語られる黒歴史、動き出す企業、迫る陰謀――。
やがて「夢」は現実を侵食し始める。
次回「機動戦士GUNDAMGQuuuuuuX 世界を改変するもの」
きみは刻の涙を見る。
「打ち合わせに入らせてもらいます。」
ガラドリエルは、資料を取り出しながら言った。
「まず、上映会の会場ですが。時間は3日後。場所は、グラナダ市内の劇場を貸し切りにしています。
先行上映のあと、フロド先生とのライブインタビューを予定しています。」
「ずいぶんと忙しい日程ですね。」
『ガンダルフ』ララァが確認した。
「本当に『フロド』先生に来ていただけるのかが、未確定でしたので。」
「ずいぶん、おっきな会場だ。」
『サウロン』ニャアンが、片手の端末を見ながら言った。
「埋まるの?」
「ついさきほど、入場チケット販売を開始したしまして」
「あら」
「完売いたしました。」
「まあ」
「そうなんです……ね。」
どこかとぼけたような『ガンダルフ』ララァとは違って『フロド』カンチャナの声には緊張が混じっている。
「会場内部の防犯体制は?」
「万全です。というより、フロド先生には直接壇上にあがっていただく必要ははありません。
用意したホログラムが、別室の先生に動きに従ってジェスチャーします。
音声加工もいたします。ご希望のキャラクターなどありましたら……」
「では、質問の内容も、事前に確認させてもらえますか。」
「はい。ただある程度フリートークの時間は設けたいと考えています。
答えたくない質問には、答えなくて結構ですので。」
ガラドリエルは、少し言いにくそうにした。
「ですかひとつだけ。
絶対に予想される質問ですが、できれば『わからない』で処理しない方がよいものがあります。」
「なんでしょう。」
「なぜ、連邦が勝つ世界を書いたのか、という質問です。」
『フロド』——カンチャナは、少し考えた。
「もともと『フロド』が連載してた“春甜瓜”ってサイトはそういう架空戦記モノのサイトでしょう?」
混沌の仮面の下からニャアンが言った。
「独立戦争を題材にしたものは、たくさんあったはずだけど。」
「そうです。
実際に、『もしも~~で連邦が勝っていたら』というシチュエーションのものも少なくありませんでした。
商業的に成功したものもあります。」
「だったら答えはそれほど気を使わなくても……」
「つい数年前に実際にあった。それも未曾有の被害をもらたした戦乱を題材に創作を行うことの是非、という部分ではないのです。
現実の歴史ではジオンが独立を達成した。
でも先生の作品では、連邦が勝つ。
その『分岐点』の描き方が、あまりにも説得力があって——」
カンチャナは、仮面の下で少し黙った。
ララァが、静かに言った。
「……『夢』です。」
「夢、ですか?」
カンチャナは、ゆっくりと言った。
「お姉さまが、教えてくれた夢の話を書きました。」
「『ガンダルフ』。これほどに細部に至るまで克明な夢をあなたが見た、と。……それは。」
「わたしが見たのは、あるひとが死ぬ夢です。」
ララァはポツリと言った。
「わたしを救ってくれたひとが死ぬ夢です。夢の中のわたしはその結末を受け入れられず、なんども、なんども世界をやり直しました。」
ガラドリエルは、しばらく黙っていた。
「——夢、の話ですよね?。」
「もちろん、夢の話ですよ。」
ララァの唇が笑みを作る。
なぜか、ガラドリエルはぞっとした。
「でもなんどやり直してもダメなのです。あのひとは必ず白いモビルスーツに堕とされてしまう。まるで、歴史はそうだ、と決まっているように。」
「夢、ですよね。」
ガラドリエルは、ガンダルフの態度に不吉なものを感じた。
若い、そして美しい女性が自分のみた『夢』に耽溺し、ひたすらその改変を試みる。
いったいどんな環境が彼女をそうさせたのだろか。
ジオン独立戦争において、直接の戦火は及ばなかったサイド6や月面都市とは違い、地上はコロニー落としとジオン軍の侵攻で大きな被害が出ている。
ガンダルフやフロドもあるいは、戦争難民か、それに近い状態だったのかもしれない。
それなら、姉妹には見えない『フロド』が『ガンダルフ』を「お姉さま」と呼ぶ理由も納得できる。
「夢の話だと、思っていました。」
ララァは、静かに続けた。
「でも——何度も同じ夢を見るうちに、わからなくなったんです。
これは、わたしが見ている夢なのか。
それとも——本当に、どこかにあった『現実』の記憶なのか。」
「『フロド』先生が書いたのは、その夢の物語り、ということですか?
だったら本当の作者は、ガンダルフ、あなたですね。」
「いいえ。わたしは『夢』を語っただけです。
実際に物語りを紡いだのは『フロド』ですから。」
『ガンダルフ』の手が、『フロド』の髪を優しく撫でた。
「それに、『フロド』の書いた『機動戦士ガンダム』にはわたしが話したのとは大きな違いがひとつ、あるのです。」
「と、いうと?」
「わたしはあのひとに死んで欲しくなかった。
そのように書いてくれと頼んだのです。だから、あのひとは死ななかった。
―――かわりにわたしが死んだのです。白いモビルスーツのビームサーベルに貫かれて。」
ガラドリエルは―――絶句した。
聡明な彼女の頭脳は、その言葉を理解したのだ。
シャイ大佐。
アレム・ロイ。
フロドの小説は、ほとんどあからさまにまで、モデルにした人物を特定出来る。
ただひとり、まったくモデルが分からなかった者がいる。
シャイに見出され、モビルアーマーを駆って連邦軍と戦うニュータイプの少女だ。
彼女は、実際の歴史には姿を現してはいない。
だが、その心はシャイとアレムの間で揺れ動き――途中、アレムの攻撃に、シャイを庇って絶命し、その後のふたりの英雄の行動に陰をおとすことになる。
―――今回、映像作品『逆襲のシャイ』でも彼女の死が、シャイとアムレの相互理解を妨げる障壁としてクローズアップされている。
『ガンダルフ』はその少女が、自分だったと言っているのだ!!
狂ってる!!
ガラドリエルは、震えた。
逢い引き用の宿を、打ち合わせ場所に、面白半分に指定するほど、海千山千のイベンターである彼女も、ここまでヤバいのは、経験がなかった!
作家本人がヤバいひとだったりすることは、けっこうあるのだが、そのスタッフがさらに輪をかけてヤバいのはさすがに珍しい。
「……それに、タイタンズの台頭以降の動乱は、フロドのオリジナルです。
わたしの夢には出てこない世界です。
だって、わたしはその前に死んでしまっていますから。」
こいつらに深入りは禁物だ。
ガラドリエルは思った。
「……ありがとうございます。」
ガラドリエルは言った。
「ですが、その夢のお話を、『フロド』のファンのまえでそのままするのは、少々危険ですね。」
「そうですか?」
『ガンダルフ』は首を傾げた。
「そうです。
愛読者のためにすこし分かりやすいストーリーをつくりましょう。
『フロド』先生のアバターとしては、若い男性の姿を使います。顔は隠しますが―――そして、明示はしませんが、もと連邦軍の将校だということを匂わせます。」
「それは―――どうして?」
『フロド』カンチャナが尋ねた。
「もと、連邦の将校なら、『こうすれば連邦が勝った』という物語を描きたくなるのに、充分な動機があると、思ってもらえるからです。
その上で、連邦が勝っても、結局、人類に平和は訪れなかったというアンチテーゼの物語りと解釈してもらえることで、さらなる支持を得ることが出来るでしょう。」
「それだと、作者が誰だか特定しようって動きにならない?」
『サウロン』ニャアンが言った。
視線はメニューを眺めている。
具材を選べる麻辣湯に興味を惹かれているのだ。
「戦後の混乱でIDはめちゃめちゃです。」
ガラドリエルは言った。
「元連邦の大尉だの、ジオンのエースだの……そこらへんは名乗り放題です。」
自分でもずいぶんと乱暴なことを言った自覚はあるのだが、なぜか、このセリフに全員が大きく頷いた。
「……でも少し気になる。」
ニャアンは、メニューを閉じた。
麻辣湯は気になるがもうお腹に入りそうもない。
「……退役した連邦軍の元大尉。戦略にも詳しくて、綿密な仮想戦記を書いちゃいそうなひと……って、どこか近くにいたような気がする。」
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「シェーンコップ少佐は、なんとニューヤークにいるそうだ。」
ヤンは通信を切った。
ネオ香港から、ニューヤーク。
フライト中にする仕事としては充分だろう。
「興味はもってくれたみたいでしたね。」
ニューヤーク空港に、降下をはじめた旅客機で、シートベルトを締めながら、ユリアンはそう返した。
ヤン・リーは、頷いた。
隣の席のうるさ方の叔父のほうを見る。
なにも聞こえないふりをして、ウォン・リーはそっぽを向いていた。
「興味を持ちすぎなのは、すこし困るな。」
ヤンはボヤくように言った。
「『今後のフリードルフ家の警備だけじゃなく、いまの結婚記念パーティを巡るトラブルからかませろ』」
すこし、声色も似せてユリアンは言った。
「かえって、頼りになるんじゃないですか?」
「シェーンコップ少佐は、別に血に飢えたケダモノじゃないんだ。
自分の『暴力』が必要なところを十分に嗅ぎ分ける能力をもっている―――つまり、クワトロ氏がモビルスーツ部隊を蹴散らしても、危険が去ったわけではない、と少佐は判断しているんだ。」
次回、舞台はニューヤーク。自宅で休暇を過ごすつもりのマクレーン警部補ですが、それは許されるはずもなく……