第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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そう言えばぜんぜんふれてませんでしたが、ガルマがエッシェンバッハ家の婿養子になったのは、イセリナさんと結婚したからです。
イセリナ・ザビよりは、響きもいいですよね?










GQuuuuuuXseason2 第14話 その日~イセリナ

ノイエ・サンスーシー・ニューヤーク、大ホール。

 

幾十メートルもの高さから吊るされた巨大なシャンデリアが、磨き抜かれた大理石の床と、招待客たちの正装を柔らかく照らしていた。スーツやドレスに身を包んだ政財界のVIPたち。連邦軍の礼装、なかには中世の民族衣装に身を包んだものもいる。

 

地球圏の権力がひとつの会場に凝縮されているようだった。

 

だが、この日の主役であるフリードルフ卿とアンネローゼ夫人の姿は、まだどこにも見えない。

 

ニューヤーク市長エッシェンバッハ卿は、来賓の挨拶のため、壇上に登ろうとして、ふと娘婿の姿に目をとどめた。

なにやら、忙しく通話している。

 

単なる礼を失したということではなく、彼は今日の式典の運営に大きく関わっていたので、気になったのだ。

 

「どうした、ガルマ?

なにかあったのか?」

 

「大丈夫です、お義父さん。」

どこか少年の甘さを残したような美貌に笑みを浮かべて、ガルマ・エッシェンバッハは答えた。

「警備の警官が、うっかり消火器を倒してしまい、周りに居合わせたスタッフを10数名、消火剤まみれにしてしまいました。怒ったスタッフと乱闘騒ぎになっているようですが……

薔薇騎士団が向かいましたので、すぐ収まります。」

 

二枚目とザビ家の血筋は気に入らないが、それ以外はまあまあ、だと思っているエッシェンバッハ市長は頷いて、壇上に歩をすすめた。

 

弦楽四重奏が静かに調子を落とし、やがて止む。

壇上にスポットライトに、エッシェンバッハ市長が浮かび上がる。

 

ガルマ自身は、会場中ほどの位置で、妻イセリナと並んで、その背中を見上げていた。イセリナの指がガルマの手をそっと握った。その握り方に、いつもよりわずかに力がこもっているのを、ガルマは感じていた。

 

「ちゃんと、やってくれるかしら……お父様は。」

 

「大丈夫だよ。わたしがこの提案をしたとき、二つ返事でOKしてくれた。むしろ、よく気がついたと褒められたくらいだ!

これがきみの発案だときいたときの喜びようと言ったら」

 

エッシェンバッハ市長の声は、聞き取りやすく、会場の隅々まで朗々と響いた。

 

「ご列席の皆様。本日は、フリードルフ卿とアンネローゼ夫人の結婚十周年という佳き日に、かくも多くの方々にお集まりいただきましたことを、ニューヤーク市を代表し、心より御礼申し上げます。」

 

落ち着いた出だしだった。

 

「フリードルフ卿とこの街との縁は長い。卿の投資と、たゆまぬ慈善事業とが、この街の復興と発展にどれほど寄与してきたか、いまここで語り尽くすことはできません。卿は常に理性的で、堅実で――そして正直に申し上げれば、いささか退屈なほどに慎重な御仁でもございました」

 

会場に、好意的な低い笑いが漏れる。

 

「ですから、十年前、卿が突然、結婚を発表されたときの驚きは、いまも忘れられません。なにしろお相手は、卿の――失礼、お孫さんと言っても差し支えないほどお若く、そして、我々のような老いぼれの心臓には、いささか酷なほどにお美しい方であったのですから」

 

今度は、はっきりとした笑いが広がった。市長はわざとらしく肩をすくめてみせる。

 

「正直なところ、当時のわたしは、いささか勘ぐったものです。莫大な財産を目当てにした、どこぞの陰謀ではないかと。この場にいらっしゃる御親族の皆様方も、当時はさぞかし、心を痛められたことと存じます」

 

その視線が、前列のテーブル――シュヴァイク公ブラウンをはじめとする親族の一団を、一瞬だけ撫でた。シュヴァイク公は、顔に貼り付けたような笑みを崩さなかったが、シャンパングラスを握る指先だけが、白くなるほど強く握られていた。

 

「しかし」

 

市長の声から、冗談の響きが消える。

 

「この十年間、アンネローゼ夫人は、その疑いのすべてを、静かに、そして見事に払拭してこられました。フリードルフ家の名代として、戦乱の混乱に苦しむこの地球上の孤児たちのために、いくつもの福祉財団を立ち上げ、運営してこられた。ある種の勘ぐり、蔑視の視線を受けながらも、この街を、そして卿の傍らをを、離れようとはなさらなかった」

 

イセリナが、隣で小さく息を呑んだ。あの活動の多くに、自分が陰で関わってきたことを、彼女はよく知っている。

 

「年齢というものは、人の価値を測る物差しにはなりません。ひとりの人間が、どれほど誠実に、この街と、その夫とを、愛し支えてきたか――それを測る物差しなど、どこにもないのだということを、わたしたちは、この十年で学んだのです」

 

市長は胸を張り、ホール全体に届く声で続けた。

 

「よって、本日この佳き日に、ニューヤーク市議会の全会一致の決定として、ここに宣言いたします。ニューヤーク市は、アンネローゼ・フリードルフ夫人に、『ニューヤーク名誉市民』の称号を贈ります」

 

割れんばかりの拍手が起きた。

 

(――お父様、ちゃんと言ってくれた)

 

イセリナは、両手を合わせて誰よりも強く拍手した。

 

イセリナ自身も所属する『社交界』という名の百鬼夜行。

そこでは、特に家督のない女性は〇〇家の付属物としてしか扱われない。

親が。あるいは夫がどのような地位にあるかで、女性たちもまた自動的にランクを振り分けられてしまう。

 

フリードルフ家の財産や継承問題とは法的に切り離された、彼女個人への評価が、公的に、そして取り消しのきかない形で刻まれる――

万が一、今後フリードルフ卿に何かがあったとしても。

親族の誰かがアンネローゼを「財産目当ての余所者」として排除しようとしても。

この街において、彼女はすでに保護された「市民」なのだ。

 

 

アンネローゼとイセリナが初めて言葉を交わしたのは、まだアンネローゼがニューヤークに来て間もない頃だった。フリードルフ家の名代として孤児院を視察していたアンネローゼと、同じ施設を支援していたエッシェンバッハ家の娘としてのイセリナが、たまたま同席したのがきっかけだった。

 

イセリナは社交界にデビューしたばかり。ほんの小娘だったが、早くも『上流階級』というものに飽き飽きしていた。

 

「わたしたちは似ているのかもしれないですわね。」

その時、アンネローゼはそう言った。

「大きなものに守られながら、それでも自分にできることを探している、という意味で」

 

その言葉が、イセリナの胸に長く残っていた。だから今回のことも、誰かに頼まれたからではない。ただ、あの人がこの街にいられるようにしたかった。それだけだった。

 

「……ほんとに、きみの言った通りになったな、イセリナ」

ガルマが小声で囁くと、イセリナはただ静かに微笑んだ。

「だが、あの親族連中がどう動くか、だ。」

 

 

シュヴァイク公が拍手の輪から静かに手を下ろし、側近らしき男に何事か短く耳打ちしていた。表情は笑顔のままだったが、その目はもう笑っていなかった。

 

「……悪い話ではない。それにニューヤーク、とくにエッシェンバッハ家が姉上に悪い感情をもっていないことはこれで証明された。」

ラインハルトが、低く呟いた。

 

「ええ」

キルヒアイスが、周囲の空気を探るように目を細める。

「これで、親族側は完全に後がなくなりました。もしフリードルフ卿が、この流れに乗ってなにか継承に関わる発言をなさったら――」

 

「連中は、もう実力行使に出るしか、道が残っていない。」

ラインハルトが、冷たい声で引き継いだ。

「さっき、ガルマが言っていた『ちょっとしたトラブル』はどうなったかな?」

 

「無理ですよ。」

キルヒアイスはこの果断すぎる主に注意した。

「あなたは親族なんですから。ここを勝手に離れてはいけません。」

 

「おまえもダメだぞ、キルヒアイス!」

ラインハルトも言い返した。

「まだ、腕の傷は完治していない……けが人を荒事の場に送り込むことはできない。」

 

「あのチェン老師のおかげでリハビリはだいぶ短縮できそうなんですがね……」

 

「それでも、だ!」

 

 

 

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会場の隅、壁際に立つ「特別補佐官ミーア」――アルテイシアは、この一連の政治的な牽制の応酬を、なんの表情も浮かべずに見つめていた。

 

(――盤面が、動いたわね)

 

祝祭の華やかな拍手の下で、導火線に火が点いた音を、感じることが出来たのは、彼女もまた為政者だったからだろうか。

 

 

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ノイエ・サンスーシー・ニューヤークのヘリポート。トリコロールカラーのガンダム・ガーベラのコクピットで、シーマ・ガラハウは、回線越しに流れてくる拍手のノイズを、退屈そうに聞き流していた。

 

「……さあて。お偉方のご挨拶も済んだことだし」

 

彼女の口元に、薄い笑みが浮かぶ。

 

「そろそろ、こっちにも仕事が回ってくる頃合いかね」

 

 

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マクレーンに近づいてきた3人はそのまま、突進してきた。

残りは、蜘蛛の子を散らすようにこの場を離れる。

だが、かまわない。

 

消火剤の粉まみれでは、正規のスタッフに紛れ込むこともできない。

 

市警は決して無能ではないし、薔薇騎士団はさらに優秀だ。

逃げたやつらは任せるとして。

こいつらは、マクレーンが処理するしかないようだ。

 

先頭の男が腕を振った。

こちらを一瞬で無力化するには、ふさわしくない攻撃だった。

とっさに首を竦める。

 

頭髪の何本かが、宙に舞った。

 

袖口に刃物を仕込んでいる。

 

ボディチェックもされているはずだから、おそらく金属以外で形成された刃物だ。

あるいはゲル状の物質を、袋で持ち込み、使用時に硬化させて刃物にする。

 

耐久力は、もちろんホンモノのナイフには劣るが、最初の切れ味はなかなかのもののはずだ。

 

初撃をかわされた男はそのまま、身を沈めた。

身体を半回転させながらの蹴りは、マクレーンの足元を払うためのものだった。

ぐらり、と体勢を崩したマクレーンに、男はさらに、刃物を振るう。

 

「ほい。」

マクレーンは噴射の終わった消火器を手渡した。

投げつけられたのなら、かわしただろう。

だが「渡された」ので、相手はとっさに受け取ってしまった。

 

ガクン。

膝が折れた。

 

その顔に肘を叩き込む。

 

消火器は、本当に重かったのだ。

 

そのまま、消火器ごと男はひっくり返った。

完全に失神している。

 

ヒュン。

 

後ろから迫ったもうひとりが、何かを投げつけてきた。

 

かわしきれず、1本が肩に刺さる。

服の上からなので深くはない。

 

あのセキュリティを抜けて、どんな刃物を持ち込みやがった。

マクレーンは、刃物を抜いて愕然とした。

 

……フォークだ。

 

これから、いくらでも持ち込める。いや持ち込む必要も無い。

パーティ会場で、厨房で、いくらでも調達できる。

 

ゴキッ。

もうひとりが、指をならした。

 

「……断っとくが、俺は武器は使わねえ。」

 

開いた手のひらは異常に大きく、まるで肉食獣の牙に似ていた。

 

「俺の握力は掴んだものを握り潰し、摘んだものを引きちぎる。

……ガンダリウム合金を引きちぎったこともあるんだぜ?」

 

「現代っぽいジョークだが、そんなに面白くないな。」

マクレーンは真面目に返した。

「なるほど。そんなあんたにも掴めないものを用意してみるよ。」

 

 

 

 

 

 




なんか、パーティ進行とアクションが同時進行。
運営のガルマくんも頭の痛いところです。


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