第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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黒幕は一掃された。
だが、戦いはまだ終わらない。
ラインハルトとN・ロック。
ふたりを思いもよらぬ困難が襲う!!







GQuuuuuuX season2 第10話 アナハイム動乱~喜劇の後始末

「なあ……キルヒアイス。」

 

ラインハルトは、およそどんな困難にも、むしろ闘志を燃やすタイプである。

上司であり友人でもある彼が、これほどまでに追い込まれているのを見たのは、幼なじみと言ってよい付き合いのキルヒアイスにしても初めてだったかもしれない。

 

なんと言ってよいのかわからぬまま、キルヒアイスは秘書として自分の成すべきことを、実行した。

 

やっとのことで、決済を終えた書類の隣り。

そこに、あらたに、アナハイムエレクトロニクス本社専務が目を通すべき、決済書類の山を積み上げたのである。

 

「これは?」

 

「主に行政関連の届出書です。」

 

「……」

 

「なにしろ、テロリストに、アナハイムの工場が襲われ、モビルスーツが強奪され、そのモビルスーツがグラナダ市街で戦闘を行ったのですから。

防犯体制の改善も含めた始末書を提出しなければなりません。

グラナダ行政府とジオン駐留軍それぞれに、です。」

 

「あれは、対テロリスト対策の避難訓練を兼ねたクランバトルだったはずだ!」

 

「……なるほど、そちらのシナリオでいきますか。」

キルヒアイスは、書類の山を差し替えた。

厚みはかえって増している。

「事前の届出なしに市街地で、クランバトルを行ったことに対する反則金の請求、およびその理由の報告書、同様な危険なクランバトルを二度と起こさないことへの誓約書、これをグラナダ警察と、ジオン駐留軍、安全保障委員会にそれぞれ提出が必要です……」

キルヒアイスはチラリと時計を見た。

 

「それと、一時間後に、あらたな警備体制の件で、ウースー ダァシー有限公司のシェ・イェン社長と面談がはいっています。」

 

「それが、『ギンガナムの腕』か。

チェン・シャオロンの部下で彼の組織を実質的にまとめている、という。」

 

「……そのようです。」

キルヒアイスは声を落とした。

「支社長たちを『処分』したのも恐らくは、彼の仕業です。」

 

「それを責める気にはなれんが、困ったことをしてくれた。」

ラインハルトの口調は、珍しくボヤキに近いものだった。

「彼の仲間や首領もろともに、我々を始末しようとしたのだ。シェ・イェンの気持ちは分かるが。

少なくとも、このめんどうな書類手続きだけでもやつらに押し付けたかった。」

 

「副社長から、メッセージが届いていました。」

キルヒアイスは静かに続けた。

「内容は、クランバトル参入の進捗と、あとは、支社長を『処分』したことへの皮肉もこめた賛辞です。」

 

完壁なラインを描く眉の間にシワがよった。

 

「やはり、そう解釈するか―――ジオンの御曹司は、どうしている?」

 

「ガルマ様でしたら、今朝の便で地球へ帰らほれました。

極東支配人ウォン・リー氏に今回の顛末を報告するようです。」

 

「現場に居合わせたものからの証言か。

ありがたいな。少なくとも、月面支社の支社長と保安部長の暴走については、過不足なく報告してもらえるだろう。」

 

 

-----------------

 

 

 

グラナダ下層部にある「例」の入植初期の移住者たちの食堂を模したレストランに、集まったのは、クワトロ・バジーナ、ドゥー・ムラサメ、トロワ・ムラサメ、N・ロック。

そして、「ギンガナムの首」「牙」「爪」の面々である。

 

「牙」と「爪」は釈然としない面持ちであったが、「首」ことチェ・シャオロンは、「サーバーの洗浄が行き届いた生ビール」にご満悦だった。

 

「では、ラインハルト専務の護衛には、シャオロン。あなた方がついてくれると?」

N・ロックが尋ねた。

 

「ま、そういうことになりそうだ。」

チェ・シャオロンは飄々と言った。

「いまごろは、ラインハルト殿とうちのシェ・イェンが話をしているころだろう。」

 

「それはありがたいです。なにしろアナハイムムーンの保安部はガタガタです。

今日の午前中だけで、汚職や恐喝紛いの問題行動に関係する書類がコンテナ一杯分見つかっています。

少なくともリーダークラス以上は、解雇せざるを得ないでしょう。」

 

「モビルスーツ部隊はどうする?」

クワトロ・バジーナが尋ねた。

 

「専務が判断するでしょうが、規模は大幅に縮小するでしょう。

まず、防衛部隊と社内のセキュリティを担当する部門は分けることになるはずです。

セキュリティのほうは、シャオロンさんに全面的に協力をお願いすることになります。」

 

「……すっかり、ラインハルト専務の側近だな。」

どこか揶揄うような口調のクワトロに、N・ロックは、内心ため息をついた。

 

彼の望みは、アナハイムでの立身出世などではなかった。

 

「それにしても」

とN・ロックは言った。

実はシャオロン老師たちは、飛び入り参加であり、彼はクワトロたちに、現在制作中の、フラナガンスクール卒業予定者と「ガールズ 」によるリアリティショーに、ドゥーとトロワにも参加してもらいたかったのだ。

そのために一席設けたのであるが、どうもその話はあまり芳しくなかった。

 

派手なモビルスーツの訓練シーン。

若い、しかも見てくれのよい少年少女たち。

しかも、ジュニアクランバトルの開始に合わせて、M.A.V.を組まねばならないという恋愛要素も入ってくる。

 

だが、肝心のドゥーとトロワは。

 

まずドゥーは、地獄のように協調性がない。

 

そして、どうもモビルスーツには「遠隔操作」ができるらしい。

ニュータイプ能力としては、フラナガンの生徒たち。彼の「ガールズ達」より隔絶しすぎている。

 

そしてもうひとりのトロワ。

 

「トロワ君。」

 

「なんだ、N・ロック。」

 

とくに敵意があるわけではない。

それなのにこの調子てである。

 

「その……なんか、せっかくハンサムなのだから、あの愛想笑いとか出来ないか?」

 

トロワは首を傾げた。

 

「面白いこともないのに笑えと?」

 

「例えば、そうだな。潜入任務だ。

きみはある学校に潜入する。最終的にはその学校からある機密を盗み出さなければならない。

そのためには、学校の生徒会長である女生徒と仲良くなるのが、いちばん手っ取り早い。

どうだろう。ひとと話す時には、笑顔が必要じゃないかな?」

 

「ふむ……」

トロワは考え込んだ。

「たぶん、そこらのチンピラでも雇って、彼女を襲わせるほうがいいな。それを俺が助ける。信頼を得るには一番だ。」

 

「そういう物騒な仕込みとかではなくて!

自然な会話と微笑みで、相手の懐に入り込むんたが!?」

 

むう……

 

トロワは俯いて考え込んだが、ふいに顔を上げた。表情が一変している。

「初めまして、ぼくはトロワ。

これから一緒に、モビルスーツの操縦訓練をすることになった。

よろしくたのむ。」

 

「いいよ! いい感じじゃないか!」

N・ロックは手を叩いた。

「そんな感じでうちのコンテンツ『今日M.A.V.になります』に出演してもらえるかな?」

 

「俺に命令できるのは、オーナーとあとはゼロだからな……」

トロワはチラリと視線を、クワトロに送った。

 

クワトロは、隣に座った「爪」をあしらうのに、苦戦している。

どこか、自分に似ているような気がして、トロワは心の中で苦笑をもらした。

 

敵には、断固たる、そして迅速な反応が出来るのに、「個人的な好意」を向けられるととたんに、不器用になる。

 

「OKが取れれば問題ない。

―――で? 誰を殺せばいいんだ?」

 

N・ロックは絶句した。

 

「いや、そういうコンテンツじゃないんな。

若い男女が、モビルスーツのパイロットとして互いに競い、励ましあって、その中で友情を育んだり、特別な好意を抱いたり……そういったライブ感のある映像を配信するのが、目的なんだ。」

 

「冗談だ。まさか本当に相手を殺すわけはない。」

トロワははりつけたような笑顔をやめて、真顔に戻った。

N・ロックはほっとしたが、トロワは容赦なく続けた。

「フラナガンの生徒たちとアナハイムの強化人間たちとの間に対立を煽るんだな?

完全にチームを崩壊させるのか、それとも誰か特定の人物をチームから排除するのか。それによって、報酬も変わってくるが……」

 

ダメだ、こいつは。

 

N・ロックはリアリティショーに、トロワとドゥーを使うことは諦めた。

 

クワトロはワインを追加注文している。

 

「爪」がそれにウザ絡みしている。

 

たぶん。

クワトロを気に入り、アプローチをしているつもりなのだろうが、どうもケンカを吹っかけているようにしか見えない。

 

「にうたいぷってモビルスーツに乗ってナンボ、よネ?」

 

「それはどうだろう。」

少々苛立ちながらも、クワトロは丁寧に対応している。

「戦乱のなかでその価値を見出された以上、優秀なパイロットとして見なされるのは仕方ないが、それ『だけ』ではないと信じたい気もするのだが……」

 

「そうネ?」

こどもっぽい顔立ちの「爪」だが、その顔立ちに似合わない冷酷そうな笑を浮かべた。

「でもカラダ使うワザは、にうたいぷと言えど訓練をしなければ」

 

少女の手がわずかに動いた。

 

その手首の動きをクワトロは完全に「見えた」わけではない。

ただ、運ばれてきたワインボトルを持ち上げただけだ。

 

ころん。

 

テーブルのうえにボトルの先端部分が、転がった。

 

切断面は、とてつもなく鋭利な刃物でも使ったかのように滑らかだった。

 

「……理屈はその通りなのだが」

クワトロにしても軍人あがりである。

格闘技はまったくの素人ではないだけに、少なくとも無手の戦闘については、彼女たちに遠く及ばないことは理解できる。だが、実戦はまた別だ。

ワインを注いで、クワトロは「爪」にグラスを差し出した。

 

「爪」はほうっとわずかに、頬を赤らめた。

 

「なんか、スゴくスマートな、コクハクネ!」

 

「たしかに、ニュータイプの先読みとカンは、武術家に対したときにも有効なようだ。」

チェンは、感心したように言った。

 

「逆に武術家のカンは、戦いのときにしか発揮されないのか?」

 

顔を赤らめて、ワインのオカワリを要求する少女に、呆れたような視線を向けながら、クワトロは言った。

 

 

 

 

 

 

 




「爪」が退場してくれないので、名前をつけます。
イエ・チャージー。
次回はたぶんネオ香港。アムロたちの話になります。
そろそろアムロ自身も設計に携わった新型モビルスーツ「ディジェ」のお披露目もしたいのですが、なにしろ作中の経過時間はまだほんの数日はので……

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