第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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なんとなくもともとの物語のなかで、報われない立場の方を助けてやりたいという気持ちが、どこかにあるようですが、このじいさんまで?







GQuuuuuuX season2 第12話 軋む世界~最後の晩餐

歳の取り方……というものがある。

老いによる衰えは、だれもが避けられないにせよ、その年齢に応じた品格を保つことで、少なくとも周りの見る目はだいぶ、違ってくるのだ。

 

フリードルフ卿は、実際の年齢より、年老いて見えた。

 

にも関わらず、孫の歳の妻を娶っているのだから、品格のほうも如何なものだろう。

 

永年、恨みに恨んだ相手に、ラインハルトは立ち上がって、頭を垂れた。

キルヒアイスもそれに習う。

 

“なるほど……十代では出来ないことだな……”

 

 

「ああ、遠路はるばるよく来てくれた。」

 

老人の声は、平坦でとくに感情がこもっている様子はない。

 

「楽にしてくれたまえ。料理を運ばせよう。

酒はなにを嗜む?」

 

「……ならばワインを。」

 

ワインは「毒殺」を恐れる中世の貴族が愛飲した飲み物だ。

ボトルにコルク栓をした状態で、提供されるため、毒物の混入が難しいとされていたが、注射器でコルク栓越しに、薬物を注入する方法、グラスのほうに毒を塗る方法などが、後年確立されたため、有効性は疑問ではある。

 

アンネローゼは、自分とフリードルフ卿のための食前酒を頼んだ。

 

フリードルフの意思を確認せずとも、好き食前酒を選ぶことができる―――このふたりが、10年連れ添った夫婦であることを、思い知らされたようで、ラインハルトの心中に苦いものが広かった。

 

料理が運ばれる。

 

アミューズは、チーズに焼き野菜、キャビアをのせたカナッペである。

 

「活躍は、わたしの耳にも届いているよ。」

 

フリードルフは、カナッペをひとつ手に取ると口に放り込んだ。サクサクと音を立てて、噛み砕く。

すぐに二つ目に手を伸ばした。

 

「この組み合わせは、アンネローゼが考案したものでね。」

フリードルフは言った。

「本当は、今日は手ずから料理したものを、食べさせたかったようなのだが、それだと話もできないだろうから、わたしが止めた。」

 

「別荘にいるときは、ほとんどわたしが料理するのよ。」

アンネローゼが微笑みながら言った。

「こんどは、ぜひ、そちらにも来て欲しいわ、ラインハルト、キルヒアイス。」

 

 

「活躍は、わたしやアンネローゼの耳にも届いている。」

フリードルフは、最後のカナッペを口に放り込んだ。

 

食欲は旺盛なようだ。

 

「入社の際には、多少の口ききはしたがその後の出世はきみ自身の力によるものだ。

わたしたちは、きみを誇りに思うよ。」

 

社交辞令だ。

言い聞かせながら、ラインハルトは応じる。

「アナハイムエレクトロニクスも、フリードルフ卿のお力添えには、感謝しております。」

 

「社長は―――メラニー・ヒュー・カーバイン氏はお変わりないかね?

このところ、お目にかかる機会も少なくてね。」

 

「先日、会長になりました。」

事実だけを淡々と、ラインハルトは告げた。

「後任には、副社長コウエル・J・ガバナンが昇格する予定ですが、まだ公式には発表されておりません。

CEOの権限はそのまま、カーバイン会長が保持しますので、引き続きトッブは、メラニー・ヒュー・カーバインです。」

 

「なるほどなあ。」

 

前菜が運ばれてきた。

貝類のカルパッチョだ。

 

アンネローゼが、合図をして、フリードルフの酒のお代りを運ばせた。

阿吽の呼吸であるが、“こんなものは主と使用人にだって成立する”とラインハルトは、言い聞かせて自分を抑えた。

 

「……あるいは思い切った若返りがあるかとも思っていたのだが、さすがにまだ早いか。」

老人の口元の笑みは、若いラインハルトを揶揄うようであった。

 

「若返り、といいますと?」

 

「そうだな。例えば、目の前にいる金髪の若者とか。」

 

「……お戯れを。」

 

「アナハイムエレクトロニクスは大きくなりすぎた。」

食べながらも話し続けたため、口元が汚れている。アンネローゼがその口元をそっとガーゼで拭った。

「単なる企業ではない。5年先、10年先ではない未来を見据えた戦略が必要だ。

そのためには、10年後には引退しているであろう年寄りではなく、何十年か後を我がこととして考えられる若い層がトップにつくことが肝要だ。」

 

言っていることはまともだ。

そして、健康面でも問題はない。

だが。

 

その言葉にまったく意思が感じられないのを、ラインハルトは気味悪く思った。

ただ、インプットされた情報を吐き出す機械のような。

 

「アンタはドウね?」

大人しく。と言うか、料理に舌鼓をうっていたイェが唐突に言った。

「5年、いや10年後の自分を想像してるカね?」

 

これにはさすがに驚いたように、フリードルフは目を見開いた。

 

「きみは―――」

 

「専務のボディガードのイェ・チャージー。

まあ、『伝承者』の一門といえば、ワカリやすいカネ?

アンタにもあったコトあるよ。別の顔と名前ダッタけどネ。」

 

「わたしは―――」

フリードルフは、顔をしかめて視線を落とした。

「老人だ。さきのことはわからん。」

 

「あなたひとりなら、それもヨシ。

でもいまは、オクサン、いるネ。

アンネローゼは、あんたがシんだあとも人生あるヨ。

それは考えてるかネ?」

 

ラインハルトが立ち上がろうとしたが、アンネローゼが止めた。

 

「……それは。」

 

「まあ、責任モテ、までは言わないネ。ひとの人生はひとそれぞれヨ。

でも考えてたことくらいはあるかネ?」

 

「そうだな―――」

フリードルフは、つぶやいた。

「むかし、読んだ小説にこんなセリフがあった……『滅ぶならいっそ華麗に滅んでしまえばいい』」

 

ラインハルトは、また立ち上がろろうとしたが、こんどはキルヒアイスが止めた。

「ラインハルト様! 小説のなかの一説です! 腐敗と停滞が続いた帝国の最後の皇帝の言葉です。」

 

「これは、わたしとフリードルフ家についての感想だ。」

老人はつぶやいた。誰にきかせる分けてもない。独り言のようだった、

「そして、『世界』そのものへの感想でもある。

フリードルフ家がどれほどの血を流してきたか。わたしとてその全ては、知る由もないがその剣の切っ先は、敵にばかり向いていたのではない。

自らの血族、親兄弟、守るべき領民にまでむけられた。」

 

その手がナイフとフォークにのびる。

 

ソースのかかった帆立を口に放り込んだ。

咀嚼する。

飲み込む。

 

「ザマはない。」

老人は泣き出しそうに言った。

「すべてに絶望していてさえ、美味いものを食べれば美味い。

わたしは、とんでもない俗物であり、穀潰しだ。

だが、フリードルフ家から出ていくこともできない。わたしをいまの地位につけてくれた親類縁者の意向に逆らうこともできない。

いまの地位を追われれば、生きていくことさえもできないだろう。」

 

アンネローゼがその肩にそっと手を置いた。

 

「あなたが、自身を俗物認定するのは、しかたないとして」

ラインハルトはズケズケと言った。

「姉上や人類そのものにまで、巻き込むことはご容赦願いたいな。」

 

「ラインハルトさまっ!!」

 

「わたしはあなたに比べれば、生きてきた年月はすくない。だが、人類の人口を半減させるうな殺し合いは見てきた。

我々はそこから立ち上がらなければならない。

そのために、わたしはアナハイムエレクトロニクスという組織に身を置いたのだ。

泣きわめいている暇があったらすこしでも、人の世をましな方向にすすめるためだ。」

 

「世の中は思うようにはならんよ、ラインハルト。」

フリードルフは、言った。

「ジオン・ズム・ダイクンの理想は、スペースノイド優位の思想のバックボーンとなり、それは一種の優生思想と相まって、ジオン公国による大量殺戮を産んだ。

ニュータイプ!?

たかだか先読みのできるパイロットに世の中が変えられるのか?」

 

「可能性がある限りは、あがく。それが人だ。」

 

「―――」

 

「はっきりわかった。

あなたに姉上をまかせてはおけない。姉上は連れて帰る!」

 

「……そのことか。」

フリードルフはため息をついた。

「たしかにそのことは多少なりとは考えている。」

 

「あなたっ!!」

 

「いや、慌てるな、アンネローゼ。すぐに離縁しようというわけではない。

だが、わたしが死んだあと、フリードルフ家が所持している組織の役職も含め、おまえにいっさいの継承は行わないよう、遺言してある。

代わりに、おまえが一番気に入っていたあの毎年桜が咲く湖畔の別荘と充分な現金は残すつもりだ。

実を言えばそれを今回のパーティの席で発表するつもりでいたのだ―――」

 

「フリードルフ卿。恐れ入りますが、発言をお許しいただけますでしょうか。」

キルヒアイスが、穏やかに言った。

 

「構わんよ。キルヒアイス君―――だったかな。

アンネローゼは、きみを家族同然に思っているようだ。忌憚のない意見を聞かせてくれ。」

 

「いえ……意見というほどのものではあませんが」

キルヒアイスは僅かに躊躇いながら言った。

「遺言は、『誰がなにを相続するか』をはっきりさせるものです。おそれながら閣下は、アンネローゼ様に、権限としての相続を行わないと明言するものであります。

それによって、アンネローゼ様を相続を巡る争いから遠ざけたいというお気持ちはわかりました。

ですが―――」

 

「そうだな。『誰』が『何』を相続するのかはっきりせねば片手落ちではある。」

ラインハルトの目が沈んだ光を放つ。

「失礼ながら、ご親戚筋はそれでは納得しないだろう。

相続争いは、激化する。」

 

フリードルフ卿は。笑みを浮かべた。

恐ろしく晴れやかな笑みだった。

 

「わたしは、10年前、アンネローゼを娶るまで、自分の意思で何事かを行ったことはまったくない。

だから―――家督相続も決めぬ。

決めておったのだ、何一つ決めてやるものかと。」

 

カチャリ。

 

目の前に、スープ皿が置かれた。

 

同時に。

 

銃器が抜かれ、フリードルフ卿に。

アンネローゼに。

ラインハルトに。

キルヒアイスに。

突きつけられた。

 

「“最後の晩餐”だ。」

フリードルフ卿に拳銃を突きつけた男が言った。

「メインディッシュまでは待つつもりだったが必要な情報は、すべて手に入ったのでな。あとは相続が何年か早くなるかどうかの違いだけだ。」

 

フリードルフは、恐れなかった。

ただ嫌そうに顔をしかめただけた。

 

「もともといたボディガードたちはどうした?」

 

「『シフト』でな。今日、この時間帯は我々だけだ。何人かは眠ってもらっている。」

 

「ハイネ家などに護衛を紹介してもらうものではないな。」

ぼやくようにフリードルフは言った。

「こうまで直接的な行動に出るとは、リッテンは愚かすぎる。」

 

「なんとでも言え。」

男は嘲笑った。

「あんたとアンネローゼに、そろって消えてもらうのはいいとして、アナハイムの大物になった金髪の小僧からあとで、いろいろ嗅ぎ回られても困る。そろって始末するチャンスを伺っていたのだが、ちょうどよい機会が訪れた、というわけだ。」

 

「……これって、ハイネ家のリッテンもシッテるコトね?」

イェンが言った。

しばらく彼女が黙っていたのは、前菜のホタテのカルパッチョに舌鼓をうっていたからだ。

 

部屋のメインモニターに光がともった。

 

口ひげの細面の男が映し出される。

 

「やあ、フリードルフ卿。それにラインハルト専務。」

ニヤニヤとハイネ家のリッテンは笑った。

「我が家を甘く見ましたな!

請われるままに、裏の仕事を請け負ってきた我々も陽の当たる場所にでるときがやって来た、というわけです。」

 

「……きみ、ひとりの案ではあるまい。」

フリードルフは顔色を青ざめさせながらも、冷静な口調で言った。

「黒幕は誰かね?」

 

「そうですな。強いて言うならば親類縁者全員ですよ!

アンネローゼなどという女にうつつを抜かさなければ、少なくとも天寿は全うできたというのに!」

 

「アンネローゼ。」

イェンが言った。

「少し目をつぶっているとイイネ。こいつらを制圧するヨ。

口聞けるヤツはひとりでヨイね。」

 

なにも。

 

見えなかった。

 

フリードルフ卿に銃を突きつけていた男、銃を取り落とす。

 

その手のひらをフォークが貫いていた。

 

イェンが立ち上がる。

 

同時にラインハルトとキルヒアイスに銃を突きつけていた二人の両肩が外れた。

よろける二人の顎が跳ね上がった。

 

白いものが飛び散る。

 

顎の歯、であった。

 

アンネローゼに銃をむけた男は、とっさにアンネローゼの首に手を回し人質に取ろうとした。

 

―――だが、キルヒアイスが早かった。

テーブルを飛び越えて、飛びかかったキルヒアイスの拳が男を殴り倒していた。

 

パン!

 

乾いた音がして、キルヒアイスが肩口から血が飛び散る。

だが彼の拳は止まらない。

倒れた男を打ち据える。

 

 

完全に意識がなくなるまで、それは続いた。

 

「ジーク!!」

アンネローゼが、後ろからキルヒアイスを抱きとめた。

 

「アンネローゼ様……」

 

「もう意識を無くしてるわ。それよりあなたの手当を」

 

「イヤあ、運動するのはキモチよい。」

イェは、フォークを飛ばして、手のひらを貫いた男に近寄った。

男は無事なほうの手で銃を拾おうとしていた。

 

無造作に、彼の頭に、イェは足刀を落とす。

 

全員が意識を失ったのを確認して、イェへモニターに近寄った。

 

リッテンが叫ぶ。

「な、な、な、なんなんだ、おまえは!!」

 

イェは一瞬顔を伏せて、もう一度上げた。

天真爛漫。どこから抜けたような少女の面影はそこにはなかった。

 

「二度とわたしのまえで悪さをするなと言ったよねえ?」

 

妖女は、モニターのリッテンに笑いかけた。

 

「『伝承者』! リン・ホー!!」

 

「10年とすこしぶりだ。二度目はない。

そう言ったはずだよ。」

 

「―――」

 

「わたしたちは、ラインハルトとアンネローゼにつく。

言っておくが生身の人間など何人繰り出しても一緒だよ。」

イェ・チャージー……リン・ホーは笑った。

「わたしを倒したければモビルスーツでも用意するんだね!」

 

モニターのリッテンは後方を振り返って叫んだ。

 

「モビルスーツだ! モビルスーツ隊を発進させろ!

屋敷ごと吹っ飛ばすんだ!

構うものか。テロリストの仕業とか。

あとでいくらでも言い訳できる!」

 

それきり、モニターは暗くなった。

 

イェは振り返った。

 

顔が引きつっていた。

 

「アイヤ、ホントにモビルスーツ用意してるのは想定外ネ!!」

 

 

 

 

 

 




よし!
次回、クワトロさん大暴れ!

イェ「メインディッシュ、食べたかったヨ……」
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