新たなるクランバトルがアムロを誘う。
武器を使わないクランバトル―――
バトリングと名付けられたそれは、ネオ香港であらたに人気を博しつつある。
なにしろ、いくら威力を落としていても、飛び道具が飛び交う通常のクランバトルでは絶対に出来ないこと。
スタジアムで、肉眼での生観戦が出来るというのは大きい。
主催者側にとっては、モビルスーツの損傷が少なくて済むという大きなメリットもあった。
だが、意外なデメリットもあった。
モビルスーツそのものの損傷は少なかったのだが、パイロットに負傷者が続出してしまったのである。
それはそうだろう。
高さ15から20メートルの巨体。コクピットはほとんどの場合、胸部か腹部にある。
その巨体が飛び、倒され、叩きつけられ。
無重力ならいざ知らず、重力下においては、パイロットに無事でいろ、という方が無理である。
デニムたちはサイド6のクランから、無手の試合に慣れた選手を召還することにした。
サイド6のクランバトルランクでは、無手の試合しか出来ないのは、下から2番目のクラスである。
地球で一攫千金を夢見た下位ランクのクランバトル選手たちはこぞって参加を表明してくれたが、到着は再来週以降になるだろう。
そんなわけで、アムロ・レイは、軽キャノン改のコクピットにおさまり、コロシアムに立っている。
選手が足りなくなったため、彼まで引っ張り出されたのだ。
相手は、この戦闘形式が性に合ったのか、2連勝の元連邦パイロット。
「白い悪魔」を一発、食ってやろうと意気揚々である。
飛び道具や刃を備えた武器は、内蔵であってもオミットされている。だが殴り合い、蹴り合いのために拳を覆うプロテクターや脚部のガードは認められていて、相手のゲルググは、当たったら痛そうな突起がびっしりとメリケンサックを両手に嵌めていた。
アムロの軽キャノン改は、マグネットコーティングもしていない。
払い下げの中古機である。
ジオン工科大学の彼のクラス。『火蜥蜴』が
設計した新型機はやっと、制作にはいったところだ。
しばらくは“巣無し鳥”のまま、クランバトルを戦うしかない。
「クランバトル、クランバトル、開始いたします。」
アナウンスがコロシアムに響き渡る。
「5……4……3……2……」
オッズは、アムロにやや傾いている。
従来のモビルスーツ戦闘と『バトリング』が、かなり趣の違うものだということは、クラバファンにもだいぶ浸透していた。
いろいろと細かいルールはまだ整備中だ。
そもそも普通のクランバトルルールでは、まず賭けそのものが成立しない。それほどに『白い悪魔』の名前は、クラバファンには知れ渡っているのだが、バトリングなら!という事で、アムロの敗北に賭けたものがそれなりにいる。
「スタート!!」
声と同時に、相手のゲルググが動いた。
背面のバーニヤを全開しての体当たり。
ジェネレーターの出力は相手が上だ。
まともにぶつかれば、押し負けて、バランスを崩される。
アムロは、軽キャノン改を低く構えた。
相手が組みつきを狙っている左脚を後ろに引き、上体を倒す。
低く突っ込んだゲルググの身体が浮き上がった。
タックルはフェイント。
地面スレスレから、繰り出されるパンチは、ボクシングならアッパーに相当しただろう。
前かがみに構えたアムロには、致命的な一撃となる。
アムロは、軽キャノン改の首をひねった。
パンチの威力をそれで流す。
人間でもなかなかしない高等技術だったが、アムロはやってのけた。
ダメージは!?
……ある。
首から肩の駆動部が、いやな軋みをあげた。
アムロの操作スピードに軽キャノン改がついてこれなかったのだ。
攻撃をかわして、かえってダメージを受けてどうする!?
渾身のアッパーをかわされてもゲルググは、ひるまなかった。
身体をぶつけるようにしながら、細かいパンチを打ち込んでくる。
ゲルググの手甲の装甲材と、軽キャノン改の装甲は同等のはずだ。
ここまで身体を密着させては、パンチを振りかぶることもできない。
たいした威力は出せないはずだが、軽キャノン改に伝わる衝撃は、アムロの予想をはるかにこえていた。
“腰の回転と体重の移動でこれだけの威力を出せるのか”
アムロは舌を巻いた。
モビルスーツの装甲そのものを破壊するほどの威力ではないが、パンチの度に、コクピットは揺れ、ベルトをしていてもなお、アムロの身体は何度もコンソールパネルに叩きつけられる。
殴り合いでは、手甲を用意していないアムロの軽キャノン改は、マニュピレーターを破損するだけだろう。
しかし。
アムロは考えた。
まあ、武器を使わないのだから、マニュピレーターを壊しても構わないのか。
----------------
「アレは、どうなのさ、ハヤト先生?」
観覧シートに陣取ったマチュが、呼びかけた。
となりの小柄ながら、逞しい青年が答えた。
「マチュ! ハヤト!
アムロが負けちゃうよ!」
ニャアンが叫ぶ。
彼女たちは、アムロに対する個人的の好意以外にも、かなりの額をアムロに賭けていたのめ、アムロの敗北は、重要な問題だった。
「ここからでは、ちょうどモビルスーツの身体の陰になって見えない。」
ハヤトは、難しい顔で答えた。
「でもなんかしたよね。
あのゲルググのパンチ、急に威力が落ちた。」
「まあ、古流柔術的には、点穴や筋肉の間を突くことで、相手の手を痺れさせる技はあるんだけど」
ハヤトはあまり面白くなさそうに言った。
「まあ、アムロはモビルスーツの技術者でもあるし、関節部分を狙い撃ちすることで似たような効果をあげることは出来るんだろう。」
------------------
パンチの威力は殺した。
しかし、このまま殴り合いを続けるのは得策ではない。
いったん距離を取ろうとしたアムロだが。ゲルググが、離さない。
バーニヤを吹かして、軽キャノン改ごと押し込んでくる。
「しつこい。」
アムロは、思わず声に出した。
押される。
壁が近い。
壁際に押し込こまれての打撃攻撃はキツそうだった。
「——それはさせない。」
アムロは、軽キャノン改のバーニヤをフルパワーにして押し返した。
だが、パワーそのものは、ゲルググのほうか上だ。
おそらくカスタマイズもしているのだろう。
さらに向こうが出力をあげた。
その瞬間。
アムロはすべての推力を切った。
ゲルググが突進する。
それに合わせて。
軽キャノン改が仰け反るように転倒した。
観覧席から悲鳴が上がる。
白い悪魔が―――
ここで負ける?
アムロは、軽キャノン改の体重をかけて、そのままゲルググを引き込んだ。
腹を蹴りあげる。
そのまま、自分が倒れる力を利用して、ゲルググを後方に投げ飛ばした。
その巨体が、大きく宙に舞っていた。
「——!」
自らのバーニヤの勢いも手伝って、その身体が壁に叩きつけられた。
放射状にヒビが走る。
観覧席との壁は、2重になっていたので、観客に被害は出ていない。
とはいえ、身の丈18メートルの巨体が目の前に落下してきたのだ。
その迫力たるや!
地響きが、スタジアムに届いた。
砂煙が上がる。
ゲルググは、動かなかった。
機体そのものは、損傷しなくても。
パイロットが耐えられない。
判定ランプが、点灯する。
「アムロ・レイ勝利!」
スタジアムが、しばらく静かなままだった。
それから——
歓声が、爆発した。
「——なにをやった、あれは。」
「柔道……?」
「モビルスーツで柔道なんて、見たことがない!」
アナウンスが、我に返ったように叫んだ。
「勝者! 軽キャノン改! 白い悪魔!!
アムロ・レイ!!」
---
コクピットの中で、アムロはため息をついた。
首と肩の駆動部が、いやな音を立てている。
指もかなり損傷した。
勝ったはいいが、この軽キャノン改は借り物である。修理代も払わなければならない。
“なんとかデニムさんたちが修理代を負担してくれないかな……”
アムロはコクピットのハッチを開けた。
外に出ると、スタジアムの歓声が直接、耳に届いた。
「勝利者インタビューです。お願いします。」
さっと美人のインタビューアーが寄ってきた。
「それよりも、ゲルググの選手の救助を。
かなりの衝撃があったはずです。重傷を負っているかもしれません。」
ほどなく、ゲルググのコクピットから、選手が救出された。
大きく手を振ってみせる。
気を失っていただけらしい。
あとで精密検査を受けるから、ということで、アムロと一緒にインタビューを受けることになった。
浅黒い肌をした大男だった。
「スタジアムのみなさん!
そして、今回のライブ配信を視聴中の皆さん!!」
インタビューアーは満面の笑みで叫んだ。
「すごい試合をみせてくれたアムロ・レイ選手。そして、敗れながらも善戦したリュウ・ホセイ選手にインタビューしたいと思います。」
「いやあ、すごい試合でした。」
「いえ、その……」
インタビューは苦手だ。なんだったら試合そのものよりも。
「あのリュウ・ホセイ選手のゲルググを投げ飛ばした技はなんですか?」
「……あれは“巴投げ”だ。」
破れたゲルググのパイロット……リュウ・ホセイが口を挟んだ。
「柔道の技だ。」
「……そうなのですか?」
アムロは頷いた。むかし、サイド7にいたときに、ハヤトにすこしだけ柔道をならったことがある。
「——すごかった。」
「いや、リュウさんの試合運びがうまかった。すばやく接近して、細かいパンチの連打。
ふつうはあそこまで、接近されてしまうと打撃も威力が発揮できないものですけど、リュウさんは体重移動と腰の捻りだけで、すごく威力のある打撃を打ち込んできた。」
褒められて、リュウは照れくさそうに笑った。
正規軍のパイロット崩れでクランバトルに身を投じたものたちは、やさぐれてはいるが基本的には気のいい連中が多い。
「ふつうのクラバでも、この戦法は得意にしてたんだ。
ピッタリくっついてしまえば、ビームサーベルも使えない。
あのまま、押し込んで勝てると思ったんだが」
「いえ、こっちも危なかったです。」
「さて、今回“バトリング”ルールでも勝利をあげたアムロ選手ですが」
インタビューアーは、キラッキラ目を輝かせている。
「ズバリ、バトリングチャンピオンのハヤト・コバヤシ選手をどうみてますか?」
「ああ……ええっと、彼はジュニアハイスクールのころからの友人ですし、バトリングで成功したのはほんとによかったと思ってます……」
「ズバリ! 戦ったら勝てますか!?」
「戦うつもりはないです。バトリング形式の試合はこの1回だけの約束なんで。」
アムロは、もろもろの手続きを終えて、試合会場をあとにした。
マチュたちが観戦に来ているはずだったので、そのまま、一緒に夕食をとるつもりだったのだが、意外なものたちも一緒にいた。
ララァ・スンとその侍女達である。
「月面にいる大佐から、あなたたちに依頼が来ているの。」
ララァは、彼女の愛機ロゼスパークルのブランドに身を固めていた。
アムロは身構えた。
クワトロ・バジーナからの依頼―――ロクなものではなさそうな気がしたのだ。
「それにアナハイム月面支社のこととか……あとは『ムーンレイスの女王』のことも。
いろいろお話したいので、ディナーに同席させてもらいたいの。」
話の内容もやっかいそうであるが、そもそもララァやカンチャナたちと食事をしているのをクラスメイトに見られたらとてつもなく誤解を受けそうだった。
なぜか、ジオン工科大学のクラスメイトの間ではアムロは、複数の女性からモテてモテてしょうがないヤツだと思われているのである。
「シャアさんから? なんだろうね。」
マチュが首を傾げた。
同じ学校にいるのだから、アムロの噂も耳に入っているに違いないのだが、そこいらはこの二人はおおらかなものであった。
舞台はグラナダとネオ香港を行ったり来たり。
N・ロックさんのリアリティショーにアムロたちも参加させたいのですが、アムロはディジェ間に合わないし、GQuuuuuuXは、ジオン軍のモビルスーツなんで、マチュ勝手に使えないし、かといってソドン呼ぶと、元首閣下もついてきちゃうし……