マハラジャ.カーンはなんとなく名前とか設定をみた程度です。口調とかアルテイシアへの感情などは想像です。違和感があったらすいません。
ここから新章。第16話になります。
アルテイシア・ソム・ダイクンを見て、マハラジャ・カーンはなにか言いたそうな顔をしていた。
言いたいことはわかる。
いまのアルテイシアは髪を結い上げてもいないし、すそがふんわりと広がったドレスも着ていない。
肩甲骨のラインと胸の谷間で殿方を魅了する代わりにえりのついたホワイトシャツ、ジャケット、スラックス。
ジャケットとスラックスの色はカーキでおよそ華やかさとは対極にあった。
「式典のときはそれなりの格好をいたします。」
なにか言われる前に、アルテイシアは口早に言った。
「あの格好は動きにくいのです。
もしお疑いなら同じ格好をしてみるとよいですわ。マハラジャ・カーン。」
老人は、という程の歳ではないのだが、このところ妙に老け込んだ印象がある。
マハラジャ・カーンは、アルテイシアの言葉に苦笑いを浮かべて、ウインクしてみせた。
それくらいの度量はあるのだ。
場所は彼の私室である。
置かれた調度品はアルテイシアの部屋よりもかなり、豪華だった。
わずかに青味を帯びた白磁の壺が、アルテイシアの目を引いた。
「ほう、お気づきですか。先日マ・クベ中将から贈られたものです。北宋の事物らしいですな。」
「マ・クベ閣下が?」
マ・クベはもともとはキシリアに引き立てられた男である。
地上での勤務が長い。
特に敗北し、撤退することになったオデッサ戦で高い評価を受けている。
兵の損失を最小限で撤退させ、ギリギリまで貴重な資源を宇宙に上げ続けた。
その後、ルナツーの攻略に尽力し、ジオン勝利の立役者のひとりとなった。
戦略は緻密であり、また世渡りも上手い。キシリアに引き立てられたにも関わらず、戦後は微妙に距離をおいた。
もしもギレンがキシリアを殺そうとして軍を動かせば、そこに割って入る。
その逆でも、だ。
いわば、どちらにもつかないことで、ジオンの決定的な分裂を避けようとしていたのである。
それとともに自分をキーマンにすることで身の安全をはかった一面もある。
だがイオマグヌッソ事件がすべてを台無しにした。
実際、マハラジャ・カーンとランバ・ラルたちがすみやかに動かなければ、マ・クベは自らが権力掌握に動いたであろう。
現実には、ジオン国民がもっとも納得しやすいジオン・ズム・ダイクンの遺児を担ぎ出し、すみやかに政権交代を実現させた旧ダイクン派の政治力が勝ったわけではあったが。
「お気に召しましたか?」
「そうですね。美しいと思います。そして文化的にも貴重なものなのでしょう。」
「気に入っていただけたなら、アルテイシア様にプレゼントしてもらうようにマ・クベ中将から依頼を受けております。」
「わたしに?」
「そうです。ジオンの宝玉アルテイシア陛下に、です。」
マハラジャ・カーンは軽くため息をついて首を横に振った。
「ちなみにマ・クベは独身です。」
「マアステキナツボデスコト!
デモワタシニハカザルトコロモナイデスシ、モシキズデモツケテシマッタラタイヘンデスワ。
オキモチダケイタダイテ、ゴジタイモウシアゲマス。」
明らかに無理して社交辞令を言う時に、口調が棒読みになってしまうのは、アルテイシアがまだ国家元首の立場に慣れていないせいである。
「お世継ぎについては、ゆっくりお考えいただきたいと存じます。」
マハラジャ・カーンの眼差しは、娘を見るように優しい。
だが、お節介やきの親戚というものは、それはそれでウザいものなのだ。その思いが好意から出ているだけに。
「まずは、アルテイシア様のお気持ちを大切に。家庭の幸福は為政者の義務に劣るものではありませんからな。」
うむうむ。
一応、笑みをうかべながら、アルテイシアは一生独身を通してやろうか、と思った。
だが、それもこれも慌てて決断することではない。
それよりも。
彼女はマハラジャ・カーンに内密の話があって来たのだ。
「あれは、クワトロ・バジーナと名乗って、地球でクランバトルのオーナーをしているようですね。」
マハラジャ・カーンは顔をしかめた。
「どこからその話を……」
「わたしがジオンを継ぐための条件としてアレを亡き者にすることを約束していただいたはずです。」
「それは。事実シャリア・ブルはイオマグヌッソ事件のときに彼を襲撃しています。改修を施したキケロガと、ほとんどの武装を失い、メンテナンスも不十分なガンダムではもとより勝負にならないはずでしたが、さすがは“赤い彗星”。相打ちに持ち込まれ逃走を許してしまいました。」
マハラジャ・カーンはひと息ついてから続けた。
「その際に彼はこう言い残したそうです。“おまえに殺されないで済む生き方をしてみる”と。
それでアルテイシア様も一度は納得いただいたはずです。」
「そうですね。もし政治や軍から一切身を引いて、ひとりの市民として暮らすのならばそれもよいかとは思いました。
……ですがクランバトルを主催するのは違うでしょう?」
「クランバトルは……たかが非合法の見世物ですぞ。」
「実際は試作モビルスーツ、実験機の性能テストに使われることが増えている、と聞きます。」
アルテイシアは、きびしい顔で言った。
「サイド6がこれを合法化したことで一気にその流れは加速するでしょう。
その流れの中に身を置くことが、軍事に関係していないと断言できますか?」
お姫様は、もう少しお姫様であってもらいたいのだがな。
幼い頃からアルテイシアを知っているマハラジャ・カーンには利害をこえた愛情はたしかにある。
だが、政治に携わるものとしては、神輿はあまり賢すぎても困るのだ。
「ランバ・ラルから報告をもらっています。シャリア・ブルはネオホンコンのクランと接触しました。ですが、もう一つの任務……クランバトルのエース『白い悪魔』を調査することを優先するために、現段階ではアレを排除しないそうです。」
「それは、たしかにわたしもそう報告を受けている。」
マハラジャ・カーンはそう返した。
「クワトロ・バジーナなる偽名を名乗っているところをこちらに捕捉された時点でいつでも排除は可能です。
『白い悪魔』の調査については彼は協力的で自分の主催するネオホンコンのクランバトルに『白い悪魔』を招聘してくれています。
利用できる部分は利用して……その後は、こちらの目の届くところで飼い殺しにするのが妥当かと。」
なんといっても陛下の実の兄上ですし。
そう言ってみたのだが、アルテイシアの表情は険しいままだった。
「わたしは彼が、ソロモンをグラナダにぶつけようとしているのをこの目でみました。」
確かに。
マハラジャ・カーンは心の中では頷いた。
ザビ家への復讐。その気持ちは分かるがグラナダは一千万都市だ。
それを復讐のために平然と巻き添えにしようとするものは政治に関わる資格はない。
シャリア・ブルは、彼を「己の独善のためには地球人類そのものを粛清しかねない男」と評した。
まさかそこまで、とは思うが、可能性としては有り得なくはない。だが「可能性」をもとに人を殺していては、独裁者が気の向くままに民を粛清していくのとなにが違うのだろうか。
「クワトロ・バジーナを監視下に置くとしてそのあとはどうするおつもりですか?」
アルテイシアの眼光はいよいよ厳しい。
「もちろん、政治的にも実権は渡しません。ですが」
「アクシズが地球圏に移動を始めたそうですね。」
この姫君は賢しすぎる。
「資源調達のための小惑星です。多少のモビルスーツは保有していますので、ア・バオア・クーの消失を少しでも穴埋め出来れば、と。」
「あなたの二番目のお嬢さんがたしかアクシズにいましたね。ハマーン・カーン……といいましたか。」
「はい。」
鋭い。などというレベルではない。
ニュータイプという概念を設立したのは、彼女の父だったが、その娘自身もニュータイプなのだろうか。
いや兄の“赤い彗星”がそうなのだから、可能性は高い。
「あの当時、キシリア様はニュータイプの素養のあるものを片端から囲い込みをされていました。」
「だからアクシズに逃がした、と。
それはわかったが、なぜいま地球圏に帰還させる?」
「それはギレン様、キシリア様が亡くなられて……」
「ハマーン嬢をあれに娶らせるなどとは考えていないでしょうね。」
「わ、わたくしは!」
そこまで、キャスバル・レム・ダイクンが憎いのか?
「わたしの亡き後もカーン家がアルテイシア様の力になるために!」
「ハマーンの気持ちを考えたことがあるのですか!?」
虚をつかれたように、マハラジャ・カーンは黙り込んだ。
「人を政争の道具にしてはなりません。そんなものは……もしあったとしてもそれはわたしひとりで十分でしょう。」
たいしたものだ。
マハラジャ・カーンはデスクの写真に目をやった。
写真の中で微笑む少女は、まだ十代の初めだ。
いまのハマーンは18になっているはずだ。
アクシズは遠いが、画像のやりとりができないほどではない。
だがそこでマハラジャ・カーンとの時間は止まっているのだろう。
「おっしゃることは肝に銘じておきます。」
やれやれ。
王者の風格、というやつか。
傀儡のつもりで地位につけた娘が実際に、王の器だったと言うのは喜ぶべきことなのか。
「それは?」
アルテイシアは、写真のそばの壁に貼られた絵に目をとめた。
額には入れられているが、あまり上手くはない。
「ジオン独立記念 ぼくのわたしの描いた最強モビルスーツコンテスト 金賞」
とある。
「五年前にハマーンの描いたモビルスーツです。
宇宙を舞う蝶をイメージにしたと言っています。」
絵心はなさそうだった。
全体のイメージは蝶ではなくて蛾にしか見えない。
白を貴重にしているのだが、肩周りのバインダーが盛り上がり羽根のように見えるのが不気味だった。
「武装は?」
モビルスーツパイロットの経験もあるアルテイシアは、興味本位で聞いてみた。
「近接用にはビームサーベル。射撃武器としては、両手にビームガンを装備しています。」
親バカのマハラジャ・カーンはすらすらと答えた。
幼いハマーンとああだこうだ言いながら一緒に描き上げたのかもしれない。
「シンプルですね。」
「あとは両肩のバインダーにビットを搭載しています。サイコミュも。ですのでニュータイプ専用機ということになりますね。」
「それは少し無理がありますね。」
アルテイシアは微笑んだ。
サイコミュでコントロールされるビットは強力な兵器だが、ジェネレーターを含めるととてもモビルスーツに搭載できるようなサイズにはならない。
「それは考えようです。」
マハラジャ・カーンはこの会話を楽しんでいた。
「ジェネレーターをエネルギーCAP式にすることで、大幅に小型化し、モビルスーツに内蔵することが可能になります。推進剤が足りなくなる点は、戦闘開始直前にモビルスーツから射出することでカバーできます。」
「ビーム兵器として見た場合にも威力そのものは落ちるでしょう。連射回数も…」
「それはその通りです。ですが小型になった分、小回りもききます。複数のファンネルからオールレンジ攻撃をしかけられて対応できるパイロットや機体が存在するでしょうか?」
「ファンネル?」
「ああ、ハマーンがエネルギーCAP式のビットに名付けた名前です。想定した形状がロウトに似ておりましたので。
……いかがされました、アルテイシア様?」
「このモビルスーツの名前は?」
アルテイシアの真剣な眼差しにマハラジャは気圧された。
「子どもが戯言で考えたモビルスーツです。一応、ハマーンはキュベレイと呼んでおりましたが。」
アルテイシアは、ゆっくりと立ち上がった。
「これを形にしてください。」
「は、しかし。」
「量産は考えなくてもよい。わたしの専用機として開発をお願いします。」
アルテイシア専用機は感想欄で予想をしていただきましたが、なにしろあのガンダムの二次創作ですので、予想を外してみました。
Iフィールドのあるビグザム攻撃用に、また閉鎖空間であるソロモン内部だから、ハンマーを使ったので、アルテイシア本人は特にハンマーマニアではないと信じたい。