ティターンズって、あんまり固有名詞を覚えてないのですね。ジャミトフ、バスク、ジェリドにカクリコン、ヤザンとその部下たちくらい。
あとアクシズは、ジオンが勝ったこの世界では単なる資源用小惑星(木星船団の中継地点)でしかないので、正史ではアクシズに逃れたジオンの精鋭たちはたいてい、戦後人員整理で軍を除隊。バリバリやってるのはドレンくらいという設定です。
見失った!!
尾行していた男の顔に焦りが浮かんだ。
設定時間は夜である。
わざわざコロニー内を暗くして、さらにそこで活動する場合には別に人工照明を灯す。
まったく無駄なような気がするのだがとにかく夜だ。
難民たちの多く住む街は、雑然としてはいるが、この時間も店を開けている飲食店も多く、活気に溢れている。
たしかにこの路地を曲がったはず……。
覗き込んだとたんに、顔面にパンチを浴びた。
後ろにふっとびそうになる所をそのまま、胸ぐらを掴まれて、路地に引き込まれる。
「つけてんのは、わかってんだよ。」
息が出来なくなる寸前まで、首を絞められ、また離され。それを5回も繰り返されたあとでは男には抵抗する気力も失せていた。
「……階級は?」
「あ、いや、俺は調査会社の雇われだ。ティターンズじゃない。」
「所属と名を言え。」
「だから俺はしがない調査員だ。バロ・ボーンズ探偵社ロベルトだ。別にティターンズに所属してるわけじゃないんだよ。」
みぞおちに拳がめり込んで、ロベルトはうずくまって、嘔吐した。
「そいつをてめえが証明するまでなぐり続ける。」
そう言われて、慌ててロベルトは懐をまさぐった。そんな動作をしたので、当然今度はけりが飛んできた。
仰向けにぶったおれながらも、震える手でIDを差し出す。
男はそれを一瞥した。
ニヤッと笑う顔が、笑顔ではなく猛禽類がクチバシを開いたようにロベルトには思えた。
「俺の宿を確認するためにつけてたんだな?」
ロベルトは頷いた。
ここで嘘をいってもどうにもならない。
ヤザン・ゲーブル。
ジェリド・メサ。
両方の居場所を確認するのが、依頼内容だ。
「で、何処にいる?」
「は、はい?」
「ティターンズのスカウトの皆さんはどちらにいらっしゃるんだよ。」
「い、いえ、うちは曾孫受けなんで」
次のパンチが飛んでくる前に、ロベルトは慌てて言った。
「なら早いとこ責任者に会わせな。」
「え?」
「気が変わったんだ。ヤザン様がティターンズに入ってやると。そう言ってるんだよ。」
本当に孫請けだったらしい。
ヤザンとジェリドがティターンズに会うには二日かがった。
けっこうひどく殴りつけてしまったが、その後、ロベルトはヤザンたちに良くしてくれた。
約束の場所に現れたロベルトは、片手にギプスをはめ、顔には湿布が貼られていた。
ずいぶん酷い目にあったんだな、とヤザンは思ったがやったのは自分である。
態度は平静で、オドオドしたところも、気を使いすぎるようなところもない。
少なくとも暴力や痛みに、心まで折れてしまうような男ではないということか。
一軒のバーに連れられて入り、ボックス席に案内された。
ティターンズの、たぶん幹部将校と面会ということになるのだろうが、ヤザンは遠慮なく酒を頼んだ。
ジェリド、おまえはでかいから向かいに座れ、といってロベルトの隣に腰掛ける。
「ロベルトさん、あんたもパイロット上がりかい?」
「なぜ分かる?」
「ぶん殴られて殺されそうになっても冷静に生き延びることを選んだからだ。
それでそんな目にあっても俺に卑屈になっちゃあいない。
小隊を組むなら僚機に欲しいわな。」
「小隊? M.A.Vではなくてか。」
「ニュータイプって奴はバケモンだ。あんなもん相手に律儀にM.A.Vなんぞ組んでられん。編隊くんで叩きのめすんだ。
逆にいやあ、M.A.Vなんぞ組んだら、M.A.V単位で各個撃破される。
―――ってわけでだ。
どうだ。一緒に来ねえか?
いい目見せてやるぜ。」
「回線が繋がっている。」
それには答えず、バーのテーブルに、ロベルトはスマホをおいた。
画面が輝き、禿頭にサングラスの男が映った。
「ヤザン・ゲーブル。随分と面倒を掛けてくれたな。」
「こりゃあ、バスクさんか。意外に大物がでたな。」
「以前にも増して、ティターンズは腕のいいパイロットを必要としている。
ヤザン・ゲーブル『大尉』。ジェリド・メサ『中尉』。いかなる心変わりかは分からぬが、我々は君たちを歓迎する。」
「一応、条件があるぜえ?」
ヤザンは怖い顔を作った。
本人は笑ったつもりなのだから、どうしょうもないな、ジェリドは思った。
「聞ける限りは聞こう。」
「そうだな。まず俺もこのジェリドも、モビルスーツはピカピカの新型に乗りてえんだ。
ザクや軽キャノンの改修機じゃあ、どうにも歯が立たねえ相手がいることはわかってきたんでな!」
「……テストパイロットでもしたいのか?」
「まあ、それに近いわな。はっきり言っちまうとおまえらが作ってる新型ガンダム。
アレに乗らせろ。」
バスクはむうと唸った。愉快そうではない。
「あれはまだロールアウトしていない。」
「わかってるわ、こちとらも情報は持ってんだ。グリーンノア。あそこにテストパイロットとして配属しろ。」
バスクは黙り込んだ。
「いいか?
俺たちは戦争屋だ。戦争ってのはな、戦場で行うんだ。てめえらみたいにテロまがいの奇襲を民間人も巻き添えにやってるのは、もう戦争じゃねえ。」
バスクはヤザンにそんな「テロまがい」をやらせる気はまんまんであったが、一方でジャミトフからは質のいいパイロットを確保しろと矢の催促だった。
これはバスク自身にも責任があって、先日のシャトルの襲撃、ネオホンコンでの作戦行動の失敗をバスクは「パイロットの質が悪い」ことを盾に逃げ切ったのだ。
ジェリドはともかく、ヤザンはほしい。
それに、近々……デラーズ・フリートの「星の屑」が実行される。そこで、ヤザンをフランクリン・ビダンの作った新型に乗せることはやぶさかではない。
「承知した。だが連邦軍としての正規の作戦行動には従ってもらうぞ?」
「もちろんだ! あとひとつ…」
「まだあるのか?」
「こいつだ! こいつも雇ってもらいたい。」
ヤザンはロベルトを引き寄せた。
バスクは面食らったように言った。
「誰だ!? それは。」
「お前んとこが、雇った探偵社の使い走りだよ。元連邦軍のパイロットだ。腕は保証する。」
バスクはそれも不承不承、了解した。
地球とコロニーでは通信にもタイムラグがでる。
バスクは意外に近くにいるのかもしれない。
通信が切れたあと、ロベルトはヤザンに文句を言った。
「ヤザンさん! 俺は別にティターンズ入りなんて望んでないんだが。」
「まあまあ、良いじゃねえか。いい目見してやるぜ?」
「これは言いたくないんだが」
ロベルトは頭を抱えながら言った。
「あんたの言う通り、俺は確かにパイロットだったが、連邦じゃなくてジオン……」
「そこらはいいっこなしだ!」
ヤザンはロベルトの背中を叩いた。
「知ってるか? いまティターンズへ配備中の機体を。ザクを連邦の最新技術でチューンナップした。“ハイザック”というらしい。あれなんかおまえにぴったりじゃないか?」
「ジェリド!」
ロベルトはヤザンに弟分のように付き従う大男に声をかけたが、ジェリドは面倒くさそうに手を振っただけだった。
「ヤザンがこうするって言い出したら、聞かないんだよ。諦めるか、殴られて諦めるか、好きな方を選べ。」
まずいなあ。ジェリドがマークII、ヤザンがZETAに乗りそうだ。