百式の機動力が通じない相手に、クワトロはいかに戦う!?
マンダリンホテルニューヤーク。
この街が別の名で呼ばれていた頃からの名門ホテルである。
だが、待ち合わせの部屋にはいったラインハルトは、怪訝そうな顔で立ち止まった。
クワトロの姿はない。
元軍人か、警官か。
鍛えてはいるがどこかだらしない印象を与える中年男が、ゆっくりと立ち上がった。
そのまま、自身の端末の画面を、こちらに向ける。
「ニューヤーク市警のマクレーン警部補だ。」
画面は真っ暗のままだった。
こちらの怪訝そうな表情をみて、男は、慌てて、自分の端末を操作する。
「……すまん。休暇中だった。IDは表示できないようになっている。」
「きみは何者かね?」
ウォン・リーが不快そうに尋ねた。
「ニューヤーク市警の刑事さんです……よね。」
ヤンがなにか言う前に、ユリアンが口を挟んだ。
「ハッ! 非番中の警官がIDも示せないようでは、目の前の盗難も逮捕できんわ!
つまり、こいつが本当に警官なら実質、謹慎中ということになる。」
「凄い洞察力だな。人生相談か占い師に転職するようおすすめするよ。」
ニューヤーク市警のマクレーンと名乗った男は、顔をしかめた。
テーブルのうえには、ビールと食べかけのサンドイッチ。
灰皿は出しているが、喫煙は我慢していたらしい。
「さすがは、天下のアナハイムエレクトロニクスの支配人ウォン・リーさんだ。」
「わたしを知っているのかね?」
「もちろんだ。
そっちがアナハイムエレクトロニクスのラインハルト専務。黒髪のほうがウォンさんの甥で、ヤン・リー。連れているのが、ユリアン……だな。」
「……クワトロがわたしたちのことを話したのかな、マクレーン警部補?」
ラインハルトが尋ねた。
「それ以外に考えられるのか? 皇帝陛下!」
ラインハルトはその行動や判断の果敢さが、若さも相まって、時として、相手に尊大な印象を与える。
のちに『皇帝』は彼を指す隠語として流布したが、最初にそう呼んだのが、このニューヤークの警官だった。
「傍証、にはなるが、決定打にはならんな、マクレーン。」
ラインハルトは皮肉げに言った。
「伝言役のフリだけなら、誰にでもできる。クワトロ本人が無事だと示せ。」
「本気でそう思ってますか、ラインハルト専務。」
ヤンが口を挟んだ。
「ばかな!
にせの伝言役が、謹慎中の刑事を装うかものか!」
マクレーンはにやりと笑った。
「クワトロが捕らえられていないことを証明すればいいか?」
「彼になにかあれば、わたしかガルマに連絡があるはずだが、なにも受け取っていない。」
「そりゃ確かに疑うのも無理はないな。」
マクレーンは、タバコを取り出しかけ、ラインハルトたち一行に、だれも、喫煙者がいないのを確認して、またポケットにタバコをしまった。
「ところで、フリードルフ卿夫妻は、港近くに泊まっているのかい?」
「知らない。知っていたとしても、おまえに話すと思うか?」
「そりゃそうだ。」
マクレーンはクソマジメな顔で頷いた。
「俺は、クワトロとは港で別れたんだ。
途中までここへは一緒にくるはずだったんだが、どうもヤツは急用が出来たらしい。」
「……どういう意味だ?」
さすがに理解がおいつかなくなったようで、ウォンが唸るように言った。
付き合いの長いヤンは、立ち塞がるようにその前に出た。
ウォンは暴力的な人間ではないが、武術にはかなり打ち込んでいる。聞き分けのないガキや、はぐれ者の刑事を躾けるのに、手が出るタイプなのだ。
「まあまあ。マクレーンさんは、クワトロさんとはどういうお知り合いなんですか?」
「ヤツの百式が、宙港に戻ったところを、囲んだのが、俺を含めた分署の連中だったんだ。
ヤツは、俺に実にいいアドバイスをくれて、俺は、ヤツと戦った軽キャノン改のパイロットどもを尋問しかけたんだが、偉いさんの邪魔がはいった。」
「なるほど。」
ヤンはにこにこしながら言った。
「そして、あなたは謹慎を喰らった。
そして今日『偶然』港をうろうろしていて、クワトロ氏に再会。意気投合して、この会談に参加しようとしたところで、クワトロ氏に急用が入って、先に来ることになった、と。」
「訂正がひとつある。『謹慎』じゃなくて、『公休』な!」
「デタラメな!」
憤慨したようにウォンがつぶやいた。
「しかし、ウソは言ってないようだ。」
ラインハルトも、このヤサグレた刑事に興味を持ったのか、少し楽しげになっている。
「何を言う、ラインハルト!
まったくめちゃくちゃな話だ―――」
「だからですよ、ウォン叔父。
話をでっち上げるならもう少しマシなウソをつくでしょう。」
ウォンは呆れたように、甥とラインハルトを見比べた。
「おまえたちは本当に今日初めて会ったのか?
なんというか、実にいいコンビ……」
「で、こちらに連絡が寄越せないような急用とはいったいなんなのだ、マクレーン?」
マクレーンは腕時計を見た。
そろそろ頃合い、か。
「実際に見た方が早い。
テレビをつけてくれ。チャネルは『クランバトル=ライブ』だ。」
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「ほんとにもう見境なく、仕事を受けるのは勘弁してくださいよ、バルゴ。」
モビルスーツのコクピットで傭兵はボヤいた。
「たしかに、ハイネ家は上客ではありますけどね。
相手には、『あの』赤い彗星がいるっていうじゃありませんか。」
「考えが浅いな、レオ。」
少し先をいく隊長機との感度は良好だ。
「たしかに、クワトロ・バジーナが、伝説のエースシャア・アズナブルだという噂は本当だろう。
でなければいくら百式とやらが優秀な可変機であっても『意外性の第六小隊』のクゥエルが四機まとめて落とされるわけがない。」
「でしたら……」
「戦いはまず戦場を整えることから始まる。」
隊長は、フッと笑った。
「可変機を相手に、空中戦を挑んだ時点で、彼らは失敗していた。」
「難しいこたぁ、考えずに隊長に任しとけば問題なしだぜ。ビビるなレオ!」
「タウラス! おまえは気楽でいいな。
『意外性の第六小隊』は四機でも蹴散らされた。我々は三機なんだぞ?」
「だから、この手段をとった。」
隊長は、冷静に言った。勝利を確信したものの口調だった。
「水陸両用モビルスーツ……ゴックとアッガイで、港からハドソン川を上り、地下貯水池から浮上。セントラルパーク近辺の目標のビルを破壊し、再び海へと撤収する。
百式の機動力をもってしても、水中から侵攻する我々には無意味だ。」
彼はコクピットで目を閉じる。
すでに彼の脳内では、目標の破壊までが正確にイメージされているのだ。
「森羅万象は我が手中に。
我ら『黄金の第八小隊』は必ず目標を達成する。」
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「さすがに、モビルスーツがここまで接近すれば、ニューヤークの警備機構も気づくか。」
クワトロは、貨物船に積まれたままのモビルスーツのなかでつぶやいた。
「実際のところ―――ここの設備では整備もままならん。続けて百式を使わせられる方が、こちらとしては困ったのだがな。」
各部チェック……異常なし!
「しかし、この機体がニューヤークについたとたんに強襲とは……運がいいのか、悪いのか。」
「運がいいのでは? 大佐殿。」
モニターに映るデニムの顔は、揶揄うような笑みを浮かべている。
「ふむ……そこらへんはネオ香港に戻ったら話をしよう。デニム!
騒ぎが大きくなる前に、『クランバトル』の開始宣言をかけてくれ。」
「了解であります! 大佐殿!」
やれやれ。
デニムまですっかり“大佐”呼びになってしまったな。
クワトロはため息をつきながら、命じた。
「船底のハッチを開け。
クワトロ・バジーナ、ズゴック発進する!!」
『黄金の第八小隊』は、なんか膨らませると面白そうではあるのですが……