「マ・クベ閣下からの連絡だ。」
マ・クベの副官としては、はるかに歴が長いウラガンはあまり面白くなさそうだった。
モニターの中の顔は、いつにも増して仏頂面である。
「テム博士の『ドラグーンシルエット』のテスト結果は良好。インコムユニット装備のゲルググでは歯が立たなかったとのことだ。」
まさか、こいつ俺をライバル視してやがるのか!
ドレンとしては頭を抱えたくなる。
彼はいままで、主流から外れたところで、船乗りとして生きてきた。
主流から外れて……ということは、ギレン総帥派にもキシリア派にも……そしてジオン正規軍たるマ・クベからも一定の距離を取っていた、という意味だ。
そのことを、どうもマ・クベは高く評価しているらしい。
皮肉なもので、出世もとんとん拍子だ。
目下、彼はジオン正規軍大佐であり、新造のソドン級強襲上陸艦アルビオンの艦長兼即応特務艦隊司令官という地位にある。
呆れたことに人望も高い。
彼は、その上司ほどのキレ者ではないし、元上司のようなカリスマ性や2枚目ぶりとは、無縁であるが
『―――いや、そこがいい。』
というのが周りの評判である。
連邦のエース部隊の引き抜きや、ペズンで反乱を起こしたエイノーの亡命も彼の功績にされているようで、ドレンとしてはなんとも居心地が悪いのである。
「もともとの機体は、両方ともゲルググです。」
ドレンは注意深く答えた。
ドラグーンシルエットの装着に利用した素体であるエルムコングロマリット社のモビルスーツは、元々がゲルググであり、この言は間違いではない。
「……とは言っても単純に、ドラグーンシルエットは、インコムユニットよりも性能がよい、と判断してしまうわけにはいかんでしょう?」
「それはそうだ。」
ウラガンは腹立たしそうに言った。
「フラナガンに問い合せたが、無線式の攻撃ユニットを扱えるだけのニュータイプは、皆無らしい。」
「今回のテストのパイロットは?」
「アルテイシア閣下とシャリア・ブル准将だ。」
「うちのお偉い方々はどうかしてますな。」
ドレンはいくぶん、声を低めながらもハッキリと言った。
「操作性の難しさからも、コスト面からも、本気でドラグーンシルエットを採用する気などはなからないのでしょう?」
これはウラガンには、意外だったらしく、怒った顔で、どういうことだ!と問返してきた。
「アルテイシア閣下は、ドラグーンシルエット込みで、ヘルムコングロマリット製のモビルスーツを一機、無償で供与するつもりなんですよ。」
「そんなバカな話があるか!
そもそも、ドラグーンシルエットを扱えるパイロットが……」
そこまで言って、ウラガンは黙った。
彼も頭の回らぬほうではない。
「……『白い悪魔』か。」
「そうです。彼をジオンに引き入れることに、アルテイシア閣下はかなりご執心なようでした。
ペズン鎮圧の際も、なにかと彼をブリッジによんでは、アドバイスを求めていました。
ランバ・ラル閣下が負傷されてからは特に、です。 」
「なにがなんでも
……なりふり構わず、確保したい人材、ということか。たしかに、優れたニュータイプの存在そのものが、スペースノイドの優位性を示すものだ。
ジオン公国に所属してもらうのは、悪い話ではない。
しかし、だっ!」
ウラガンのコメカミに青い筋が浮いている。
「軍費を流用してまで、モビルスーツを与えるといのは論外だ!
そんなことは、マ・クベ閣下がお許しになるはずが無い!」
「わざわざ、模擬戦にマ・クベ閣下を招いたのは、そのためですよ、おそらく。」
「どういう……ことだ?
閣下が、なにか弱みでも握られているとでもいうのか?」
「マ・クベ閣下は、キシリア様がご自分の親衛隊用に採用した『ギャン』をずいぶんとお気に入りだったご様子で、ご自分用にカスタムしたものを先日、納品させているのですよ。内々に、ですが。
テスト飛行に、うちのサウス・バニング隊が相手をましたので。」
「し、司令官用のカスタム機と、ジオンに属してもいないクランのパイロットに機体を流すのとは、わけが違う!!」
「ウラガン殿の理屈が正しいのは、わかりますがね。」
ドレンは無骨な肩をすくめてみせた。
「五十歩百歩、というやつです。
それに、まあ、クラバに性能テストのために新しい機体や装備を投入するのは、これまでも、そしてこれからもよくある話です。
ついでに申し上げるなら、『ドラグーンシルエット』の開発者は、『白い悪魔』の父君ですからな。
父親の開発した強化パーツを、天才パイロットである息子がテストする。
大衆受けする、泣ける話じゃないですか。」
「ドレン司令。」
後ろから呼びかけられて、ドレンは振り向いた。
サウス・バニング大尉と、彼の部下。
『不死身の第四小隊』のメンバーだ。
「ゼク・ドライ。テスト飛行準備、完了です。」
「……というわけです、ウラガン殿。」
ドレンはモニターに向かって言った。
「我々は、我々に出来ることを着実にこなしましょう。」
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「なあに、それ?」
月に向かうシャトルである。
アムロが取り出したタブレットに表示された機体を、隣の席のマチュが覗き込んだ。
「昨日、N・ロックさんから届いた『スパルタニアン』の改修計画だよ。」
「ああ、ユリアンたちがスクールで使ってる可変機よね。」
マチュは、たぶんに情緒を優先するところがあるが、アホの子ではない。
パイロットとしての訓練は、かの『英雄』シャリア・ブルから直々に教わっているし、テストパイロットとして、ジオン基地で勤務したこともあり、メカニックに対する造詣も深い。
……つまりは、なかなか話も合う、仲の良い二人である。
「一応、練習機ということにはなってるんだけどね。
全周囲モニターやマグネットコーティングはないし、ジェネレーターもコスト面を考えて、だいぶ価格がこなれた古いものを使ってるんだけど、全体に見れば、かなり優秀だよ、これは。」
「ふむふむ。」
マチュは、勝手にアムロの膝のうえのタブレットに手を伸ばして画面をスクロールさせた。
「……実際に、この前のネオ香港のジオンと連邦のクランバトルじゃあ、ジオン側が自分んとこの機体として採用したわけだしね。
で? 改修点は、ジェネレーターと全周囲モニターとマグコ?」
「可変機なりの弱点もあるんだ。」
タブレットを覗き込むために、ぐいぐい身体を寄せてくるマチュから、若干、身を引きつつアムロは言った。
「変形を妨げるような追加武装は付けにくい。
本当に戦闘用となったら一回ごとに、付属部品をパージしてしまう手もあるんだけど、それだとコスト面でマイナスだ。
最新式のビームライフルと、ビームサーベルは使えるようにしておきたい。
―――ってなると、いまのプランでは出力が不足なんだよ。」
「あー。なら、ジェネレーターを大型化?」
「そういうことになるんだけどね、可変機だと、いまのフレームにおさまらないような、改造はやりにくい。なので」
アムロは、画面をスライドさせた。
「脚部に補助ジェネレーターを増設する案を送っておいたんだが」
マチュが呆れたように、アムロを見上げた。
「……ホント、多才よね。」
「N・ロックさんがだろ。全く大したもんだよね。
あまり、ぼくは話は出来なかったけど、ヤンさんからはよく聞いてる。
本業は、コンテンツ制作のプロデューサーなのに、モビルスーツの改造にもこんなに詳しいんだからね。 すごいひとだよ。」
んにゃ。
違うんだけどな。
と、マチュは、口には出さなかった。
天パのこと。
面と向かって褒めるのはなんか恥ずかしい。
褒め始めたら、感情があふれてしまうような気がするのだ。
「これは、すごい、よ。」
「まだ、ラフな設計図をひいただけだよ。」
「でも、だいぶ外見はかわったような気がする。」
マチュは、天パに乗っかるように身体をくっつけた。
「これってさあ。もう練習機のスパルタニアンとは別物だよ。むしろテム先生の百式からZETAに続く可変機の正統進化系だと思う。」
「そ、そうかな?」
「そうだよ。だから新しい名前をつけよう。
そうだな―――ZETAⅡとかZETAブラスとか。」
「いや、ZETAは親父の作ったモビルスーツだからね。勝手に『ZETA』は使えないよ。」
「うーん、ならね。」
マチュはしばし考え込んだ。
「リゼル……とかは?」
「リゼル?」
「Refined Zeta Gundam Era Legacyの略称。」
マチュの指が、勝手にアムロのタブレットをすべり、アムロの改良を加えた機体の名称を勝手にリゼルに書き換えて、「送信」をタップした。
「おい! マチュ!!」
「わたしにも使わせてよ! 細部の調整は一緒にやろうよ!」
アムロの新機体の候補が三つ。
クラスメイトと一緒に開発したディジェ。
アルテイシアが良かれと思って調達したプロヴィデンス。
マチュが命名したリゼル……です。