第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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第13話。ラストはこのひとたちでしめたいと思います。
フリードルフご夫妻。
実は、セントラルパークで行われたクワトロとバルゴの戦いを、間近で観戦しておりました。
けっこう「胆力ぅ」なひとたちです。



GQuuuuuuX season2 第13話 キラキラの果て~夜の終わり(改)

壁のモニターでは、音を絞ったニュース映像が流れている。

 

窓から見えるセントラルパークには、夜の芝地に倒れた黒い機体。その傍らに膝をついた形で座り込む赤い水陸両用機。

 

フリードルフ卿はその光景を一瞥しただけで、細縁のティーカップをテーブルに置いた。

自らが標的にされていたことを別にすれば、この部屋は皮肉なことに、今夜の戦場を最もよく見渡せる特等席でもあったのだ。

 

「……ラインハルトの友人はずいぶん派手なのだな。」

 

向かいのソファに腰かけたアンネローゼは、淡い笑みを浮かべたまま、コーヒーを一口のんだ。

 

世間がなんと言おうが、彼らはそれなりにうまくやってきた。

フリードルフ卿は紅茶党であり、アンネローゼはむしろコーヒーを好んだ。

互いの好みは熟知し、必要以上に強要しない。

 

あるいは、フリードルフ卿がもう三十若ければ、十分、祝福を受けるに相応しいカップルだったかもしれない。

 

「派手とは言えませんわ。

少なくとも、わたしたちのいるこのコンドミニアムはもちろん、周辺の建物にはほとんど被害は出ていません。

クワトロ・バジーナがそれを考慮したとしても、相手は違います。

そこまでコントロールしながら、戦って、しかも勝利しているのですから。」

 

「結果から見ればそうだが。」

 

「……噂は本当なのでしょうか。」

 

アンネローゼはそう言って、クッキーの入った壺を、差し出した。

クッキーは、アンネローゼ自身が焼いたものだ。

彼女と親しいものたちは、みなこのクッキーのファンである。

例えば、エッシェンバッハ市長の一人娘イセリナや愛する弟ラインハルト、その幼いころからの親友ジーク、それにフリードルフ卿。

 

「クワトロ・バジーナが、行方不明になったジオンの英雄、シャア・アズナブルだという噂か?」

 

「そうです。そしてシャア・アズナブルが、ダイクン家の忘れ形見キャスバル・レム・ダイクンだという噂も。」

 

「証拠はひとつもない。」

フリードルフはクッキーを手に取った。

「だが、否定する材料もひとつもない。

彼は元連邦軍大尉を名乗りながらも、必要なときは、必要な権力を行使する。

……ある意味、痛快な生き方だな。素足で刃を渡るような危険と隣り合わせだが。」

 

「お会いしてみたいですね。

お礼も伝えたいし。」

 

「結婚記念祝いに参列してくれることになっている。

挨拶くらいは出来るだろう。」

 

アンネローゼは目を伏せた。

 

「……式典を中止するわけにはいかないのですか?」

 

「いまさら、どうした……

いやこんな言い方は違うな。二度三度と襲撃され、その度に、おまえの弟やその仲間たちの機転で生命を永らえている。」

 

「わたしたちだけが無事ならそれでよい、といわけにはまいりせん。」

アンネローゼは苦しそうに言った。

「モビルスーツまで持ち出すということは、誰を巻き添えにしても構わない。

そういう方法で、わたしたちを今後も狙ってくるとすれば……」

 

 

「だからこそ、中止はできないのだ。」

 

フリードルフ卿は、窓の向こう、暗い公園の縁に並ぶ規制灯を見下ろしたまま、静かに言った。

 

「ここで扉を閉じれば、彼らは次も同じことをする。脅せば引く、撃てば退くと学ぶだけだ。そしてそれはわたしたちが死んだあとでも続くことになるだろう。」

 

アンネローゼは答えず、カップを両手で包んだ。

白い磁器に触れた指先だけが、少し冷えていた。

 

「ですが」

と彼女は言った。

「明日、また誰かが傷つくかもしれません。ラインハルトも、ジークも……あの赤い人だって、押し寄せる敵に無限に戦えるわけでもありません。」

 

「あの赤い人か」

卿はそこでようやく口元を緩めた。

「名前を知っていて、なおそう呼ぶのだな」

 

「……なんとお呼びすればいいのでしょう?」

 

実際、それはクワトロの周りにいる者、新しく知己となった者たちの悩みの種でもあるのだが。

フリードルフ卿は

「本人が呼ばれたいふうに、呼べばよかろう。」

と、笑って言った。

 

その軽いやりとりが、かえって室内の静けさを深くした。

 

アンネローゼは視線を落としたまま続けた。

 

「ラインハルトは、昔からそうでした。自分が傷つくことより、守れなかったことのほうを気にする子です。ですから……わたしのことで、あの子が無理を重ねるのは、見ていてつらいのです……」

 

フリードルフ卿はしばし沈黙した。

妻よりはるかに長い人生を歩んできた彼は、その答えを知っていたが、それをどうやって、孫ほどの年齢の妻に伝えようか、言葉を選んでいたのだ。

 

「……アンネローゼ。いまのラインハルト君は、おまえだけのためだけに動いているわけではない。」

 

彼の声は穏やかだったが、曖昧さはなかった。

 

「むろん、おまえの身の安全を第一に考えてはいるだろう。だが、それだけであそこまで先を読み、あれだけ多くの人間を動かせるものではない。彼はもう、自分の意志で、自分が守るべき秩序の形を選んでいる。」

 

「……ええ」

 

「おまえの弟は、おまえの前では今でも弟なのだろう。だが、外ではもう違う」

 

アンネローゼはゆっくり顔を上げた。

その言葉が正しいことは、彼女自身がいちばんよく知っていた。

 

「それでも」

と彼女は言った。

「身内というのは、少し勝手なものですね。立派になればなるほど、よけいに心配になります」

 

「妻というのも、似たようなものらしいな」

 

彼女はそこで初めて、かすかに笑った。

ほんのわずかだったが、その笑みで部屋の空気が少しだけ和らいだ。

 

卿はテーブルに戻り、先ほど手に取ったクッキーをもうひとつ口にした。

小さく噛んで、紅茶を飲む。その何気ない所作が、不思議と落ち着きを取り戻させる。

 

「うまいな。」

 

「焼きたてほどではありませんけれど」

 

「いや、こういうものは、少し時間を置いたほうが味がなじむものだ。」

 

「それは、慰めですか。」

 

「事実だよ。

夫婦というのもそういうものらしいぞ。聞いた話だがな。」

 

 

 

------------

 

 

 

 

戦前から何度もニューヤーク市長を務めたエッシェンバッハ卿は、目を疑った。

世間一般に言われるほど無能な老人でないのは理解してた。

だが、モニターに映るのフリードルフ卿は、たしかに老人ではあるのだが、目の輝き。声の張り。

まるで、10も20も若返ったかの様だった。

 

“なにか吹っ切れたのだな、ご老体は。”

エッシェンバッハはそんな風に思った。

 

フリードルフ家という欧州の王朝の流れを組む名家のなかで、親戚筋の言いなりになっていた男が。

 

“もう、10年早ければいろいろと違ったのだろうが”

 

だがそんなことを考えている暇はなかった。

 

「ジオン駐留軍から、ゲルググが8機。

サブフライトシステムで到着いたしました。

さらに輸送機でザク大隊を送り込んで来るそうです。

ガルマの弁では、このところ頻出するテロ対策として、フリードルフ家から依頼があったものだ、とのこと。」

 

モニターの老人が、ニヤリと悪い笑みを浮かべた。

 

「ふむ……我が義弟の発案か、それともクワトロ・バジーナ氏の入れ知恵かは不明だが、よい手段だな。」

 

「……ではフリードルフ家からの依頼があった、ということで間違いはないのですかな?」

 

「うむうむ。」

まるで孫の成長を見守る好々爺のごとき表情で、フリードルフ卿は笑った。

実に怖い。

「そういうことでよいよ、市長。

実質独立国家に近い経済、人口規模をもつニューヤーク。所属は地球連邦だ。

そこにジオン軍を駐屯させた、となればいろいろやっかいな問題が発生するだろう。

そこらは全て、フリードルフのワガママを止めきれなかった―――そういうところで、調整してもらえればいい。」

 

「我がニューヤークにも独自の人型兵器は開発しています。」

 

「知っとるよ。わたしもニューヤークは長いんだ。市街地に対応するためにサイズを小型化。合わせて蓄電池による動力源に変更した。いや! 実に素晴らしい!!

だがね。

相手は本物のモビルスーツ。独立戦争に使われた兵器を投入しているんだ。

市警の殉職者が増えるばかりになるぞ。」

 

そこでペコリと頭を下げた。

 

「……まあ、それもこれも、フリードルフ家の責任ではある。

テロの目標はわたしであって、その原因はわたしが、早くに後継者を決めなかったことにあるのだからな。

だが、アンネローゼは、ニューヤーク市民に累が及ぶことをなによりも心配しているのだよ。

『やつら』がモビルスーツを、本物の兵器まで持ち出すようなら、こちらもモビルスーツを用意せざるを得ない。」

 

「……ならわたしから、連邦軍に働きかけましたのに。」

 

「いまの連邦軍にそこまでの力はないよ。会議にひと月かけた挙句に、軽キャノンの二機も送ってくれれば上等だ。

それでは、間に合わないし、そもそも、こちらが必要なのは、モビルスーツによるテロをはなから諦めさせる『抑止力』だ。」

 

エッシェンバッハは抗弁を諦めた。

 

昨夜ガルマが言っていたのとまったく同じ理屈だったのだ。

「義父上! 我々はテロそのものを『諦め』させなけばならないのです。

ジオンならば、その力がある。」

 

エッシェンバッハは諦めた。

それと同時に各方面への根回しに頭はフル回転している。

 

「……結婚記念祝典は予定通り実施されるのですかな?」

 

「コロニーが落ちようが実行する!!」

 

困ったものだ、と内心ため息をつきながら、エッシェンバッハは言った。

 

「市警総監から報告が入っております。

撃墜されたモビルスーツパイロットのひとりが、雇い主はハイネ家であると証言したそうです。

当主であるリッテン氏に、事情聴取を行う、とのこと。これが牽制になればいいのですが。」

 

ほう、それは。

と、フリードルフ卿はすこし考え込んだ。

 

「その……あれだ。逃亡をはかったとか、武器をもって抵抗した、とかで射殺してもらってもかまわないのだが。」

 

エッシェンバッハは軽い咳払いで、それに応えた。

 

 

 

 

 

 




ここは、フリードルフ卿が自分とアンネローゼのために確保した隠れ家です。二人以外には出入りはできません。(しかし、もともとフリードルフ家の護衛をしていたハイネ家にはマンションまでは特定されておりました)

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