撃たねば仲間が死ぬ。
月面の夜空を裂き、サイコガンダムが舞う!
対するは、市街地制圧用モビルスーツ『クゥエル』
「クゥエル隊リーダーより、α、βへ。目標確認。共有せよ。」
「αワン了解。」
「αツー、確認しました!」
「こちらβワン、βツー、情報共有しました。」
軽キャノン改『クゥエル』隊は、グラナダのドーム内を飛行する。
重力が、地球の6分の1である月面では、可変機ではないクゥエルにも、「飛行」に近いロングジャンプが出来た。
これは幸いなことだった。
グラナダの街路は、いかにオフィス街とえども全高18メートルの巨体を通すようには出来ていない。
市街地にクゥエルが着陸しただけで、周りの建物が破損する危険は十分にあった。
時刻の設定は「夜」である。
とはいえ、深夜というほどの時間帯ではない、
行き交う車や、オフィスビルの窓からみえるホテル街は想像以上に明るい。
だが彼らの行先のみは、ぼっかりとそこだけ、暗闇が広がっている。
最低限の街灯などはあるのだが、まだ再開発中の街区でほとんどの建物がまだ、未入居のままなのだ。
「隊長!」
αワン、の声だった。作戦行動中に不用意な会話を慎め!……そう怒鳴るところだが、小隊長はこらえた。
「なんだ!?」
「ほんとうに大丈夫なのでしょうか? 」
市街地へのモビルスーツ隊での侵入。そして、民間ビルへの攻撃。
戦争―――いや、戦争でも忌避される任務だ。
「大丈夫なわけはない。」
小隊長はキッパリと言った。
彼は、αワンがそんなことを尋ねてきた理由がわかっている。
全員が不安なのだ。
このまま攻撃を始めれば、肝心なところで腰がひける可能性がある。
αワンにそれを説明することで、全員が覚悟を決めることができる。
「俺たちは、任務完了後、資材運搬艦で、サイド6に移動する。クゥエルはテロリストによって奪取され市街地へのテロに使われた。
俺たちはクゥエルを奪ったテロリストの犠牲となって殺されたことになる。」
「そりゃ、ひでえっ!!」
αワンが叫んだ。
「すこしばかりボーナスを弾んでもらってもとても引き合わねえ任務じゃないですか?」
「ボーナスは『すこしばかり』じゃないぞ。」
小隊長か、口にした金額は、月面都市かサイド6なら一生遊んで暮らせる額だった。
「それに、サイド6で2年ばかり、身を潜めていれば、新しいIDを用意して貰える。
そうすれば、俺たちは自由だ。アナハイムでも然るべき地位を用意してくれるし、いやなら辞めてもかまない。」
全員の生唾を呑む音が聴こえたような気がした。
「目標建物を視認!」
αワンが叫んだ。
「上階のバルコニーに人影が見えます。あれがターゲットですか?」
「気にするな。」
小隊長は返した。
「目標はあのビルを破砕することだ!!
突如、通信機が唸った。
グラナダ全域に届く緊急災害速報だ。
「……クランバトル。これよりクランバトルを開始します。
これはテロリストがモビルスーツで、都市内に侵入したという想定での緊急避難も兼ねています。
場所はアンダーグラウンド再開発地区。
当該区域ならびに、隣接地域にいる方は、ただちに最寄りの建物内に避難してください。
繰り返します。これはクランバトル形式を利用した避難訓練です。」
いったい、なにが!!!
ガゴン!
隊長機の後頭部がなにかに蹴飛ばされた。
バランスを崩したクゥエルか、市街地に落下する。
辛うじて体勢を立て直し小隊長機は、公園らしき空き地に着陸する。
なぜ、クランバトルを名乗るのか?
それはわからなかったが、わかったことはひとつあった。
彼らの急襲はよまれていた。
相手は、獲物ではない。
満を持して待ち構えていたのだ。
ガガガガガ!!
ジム・クゥエルのマシンガンの火線が夜空を切り裂く。
隊長機を蹴落としたモビルスーツは、そのまま、銃弾を避けて飛行する。
その先には―――
これから彼らが奇襲をかけようとしていたビルがあった。
---------------
バルコニーはかなりの広さがあった。
ヘリポートも兼ねているらしい。
なかなか夜景は見事で、N・ロックの話では、いずれテナントがうまったらここで、大々的にパーティを開く予定だった、とか。
「クランバトルか?」
ラインハルトが、面白そうにクワトロに尋ねた。
「そうだ。モビルスーツの侵入とそれを迎え撃つための戦闘は、市内にパニックを呼ぶ。
それを抑えるためには、クラバということにしておくのが一番いい。」
「ずいぶんとクランバトルを便利使いするのだな、クワトロ・バジーナ?
いよいよもって、クランバトル運営に参加したくなってきたよ。」
「そういう無茶を言うやつには、クランバトルに参加してもらっては困るんだ。」
ガルマが言った。
「しかし、とっさによくこんな手を考えたな。さっき連絡をしていたのは、グラナダのクラバ関係者か?」
「ああ、ここのクランオーナーのケリィ・レズナーだ。」
ドゥーは、バルコニーの1番先にたって、大声で彼女の「身体」を呼んでいた。
「おーいっ! こっち! こっちだよ!」
ガゴッ
大きな音がして、暗い空から一機のモビルスーツが落下する。
この地区のはずれの公園におちたようだった。
続いて、夜空を切り裂く弾丸の火線。
モビルスーツそのものは、黒に近い色に塗装されているのだろう。
その姿は闇に沈んでいる。
「保安部員か、特別に用意した傭兵かはわからんが、射撃の腕は悪くないようだ。」
シェーンコップが言った。
「追いかけられているガンダムタイプには、こっちのパイロットが乗っているのか?」
ドゥーが、ひょいと手を挙げた。
「ボクが動かしてる。」
「遠隔操作だと?
サイコミュ搭載機……サイコガンダムか!」
「小型化したサイコガンダムR。アレがいまのボクの身体なんだ。」
ドゥーは唇をかんだ。
「ちくしょう……完全に捕捉されたな。
これじゃあ、あいつをここに呼べない。
呼んだら自動的に火線もここに集中する!!」
「ドゥー」
トロワが立ち上がった。
「この建物の上空に、サイコガンダムRを持ってこれるか?」
「できるよ! でもバルコニーに着陸はさせられない。
集中砲火を浴びたら、身体はともかく、心臓がもたないよ。」
「着陸させなくてもいい。上空でバルコニーを掠めるように、抱き抱えている『ヘビーアームズ』を落とせ。」
「落とすん!? どうするの?」
「俺がここから飛び乗る。」
ドゥーはため息をついた。
「無茶だと思う。マシンガンを避けながら、そんなほどよくバルコニーを掠める距離で、『ヘビーアームズ』を切り離せるか……」
「地球上ではやらない。ここは月面だ。」
トロワは答えた。
「垂直跳びで3メートル。幅跳びなら20メートルは跳べる。」
「危険すぎるぞ、少年。」
ラインハルトが厳しい表情で言った。
「それにおまえは脚を怪我している。」
「ようは、あのモビルスーツのうちの一体が目の前を落下してくるのに合わせて、おまえを飛ばせばよいのか?」
チェンが言った。
「ならわたしが何とかするが、そのあとどうする? どうやってコクピットに乗り込むつもりだ?」
「コクピットは俺の生体認証とパスコードで開く。」
トロワは淡々と答えた。
「コクピット当たりに貼り付けば、あとはなんとかする。」
「落下してくるモビルスーツのコクピットを開けて、潜り込んで、システムを起動させて、バーニヤで減速して着地する?
無理だよ。」
ドゥーは、首を振った。
トロワに情愛など感じたことはなかったが、どうも彼が死んでしまうのは、自分は嫌らしい。
サイコガンダムRを弾丸が掠めていく。
反撃を、と思うドゥーだが、うまくいかない。
サイコガンダムの主兵装はビームライフルなのだ。
グラナダの市街地で射ったら、どこに当たっても大惨事になる。
かつて、同じような状況下、イズマコロニーで、彼女は遠慮なくビームを打ちまくり、かなりの死傷者を出したのだが、そのころにくらべて、彼女はすこしは進歩したのだろうか?
それとも弱くなったのか。
サイコガンダムRの両肩のバインダーは、分離して、ビットに似た攻撃を行うことができる。
ビーム以外にも、クランバトル用に鋭い実体刃を備えている。
これならうまく使えば、市街地への損害を最小限に、敵を無力化できるはずなのだが……
サイコミュで操るサイコガンダムRのサイコミュ兵器は、遠隔操作では使えなかった。
“なんとかボクがサイコガンダムに乗り込むしかない。そのためには”
トロワは、バルコニーの先端にたった。
「ドゥー。ヘビーアームズを落とせ。
チェン、頼む。」
「やめるんだ! 無茶すぎる。」
ガルマが。
「危険すぎます。」
キルヒアイスが、止めた。
「トロワくん。成功の秘訣を伝授しておこうか。」
チェンは、トロワから2メートルばかりのところに立って、そう言った。
「ありがたいな。古来の武術の達人からの助言とは……」
「聞かない方がイイと思うヨ。きっとガッカリするネ。」
「なにかいったかな『爪』。」
「いえ、なんでもないのコト。」
チェンはトロワに向き直った。
「いいか、少年。成功した時のことだけをイメージするんだ。そうするとたいてい成功する。」
「なるほど。きくんじゃなかった。」
「ヘビーアームズ、上空100メートル!
切り離すよ! サン、ニイ、イチ……」
ドガガガガ!
複数の火線が、サイコガンダムRをとらえた。
致命打になったものはなかったが、その機体が大きく揺れる。
抱かえられたヘビーアームズは、予定より半秒早く、落下にはいった。
「まずいな。遠いぞ。バルコ二ーから30メートルは離れたところを通過する。」
クワトロ・バジーナが呻く。
「トロワ。全身の力を抜け。」
チェンが言った。
「これからやるのは、おまえを『吹き飛ばす』ための勁だ。
力を入れなければ無傷でおまえをそのヘビーアームズまで送り届けてやれる。」
----------------
「敵機が抱かえていたもう一機をとり落としました。」
αワンの声が上ずっている。
かなりの高機動をみせた相手のモビルスーツにも、かなりの命中が出ている。
もう一息だ。
取り落としたモビルスーツがそのまま、バルコニーを押し潰してくれないか、と期待したが世の中はそれほど、甘くは無さそうだ。
バルコニーから20メートル以上離れたところを落下していく。
それにむかって、バルコニーから身を投げたものがいた。
恐怖のあまり、気が変になったのか?
いや、そんな勢いではなかった。
まるで、放たれた弓矢のように、その人影はモビルスーツに向かっていった。
あの勢いでは。
モビルスーツにぶつかってペチャンコになるのが関の山だろう。
リーダー機は、注意をサイコガンダムRに向けた。
どういうわけか向こうはまだ打ち返してこない。
「ガンダム」の名を冠するに相応しい高級機のようで、ここまでクゥエルのマシンガンで大きなダメージをおった様子はない。
だが―――
サイコガンダムRが、取り落としたもう一機が地上に落ちた。
いや?
落ちる直前に制動にはいったような。
そんな馬鹿な。
一瞬前までは、すべてが順調だった。
だが次の瞬間。
3機のクゥエルの頭部が突然、砕け散った。
自分が出たがりのクワトロ・バジーナさんが、百式ではなくてヘビーアームズを持ってこさせたのは、実弾中心のヘビーアームズのほうが、市街地への被害は少ないと判断したからです。