キャリフォルニアベースからの旧型機はすべて、シーマ艦隊の最新鋭機に。
海兵隊の精鋭に、 薔薇騎士団の猛者たち。
はっきり言ってつけいる好きがあるのでしょうか?
「いまのご時世、ザクはたいして役に立たない。キャリフォルニアベースに返送させたよ。」
長い煙管を燻らせながら、女傑は言った。
「かわりにわたしんとこのマリーネを配置した。」
「それは、ガルマ議員やキャリフォルニアベースの司令官の許可はとっているのか?」
シェーンコップの視線は、鋼鉄の硬さを持っていたが、シーマ・ガラハウは気にもとめない。
ふうっと、シェーンコップの顔に煙を吹きかけた。並の男ならそんなことをされたら、怒り狂うだろうが、少なくともシェーンコップには表情をまったく動かさないだけの胆力があった。
「ガルマ『エッシェンバッハ』氏にゃあ、いまのジオンへの権限はなんにもないよ。
それにこいつは、軍事的な作戦行動じゃない。
あくまでもダイクン家とフリードルフ家の永年に渡る信頼と友誼から決定された人道的支援だ。
つまり、キャリフォルニアベースのザクはあくまでも臨時的な配備であり、公王府直属艦隊のわたしらこそが、依頼を受けた正規の防衛部隊ってことになる。」
「市街地ではビーム兵器を使ってもらっては困る。」
「安心しな!
マリーネっていったろう?
コロニー内部の戦闘用に、実弾兵器に切り替えてあるよ。」
シェーンコップは。
この間、相手をじっくりと観察している。
シーマ・ガラハウ。
元ジオン海兵隊。
大戦初頭に、中立コロニーに毒ガスの注入を行ったとされる悪名高い部隊だ。
戦後ジオン正規軍にも身の置き場がなく、ギレンの親衛隊の中でも、その過激思想から冷遇されていたデラーズ准将のもとに身を寄せた。
デラーズ・フリートは、イオマグヌッソ事変後、アルテイシア体制に従わず、再三の帰還命令を無視して、暗礁空域に留まった。
そのデラーズの「説得」の功績を称えられて、シーマ・ガラハウはその麾下の艦隊ごと、公王府直属軍に移籍。
唯一のまとまった打撃戦力として、旗艦としてザンジバル級巡洋艦リリーマルレーンほかムサイや補給船も抱える。
モビルスーツは、ゲルググを改修したゲルググM。
公王府直属軍には指定の軍服はあるはずだが、シーマはそれをだらしなく着崩している。
羽織ったマントは特注品らしく、海兵隊のマークにでっかいハンマーが刺繍されていた。
“要するに『頭のいいナマケモノ』ってやつだ。理想の指揮官だな。”
シェーンコップは手を差し出した。
「……いまは正規軍じゃないんで、敬礼は省略している。
ウォルター・フォン・シェーンコップだ。」
「シーマ・ガラハウ。
うちの陸戦隊を20名ばかり連れてきてるから、指揮はそっちにまかす。」
シェーンコップは目を細めた。
「随分と信頼してくれるんだな?」
「わたしは、ガンダムガーベラで待機する。」
握手には応じずに、煙管の先で天井を指し示した。
「……リリーマルレーンは衛星軌道上で待機だ。
もし、いまの戦力で間に合わなければ、降下させることになる。」
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ヤン・リーは姿見のまえでうかない顔をしていた。
ウォン叔父のよこしたタキシードが、どうにも似合わないような気がしたのだ。
ユリアンは、ネオ香港大学の高等部の制服である。
歴史のある名門校だから、中等部、高等部の制服はそのまま、礼服にもなるのだ。
正確にはユリアンは、飛び級で大学に通っているから、高等部の制服はおかしいのであるが、まだそれが着られる「年齢」であることは大きい。
「似合いますよ。」
と、如才なく、ユリアン少年は言ってくれるのだが、鏡に写る姿は道化師のように滑稽に、ヤンには感じられた。
「……悩んでいてもいかたない。
出かけるとしようか、ユリアン?」
「はいっ! 提督!」
提督は勘弁してくれないかあ、とため息をつきながら、ヤンはもう一度、ネクタイを確かめた。
彼とユリアンが滞在しているのは、短期の……せいぜい1~2週間程度の滞在をするビジネスや旅行客のための宿である。
ラインハルトやクワトロが滞在しているような一流ホテルだと、金がかかりすぎる。とは言え、郊外のホテルは不便だし、安いホテルは立地やなかのセキリュティの面で、問題がある。
なので、ここを選んだのだが、間取りも部屋の設備も、ネオ香港の彼らの部屋と似たり寄ったで、フリードルフ家への襲撃も一段落したこの数日は快適に過ごしていた。
ふたりは、階段をおりた。
この宿は、それなりに老朽化したビルの、2階と3階を使用している。
受付は1階で、いつも同じ初老の男性がフロントにひとり。
ここで鍵を預ける。
戻るのが午後8時をすぎるようなら、そのまま鍵をもって外出することも可能だ。
いつも眠そうなその男の顔色がかわっていた。
「む、迎えが来てるぞっ!」
「ええ? タクシーはこれから頼もうと思っていたんですが」
「だとしたら車種を間違えたな。」
男が指さした宿の玄関前に。
とんでもないサイズのリムジンが横付けされていた。
「……悪趣味なサイズだな。」
思わずヤンは言った。
「ニューヤークの市長だってこんな車はつかわないだろう。使うとすれば、連邦の高官くらい……」
リムジンの窓がするすると開いた。
初老の男は、にこやかにヤンに呼びかけた。
「やあ! 久しぶりだな、奇術師。」
連邦の将官服。それも礼装を身につけている。
「ゴップ閣下……」
ヤンが退役していたとしても、敬礼すべき相手ではあったが、悪意と言うより、積極的な鈍感さで、彼は欠礼した。
もちろん、丁寧に頭は下げたが。
連邦軍大将。
軍はもとより、政界にも深いパイプをもつ大物だ。
「のりたまえ、ヤン少佐。」
ドアが開いた。
なかは、スクールバスくらいの広さはある。
ソファも快適そうだった。
だが、うかつに乗ってしまったら。
そのまま復隊させられて、「ヤン少佐」にされてしまうような怖さがあった。
「いえ……これから叔父と一緒に、フリードルフ家の結婚記念日のパーティに行く予定なのです。」
「奇遇だな!」
ゴップは呵々と笑った。
「わたしも、そこに招待されているのだ。
道中少し話もしたい。
乗りたまえ。」
どうする―――
ヤンは困った。
彼としては連邦軍への復帰はなにより避けたい事態のひとつなのである。
彼の望みはこのまま、ネオ香港大学の修士課程に進学し……できれば史学科の研究室に助手として潜り込むことだった。
これは割と現実味を帯びつつある。
キャゼルヌ准教授が、自分の研究室に籍を作ってくれそうだったし、奨学金の大半を、返済のいらないビスト財団の特例奨学金に切り替えられそうだった。
「遠慮することはないよ。」
にこにこと笑いながら、ゴップは圧をかける。
「どうせ、行先は一緒なんだから!
ユリアンくんも一緒に、さ、さあ。」
つう……
と、ヤンの額に汗が滲む。
ビンチだ。
そのとき。
リムジンの隣に、真っ赤なスポーツカーが滑り込んだ。
「お待たせ! ヤン! ユリアン!」
運転していたのは、若い女性である。
栗色の髪が風になびく。
サングラスをしていたが、とんでもない美人なのはわかった。
「早く乗って! 出来れば式のまえに、フリードルフご夫婦に会っておきたいの!」
「すいません。ゴップ閣下。一緒に会場に行くのに先約がありまして。」
ヤンは丁寧に詫びて、そそくさとスポーツカーに乗り込んだ。ユリアンもあとに続く。
グン。
そのまま、ゴップの返答を待たずに、女はスポーツカーを加速させた。
「―――助かりました!」
オープンカーである。
せっかくセットした髪が風に吹き乱される。
それは女も一緒だった。
「あれは連邦のゴップ将軍でしょう?」
「そうです。ご存知なんですか?」
「なんども顔を合わせてるわ。」
ヤンはしばし考え込んだ。
「……失礼ですがどなたです?」
クルマはバイパスに入り、さらに加速する。
チラッとだけ、女は助手席のヤンを見た。
「……シオン公王府特別補佐官ミーア・キャンベル。」
龍から逃げたつもりで虎口に飛び込んでしまったようだった……!
「この前、会った時は別の名前だったわ。」
「……?」
「ソム・エドワウ。」
ヤンは頭を抱えた。
「アルテイシア閣下……なぜ、閣下が」
「わたしはいろんなことに諦めが悪くてよ?」
ギアを切り替え、さらに加速。
「あなたを公王府に採用することとか
……あとはアレが妙なことを仕出かしていないか監視する役目もあるの。」
「アレ……ああ、クワトロ大尉のことですか。
彼をそこまで危険視する理由は?」
ミーア……ソム・エドワウ……アルテイシア・ソム・ダイクンは、ちらりとヤンを見やった。
「わたしは彼が、キシリア1人を殺すためにグラナダの5000万市民を道連れにしようとしてたのを見た。
あの男の独善は、いつか必ず人類そのものを焼くわ。」
「シャイの逆襲のように……ですか?
ちょうどいまごろ、グラナダで試写会をやってらはずです。この騒ぎがなければそっちに行きたかった。」
「そう。わたしは当面、覇権国家の為政者として人類を導かなければならない。その為には人類に滅んでもらっては困るの。」
「わたしは、『フロド』のファンであのシリーズは全部読んでますが」
本当はヤンもユリアンも、覆面作家『フロド』のことをよく知っていたが、それをいまアルテイシアに話すのは憚られた。
「あくまでいくつもの偶然が、彼をそうさせたのだと思いますよ。
現実でのクワトロ大尉が、ネオ・ジオン総帥シャイになるとは思えない。」
「人間なんてそうそう買われるものではないわ。」
「周りの状況が違うのですよ。
現実に、ジオンの元首にはあなたが立っていてる。
彼はララァさんを失わず、アムロくんも友人のままだ。彼はこの現実世界では、すくなくともなにひとつ絶望はしていないんですよ。」
アルテイシアは、ハンドルを握ったまま、口をつぐんだ。
ヤンは自分の言葉が多少はささったのか……それとも話す価値のない相手と見なされたのかは自信がなかったが……
とにかくいったんはゴップの魔手から逃れた上に、タクシー代も浮いたので、これはこれでひとつ成功だったのかもしれない。
作者と登場人物が悪ふざけばっかりしてますが、ポイントはフリードルフ卿がだれを後継者に、指名するのかってところですからね!