第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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月面。
グラナダ。
ディアナとこの世界のニュータイプたち。
世界の運命を左右する、もうひとつの会見が行われようとしていた……







GQuuuuuuX season2 第12話 軋む世界~もうひとつの邂逅

グラナダの公園の一角に設けられたディアナ廟。

一応、ディアナの眠る冬眠カプセルが安置された部屋は、天上が高く、ところどころの窓にステンドグラスが使われてはいるが、宗教施設がもつような厳粛さは、アムロにはあまり感じられなかった。

 

さきほどお参りしていたカップルが捧げたのだろうか。祭壇に小さな花束が置かれていた。

 

そのまえに胡座をかいて座っていた初老の男が、いた。

アムロたちを見て、立ち上がる。

 

初老……といったが、それは彼の髪が銀髪であったためで、若い、とはいえないが、では幾つだと言われても答えにくい。

独特な雰囲気をもっていた。

 

「チェンさん、いついらしてたの?」

修道女が声をかけた。

 

「ついさっきだよ。昨日は、すこし飲みすぎてね。

公園に泊まらせてもらったんだ。」

 

「まあ! このところはお弟子さんも増えて、だいぶ生活がラクになったとおっしゃってたのに!」

 

チェンは、頭をかいた。

 

「いや、別に住んでるアパートを追い出された訳じゃない。

なんとなく、ディアナの傍にいてやりたくてな。」

 

「じゃあ、ご飯は?」

 

「朝も昼も、まだ、だ。」

 

「サンドイッチでもお持ちするわ。

……こちらは、ドゥーちゃんのお友だち。地球からいらしたお客様よ。」

 

笑って、チェンは手を差し出した。

 

「ようこそ、アムロ・レイ。そっちの目つきの悪いお嬢ちゃんがマチュくんかな?」

 

「ぼくらのことをご存知なのですか?」

 

「名前くらいは。それに」

チェンの視線が、ドゥーのプラカードに止まった。

 

『歓迎!アムロ・レイ』

とでかでかと描かれている。

思ったよりも達筆。

 

「俺が書いた。」

と、トロワが言った。

 

“だったらやめさせてほしい”

とアムロは思った。

 

「……天パ、わたし目つき悪い?」

マチュが尋ねる。

 

「機嫌が悪い時の、じと目になってる。」

 

「……ああ。じゃあ、わたしあんたのことを危険だと思ってるんだ。」

マチュは、下からチェンの顔を睨めつけた。

「なにものよ、あんた!」

 

「“大佐”からわたしのことはきいてないかね?」

 

「シャアさんとは、入れ違いばっかで、最近あってないの!」

 

「チェン・シャオロンさんは、この近くで拳術の道場をしてらっしゃるのよ。」

修道女がとりなすように言った。

 

「拳術って……武術の?」

マチュの眉が、まだ警戒の角度のまま動かない。

 

「主に東洋系の武術なのよ。」

修道女が言った。

「わたしも週2回は通ってるの。リラックスできる呼吸法とストレッチを教えてくれるわ。」

 

「……それってただの健康体操じゃないの?」

どこかがっかりしたように、マチュが言った。

マチュも、ネオ香港で、なんどかハヤトの柔術道場に通ったことがある。

彼女は、格闘技の動きをクラバに取り入れようと模索していたので、チェンの道場に興味を持ち、それがただのトレーニングジムみたいなものだと知って、落胆したようなのだ。

 

「それはそうよ!

みんなそんなにハードなトレーニングは無理ですわ。」

 

「まあ、本格的に習いたい連中は、弟子になってもらってるよ。どうかな、アムロくん、マチュくん。」

 

「ふうん」

マチュは興味のなさそうな声を出したが、視線はチェンから外さなかった。

じっと、見ている。

その目はもう「機嫌が悪いときのじと目」ではなく、見定めようとしている目になっていた。

 

「お勧めはしないわよ。」

修道女は笑いながら言った。

「このひとの言う“弟子”は、飲み友達のことをいうらしいから」

そう言って食べ物を用意するために、部屋を出る。

 

 

「悪いひとじゃない。」

ドゥーがきっぱりと言った。

 

「それはわかる―――けど危険」

マチュは言った。

 

ドゥーが首を振る。

「危なくないよ。トロワを気功で30メートル吹き飛ばしたり、ゼロと殴り合いできたり、するけど」

 

「それって、人間やめてないか」

 

「人間サイズのモビルスーツだと思えばいい。」

 

マチュが何かを感じているようだ。

 

しかしアムロ自身には、目の前の銀髪の男から、はっきりした感応が来ない。

来ないというより、触れる輪郭そのものがない。

 

ニュータイプとして相対した相手なら、たいてい何かを感じ取ることができる。マチュにも、クワトロにも、ハマーンにも、カミーユにも。

だが、この男にはそれがない。

まるで、湖の表面に映る空のように――そこに在るのに、掴むものがない。

 

「アムロくん」

 

チェンが、ふいに声の調子を変えた。

話しかけられる直前に、アムロは半歩、足を引いていた。

 

「それだ、それ!」

愉快そうにチェンは笑う。

「その先読み! ニュータイプならでは、だよ。」

 

「ニュータイプっていうのは、武術の達人のようなものなのか、チェン。

相手の殺気を読むような……」

 

「わたしは、殺気など出してないよ、トロワ。 それならきみもわかるだろう。

アムロくんはね。未来を読んだんだよ。わたしが彼を攻撃するという未来を、ね。」

 

 

「……すみません。」

よくわからないが、なにか失礼をしたような気がして、アムロは素直に頭を下げた。

 

「いや、責めてるんじゃない。むしろ感心している。

単純に未来を見る。これは、いくら修練をつんでもオールドタイプには出来ない芸当なんだ。」

 

チェンは笑った。

笑うと、年齢がさらに分からなくなる男だった。

 

「トロワ。わたしの攻撃の“おこり”はなにも掴めなかったろう」

 

「……まあ、たしかに。」

 

「それで正しい。わたしのほうは、別にニュータイプじゃないんだ」

 

「ニュータイプじゃない?」

 

マチュが思わず口を挟んだ。

 

「じゃあ、なんなのよ」

 

チェンは肩をすくめた。

 

「ただの人間だよ。ただすこし長く生きしていてね。」

 

その言い方は冗談めかしていたが、声の底に冗談ではない響きがあった。

かれは背後の祭壇。その奥のカプセルを指し示す。

 

「これは、昔むかし。グラナダの建設工事中に見つかった冬眠カプセルだ。」

 

「きいたことはあります。グラナダは初めてじゃないんで。

グラナダ建設前に入植したものたちが、残したものでしょう?」

 

「……という説だな。

なにかの事故で、全滅した初期の入植者がいつか誰かが見つけてくれることを祈って、彼らの女王を冬眠カプセルに封じた。何十年か後に、彼らの悲願は達成された。」

彼はアムロを見た。

次に、マチュを見た。

「もっともらしい話だが、なにひとつ証拠がない。

グラナダは地球からみて裏側だ。

そこに誰が、なんの目的で入植したのか、さっぱり分からない。

そもそもそんな記録も残っていないのだ。」

 

 

「ほかに合理的な説がないからですよ。」

アムロは言った。

「なぜ入植者たちが、わざわざ月の裏側を選んだかは―――政治的な亡命かもしれません。

なんらかの理由で弾圧をうけていた少数民族が、地球からできるだけ遠いところに逃げ出さたかった。

それなら、地球から補給もなく、全滅した理由も碑銘に記された文字が読めなかったことの説明にもなります。」

 

「ロマンのかけらもないなあ。」

 

「技術屋なもので。」

 

「お嬢ちゃんはどうかな?」

 

「マチュ。」

 

「マチュ。きみはどう思う?」

 

「子供だと思ってるの?」

マチュの目付きがまた、剣呑な物に変わっていく。

「ゼクノヴァで、別の世界から飛ばされてきた、とでも言えば満足するわけ?」

 

「すばらしい。」

真面目な顔で、チェンは手を叩いた。

「正解だよ。おそらくは真実に近い。」

 

アムロはマチュとチェンの間に立った。

 

「技術者であるアムロくんはこの説に反対かね?」

 

「……ゼクノヴァには発生条件がある。」

アムロは言った。

「複数のニュータイプ。そしてニュータイプ能力の増幅装置であるサイコミュ。そして……」

すこし言うのをためらった。

「ただのサイコミュではない。特別なサイコミュが必要なはずだ。

これまで、ゼクノヴァによって、開かれた異世界は、ほんのすこし、ボタンを掛け違えただけの平行世界。

月の民を『ムーンレイス』とよぶ女王がいる世界とは別物だ。」

 

「実にいいよ!」

驚いたように、チェンは手を広げた。

「一杯ごちそうしたくなってきた。

今夜は空いてるかね?」

 

「いえ、アナハイムと打ち合わせが」

 

「……ん? そうか。N・ロックと打ち合わせか。ならちょうどいい。清掃の行き届いた樽のナマを飲ませてくれる店があるんだ。彼に奢らせよう。

ではまずそのまえに―――

それでは答え合わせ、といこうか。」

 

「答え合わせ?」

アムロは問い返した。

「正解があるとでも?」

 

「本人に直接聴くんだよ。

ディアナ・ソレルは目覚めている。そしてニュータイプならばテレパスで交信が可能なんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 




ララァとニャアン、フォウ、カンチャナ、ヴァーニは、映画「シャイの逆襲」の先行上映会の挨拶の件で、担当者と打ち合わせ中です。
覆面作家フロドがカンチャナだと知らずに出会い系居酒屋みたいなとこを打ち合わせ場所にしてしまった担当者の精神は持つのでしょうか。

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