第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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未来を見るもの。
その先を穿つもの。
激闘、セントラルパーク。最終局面。






GQuuuuuuX season2 第13話 キラキラの果て~死闘の終わり

ドアが唐突に開いた。

 

高級ホテルとはいっても、寝室のないプライベートな会見に用いられる部屋である。

大きなモニター。

ソファ。

テーブル。

 

家具の選び方や意匠には「こだわり」が感じられるものの、ごくごくシンプルな部屋だ。

 

入ってきた女は、白衣のポケットに手を突っ込んだまま、部屋の全員の視線を受け止めた。

 

「……知らない顔がひとりいるね。」

 

「誰だ、あんた……」

マクレーンが険悪になるまえに、ユリアンがさっと立ち上がった。

「ムラサメ博士! ニューヤークにいらしてたんですね! もしかしてシェーンコップ少佐とご一緒ですか?」

 

「いま、襲撃準備をしていたヤツらを下でぶちのめしてきた。」

白衣の女―――ムラサメ博士ことゼロ・ムラサメは、つかつかと部屋にはいると、イェの隣りにどっかと腰を下ろした。

そのまま、イェの肩に手を回す。

とんでもないセクハラだが、ゼロ・ムラサメもまた見かけだけは、絶世の美女だ。

「シェーンコップは、そいつらをホテルの警備に引渡ししてからこっちに来る。

―――なあ『爪』よ。わたしらが刺客をボコしてる間、警護のおまえがここで解説係か。」

 

イェは身を捩って逃れようとするが、ゼロの怪力がそれを許さない。

 

ゼロはマクレーンに笑いかけた。

「……思い出した。

おまえ、ニューヤークでいちばんついてない刑事に三年連続で選ばれて、殿堂入りしたヤツだろう。」

 

「大きなお世話だ。」

マクレーンは憮然とて、タバコを取り出しかけ……諦めた。

 

「クワトロさんのズゴックの動きがおかしい。」

ヤンがぽつりと言った。

「センサー系に異常が出てる時の動きです。」

 

「……だから、あの打撃はそういう攻撃ネ。」

話題がそれたのをいいことに、イェはゼロを無視して、解説をはじめた。

「外装にダメージなくても内側に衝撃が浸透するネ。

いまのダーリンは、人間で言えば、五感を失った状態ネ。」

 

「誰がダーリンだ?」

ラインハルトが冷たい声で応じた。

「では、クワトロは敗れるのか。

そうおまえはよんでいるのか?」

 

 

 

---------------

 

 

 

バルゴの名乗りに、クワトロは、返事をしなかった。

 

返事をする意味がない。

いまの彼に必要なのは、言葉ではなく、ひとつでも多くの情報だった。

 

センサーは死んでいる。

敵影の輪郭も拾えない。

自機の損傷表示さえ、もはやあてにならぬ。

 

ならば―――

 

捨てるしかない。

 

視ることを。

 

計器に頼ることを。

 

クワトロは、ゆっくりと呼吸を整えた。

コクピットのなかに、自分の息遣いだけが残る。

 

“見ようとするな……感じるな。”

そんな曖昧なものでは、勝てぬ。

 

“見るべきは『未来』だ。”

 

相手の攻撃が起こってからではなく。

その攻撃が生まれる前のほんのわずかな“予兆”を。

 

クワトロの視界を、燐光を放つ蝶の羽根が埋めていく。

 

「な、なんだこれは!」

バルゴの声は遠くに聞こえる。

「ここに来て妙な手妻を!!」

 

「誇りに思うがいい、バルゴとやら。

“キラキラ”が見えるのならば、きみにもニュータイプの素養くらいはありそうだ。」

 

「戯言を。」

 

アッガイの腕が伸びる。

真っ直ぐに、メインセンサーを狙いに来る。

クワトロは、姿勢を低くしてそれをかわした。

 

アッガイの伸縮アームは、いったん撓み、勢いをつけてから、ズゴックの背に振り下ろされる。

 

クワトロはズゴックのクローを地面に突き立て、回転した。

土砂が巻き上がる。

 

「よく、かわしたな。だが」

 

今度は弧を描いて、クローアームが走る。

のけ反るようにかわした、その先へ、軌道をかえたクローアームが迫る。

 

ギンッ!

 

ズゴックのクローアームがそれを弾く。

 

「それはもう『見た』」

どこか慈しむような口調で、クワトロは言った。

「ほかにはなにが出来る?」

 

「ぬうっ!」

 

アッガイは、フットワークを使う。

水陸両用モビルスーツのなかでは機動力に優れた機体だが、脚が短くずんぐりしたフォルムでそれを行うと、なんともユーモラスで可愛らしくもあった。

 

繰り出されるクローは、変幻自在。

 

360度。

 

あらゆる方向から攻撃が降ってくる。

 

爪に触れば貫かれ。

アームに叩かれれば、内部を壊され。

掠っただけでも外装を剥ぎ取られる。

 

その攻撃を。

 

クワトロはかわし続ける。

 

見ているのではない。

センサーは死んでいる。

 

ただただ、脳裏に浮かぶ『未来』を予想してかわし続ける。

 

「なん……だ?」

 

クローアームの攻撃が止んだ。

アッガイのクローアームは力を失って、だらりと垂れ下がっていた。

 

「なにをした?」

 

「アームが伸びきったところを、ズゴックのクローで亀裂をいれた。」

 

「そ、そんな」

 

「腕に伸縮機能のあるアッガイとはいえ、おまえの戦法は機体そのものに負担をかけている。わずかでも損傷を与えれば、勝手に自壊する。

さて。」

 

ズゴックが進む。

 

アッガイが下がる。

 

「もう一度きこう。ほかになにができる?」

 

 

アッガイは大きく飛び下がった。

 

 

「これが赤い彗星、か。」

すでにバルゴの声は、平静さを取り戻していた。

「ジオンの英雄をまえにして、片手間で勝てると思ったのは、間違いだったようだ。」

 

「はて?」

クワトロは首をかしげた。

「わたしは元連邦軍大尉でクランオーナーのクワトロ・バジーナなのだが」

 

それを相手にせず、アッガイは己れのアームを、もう片方のアームでがっちりと抱え込んだ。

 

まるでそれは―――

 

古流の『居合』を思わせるような異形の構えだった。

 

 

 

--------------

 

 

 

「ジオン・ズム・ダイクンの唱えたニュータイプとは、宇宙時代に適応した認識能力の拡大した新人類だ。」

ラインハルトは、目の前でおこった奇跡の光景―――センサーを失ったモビルスーツが、変幻自在のクロー攻撃を捌き切る様をじっと見つめていた。

「それは単に『空間』だけではない。『刻』にさえ及ぶ―――というのがその持論だったようだが、それを体現してみせたな。我が友人は!」

 

「チェンもソウ、言ってたネ。」

イェは、なんとかゼロの束縛から逃れようと身悶えしながら頷いた。

 

「『それ』を戦いの場にしか、有効活用できないのは、ひとがもつ限界なのかもしれませんが。」

ヤンがぽつりとつぶやいた。

 

 

クローアームの攻撃が通じなくなったアッガイは、大きく距離をとった。

さんざん無茶な振り回しを続けてきたクローアームに、なにかの障害が生じたようだった。

 

丸っこい身体をさらに丸め、残った片腕のクローアームを、もう一方の腕でがっちりと抱え込む。

肘を引き、腰を落とし、機体全体をわずかに捻る。異形の居合。あるいは、弓を引き絞る構えにも見えた。

 

モニターを見つめるイェの目が細くなった。

「……まずいネ。」

 

「なにがだ? 『伝承者』一門イェ・チャージー。」

ウォンが問う。

 

「さっきまでの鞭は、しなりを使って打ち込む技ネ。」

イェは珍しく早口だった。

「でも、いまのは違う。あれは『溜め』を作って、全部の力を一点に集めて斬る構えヨ。」

 

「斬る?」

ユリアンが息を呑む。

 

「未来を見ても意味がない速さ、かもしれないネ。」

イェは低く言った。

「来ると分かっていても、機体の反応が追いつかなければ避けられないヨ。」

 

 

 

--------------

 

 

 

センサーのほとんどが死んだズゴックのコクピットに座るクワトロには、その異形の構えを見ることは出来ない。

 

だか、感じる。

―――空気が変わった。

先ほどまでの攻撃は、相手を『壊す』攻撃。

だがこれからの攻撃は『生命を取る』攻撃だ。

来るのは一撃。

ただの一撃。

だがそれだけで終わらせるための一撃だ。

 

「クワトロ・バジーナ。」

通信回線はまだ生きている。

バルゴの声は、陰々とコックピットに響いた。

「きみは『未来』を見たつもりでいるのだろう。だが、未来とは認識できるものだけを指すのではない。

認識を超えた一撃の前では、予兆もまた無力。」

 

クワトロは苦笑した。

たしかに―――

どうズゴックを回避させても、選択できる未来はひとつ。

アッガイのクローにコクピットごと貫かれる未来だ。

 

あるいは、サイコミュ、せめてマグネットコーティングされた機体ならばまた違ったのかもしれないが。

 

回避不可。

 

ならば。

 

クワトロは、ズゴックのアームを持ち上げた。

その先端のクローは、アッガイのものより遥かに凶暴に見える。だが。

届かない。

 

アッガイの一撃は、一歩踏み込めば、ズゴックのコクピットを貫けるが、そこはまだズゴックのクローアームの距離では無いのだ。

 

「さらばだ。赤い彗星。」

 

そう告げたアッガイが踏み込もうとしたその瞬間。

 

スガガガガガッ

 

ズゴックのクローアームの機銃がはなたれた。

それは。

 

アッガイの両脚を穿ち、引き裂いた。

 

踏み込んだ脚の関節はそのまま、砕けた。

 

転倒しながら放ったクローアームの一撃は大きく地を抉った。

 

それだけだった。

 

 

 

---------------

 

 

 

「ズゴックの両腕は、クランバトル用に、ビーム砲の代わりに、機銃に換装されていた。そういう事か。」

あまりにも非情な終わり方に、一同が呆然とする中で、ラインハルトがそうつぶやいた。

 

「だったらなぜ、最初からマシンガンを使わなかったんですか?」

ユリアンが尋ねた。

 

「流れ弾で、市街地に被害が出るのを避けたんだよ、ユリアン。」

ヤンが言った。

「最初から機銃を使えば、アッガイだって使う。たしかミサイルランチャーも装備していたはずだ。だからわざとクローアームでの勝負に持ち込んだふりをして、流れ弾が公園の外に飛ばない角度に相手の動きを固定してから、撃った。」

 

「ニューヤークを守る警官としては、実にありがたい。」

マクレーンが言った。

「いくらクワトロが、流れ弾に気をつけてくれたとしても相手が同じ配慮をしてくれるとは限らないからな。」

 

「ベストな戦略をとってくれたということだ。」

ラインハルトが言った。

「さて。事前の届出のないクランバトルの開催。セントラルパークの現状復帰。

かなりの金額が、ニューヤークから請求されるだろうが、そこはフリードルフ卿に負担してもらおう。」

 

 

 

 

 

 




あともうちょっと事後処理をしてから、いよいよフリードルフ卿の結婚記念パーティに。
しかし、もともとフリードルフ家の警護をやってたハイネ家を、雇われ傭兵部隊まで含めてここまで叩いてしまうと、もう出涸らしになってしまうのでは。
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