第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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グラナダのほのぼの学園ラブコメは、すこし置いといて、ニューヤークを先行いたします。





GQuuuuuuX season2 第14話 その日~護衛隊長の憂鬱

男はホテルのエントランスで一旦立ち止まると、周りを見回した。

すぐに、モーニングコーヒーをすするゼロ・ムラサメの姿を見つける。

 

「おおっ! これはこれは」

 

一応スーツを着用はしているのだが、着崩していてなんとなくだらしない印象を受ける。

髪は櫛が通っておらず、顔にはニヤニヤ笑いがへばりついていた。

 

許可も取らずに、ゼロ・ムラサメの席のまえに腰を下ろした。

 

「…妙なところで会うな。」

ゼロは不快そうに眉間にしわを寄せた。

「てっきり、クランバトルスクールの取材で、グラナダにでも行っていると思ったぞ。」

 

「それも考えたんですがね。」

 

男は大声でウェイターを呼びつけて、アイスコーヒーを注文した。

一流ホテルのラウンジを担当しているウェイターは、いやな顔をした。

 

ラウンジで寛いでもらうには相応しくない客だと判断されたのだろう。

男のほうもだが、ゼロも異装だった。

研究者が着るような白衣である。

 

と言うよりも、彼女はほかに上着を持っていなかった。

 

それでも、宿泊客であるゼロの顔をつぶすわけにはいかない。

 

程なくしてアイスコーヒーが運ばれた。

 

「……会計は別にいたしますか?」

 

「このひとも分も俺につけてくれ。」

男はそんなことを言い、ゼロは目を丸くした。

 

「へえ? 羽振りがよいのね、ずいぶんと。」

 

「俺はすこしは名前の知れたジャーナリストで、これはインタビューだ。経費で落とす。」

 

「―――ほう? そいつはいいな。オレもご馳走になるか。」

 

ドンと、テーブルに拳が叩きつけられた。

 

 

男は思わず、身を竦めた。

名乗りの通り、彼は名前の通ったジャーナリストだった。

若くして、いくつものスクープをモノにし。

特に、即位したばかりのアルテイシア・ソム・ダイクンへのインタビューは、高く評価された。

クランバトルが非合法だった時代のアムロとテム・レイを描いたノンフィクションは、ベストセラーにもなっている。

 

参ったな―――

 

いまはジャーナリストではあるが、元は軍人だ。

危険を察知する能力については、ニュータイプ並と言われた彼が、そいつの接近に、声をかけられるまで気が付かなかったのだ。

 

彼のカンが衰えたのか。

それとも気付かれずに接近した「そいつ」が特別なのか―――

おそらくは後者だろう、なにしろ。

 

「大丈夫よ、シェーンコップ。ただの怪しいジャーナリストだから。」

 

怪しいですかい?

 

男はぼやいた。

 

シェーンコップはその顔を覗き込んだ。

 

「―――っ!

おまえ、ジョーカーか?」

 

「まあ、大戦中はそんな名前で呼ぶやつもいましたかね。」

男はボヤいた。

「軍からは、足を洗ってるんだ。あだ名じゃなくて、ちゃんと名前で呼んでいただけますかね、隊長。」

 

「もちろんだ!」

シェーンコップはニヤリと笑った。

「貴官の復隊を心から歓迎する。カイ・シデン!」

 

「冗談じゃねえです。

誰が進んで傭兵稼業なんかに足を突っ込みますかね?」

 

「仕事のヤバさでは、どう考えてもあんた取材のほうが、シェーンコップの傭兵団よりも上だと思うよ、カイ。」

ゼロが楽しそうに言った。

「このまえ会ったのはいつだったかしら?

たしかズムシティで、非合法のクローン研究所から逃げ出してきた女の子を拾ったとき……」

 

シェーンコップが手を挙げてウェイターを呼んだ。

 

たしか、経費で落ちるんだったよな……といいながら、ワインに分厚いステーキ、サラダのセットを頼む。

 

カイは、レーダー外からビット攻撃でも受けたように苦虫を潰した表情を浮かべた。

 

「そして、敏腕ジャーナリストたるカイは、いち早く、フリードルフ家のゴタゴタを察知して、ニューヤークを訪れたわけだ?」

シェーンコップの口調は、どこか意地悪そうだが、彼は、このカイ・シデンという男を嫌いではない。

 

10代半ばで従軍し、モビルスーツの名パイロットとなり、かといって軍での立場に固執せず、さっと身を引いてジャーナリストへ転身した。

見事だ。

 

カイは胸ポケットから、金属のカードを取り出した。

 

「一応。せっかくの大イベントなんで、招待状は確保してありますよ。

―――ついで、にね。」

 

「ついで?」

ゼロが興味深げに尋ねた。

「フリードルフ卿の結婚記念式典はたしかに、見世物でしかないけど、彼の相続を巡ってのゴタゴタはけっこうシャレにならないことになってるけど?」

 

「もちろん!

そっちも取材はさせていただきますよ。

―――ついで、ですけどね。」

 

「ほう?

もと名狙撃手“笑う道化師”には、モビルスーツまで繰り出してのテロよりも気になることが進行中だというのかね?」

 

「まあ。」

カイは、言うべきかどうか、声をひそめた。

「こいつは、あんまり隊長殿には聞かれたくないんですが」

 

「なんだ?」

 

「ムラサメ研究所のロストナンバーが、フリードルフ家に秘匿されてるって噂です。」

 

 

「まあ。なにそれ?」

ゼロの顔立ちは整っている。

そして、口元にはいつもの笑みが。

だが、その瞳だけが、深く、静かに、沈んでいた。

「ぜんぜん、知らないわ。」

 

 

 

----------------

 

 

 

旅立ちまでは、あまり時間がなかったが、手続きは順調だった。

ミーア・キャンベル特別補佐官は、手回りの荷物をてきぱきとまとめ、

「では行ってまいります。」

そう言うと、若き外交官は颯爽と、その初仕事に旅立って行った。

 

たしかにミーアとしては「初仕事」なのだが、彼女にはアルテイシア・ソム・ダイクンの影武者として、様々な式典で活躍してきた実績がある。

 

ランバ・ラルは、彼女を送り出したこと。信じて疑わなかった。

 

「心配はしてなくてよ、ランバ・ラル。」

アルテイシア・ソム・ダイクンは、落ち着いた表情で、彼に微笑みかけた。

「ミーアはうまくやるでしょう。もっとも彼女は恋愛面にはかなり奔放だから、そっちのほうで羽目をはずさないといいけれど。」

 

ランバ・ラルは頷いた。

 

これでもし、アルテイシアが自分が行くとでも言い出したら、シャトルの手配ではすまない。

ソドンをグラナダから呼び戻すか、グレイファントムを使うか。

いずれにせよ、御座艦を用意せねばならない。

そして、アルテイシアの専用モビルスーツであるレイダーの整備も。

 

自らを律し、ミーアを代理として派遣したアルテイシアの落ち着きにも、ランバ・ラルは満足していた。

 

「……アルテイシア様。

そう言えばレイダーは。」

 

アルテイシアの細い肩がわずかに震えたように、ランバ・ラルには見えた。

 

ランバ・ラルの胸中にいやな予感が過ぎる。

 

このところ、レイダーは新しい強化パーツである「ドラグーンシルエット」のテストのため、シルエットを装備した状態で、待機している。

御座艦であるソドンが、グラナダに出航しているため、グレイファントムに移されたはずだ。

 

ランバ・ラルがコンソールを操作する。

 

レイダーは。

 

貨物用シャトルに積まれて、地球に向かっていた。

 

行先は。

 

……ニューヤーク宙港。

 

 

 

れた!!

 

ランバ・ラルは、アルテイシアを睨んだ。

 

「どうしたのです、ランバ・ラル。

とっても怖いお顔……」

 

「ミーア・キャンベル!!」

 

さあ?

なんのことでしょう。

 

アルテイシアと、寸分変わらぬ容姿、そっくりの所作をもつ女はころころと笑ったが、ランバ・ラルはもう相手にしなかった。

 

大股で、執務室を後にする。

 

アルテイシア・ソム・ダイクンとしていま執務室に座るのは、ミーア・キャンベルだ。

だが。

 

何ができる?

 

ミーア・キャンベルを名乗ったアルテイシアのシャトルはとうにサイド6を出航してしまっている。

騒ぎ立てて、ニューヤークに行ったのが、実はアルテイシア・ソム・ダイクンだと分かってしまったら。

 

フリードルフ家の相続争いどころではない。

 

アルテイシアが命を狙われることになる。

 

「シーマ・ガラハウ。」

 

自分の執務室に戻ってから、彼は、公国府直属艦隊の戦闘集団の指揮官を呼び出す。

 

「珍しいじゃないか。荒事かね?」

 

相変わらず、邪悪そうな笑みを浮かべた女傑は、ゆったりと、艦長席にふんぞり返っていた。

ジオン公国府が、軍に許可を取らずに動かせる唯一の戦力。

そのなかでも、シーマ艦隊は、ザンジバル級巡洋戦艦リリーマルレーンを旗艦にムサイや輸送船からなる戦闘集団だ。

 

採用の機体はすべて、海兵隊仕様にカスタムされたゲルググ。

シーマ用には、試作機として作られたガンダム・ガーベラが積み込まれている。

 

「何機だせる?」

 

「行先にもよるね。」

 

「地球圏だ。ザンジバル以外は用済みだな。」

 

「大気圏突入かい?

たしかに、リリーマルレーンにはその機能はあるけどね。」

シーマは嫌な顔をした。

彼女にはおよそ、上官への信頼というものがない。

 

言われるがままに、散布した無力化ガスが致命的な毒ガスだったという体験から来るものものである。

 

「行先は?」

 

「ニューヤーク。」

 

「論外だね。あれだけの大都市にジオンの戦艦を降下させることが、どういうふうにとられるか、わからないあんたでもないだろうに。」

 

「北米の名家フリードルフ家の式典に、姫様が参列される。

その護衛をしてほしいのだ。」

 

「ああ、なんだか、相続争いが激化してるんで、治安維持のためにキャリフォルニアベースから、モビルスーツ隊を出したって、アレか。」

シーマは怪訝そうな顔をした。

「さっきニュースで、“人道的立場から、テロの抑止のため”にモビルスーツ隊を送った……って。公王陛下ご自身が、表明を出されていたな。」

 

「……あれは、影武者、だ。」

ランバ・ラルは吐き捨てた。

「姫様にしてやられた。

ミーアを派遣するのだと偽って、本人が地球に降りられた。」

 

シーマはケラケラと笑った。

 

偉そうなヤツが困っているのを見るのは、大好物だ。

 

「あくまで参列してるのは、アルテイシア様ではなく、ミーア・キャンベルだって、てい、だね。

……なら、リリーマルレーンじゃない方がいいね。

白兵戦向きの部下を一個小隊をシャトルで降下させよう。

モビルスーツ戦力は、わたしのガンダムガーベラと……ゲルググM2機。都合、3機。

あまり騒ぎ立てると、バレるよ。」

 

「妥当だな。」

ラルはしぶしぶ頷いた。

 

「本当はあんたが行きたいんだろ?

白兵戦、ゲリラ戦は得意なはずだからね。

まあ、今回は諦めて、わたしらに任しておきな。

姫様を五体満足で、連れ帰ってくるよ!」

 

 

 

 

 

 




ゼロがフリードフル家の護衛なんて地味な仕事を請け負ったのもこのためです。
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