第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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モビルスーツって、地上で爆発させてよかったんでしたっけ?
核融合炉は、いまの核分裂の原子炉よりは、放射性物質撒き散らさないってきいてますが。







GQuuuuuuX season2 第12話 軋む世界~決戦!ニューヤーク上空

市街地の灯が背後で細く滲みはじめた。

前方広がる夜の海は、黒い鉄板を広げたようだった。

 

クワトロの機体は、急降下。あえて高度を抑えたまま海面ぎりぎりを翔ける。

 

スラスターの噴光が波頭を白く舐め、その軌跡だけが暗闇に一本の線を引いた。

 

 

追尾するクゥエルの動きに焦りが見えた。

 

数で勝る。包囲して押し潰せば終わる――だが。

 

百式の機動力は、ベースジャバーを遥かに凌ぐ。

 

このまま、逃げられてしまう―――そんな焦りだ。

 

クワトロは一般回線を開いた。

「熱くなるな。クゥエルの諸君。」

淡々と追いつこうとするクゥエル隊に告げる。

「すこし頭を冷やしてやろうと思ってな。

海上までお付き合いいただいたが、泳ぎは得意かね?」

 

市街地から十分に離れたことを確認して、クワトロは機体を反転させた。

眼下には、砕ける波。もしここで撃墜しても、地上施設も民間区画も巻き込まない。

アムロなら、きっとそうする。クワトロはその判断を、いまは素直に良いものだと思っていた。

 

「……さて、ここからはクランバトルの流儀だ。」

 

コクピットは狙わない。

狙うのは、メインカメラ、脚、腕、武器、推進器。

相手を殺すためではなく、戦えなくするための射撃。

 

先頭のクゥエルがマシンガンを放った。

そのを瞬間、クワトロは横滑りするように機体をずらした。敵弾が脇を抜け、遅れて海面が蒸発し、白い霧が爆ぜる。

 

「遅い」

 

短く呟き、返す一射。

 

デニムが用意してくれたアサルトライフルの弾丸が、一機の右前腕の付け根を正確に撃ち抜いた。

内部で爆発でも起こったように、腕が武器ごとちぎれ飛ぶ。

 

「なっ――」

 

悲鳴に似た声が、聞こえる。

だが、腕を吹き飛ばされたクゥエルのパイロットは。衝撃でバランスを崩して波間に落下する事もなく、ベースジャバーにへばりついた。

 

そのまま、ベースジャバーに備えられたミサイルを発射。

 

よい腕だ。

 

クワトロは、機体を変形。

急上昇でミサイルを引き離しにかかる。

追従するミサイルは、おそらく熱源探知式の追尾機能をもっているのだろう。

 

だが、ギリギリまでミサイルを引き付けてから、人型に変形。

バーニヤをふかして今度は急降下。

 

見事にミサイルをやり過ごす。

 

そのまま、二機目の頭部センサーへ連続射撃。カメラアイが砕け、敵機はたちまち姿勢を乱した。相手のパイロットはなお反射的にトリガーを引くが、照準を失った弾丸が夜空へ逸れていく。

 

「見えないまま戦場に残るな。死にたくなければ降りろ」

 

言葉とは裏腹に、その動きには容赦がない。三機目が左右から挟もうとした瞬間、クワトロはさらに海面すれすれまで降下し、スラスターで水柱を立てた。視界を遮られた敵の間を突き抜け、すれ違いざまに片方の膝関節を撃ち抜く。続けてもう片方のベースジャバーの左側バーニアを破壊。

 

キリモミして落下するベースジャバーから、クゥエルがジャンプ。

 

降下したもう一機が差し伸べた手と手が触れた瞬間を狙った射撃は、一発で2機のモビルスーツの腕を手首からもっていった。

 

おそらく弾頭が二重構造になっているようだ。

 

あまりの威力にクワトロは舌をまいた。

 

装甲を貫くための超硬度の弾頭。

だが、弾丸がそのまま、抜けずに、モビルスーツの内部を破壊するように、2層目の金属はわざと柔らかく作ってある。

 

バランスを失ったクゥエルは、半ば横倒しになって海へ激突した。巨大な水しぶきが闇に咲く。

 

「スビカが落ちたぞっ!」

「慌てるな」包囲を維持しろ! モビルスーツの気密性は充分だ。あとで救出できる――」

 

ビームサーベルは装備していたが、クワトロはあえて抜かなかった。

 

もう一機のクゥエルの頭部を蹴り飛ばす。

 

こちらもメインカメラを破損。

そのまま、ベースジャバーがら転げ落ち、盛大な水しぶきがあがった。

 

 

「た、隊長っ!」

「なんだ、アルタイル……」

「ベースジャバーは、所詮、移動のためのサブフライトシステムです。

空戦においては、可変機のほうが圧倒的に有利……」

「もっと、早く気づけっ!!!」

 

 

----------------

 

 

 

 

地下のシェルタースペースアンネローゼたちを退避させたあと、ラインハルトは、屋敷の中を見てくると言って、イェと共に出ていった。

 

意外と言えばこれ以上、意外なこともない。

フリードルフ卿は、医薬品の入った箱を取り出すと、慣れた手つきで、キルヒアイスの肩の負傷を手当したのだ。

 

「ありがとうございます。だいぶ、ラクになりました。」

 

「これはあくまでも応急処置だ。」

フリードルフは、面白くもなさそうな顔でそう言った。

「ニューヤーク医科大の附属病院を手配するので、検査をうけたまえ。」

 

「いえ、そこまでは―――」

 

「弾丸が神経を傷つけているかもしれん。その場合は、再生医療が必要になる可能性もある。」

 

「大丈夫です、フリードルフ閣下……」

 

「医者でないものに、身体のことなどわからん。」

 

目を白黒するキルヒアイスに、アンネローゼが微笑んだ。

 

「このひとはお医者さんだったの。」

 

驚いてキルヒアイスは、フリードルフの顔を見直した。

老人は、手を振った。

「違う違う。フリードルフ家の跡取りに指名されたときは、わたしはまだ研修医だった。」

 

「いえ……驚きました。」

 

キルヒアイスは、体を起こして座り直した。

 

「まあ、それでも完全に素人という訳では無い。言うことを聞きくように。」

 

 そう言って包帯を留めると、フリードルフは一歩身を引いた。

 

「腕を上げてみたまえ。」

 

キルヒアイスは言われた通り、慎重に左腕を持ち上げた。痛みは傷口ではなく、その奥がひきつるように痛んだ。

 

「ふむ。やはり検査が必要だな。」

 

フリードルフの声は静かだったが、キルヒアイスは反射的に背筋を伸ばした。

 

「いえ、この程度なら――」

 

「その言い方をするものは、たいていこの程度ではない場合が多い。」

フリードルフが冷たく言う。

 

キルヒアイスは、返す言葉を失ったように口を閉じた。代わりにアンネローゼが、困ったように笑う。

 

「そうなんです。この人は昔から、そういうところがあるの」

 

「……アンネローゼ様……」

 

「だって本当でしょう。わたしとラインハルトのまえだと、熱があっても平気、怪我をしても平気、眠っていなくても平気って」

 

「……そんなことはありませんよ……」

 

「そうなのかね」

 

フリードルフが揶揄うように言った、

 

キルヒアイスは少しだけ視線をそらした。

 

「心配をかけるだけですから」

 

「なるほど」

老人は薬箱の蓋を閉めながら、そっけなく言った。

「だが、アンネローゼとラインハルト君には全部見抜かれているようだ。」

 

アンネローゼが、思わずといった様子で小さく吹き出した。

 

キルヒアイスは苦笑し、アンネローゼが差し出してくれた水の入ったグラスを、怪我をしてない方の腕で受け取った。

 

「ずいぶんと、きみは、ラインハルト君やアンネローゼからの信頼が厚いようだ。」

 

「……恐れ入ります。」

 

キルヒアイスはすこし顔をふせた。

ラインハルトはともかく、アンネローゼは、フリードルフの妻だ。

フリードルフの言葉をそのまま褒め言葉として受け取ってよいのかは微妙だった。

 

「ラインハルト様は、判断の速さも、先を読む力も、必要とあらば自分が前に出る覚悟も。

持つべきものをすべて持っておられます。」

 

「ほう」

 

「ですが」

キルヒアイスは一度そこで言葉を切った。

「ご自分で背負うべきでないものまで、他人に預けようとなさらない。」

 

アンネローゼの目が、静かに伏せられた。

 

「それは昔からです」

 

「アンネローゼ様……」

 

「あなたもよ。ラインハルトだけの話ではないでしょう」

 

そう言われて、キルヒアイスは完全に言葉に詰まった。

 

地下室の灯りは白く、外の騒ぎから切り離されたように静かだった。だが、その静けさの中にこそ、三人の関係はむしろはっきり見えた。

 

フリードルフは、二人を交互に見た。

 

「なるほど。

きみはまるで、先祖代々の忠臣のごとくにアンネローゼとラインハルトに仕えている、と。」

 

「……そのような大げさなものでは」

 

「中世前期の騎士道や武士道かな。

いずれにしても宇宙世紀に流行るとはおもえん。」

 

キルヒアイスは思わず立ち上がろうとして、痛みに気づいて動きをとめた。

 

アンネローゼがそっとその手を押さえる。

 

「動かさないで。

外の騒ぎがおさまったら、すぐに救急車を呼ぶわ。」

 

「あ……失礼しました」

 

謝るのは違うでしょう、とでも言いたげに、アンネローゼは少しだけ眉を寄せた。だが、その指先はやさしかった。

 

フリードルフはそれを見たが、何も言わなかった。

ただ、ほんのわずかに鼻を鳴らした。

 

「義務感と節度はすばらしいが、己の体と相談するがいい。」

 

「耳が痛いです」

 

「痛むのは撃たれた肩だろう」

 

一瞬の間を置いて、アンネローゼが笑った。

 

キルヒアイスも、つられるように笑った。重かった空気が、そこでほんの少しだけほどける。

 

しかし次の瞬間、上階のどこか遠くで、鈍い音がした。

 

三人とも顔を上げる。

 

「……リッテンが手配したモビルスーツとやらが来たか……」

 

「いいえ。その可能性は低いかと思われます。」

 

「……その根拠を聞こう。

きみたちの『新しい友人』とやらは、こういった襲撃を予見してモビルスーツをニューヤークに運び込んでいた、と言っていたな。」

 

「はい。そのように。」

 

「ならば、その人物が今回の襲撃への対応が間に合って、迎撃にでたとする。

だが、リッテンはバカでもケチでもない。

おそらくは新鋭機を複数そろえているだろ。

きみたちの友人は、やつらを圧倒できるのだろうか?」

 

物が倒れたのか、扉が閉まったのか、判然としない。だが、それきり音はしなかった。

 

「心配はもちろんしています。」

キルヒアイスは頷いた。

「ニューヤーク上空でのモビルスーツ戦闘となるわけですからね。

どこで、どう戦っても、市街地になんらかの被害はでます。」

 

フリードルフが呆れたような顔になった。

 

「……勝敗については気にならない、というのか。」

 

キルヒアイスは微笑んだ。

「問題にならない、かと。」

 

「いったい、きみの友人というのは何者だ? かの『白い悪魔』でも連れてきたとでも言うのか?」

 

「近いですね。」

 

「……クラバ上位のランカーということか。

だが、クランバトルのルールは厳密に言えば戦争とは違う。

リッテンの配下は本気で殺しにくるものばかりだ。」

 

「……」

 

「大戦のパイロットあがりか。だが、おそらくはリッテンが手配した傭兵共もそうだろう。」

 

シェルターのドアが開かれた。

 

イェ・チャージーが楽しそうに、入ってきた。

大きなバスケットを両手で下げている。

 

「料理長にメインディッシュの食材で、サンドイッチをつくってモラタね!」

 

アンネローゼが立ち上がる。

「イェさん……ラインハルトは」

 

「クワトロと連絡中ヨ。

敵のモビルスーツは、4機。ぜんぶ海におとしたラシイ。パイロットの救助を派遣してもらうよう、ガルマに交渉中ネ!!」

 

それから、フリードルフに笑いかけた。

 

「家の使用人たちは、拘束されてたけど、ミナ無事ヨ。殺し屋どもは、縛りあげて転がしてアル。」

 

「海におびきだしましたか―――さすがはクワトロ大尉。」

キルヒアイスが言った。

 

「クワトロ……というのが、きみたちの友人の名前なのか?」

 

「ソウ。ラインハルトとキルヒアイスの友人で、ワタシの情人!」

 

「まあ!そうなのですね!」

 

「アンネローゼ様!!

……イェさん。たしかに嘘を信じさせるときは、真実に混ぜるといいますが」

 

「エッ? おまえたちは友だちではナイのか?」

 

「クワトロ・バジーナ氏は、間違いなく、ラインハルトさまのご友人です!」

 

若いものたちの会話をフリードルフは、楽しげにきいていたが、名をきいて、顔をしかめた。

 

「クワトロ・バジーナ……?

聞き覚えがあるな。」

 

「エッシェンバッハ家の推薦で、今回の記念パーティーに招待いただいています。

ネオ香港在住のクランバトルの興行主です。」

 

「わたしは賭け事はまるでしないし、ネットの噂にも興味は無いが……」

フリードルフは考え込むように、首を捻った。

「そうか―――そのクワトロ・バジーナが、リッテンの手配した4機のモビルスーツを撃破したのか。

―――1対4、でか!」

 

キルヒアイスとイェはたがいに顔を見合せた。

 

クワトロ・バジーナの素性は。

本人が名乗らぬ以上、詮索するのはいけないことなのだろう。

 

「……まずは、キルヒアイスくんを病院に運ぶのが優先だな。

使用人に車を出せそうなものはいるか?」

 

「サア? アンタのとこの料理長が車の免許もってるかどうかは、シランよね。」

 

「わたしが、運転しよう。」

ちょうどそのとき、ラインハルトが、シェルターに入ってきた。

「夜もふけてきたし、今夜はそのままおいとましようと思う。

爆発物のしかけなどもなさそうだが、フリードルフ閣下も念の為、避難されたほうがよいでしょう。」

 

「……セントラルバーク・アベニューのコンドミニアムがいいだろう。」

フリードルフは言った。

「あそこなら、着替えも用意してある。

アンネローゼ、すまなかったな。せっかく久しぶりの家族との再会に」

 

「とんでもない。

ラインハルトたちが来てたおかげで、わたしとあなたも無事でした。」

 

「それはどうでしょうか。」

苦い顔で、ラインハルトは言った。

「クワトロの弁によると、敵は、わたしとの来訪をチャンスとして仕掛けてきた節もあります。

かえって、姉上とフリードルフ閣下を危険にさらしてしまったかもしれません。」

 

 

「ふむ……冷静なのだな。」

老人の目がラインハルトを値踏みするように光った。

「その4機のモビルスーツを蹴散らしたクワトロ・バジーナなる人物は、きみの友人に間違いないのかね?」

 

「……友人という言葉の定義にもよりますが」

注意深く、ラインハルトは答えた。

目の前にいるのは、幼い彼から姉を奪った怪物ではなく、夕食のときの無気力さを感じる老人でもない。

老練の政治家だ。

「ともに世界の明日を語れる人物である、と考えています。」

 

 

 

 




意外性の第六小隊の面々は全員泳げたので、無事救出されました。
エッシェンバッハ家の息のかかった警察署だったので、そのまま尋問を受けることになりました。
ニューヤークへのモビルスーツの無断持ち込み、突然のクランバトルの責任は、フリードルフ家が被ることになります。
実際に戦ったモビルスーツ隊は、ハイネ家が護衛用に持ち込んだものでしたので。


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