あと各研究施設が性能テストに新型機を貸出してたりします。
マクレーンは決して粗暴な人間ではない。
だが、犯罪者は別だし、不特定多数を標的にするようなテロリストには、およそ容赦というものがなかった。
その彼が。
テロリストに同情することになるとは、夢にも思っていなかった!!
「た、助けてくれっ!」
足元に転がった男は、マクレーンにすがった。
一応、マクレーンはそいつを蹴飛ばしたが、だいぶ手加減をしていた。
既に、男の服はボロボロ。爆発の炎に炙られた髪はチリチリに焦げていた。
「お、俺を、た、逮捕! 逮捕してください!」
「はあ?
てめえんとこは、ハイネ家の下部団体だろ?
警察上等でやってきたんだろうが。」
彼の背後のビル。
爆発音とともに今度は5階の窓からまた炎が吹き出す。
続けざまに、三、四人。
飛び降りてきた。
もちろん、5階というのは、落ちて無事でいられる高さではない。
気絶したもの以外は、マクレーンの顔を見るなり、ズタボロの体を引きずるようにして土下座してきた。
「お、お巡りさん! 助けてください。」
「いったいなにが…」
5階の壁面か、内側から弾けるように吹き飛んだ。
続いて3人。
飛び降りた。こちらは、建物にワイヤーを掛けて落下速度を殺している。
怪我をした男たちが、悲鳴を上げた。
「おまわりさん!こいつらです。」
「た、たいほして! たいほしてください!」
はあ?
どっちを、だ。
マクレーンは少し薄くなった頭をかいて、たったいま、ハイネ家の工作チームを壊滅させた奴らに対峙した。
「ニューヤーク市警のジョナサン・マクレーン警部補だ。」
IDを提示しながら、マクレーンは言った。
相手の風貌はわからない。
頭部まですっぽりと装甲スーツに包まれている。
手に握るのは、長大な斧だ。
中世前期に使われたハルバートに似ているかもしれない。
それ以外の武器は身につけていないようだったが、逆にそれで十分とも言える。
「我々は、薔薇騎士団。フリードルフ卿の依頼で、卿の暗殺未遂犯を追っている。」
「捜査は警察に任せて欲しいもんだな。」
マクレーンは、ほとんど廃墟と化したビルの5階を見上げながらぼやいた。
火事は起こっていないようだ。
このストリートは、いまくらい時間人通りもまばらなので、落下物で怪我をしたものもいないようだ。
あるいは、そこまで計算して、この時間に襲撃したのか。
薔薇騎士団ならありそうなことだった。
「捜査協力、だよ。マクレーン。」
先頭の装甲服が言った。
多少の動作アシストはあるものの、宇宙空間でも動ける装甲服は、1Gの元では30キロ以上の重量がある。
だが、男たちは、それはまったく苦にしていないようだった。
「白昼堂々と暴力行為は、感心しないな。」
「まったくだ!
こちらは、斧と標準装備だけなのに、銃まで使ってきやがった!
恐ろしい犯罪者集団だな、ハイネ家といのは!」
一歩装甲服が踏み出すと、元ハイネ家の破壊工作員たち=無力なけが人たちは、悲鳴をあげて、マクレーンの足元にすがった。
遠慮なくそれを蹴飛ばしながら、装甲服の男たちに言い返す。
「だいたいなんだ!?
適当に拠点を急襲すれば、むこうからボロを出して戦闘になる、くらいのつもりできたんだろう?」
「おや」
表情はわからなかったが、たしかに、装甲服の相手は笑った。
「なにを言ってんだか。おまえもそう考えてここに来たんだろう?
捜査令状はもってるのか、カウボーイ?」
マクレーンは黙った。
図星だったのだ。
「こいつは、行く先々でトラブルを起こす奴でな!」
楽しそうに後ろの同僚に話しかける。
「駐屯基地に爆発物は仕掛けられる、空港はジャックされる。せっかくのクリスマスパーティまでテロの目標だ。連邦一ついてない軍曹。
そう呼ばれてたんだぜ。」
顔も名前も分からないが、こいつは一緒に軍の飯を食った仲間らしい。
「……わかったよ。しかし、こいつらは俺が逮捕する。かまわんな?」
「必要なデータはもらったからね!」
陽気に相手は答えた。
「じゃあ、また会うかもしれんが」
傷ついた男たちに手錠をかけながら(ひとり抵抗しようとしたものがいたので殴り倒した)マクレーンは言った。
「パーティにようこそ! 相棒。」
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「ジオンは、ミーア・キャンベル特別補佐官を送り込んでくるようだ。」
ガルマ・エッシェンバッハは、友人たちにワインを勧めながら言った。
「たしかに、フリードルフ家は名門とはいえ、私的なパーティだ。首相クラスが来るとも思わなかったが、意外だな。
知っているか、ミーア・キャンベルって名前らしいが?」
「たしか、アルテイシア・ソム・ダイクンの側近にそんな名前の女がいたな。」
サングラスを外しながら、クワトロはワインを受け取った。
彼が救助した傭兵団のリーダーは、よくやってくれた。
同様な立場でハイネ家に雇われた傭兵団のものたちにも話を通してその日のうちに、全ての傭兵団に、フリードルフ家の抗争から手を引かせることに成功したのだ。
「赤い彗星」が護り、ジオン正規軍までが駐屯したニューヤークにモビルスーツ攻撃など、仕掛けたい傭兵団などありえない。
とっとと、手を引きたかったのだが、ハイネ家との「契約」が彼らを縛っていた。
『黄金の第8小隊』のバルゴはそこを巧みに説得し、全員が速やかに、ハイネ家からの縁切りを宣言した。
あとは、ハイネ家直属の実行部隊を潰していけばいい。
シェーンコップの薔薇騎士団とニューヤーク市警は、順調にその作業を進めている。
だが、ハイネ家の当主であるリッテンはまだ逮捕されてはいなかった。
「優秀……なのか?」
ラインハルトが尋ねた。
隣りに座るキルヒアイスは、まだ撃たれたほうの腕を三角巾で吊るしてはいたが、だいぶ具合はいいようだった。
「優秀だな。」
クワトロは、ガルマの用意したワインを一口飲んで、顔を顰めた。
とんでもなく上物のワインだった。
おいおい。
祝杯を上げるにはまだ早いぞ。
軽くガルマを睨んだが、ガルマはわざとそっぽを向いている。
「しかし、まったく聞かない名前だ。おまえはどうだ、キルヒアイス?」
「いえ、わたしも。」
クワトロはワインをワインを置いた。
もともと酒量は多い方ではない。
「もともとは、アルテイシア閣下の侍女だよ。身の回りの世話をする役目のはずだ。」
「その者をジオンを代表する外務官として送り込んでくるのですか?」
キルヒアイスは首を傾げた。
専制国家ならではの極端な人事―――そう思ったようだった。
ラインハルトも首を傾げる。
「たしかに、ひとの才能は、経験値が全てでは無いが。」
「ミーア・キャンベルについては、経験も実績もあるんだ。
もともと彼女は、アルテイシアの影武者―――ダブルを務めていたのだよ。」
「それはいくらなんでも無茶でしょう…顔立ちが似ていて、公王陛下の真似が出来るとはいえ、なんの経験もない女性を送り込んでくるとは……」
真面目だな、キルヒアイス。
と、クワトロは真顔で言った。
揶揄するような調子はない。
「先日。
ネオ香港で、ヤンが主催したシミュレーションバトルがあった……」
「知っている。」
ラインハルトは頷いた。
「きみもパイロットとして参加したと聞いている。」
「そうだな。アムロやマチュ、ニャアンたち次世代のニュータイプも参加していた。それに実際に、戦場を駆け巡った古強者たちも……なかなか面白い試みではあった。」
「それがこの件と関係が?
ミーア・キャンベルも参加していたとでもいうのか?」
「逆だ。
アルテイシア閣下も参加していたのだ。」
一堂は、クワトロがなにを言いたいのか、瞬時には理解できなかった。
キルヒアイスが最初に気づいて、おずおずと尋ねた。
「あれは、リアルタイムでア・バオア・クー戦を再現したため、パイロット役の方たちは、その間、数日間は、ネオ香港大学内に、拘束されたはずです。
あの時期、公王陛下は、連日パーティやレセプションに引き回されておられたはずでとてもそんな時間は―――」
「その間、アルテイシアの代わりに、パーティやらレセプションやらに引き回されていたのがミーア・キャンベルだ。」
クワトロは楽しそう、ではあった。
「たしかに、とくに重要な決定事項はなかったとはいえ、資源輸出を巡るクランバトルの調整などいくらでも話はあった。
それくらいのことをアルテイシアに代わってやってのけて、しかも誰にも気づかれない。
単に仕草や顔立ち、スタイルを似せるだけでは無く、思考法まで本人と同じ水準で、行動出来る。」
まあ、これはオフレコの話だが。
と、クワトロは、ガルマにワインのお代りをついでもらいながら、楽しそうに笑った。
「なるほど……では、ジオン公国府は、そのミーア・キャンベルを使い捨てのダブルではなく、外務官僚として育てるつもりになった……という事だな。」
ラインハルトも頷いたが、ガルマは、ちょうど入ったメッセージをみて、眉をひそめた。
どうした?
と聞かれて、ガルマは腕を組んだ。
「わたしは、月面都市エアーズで、アルテイシアと再会している。
あの時は彼女はテストパイロットのソム・エドワウと名乗っていたが。
この話はまえにもしたな?」
「ああ。自分を狙って、エアーズを襲ったニューディサイズの部隊を自分で撃退した話だろう?
―――まったく!
妙な偽名に、思いつきの行動!
誰に似たんだか―――」
げほげほげほ
こいつらの中では一番常識人のキルヒアイスが咳き込んだ。
ラインハルトも唖然としている。
付き合いの長いガルマは、クワトロのその発言も想定内だったのか。
続けた。
「実際、今回の件など、彼女が喜び勇んで飛んで来そうか案件だとはおもわないか、シャア?」
「そうだな。だが、国家元首はそれほど暇でもないしな。いくら北米を代表する名家であっても、結婚十周年のパーティにジオンの元首が自ら来るのは軽々し過ぎるだろう。
フリードルフ家との友好を表明する意味合いがあるとしても、若手の外交官で充分だと―――」
「まあ……これは妄想のたぐいだがね、シャア。」
ガルマは意地悪そうに笑った。
「実によくできた影武者は、主の代わりが務まる。
ならば逆にアルテイシア自身が動くのに、影武者の名前を使えば、いちいち御座艦を動かなくてもいい。護衛も最小限ですむ。
そんな風に考えたんだがね。」
な。
クワトロがグラスを置く音が、室内に響いた。
「アルテイシアが。
自分が来るのに大袈裟になりすぎないように、わざとミーア・キャンベルの名を使った、と?」
「そうだよ。そうすれば、不在の間は、ミーア・キャンベルがアルテイシア・ソム・ダイクンのフリをしていてくれるじゃないか!」
「なにか。
そのきみの思いつき以外に根拠があるのか?」
「さっきね。
キャリフォルニアベースの司令官から、連絡が来たんだ。」
ガルマは自分の端末を、クワトロに向けた。
「キャリフォルニアベースに、『レイダー』が降ろされたそうだ。大気圏内運用テストという名目で、ニューヤークに輸送するように指示をされているのだが、なにか知っているかと、ね。
どう思うかい。」
「感想を言っていいか?」
ラインハルトが手をあげた。
なにかな、と不機嫌そうにクワトロは答えた。
「きみたちは―――
ジオンとは関係ないようなふりをしていながら、必要な情報ソースや影響力はちゃんと残しているんだな!」
ラインハルトが「こいつらワガママだなあ」と思う日がくるとは!