・ロックは、タブレットを操作した。

美少女たちの顔写真が一覧でならぶ。

 

「おまえのところの“ニュータイプ”部隊か?」

あまり興味無さそうに、ゼロは言った、

「彼女たちは、べつにわたしが関与しなくても充分安定しているだろう?」

 

「さらなる強化をして欲しい。」

N・ロックは淡々と言った。

ムラサメ研究所による『強化』。

その意味がわからぬはずもないだろうに。

 

ゼロは、笑う。

基本、彼女は笑みを絶やさない。だがその時々で、その意味は異なる。

目がスウッとほそくなった。

 

シェーンコップがわずかに腰を浮かせた。

 

―――ここではまずいぞ、ゼロ?

 

もし、このまま、ゼロ・ムラサメがN・ロックを手にかけようとするならば止めるつもりだったのだ。

 

「なにを。どんな力を望む?」

 

「大喜利力だな。」

N・ロックは真面目に答えた。

「これから、彼女たちはクランバトルのジュニア選手として、デビューすることになる。インタビューを受けることも多くなるはずだ。

いまの程度ではものたりない。

あと、エピソードトークももう少し力をつけてもらいたい―――」

 

「……おまえはクラバをなんだと思っているんだっ!!!」

 

 

 

 

--------------

 

 

 

 

「エッシェンバッハ様!」

 

グラナダ宙港の入国審査を出たところで、名を呼ばれてガルマは、満足げに笑った。

 

先だってのペズン動乱で、ガルマは月面都市を救った英雄になっている。

大声で名前を呼ばれては、注目を引きすぎるのだが、呼びかけた声は充分抑制されたものだった。

 

ニューヤーク市会議員ガルマ・エッシェンバッハを出迎えた秘書は、ルビーを溶かして染め上げたような赤髪だ。

鍛え上げた長身を、仕立てのよいスーツに包んでいる。

 

「久しぶりだね、キルヒアイス君。“陛下”はお変わりないかね?」

「おやめ下さい、ガルマ様」

 

秘書は困ったような顔をした。

 

「数少ないご友人にまで、“陛下”よばわりされるのは専務が悲しみます。」

 

「数少ない友人か。」

スーツケースを持とうとしたキルヒアイスの手を断り、ガルマ・エッシェンバッハは、並んで歩き始めた。

「たしかに、彼はひとを選ぶところはあるな。

それに、単なる知己を片端から“臣下”に変えてしまう。」

 

「そういう方ですから」

 

「きみだって、彼の幼なじみだろう? 普通にファーストネームで呼びあって、バカ話のひとつもすればいい。」

 

「……本社の専務で、わたしはその秘書ですから。」

 

頑固なやつだな。

と、ガルマは笑った。

 

ポケットから綺麗にラッピングされた包みを取り出して、キルヒアイスに手渡した。

 

「これは?」

 

「アンネローゼから託された土産だ。彼女が自分で焼いたクッキーだよ。」

 

キルヒアイスは目を見開いた。

 

「イセリナが親しくしていてな。

ときどき焼き菓子をご馳走になる。もちろんあいつの分も預かっている。これはきみのぶんだ。」

 

キルヒアイスは丁寧に手つきでそれを押しいただいてから、ポケットに入れた。

 

「……お元気なのでしょうか?」

 

「健康か?という問いならとくに問題はないだろう。

社交界を楽しんでいるか、ということなら限りなく、NOだ。あそこは……なんの力も無いくせに家柄だけを自慢する魑魅魍魎の集まりだよ。」

 

 

 

送迎の車のドアが開いた時、ガルマは少し驚いた。

これからグラナダ支社に尋ねるつもりでいた当の本人がすでに乗り込んでいたからだ。

 

「どうしたんだ?」

シートの隣に腰をおろしながら、ガルマは尋ねた。

「一分一秒を争うほど、わたしに会いたかったのかい、陛下?」

 

「ふざけるなよ、ザビ家の御曹司。」

専務は、同じ調子で返した。

ここらは、いつもふたりが会う度にするやり取りだ。

キルヒアイスは、助手席に乗り込み、車はするすると滑り出した。

 

「……しかし、まあ……それに近いところはある。」

専務は、むっつりと言った。

「エッシェンバッハ家の婿養子で、ザビ家の血を引くきみと一緒なら、もろともに暗殺される可能性はぐんと低くなるからな。」

 

「おいおい」

ガルマの声が固くなった。

「本社と月面支社の関係はそんなことになっているのか?」

 

「きみが考えているより、だいぶまずい。

とくにわたしの命じたクランバトルへの参入が、うまくいきそうなのが、気に入らないようだ。

暗殺……どころかモビルスーツを使ったクーデターも、辞さない雰囲気だ。

支社のなかにも、よく目が見えているものはいるのだが……

支社長が保安部をがっちり抑えている。正直、警備員すらあてにならない状況だ。」

 

 

 

 

 

 

 




アナハイムvsアナハイム!!
になるのかな?
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