第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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『爪』と『牙』が猛威を振るう中。
『首』は別の戦いにその身を委ねていた。
ディアナの声をきくものの集まり。
それは宇宙世紀をどこに導くのか!





GQuuuuuuX season2 第10話 アナハイム動乱~襲撃3

 

世の中、予測通りにことが運ぶことはまず有り得ない。

 

それがどんな知恵者や預言者であってもそうだ。

必ず予想外の出来事は起きる。

 

そうN・ロックは理解していた。

 

例えばだ。

待ちかねた来訪者と、敵対組織の殺し屋が仲良く肩を並べて、入室してくるとかだ。

 

なにがどうなっているか、ラインハルトが詰問する前に、『ギンガナムの首』が言った。

 

「なにか、添え木にできるものはないか?

この少年の手当をしたい。」

 

クワトロが尋ねる。

「医術の心得がおありか、老師?」

 

「壊すことに長けたものは、直す方もそれなりに身につけるものだよ。」

 

『ギンガナムの首』は、トロワを椅子にかけさせた。

「力は抜いてくれるとありがたい。」

『ギンガナムの首』の手がトロワの脚にかかった。

 

一瞬、トロワの顔が歪んだ。

が、悲鳴はもらさない。

 

「骨の位置を正しておいた。治癒にかかる時間がだいぶ、短かくなる。」

 

紫髪の貴公子が立ち上がる。

「シャア……! おまえというヤツは……」

 

「勘違いしてくれるなよ、ガルマ。

老師とはいま、このドアの前で知り合っただけだ。」

 

「『ギンガナムの首』。」

ラインハルトが呼びかけた。

「ここになにをしに来た? まさかこの前の申し出通り、わたしに仕えてくる気になったと?」

 

「それはまだだよ、『陛下』。」

『ギンガナムの首』はあっさり言った。

「たが、少なくとも、きみたちと敵対するまえにもう少しきみたちのことを知らねばならない。

そう思っただけだ。」

 

「『女王派』の精神的支柱であるディアナは、冬眠状態であってもニュータイプならば意思の疎通が、できるようだ。」

クワトロが言った。

「わたしも彼女の声をきいた。ドゥーはこの人―――チェン・シャオロンとともに彼女と話したと言っている。」

 

じ、情報が多い!!

 

さすがのN・ロックも悲鳴を上げかけた。

 

権謀術数でも戦闘力でもない。

だが、ある種の達人である彼は、なんとかこの場を凌ぐ方法を思いついた。

 

部屋の隅からビールサーバーとジョッキをいそいそと取り出す。

あと、「セブンイレムーン」の「ゴールドキッチンシリーズ」!!

 

「とりあえず、呑みませんか?」

 

 

 

さすがに、キルヒアイスは止めようとした。

したそばから、泡立つジョッキをひょいと、受け取ったものがいる。

 

顔ほどもあるそれを一気に半分ほど空けて、チェン・シャオロンは、プッハッーと息をついた。

 

「いいビールだ。」

コクコクと頷きながら、謎多き拳士は言う。

「宇宙じゃ酵母の関係でこの味は出せないものだときいていたが。」

 

「そりゃデマです、ええっと……」

 

「チェン・シャオロン。

この度は、うちのイェンが勝手に、暗殺を請け負ってしまってご迷惑をおかけする。」

 

「あ、ああ。N・ロックといいます。アナハイムで配信コンテンツのプロデュースをやってます。」

 

「しかし、いいビールだ! 地球から持ってきたのかな?」

 

「いやだから酵母云々で地球と同じ味が出せないっていうのが、デマなんです。」

N・ロックは力説した。

「問題はビールサーバーの洗浄なんです。毎日これをしないと雑菌が繁殖して、ビールの味を損なう。」

 

チェンは感心したように頷いた。

さらにN・ロックが肴に取り出した惣菜バッケージを見て、目が輝く。

 

「おっ! 『セブンイレムーン』の『ゴールドキッチン』もあるのか! 焼売もあるかな?」

 

「モチロ

ンです! 基本です!

ただ、温めたほうが美味しいので、少しお待ちください。」

 

「……それはありがたい。」

 

「地球のご出身ですか?」

 

先にビーフジャーキーの袋を開けながら、N・ロックは尋ねた。

 

「そうだね。ずいぶんとあちこち渡り歩いたが、まあ『故郷』といえば地球かな。

宇宙世紀がはじまって、まだ100年も経っていないのだから全員がそうだろう?」

 

「月面やコロニーでうまれ、地上を知らない者も大勢いますよ。いやほとんどがそうじゃないかな?

チェン・シャオロンさんはいつ月面へ?

地球のビールの味を覚えていらっしゃるということは、大戦より前ですか?」

 

……盛り上がっている。

 

そもそも、この男は、こちらを殺しに来たのではないのか?

いや、それは一度、保留にしたとしても、彼らがディアナと敵対しないのか、その情報を得なければならないはずだ。

だが、チェンは、すでに心からこの酒宴を楽しみ始めているように見える。

 

ラインハルトが微かに頷いた。

キルヒアイスはため息をついて、全員分のビールを注ぎ始めた。

 

 

 

----------------

 

 

 

 

地下のエントランスから続くエレベーターホール。

今そこには、破壊が振りまかれていた。

 

 

建物としての構造体はともかく、部屋を仕切る壁は、そこまで頑丈につくられていない。

叩きつけられた壁は、ゼロ・ムラサメの体を中心に放射状にヒビが走っていた。

 

ゼロの一撃は、なんども『ギンガナムの牙』をとらえている。

だが、その身体の厚みがその衝撃を吸収し、かわりに『牙』の放つ打撃は、ピンポン玉でも弾くように、ゼロの身体を軽々と吹き飛ばしているのだ。

 

「……これが全力かな?」

 

身を起こしたゼロは、淡々と言った。

すこしがっかりしたような感すらある。

ゼロの打撃は、『牙』にまったくダメージをあたえていない。

だが! それはゼロも同じだった。

 

『牙』の拳は、ゼロを吹き飛ばしはしたが、ゼロ自身なんの痛痒も感じてはいない。

 

「思うに、おまえの身体はある種の特異体質だ。」

ゼロは、ボンボンと白衣をはたいた。

「筋繊維、骨密度が常人とは異なる。

どうだ、わたしのもとに来ないか? 最低限の強化でいいモビルスーツパイロットになれる。」

 

『牙』は答えず。

身体を沈めて、タックル。

ゼロは、ローキックで迎え撃ったが、ガードした上腕二頭筋に阻まれた。

そのまま、またも壁に叩きつけられる。

 

エレベーターホールそのものが揺れ、天井の照明がチカチカと不安定な瞬きをみせた。

 

「そうそう。」

『牙』の体の下敷きになりながら、冷静にゼロは言う。

「重力の低い月面では、打撃技は相手を吹っ飛ばせても、威力が体に伝わりにくいんだ。もっと速く!

欲を言えば相手の次の動作を先読みしてカウンターで当ててこそ、威力を発揮出来るわけだが。」

その唇が笑っている。

「特異体質に溺れて、鍛錬を怠ったな、『牙』よ?」

 

 

うおおっ!

 

ギンガナムの牙は、ゼロの体を首を掴んで釣り上げた。

 

背の高さはかわらぬが、体の厚みはゼロの三倍はある。

 

「だから、絞め技にでた。まあ……意図はわかる。」

 

『牙』の顔色がかわっていた。

彼は両手で、ゼロの細首を全力で締めている。

そのまま、首が折れてもおかしくない。

それなのに、相手は苦痛の表情すら浮かべずに、淡々と言葉を紡いでいた。

 

「ても足りない。

サブミッションを学んでないのか? あれなら腕力に頼らなくとも、月面の重力下でも効果が発揮出来るんだが。」

 

ゼロの手が、『牙』の手首を掴み、握る。

 

『牙』の手はいとも簡単に振りほどかれた。

 

『牙』は手首を抑えて、後退する。

これで終わり、か。

 

ゼロが一歩進んだそのとき―――

 

彼女の腹部でなにかが爆発した。

 

折れ曲がった彼女の身体が、その場に崩れ落ちる。

 

口から吐いた液体は真っ赤だった。

 

 

「なにを……した?」

それでもゼロは立ち上がる。僅かに足元がふらついた。

 

「いや、分かるぞ。筋肉を極度に緊張させて、解放することで繰り出す突き技か。

いいな。いままでの温い打撃とは比べ物にならない。

こんなタマをなぜ隠していた?」

 

『牙』は構えをかえた。

 

右手を上げ、左手はだらりと垂らす。

 

腰は僅かに落として、どちらの方向にも機動が効くように。

 

ゼロの推測が当たっているのなら。

『牙』の新しい打撃は振りかぶったり、拳をひいてタメを作ったりする必要のないノーモーションの一撃のはずだ。

 

「俺の任務はおまえを足止めすることだ。」

『牙』は呟くように言った。

「これを見せてしまえば、おまえを殺さざるをえなくなる。」

 

ゼロは心から嬉しそうだった。

 

「わたしは、まともな研究者からは、悪霊、妖怪の類いと嫌われていてね。必殺技のひとつやふたつで祓えるものかな?」

 

「化け物退治は武闘家の務めだ!」

『牙』は、吐き捨てるように言った。

 

 

 

----------------

 

 

 

26階の資材室。

 

シェーンコップと『ギンガナムの爪』の死闘は続いていた。

 

長い柄のついた両手斧。

それは中世前期。まだ銃器火器が発達する前に、兵士が使ったハルバートという武器に似ていた。

 

そこからいく百年。

 

西暦という暦が終わり、宇宙世紀がはじまったときに、白兵戦用として改めて採用されたのが、この武器だったというのは武器の歴史を紐解くものにはある種の面白さを感じる。

 

斬ることも叩くことも出来る。刺すことも出来る。

 

そして幅広の斧状の刃は、ときとして銃弾を避ける盾ともなった。

 

「立ってるのもヤット、あるネ?」

幾度目かの攻防を繰り返したのち、『爪』はそう言った。

「ワタシの浸透勁。動くホド、ダメージ蓄積するネ。その得物、振り回せば振り回すほど、オマエに不利ヨ。」

 

「それはウソだろな。」

シェーンコップはニヤリと笑って返した。

「この手の打撃は、時間がたつほど、ダメージが効いてくる。

とっとと、ケリを付けないと不利になるのはこっちだ。」

 

「ドコまで闘いなれしてるネ!」

チャイナガールは呆れたように言った。

 

「そっちこそ、技術のわりに闘いなれしてないな!」

シェーンコップは―――さっき少女の浸透勁を受けてから、じわじわと全身にダルさと、重さが広がっている。

だが、そんなことは表情からは微塵も伺えなかった。

「なんとなくわかる。おまえは『天才』ってやつだ。大抵の技は一度見れば覚えてしまう。対峙した相手は、思うように倒すことが出来る。

だがら、地味で面倒な反復練習を怠る。―――どうだ? わたしのところにこないか?

もう少し鍛え直してやれるが?」

 

「……アンタ、ワタシのことやはり口説いてルカ?」

 

「薔薇騎士団は優秀な人材は常に募集中だ!」

 

 

 

 

 

 

 




後付け設定
普通のテレパスでは「時間」の観念が違うディアナの言葉は受け取ることはなんとかできても、『話す』ことは出来ない。ニュータイプだと「時間」に干渉することが出来るので、意思疎通は可能。では何で、『ギンガナムの首』がディアナと意思疎通が出来るのかというと……


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