第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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時系列的には、このディアナは、ターンエーよりまえのディアナです。ロラン・セアックと出会う前。どこかの時点で起こったゼクノヴァが彼女を0086あたりのグラナダに飛ばしてきた
……という設定。









GQuuuuuuX season2 第10話 アナハイム動乱~祈りの日

グラナダのこのエリアは、天井に空を投影している。

抜けるような青空だ。

 

だが、本物の空ではないと知っている者には、どこか息苦しい。

 

その青を見上げながら、クワトロ・バジーナはグラナダ中央の緑園ブロックを歩いていた。

 

背後にはトロワ。 さらに数歩遅れてドゥー。

トロワはドゥーの分のスーツケースも持っていた。

 

「ちょぅおっと。」

ドゥーがへんな声を出した。もともと身体が弱い。呼吸を補うマスクは、最近、調子がいいのかほとんど身につけることはないが、それでもクワトロとトロワの足取りに着いていくのはやっとのようだった。

 

息が弾んでいる。

 

「すまない。」

とクワトロは言って、しゃがみこみかけたドゥーに手を差し伸べた。

ドゥーはためらったが、その手を取って立ち上がる。

 

クワトロは周りを見回した。

この辺りには商業施設はほとんとなく、人通りはそれほど多くない。

 

彼らが泊まる予定のホテルまでは、あと15分といったところだが、それはクワトロとトロワの足で、という意味であり、小柄で、体力を消耗しているドゥーを連れていては、その倍の時間がかかるだろう。

 

この辺りは徒歩移動を義務付けられているエリアなので車は呼べない。

 

クワトロが、ドゥーをおぶって行こうかと提案し、トロワは、手ばやく荷物のなかから、錠剤と呼吸補助のマスクを取り出した。

 

「だ、大丈夫。」

ドゥーはまだ息苦しそうだったが、どちらも断った。

「ボクは、すこし、休めば、平気だよ。」

 

クワトロとトロワは顔を見合せた。

ドゥーは強化人間の例に漏れず、ワガママで気まぐれであり。

言い出したら、あとにひかないことがある。

 

三人のいる場所は、公園で、遊歩道にそっていくつかのベンチもある。

小道から少し外れて、中々見事な花壇に囲まれた瀟洒な建物も見えた。

 

そこに行けば、なにか飲みものくらいは用意できるだろう。

 

ドゥーを励まして、3人はそこまでたどり着いた。

門は大きく開け放たれ、休憩用の椅子や飲み物や軽食も販売しているようだ。

 

「なにかの記念館か?」

中に入ったクワトロは、周りを見回した。

かなり広い玄関は、吹き抜けになっており、天井にはステンドグラスが使われている。

 

「観光の方ですか?」

売店の女性は、まるで中世前期の修道女のような出で立ちをしている。

柔らかな灰色の衣。 頭部を覆う白布。

 

穏やかな笑みを浮かべている。

 

「休憩だけでも構いませんよ。 お飲み物もございます。」

 

「助かる。」

クワトロは頷いた。

「連れが少し疲れていてね。」

 

「まあ。」

 

女性はドゥーを見て、ほんの少し眉を曇らせた。

 

その視線には、 同情とも、 別の何かともつかない感情が混じっている。

 

「こちらへどうぞ。」

 

案内されたロビーには、 白い長椅子が並んでいた。

 

妙に静かだ。

 

空調の音さえ小さい。

 

壁際には花。 白い百合。 青い花弁の見慣れない花。

 

そして。

 

奥へ続く通路。

 

その先に、なにかがあった。

 

何人かのひとがそのまえに跪き、花束と祈りをささげている。

老人もいる。幼い娘をつれた母親もいる。

 

誰も騒がない。

 

誰も笑わない。

 

ひとつひとつの挙動は静かで、敬虔さに満ちている。

 

「……宗教施設か。」

トロワが呟いた。

 

「ディアナ様を祀っております。」

女性が答えた。

2つ折りになったパンフレットを、3人に手渡した。

「もともとグラナダの建設中に発見された冬眠カプセルだと聞いております。」

 

「初期入植者の遺物か……」

 

「ええ。……とはいっても、大げさなものではありませんよ。」

女性は苦笑した。

「昔、冬眠カプセルが発見されたあと、毎日お花を持ってくる人たちが現れまして。 最初はただの献花台だったんです。 それが少しずつ大きくなって、休憩所ができて、図書室ができて……」

「観光地化した、というわけか。」

 

クワトロが言うと、女性は肩をすくめた。

 

「近いですね。

“月の平和を願う場所”くらいの感覚です。」

押しつけがましさはない。 むしろ拍子抜けするほど俗っぽい。

 

「ですが肝心の冬眠カプセルには、未知の技術が使われているそうです。開けることはできませんし、無理に開けて中の人物を傷つけたら……ということで、そのまま放置されておりました。」

 

修道女姿の女性の笑みは優しく、教えを説くというより、世間話をするような雰囲気だった。

 

「一緒に発見された碑銘を解読したところ、彼女がディアナ・ソレルという名であること。月の女王であることが記されていたそうです。」

 

「人類には未知の技術、ということか。碑銘の文も我々の使っている言語ではなかった……と。」

 

「ご興味があれば、学者さんの書いた著作が、いくつもありますわ。

わたしたちのものとは、まったく別の技術ではないそうです。

冬眠カプセルは、ある部分では現在の技術よりも優れ、ある部分は劣っています。言語は基本的にいまわたくしたちが、しゃべっているものが派生変化したものだ、というのが、その見解です。」

 

「わたしたちも、参拝することはできるのか?」

クワトロが尋ねた。

 

「民間信仰ですもの。大袈裟にしていただく必要はありません。地域によっても礼の仕方は異なると思いますが、祭壇のまえで一礼いただいて、ディアナ様の名前を唱えるだけですわ。」

 

トロワは無言で周囲を観察している。

非常口。

監視カメラ。

警備導線。

癖のようなものだ。

 

ドゥーはというと、近くの椅子に腰を下ろして、ほっと息を吐いていた。

 

「あら、ごめんなさい。話し込んでしまって。なにか飲み物を用意しましょう。」

売店の女性は、慣れた手つきで冷たいハーブ水を三つ用意した。

「どうぞ。この公園でとれるミントを使ってます。」

 

「助かる。」

クワトロは礼を言った。

ドゥーはコップを両手で持ち、こくこく飲む。 少し顔色が戻った。

「……おいしい。ボクの心臓が喜んでるよ。」

 

クワトロは金を支払おうとしたが、女性は断った。

 

「よろしければ、あとで売店にお寄り下さい。」

如才無く彼女は言った。

「ディアナ様関連のお土産は、ここでしか買えませんので。」

 

クワトロは、カップルらしき男女が祈りを捧げ終えるのをまって、祭壇のまえに立った。

手を合わせ、少し頭を垂れ、口のなかでディアナの名前を唱える。

 

“哀れ……なのかもしれんな”

彼は独り言のように云った。

“恐らくはもっとも初期の植民者。なにかの理由で故郷の地を逃げ出さなくてはならなかった集団が、月面の裏側に居を構えた。しかし、なんらかの事故か―――あるいは補給物資が途絶え、みなが死に絶えていく中で、リーダーである彼女だけはなんとか命を繋ぐように願った。冬眠カプセルに入れられ、地中深く埋められた。”

 

祭壇の奥に置かれた冬眠カプセルは大きく、無骨だ。

 

通常、使用されている市販のものとはまったく異なる。おそらくは、入植地で限られた資源のなかで作られたものなのだろう。

 

前面は半透明なガラスになっている。

中に若い女性の半身がみえた。

 

豊かな金髪は彼の妹を思わせるところもあった。

唇を青く塗るなど、独特なメイクをしている。

目は、ゆるく閉じていた。

 

美しくはあるのだが―――

クワトロは心のなかでつぶやいた。

目が覚めたとき、彼女はさぞかし孤独だろうと、そう思ったのだ。

 

 

氷の棺のなかで、ディアナが目を開けた。

唇が綻び、たおやかな声がクワトロに話しかけてきた。

 

「ずいぶん、優しいのですね。」

 

これは!!

クワトロは、立ちあがろうとして、周りが、煌めく蝶の羽根に似た燐光に包まれているのを感じた。

 

ニュータイプの『共振』だ。

 

クワトロは、ディアナに話しかけようとした。

しかし、そのとき。

 

トロワが肩を掴んで、クワトロを現実世界に引き戻した。

 

施設内の穏やかな静寂は一変していた。

単なる「音」と「音楽」に分けるならば、鮮やかに『騒音』に振り切った下品な楽の音が耳を引き裂く。

 

「なに、これ?」

ドゥーが不快そうに立ち上がった。

 

ジオンのものを模した制服を着込んだ一団がずかずかと侵入してくる。

 

祭壇に捧げる花をもった市民たちが、不快そうに。あるいは怯えたようにそれを見やった。

 

「ディアナ・ソレル陛下に敬礼!」

 

声だけはでかいが、兵学校だったら分隊ごと夕食抜きになるのが必至な雑な敬礼を、彼らは行った。

 

続いた演説は、ギレンの劣化版だった。

月面都市の住人を「優良種」として持ち上げる一方で、地球に住むものを「魂を重力にひかれた遺物」、コロニーの住むものを「宇宙に打ち捨てられた劣等種」と断じた。

 

市民たちはこそこそと施設をあとにした。

クワトロたちによくしてくれた売店の女性は、顔をしかめていたが、なにも出来ない。

 

「人類は我らムーンレイスに、導かれて初めて永遠の繁栄を享受できる!

いまこそ、月面の我々が立たねばならぬ!

ジークムーン!!」

 

ジークムーン!

ジークムーン!!

ジークムーン!!!

 

トロワがクワトロの肩をボンボンと叩いたので、彼は首を振った。

 

アナハイムムーン内部の「女王派」からあるいは金が流れているのかもしれないが、ここで荒事を起こすわけにはいかない。

 

ネオ香港のウォン・リーの手配で、今日の夜、アナハイムムーンのN・ロックという人物に会うことになっている。

アナハイムのクラバ参入の中心となって動いている男だという。

 

会う名目は、ドゥーたちをむこうのジュニア選手と顔合わせするための段取りを打ち合わせることだが、かなり興味深い話が聞けそうだった。

 

すべてはそれからだ。

 

 

 

クワトロたちは目立たぬように、祭壇のある部屋から外に出た。

売店によって、さきほどの礼を言う。

 

「最近、多くなってきた『女王派』です。」

彼女は憤懣やる方ないといった顔でそう言った。

「ディアナ様をカプセルから出して本当に王になっていただいて、その旗の元に月面都市を統一しようという団体です。」

 

それは厄介だろうな。

と、クワトロは思った。ディアナが眠る装置が、特殊な力場で包まれているのは、かれも気がついていた。

単に機械的な故障で、カプセルが開けられない訳では無いのだ。

 

ドゥーは土産にするのだと言って、土産物を物色しはじめた。

まず自分用に、抱き枕サイズのディアナ人形を。

そして、髭の生えたガンダム人形をアムロのために買い求める。

 

「アムロは、まだ新しいガンダムを手に入れてないんだよね。」

ドゥーは感慨深げに言った。

「たぶんこれに乗ったら無敵なんじゃないかな。なんだか、ボクにはそんな気がするんだ。」

 

それは―――

なんの根拠もないが、クワトロもそんなことを思ったのだ。

だが、絶対にやめたほうがいいような気もしたのである。

 

 

 

 

 

 

 




もちろん、ディアナを目覚めさせても、彼女が「女王派」の言うことに乗るとは思えませんし、そもそも技術者でもないんで、ナノマシン兵器を作ったりは出来ないんですけどね。
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