書き始めてから一年です。終わりは決めてる物語なのですが、まだ着地まで少しかかりそうです。
「第18与圧格納庫からモビルスーツ発進シークエンスだと!」
「こんな時間に、か? しかもグラナダ内部に向けて、だと!?」
「ああ……アナハイムムーンからの正式コードによる申請です。」
「念のため、もう一度確認しろ!」
「確認しました……間違いありません。持ち主のネオ香港のクワトロ・バジーナ氏の承認付きコードです。」
混乱する宙港管制室に、新人管制官の逼迫した声が割り込んだ。
「緊急承認要請です!」
「却下だ! こっちはモビルスーツをグラナダ市街に入れるかどうかの判断中だ。待たせておけ!」
「……それとは別に、アナハイムの試作機工場から発進した軽キャノン改6機が、グラナダ市街地への進入を求めています。」
「なんだと!!」
管制室は、混乱を極める。
「アナハイムムーンへ回線回せ!」
完成室長は叫んだ。
「合計7機のモビルスーツを市内にいれてどうする?
市街戦でもはじめるつもりか?
アナハイムムーン同士で!?」
「まさに……」
おずおずと新人管制官が言った。
「その通りなのでは?」
「アナハイム応答なし!」
「ジオン行政府……いや、駐留ジオン軍に連絡を。ゲルググを出してもらうしかない。
我々では判断できん―――」
「第2ターミナルモビルスーツ用ハッチ、強制解除!―――こじ開けられます!!」
「18格納庫のモビルスーツ発進します。タイプ―――サイコガンダムR……いえ、もう一機を腕に抱かえてます。こちらはカスタムタイプ『ヘビーアームズ』!!」
「どこに向かっている? 該当市街区へ避難命令を出せ。」
「室長……」
新人管制官が震える声で尋ねた。
「うるさい! あとにしろ!」
「いえ……すいません。
あの……第18格納庫って、無人だったはずなんですけど……」
肩のバインダーが特徴の「サイコガンダムR」がもう一機、こちらもツインアイにV字アンテナのガンダムタイプを背負うようにして発進していくのがモニターに映る。
「……あれって、誰が操縦してるんでしょう?」
-----------------
古流の武術では『歩法』というらしい。
単なる移動ではない。
自分と相手の角度を、絶えず調整しながら、思いもかけない瞬間に、死角へと回り込んでくる。
そして、その打撃!
筋肉の収縮を使って放つ打撃は、ノーモーション。
タメが必要ないばかりか、連射も出来る。
何発かは腕でガードしたが、骨にヒビが入った。
複雑骨折になってしまうと、治癒に時間がかかる。
ゼロは早々に防御を諦めた。
『牙』の攻撃力は、それほどのものだったのだ。
もちろん。
諦めたわけではない。
自分がダメージを受ける前に、こいつを倒してしまえばいい。それだけのことだ。
まずはあのやっかいな『歩法』を止める。
ゼロの斜め上方から、袈裟懸けに切り下ろすキックが、『牙』の太ももをとらえた。
ダウンはしないが、顔をしかめて『牙』が後退する。
その耳元で通信機らしきイヤフォンが点滅した。
ち、ちょっと待ってくれ……と、慌てて『牙』はインカムに応答する。
「なんです……なぜあんたまでこっちに……え?
モビルスーツ部隊が? ターゲットも連れて脱出する?
なにがどうなって……え? エレベーターが動かない?」
『牙』は呆然と、彼とゼロが死闘を繰り広げていたエレベーターホールを見回した。
正確には「元」エレベーターホールだ。
壁面は大きく剥がれおち、深いヒビがいくも走っていた。エレベーターのドアもいくつかはふっとび、大きく凹んでいるものも多い。
「たしかに、エントランス階に降りるのは無理です。
降りれるとこまで降りて、あとは階段使ってください。俺はそれまでにこのクソ強ネーチャンをなんとか……えっ? 『爪』ですか? 26階に待機していて、来客が誰か確認したら、任務にうつるはずでしたが。」
「ああ、たぶんシェーンコップと戦闘に入ったんだ……」
「シェーンコップってひとと26階で戦ってるんじゃないかって、このクソ強ネーチャンが言ってます。
は? はい。わかりました。そうします。」
『牙』はゼロにむかって手を振った。
「すまん。休戦だ。モビルスーツがこっちに向かってるらしい。ここを脱出しろと、さ。」
「どうやってわかったんだ、そんなこと?」
「モビルスーツみたいなデカイもんが、攻撃の意図をもって接近してるのになんで気づかないんだと、怒られたよ」
「面白いな。おまえの組織のボスか?」
「ボス……なんだろうなあ。でもあのひとがなにか命令するところは見たことがない。
あんたも一度合ってるはずだ。グラナダ下層部の資材置き場でな。」
「ああ。たしかに。」
ゼロはうれしそうに笑った。
「あれはバケモノだったな。」
「だろ?」
『牙 』も笑みを浮かべかけたが、顔をしかめて、床に倒れ込んだ。
「うおお……なんて、蹴りだ。あんたも充分化け物だな。」
「モビルスーツは何機来ている?」
ゼロは、白衣をはたいて、ズレたメガネをかけ直した。この戦闘で彼女がうけた被害はその程度だった。
「機影は六つ、だと言ってた。」
「それくらいなら、ドゥーがなんとかするだろう。
おおっ?」
ゼロは手元にデバイスを覗き込んだ。
「サイコガンダムRが動いたな。」
「パイロットまで待機させてたのか?」
『牙』が憮然とした面持ちで言った。
「いや、サイコミュを搭載したサイコガンダムRは、うちのドゥーが遠隔操作できるというだけだ。」
-----------------
「あくまで応急処置だ。」
チェンは、シェーンコップの腹部から手を離した。
「ふむ。だいぶマシになった。感謝するぞ、老師。」
シェーンコップは身を起こした。
『爪』と名乗る少女の一撃は、時間が経つほど、冷たい痺れに似た重さを、じわじわと伝え、その領域を広げていた。
それが、止まった。
重だるさは解消されてないにせよ、これなら動ける。
「応急処置と言ったが、完治にはどうすればいい?」
「美味いもん喰って、寝とけばなんとかなる。」
チェンは淡々と言った。
「それから、おまえもクワトロくんも、わたしを老師と呼ぶが、わたしはおまえさんたちみたいな物騒な弟子はとった覚えがない。
ふつうに名を呼んでくれ。」
「名はなんと?」
「チェン・シャオロン。」
「チェン殿か。感謝する。」
チェンは、なんだか難しい顔の『爪』に声をかける。
「……普通は、わたしが手当てする前に死んでる、と言いたいんだろう?」
「こいつは、シぶとスぎるノよ!」
仏頂面の『爪』の腕をとると、チェンはわずかに力を込めた。
『爪』は悲鳴を咬み殺す。
シェーンコップのハルバートの一撃で折れた腕を正常な位置に戻したのだ。
「そっちはどうだ、キルヒアイス!?」
シェーンコップは呼びかけた。
エレベーターの操作パネルを相手に苦戦していたルビー色の髪の青年は、首を振った。
「ダメです。登るほうは動きますが、降りることが出が出来ない。操作を受け付けません。」
「エントランスのエレベーターホールで、ゼロとそっちの刺客がやりあったせいだろう。」
シェーンコップが言った。
「ゼロが片付けきれなかったということは、チェン、あんたの配下は、このチャイナガール並の強さはあるってことだ。
つまり怪獣同士が暴れ回ったんだ。
ゆえに、エレベーターホールはメチャメチャで各エレベーターは停止もしくは、この階から上にしか動かない、というわけだ。」
「48階にバルコニーがあります。ヘリポートも備えています。
そこで救助を待つ、というのは?」
N・ロックが言った。
チェンがぽすんと手を打った。
「なるほど! そのくらいならギリ飛び降りても無傷ですむな!」
「それは、あんただけだろう、チェン!」
シェーンコップが突っ込んだ。
「それに問題はモビルスーツだ。何機でどっちから向かってくる?」
「6機だ。南西の方角から、グラナダに侵入した。」
「機種は? 武装は?」
「勘弁してくれないか、シェーンコップ少佐。
わたしはレーダーじゃないんだぞ?」
「そうか。ついでに敵味方識別信号の有無も確かめたかったが……老師にもわからんことがあるんだな?」
「その老師もやめてくれっ!
なんだか、ひどく年取ってしまったような気分になるんだよ。」
「そうか?」
シェーンコップはそれだけで、ひとを殺せそうな視線で、チェンを見やった。
「じゃあ、聞くがあんた、いったい幾つだ?」
『爪』が、息を飲む。
チェンは、穏やかにただ笑った。
「そうだな……わたしは幾つに見える?」
「エレベーターが、来たよ!」
ドゥーが叫んだ。
「そのバルコニーに急ごうよ。ぼくの身体もそこに呼んでるから。」
「身体を?」
チェンが怪訝そうな顔をした。
「じゃあ、わたしの目の前にあるおまえさんはいったいなんだね?」
「心臓。」
と、ドゥーは答えた。
軽キャノン改グウェルは、ほとんどジム・クゥエルなので、サイコガンダムR相手だとちょっと。
あと、市街地への影響と市民のパニックをどう防ぐかがポイント……