第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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「14 話」にしました。「その日」はフリードルフ卿の結婚記念式典の日でもあり、「シャイの逆襲」の公開日てあります。






GQuuuuuuX season2 第14話 その日

「きみには落胆したよ。」

 

そう言われて、リッテンの顔色は、氷河の色になった。

相手は、シュヴァイク家の当主。代々、恰幅の良い人材が続いている。

当代はブラウンといい、四十半ば。

 

フリードルフに連なる一門とはいえ、護衛や諜報活動、ときには破壊工作など、手の汚れる仕事を請け負ってきたリッテンのハイネ家とは、格が違う。

 

中世のころに、フリードルフ家と別れた家柄で、たしか旧欧州の貴族制のもとでは「公爵」を名乗っていたはずだ。

その後も何度か姻戚関係はあるし、現在も『なにかがフリードルフ家にあったら』後継者を出せる家柄である。

 

「勝手に暴走し、フリードルフ夫妻の命まで狙うとは。呆れ果ててものが言えん。」

 

呆れ果ててものが言えないのは、リッテンの方だ。

手段を問わず。

出来れば、アンネローゼの実弟であるラインハルトを含めての抹殺を指示したのは、目の前の男なのだから。

 

腹が据わった。

「シュヴァイク公。」

リッテンは睨んだ。

「そちらがそのような無体を仰るならば、わたしもハイネ家と自分を守ることになるかもしれません。」

 

「ほう?

裏の仕事を請け負えるのが自分たちだけと思うなよ、リッテン。」

 

「あなたも雇い主になれるのが自分だけだと思わないことですな、シュヴァイク公。」

 

反撃に戸惑ったのか、一瞬、ブラウン・フォン・シュヴァイクは唇を曲げた。

だが、激高するかわりに、ニタリ。

笑みの形に唇が歪んだ。

 

「……まあ。だがおまえもよくやった部分も確かにある。」

ニヤニヤと笑いながら、シュヴァイク家当主は言った。

「フリードルフ閣下には、少なくともアンネローゼに、権威や称号、様々な役職を継がせる気はないとわかったのは上々だ。

これは重要な情報だ。

別荘のひとつと、手切れ金くらいはくれてやってもいい。あとから回収する手段はいくらでもあるしな。」

 

相手に感情をよませないための「ポーカーフェイス」はひとそれぞれだ。

 

多くは出来るだけ無表情を装うが、なかにはわざと泣いたり怒ったり。ある種の表情をペルソナとして貼り付けることで、己の心の内を隠そうとするものもいる。

 

シュヴァイク公爵のニヤニヤ笑いもその一種だとわかっていたので、リッテンは決して油断はしなかった。

 

「……で、今後の方針はいかが致しましょう?

断っておきますが、すでにジオン駐留軍の正規部隊がニューヤークに到着しております。

傭兵のモビルスーツ部隊はもはや使い物になりません。

ジオン公国と事を構えれば徹底的に、狩り出され、潰される。」

 

「アンネローゼを後継者にする意志がないとわかった時点で、いったん保留だ。」

公爵閣下のニヤニヤ笑いはとまらない。

「結婚記念式典で、妙なことを言い出さなければ、あの医者崩れは、今回も生命を永らえるというわけだ!」

 

「しかし。」

リッテンはさらに言った。

「なにか言い出さない、とも限らない。」

 

「そのときのための準備は必要だな。」

 

「世界中からVIPが招かれています。

会場で荒事は……」

 

「フリードルフとアンネローゼ、それにラインハルトの生命を奪う。」

恐ろしい顔で公爵は言った。

「それさえ、実行出来ればあとはどうにでも情報操作できる!

そうだ!

姉を無理やり老人に奪われたラインハルトが、積年の恨みを晴らした……といのはどうだ?

ラインハルトは、いまアナハイムの重役だ。

責任の一端をアナハイムに擦り付けることもできる……それと、だ。」

 

声が低くなった。

 

「……マイナスワンを用意しておけ。」

 

「ば……か、な。」

リッテンの顎がガクンとおちた。

「……あれをどうする、というのです。」

 

「あくまで非常用だ。おまえたちが会場襲撃に失敗したときのための、な。」

 

リッテンはそれについてはもっと反論したかったが、いまは時間がなかった。

ハイネ家子飼いの殺し屋はともかく、傭兵部隊のメンバーも複数が捕虜に、もとい逮捕されている。

逮捕状はともかく、事情聴取は充分にありえた。

 

身を隠さねばならない。

 

 

-------------

 

 

 

 

ニューヤーク国際空港。

 

グラナダからの客を迎えるために、サングラスの青年とチャイナドレスの少女が待っていた。

発着口から出てきた男がそれを見て、微笑む。

 

イェ・チャージーは、クワトロ・バジーナの隣に立って、なんとか自然に手を触れ合わそうとしていたのだが、ものの見事に失敗していた。

 

クワトロにまったく相手にされていないのだ。

 

『伝承者』一門の『爪』ともあろうものが!

そう思って怒るよりも面白みを感じるのが、チェン・シャオロンという男である。

彼自身は『それが長生きの秘訣』くらいに考えている。

 

「空港まで出迎え、ありがとう。」

 

「いや、とんでもない。

老師もお変わりなく。」

 

うむうむ。

と、チェンは頷いた。

いかにも好々爺といった仕草であるが、腰も曲がらず、シワひとつない彼にはなんとなく似つかわしくない。

 

「アムロたちは?」

 

「クランバトル養成所の講師として、なかなか上手くやっているようだ。

ララァ・スンも臨時の講師として、壇上に立った様だが、これは不評だったようだ。」

 

「そうですか……」

 

「抽象的でなんだかよくわからん……というところらしい。

なにしろ、フラナガン側が用意したコースを無視して、富と名誉のためにクランバトル養成所にはいった面々だ。

そんなことより、実践的な技術のひとつも、というところだろう。」

 

グラナダからニューヤーク。

しかもニューヤークには何日が滞在することになるはずだが、着替えも含めて、チェンはなにも荷物を下げていなかった。

 

「きみもずいぶんな活躍だったようだな、クワトロ君。」

 

「なんとか、生きながらえました。

世の中は広い。わたしが把握していない猛者たちもまだまだ多いです。」

 

 

朝のニューヤークは、昨夜の騒ぎが嘘のように日常を取り戻している。

 

車内には先客がいた。

ラインハルトとその有能な赤毛の秘書。それにニューヤークの市会議員ガルマ・エッシェンバッハ、である。

 

「遠路はるばるお越しいただいて感謝する。」

 

ラインハルトは頭を下げたが、チェンはまずはその隣に座るキルヒアイスの肩に手を伸ばした。

 

アンネローゼを刺客からかばって、撃たれた傷である。

当たりどころが悪く、再生治療は終わったもののリハビリが必要だと言われていた。

まだ、その腕はギプスで固定され、首から下に吊るされている。

 

 

チェンの指は、キルヒアイスの手のひらと首筋。2ヶ所に触れた。

 

「あとで、ギプスは外してしまっていいよ」

チェンはそういいながら、キルヒアイスの隣に座った。

「ストレッチ程度なら動かしてもいい。そのほうが治りが早い。」

 

キルヒアイスは驚いたように、チェンの顔を見つめ、それから礼を言った。

痛みはなかったが、それでもどこか体の奥に残る痺れが明らかに改善されていた。

 

続いてクワトロとイェが乗り込むとリムジンは、するすると走り出した。

 

キルヒアイスは胸元からメモを取り出す。

「先日のニューヤーク市街と海上上空の戦闘、ならびに昨夜のセントラルパーク一帯でのモビルスーツ戦は、公式には『クランバトル』として処理されました。

これまで、ニューヤークではクランバトルは必ずしも盛んでなく……届出を受けた事務職員が前例のない処理に遅れが生じたため、正式な認可よりも早く試合が始まってしまった……と

そういうことに、なっています。」

 

「でも本当は?」

 

「フリードルフ卿の後継をめぐり、彼がその地位や権限を夫人に継承させるのではないかと勘ぐった親戚筋の犯行です。」

キルヒアイスは、一日の入院の遅れを取り戻すべく、昨晩はほとんど眠らずに、ラインハルトやヤン、クワトロや、ニューヤーク市警のマクレーン警部補と打ち合わせを行い、休憩すらとっていないはずだったが、疲れた様子など微塵も出さなかった。

 

「さっきの言は撤回だ。」

チェンが淡々と言った。

「キルヒアイス……だったな。きみ、はまずは休息をとれ。リハビリよりもまずそれが優先だ。」

 

「見抜かれたな、キルヒアイス。」

ラインハルトが友人にしか見せないいたずらっぽい笑顔を見せたが、チェンは、ラインハルトを見つめた。

 

「……きみもだ、ラインハルト。」

 

「言われたな、ラインハルト、キルヒアイス」

クワトロは笑ったが、チェンはぼそりと言った。

「きみもだぞ、赤い彗星。」

 

クワトロは憮然とした。

 

「いずれにしても、モビルスーツを持ち出した傭兵から証言がとれたことで、少なくともハイネ家には牽制が出来るはずだ。」

 

友人の困った顔をうれしそうに眺めていたガルマが言った。

 

「あとは、式典の当日までは大きな仕掛けはあるまい。となると、もうひとつ。」

ガルマは指をたてた。

「わたしが、わたしの依頼でジオン駐留軍を動かしてしまった。

こちらの問題も解決しないとな。」

 

「それはきみ自身の人望のよるところだろう?」

とクワトロが返したが、ガルマは首を振った。

「……血筋の問題だな。

たしかにこれ以上モビルスーツを使ったテロを封じる意味では唯一無二の最善手だったと思うが、反面、困ったことにもなった。」

 

「なんだ、それは?」

 

「鈍いな!クワトロ。」

ラインハルトが茶化すように言った。

「ジオン駐留軍が、ザビ家の血を引くものの指示で動いてしまった……という事実だ。

まだ、ジオンには、ザビ家派もいる。

そしてそれを牽制しようとする現公王府側もいる。ガルマの呼びかけでジオン軍が動いてしまったのは、その関係を緊張させてしまっのだよ。」

 

「つまり、ジオン軍がニューヤーク防衛にモビルスーツ部隊を派遣したのを、ジオン公国として、追認することが必要なわけだな。」

 

クワトロら考え込んだ。

 

「―――ある意味簡単だ。

ジオン公国から、今回の記念式典にVIPを列席させればいい。」

 

「その働きかけを頼めるか、シャア。」

ガルマは、友人の困った顔に心底嬉しそうに言った。

 

 

 

 




「世界中からVIPの集まるようなイベントで、荒っぽいことはできないのだけれど……
たまたま振り回したレイダーのハンマーの軌道上にあれの後頭部があったりする『事故』ならしょうがないわよね。」
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