式はクライマックス!!
今回はけっこう長いです。
食べ物、飲み物を粗末にするシーンがあります。
相手は二人。
フォークを投げナイフのように駆使する男。
そして、両手を開いて接近する男。
マクレーンは後ずさりしながら、通路の脇へ目を走らせた。
厨房から会場へ料理を運ぶ大型ワゴン。
銀のドームに覆われた皿。 スープ鍋。 山のように積まれたトレイ。
運ぶ途中に、このトラブルで置き去りにされたワゴンのようだ。
十分だ。
「死ね!」
食器使いが叫ぶ。
銀のフォークが三本。
一直線に飛ぶ。
ヒュンッ。
マクレーンはワゴンの一番上に積まれていた銀のトレイを掴み、盾のように構えた。
カンッ!
キィン!
金属音が狭い通路に響く。
一本は弾き、一本は滑らせ、一本だけが縁をかすめる。
「便利な盾だ。」
言い終わるより早く、さらに五本。
まるで機関銃だ。
だがすべて弾く。
「カトラリーを武器庫に出来るのは、おまえだけじゃないんだぜ!」
答えの代わりに、袖口からさらに銀色の閃きが連続して飛んできた。
トレイの陰に身を隠しながら、マクレーンは、手に取ったワインのボトルを投げつけた。
フォーク使いは、とっさにかわし……砕けたワインボトルを見て、フォーク使いは悲鳴を上げる。
「き、きさま、75年物のボルドーをっ!!」
「やかましい!」
次の攻撃の用意は出来ていた。
シャンパンのコルク栓が弾ける。
プッシャアアァ!
シャンパンの黄金色の放水が、顔を直撃した。
「こ、これは!」
恍惚として、フォーク男は天を仰いだ。
「ピノ・ノワールの力強さ、シャルドネの繊細なアロマ……間違いなくクリュッグのプレステージ!!」
「間違いないのか!」
「間違いない!」
つまり、マクレーンはこの二回の攻撃だけで、彼の半年分の給与を使ってしまったことになる。
恐るべきは、フリードルフの殺し屋。
懐にダメージを与える戦い方を選ぶとは!
ヒュン、ヒュン、ヒュンッ!
マクレーンは頭を引っ込めた。
カンッ、カンカンッ!
フォークがワゴンに突き刺さり、あるいは弾かれ、甲高い音を立てる。一本がわずかに、頬をかすめた。
「レストランで食器を投げるのは行儀が悪いぞ」
「貴様こそ! ひとが作り出した至高の飲み物にもっと敬意を払え!」
マクレーンはワゴンごと相手に向かって押し出した。
料理や皿で満載のワゴンである。
キャスターが軋み、皿がガチャガチャと崩れ落ちる。
フォーク男は身をよじって避けようとしたが、シャンパンの目潰しがきいていた。かわし損ねて、重いワゴンの直撃を受けた
フォーク男は、壁に吹っ飛ぶ。
打ち付けた頭を抑えながらもフォーク男は立ち上がる。
マクレーンは、ワゴンのなかから一番武器になりそうなものを取り出した。。
肉切り包丁。
恐らくはローストビーフを客の目の前で、切り分けるためのものだろう。
演出的な効果も含めてか、それは両手剣ほどの長さがあった。
そのまま、トレイを飛び越えて、襲いかかった。
脳天からの一撃。
フォーク男は素早く、頭上でフォークを交差させた。
マクレーンは、とっさに斬撃の方向をかえた。
肉切り包丁は、その峰の部分で、フォーク男の脛を叩いた。
両足とも折れたかもしれない。
マクレーンは流血を好むわけではない。
だが容赦はしない。
絶叫をあげて、フォーク男は床に倒れ込んだ。
悲鳴がパーティ会場の邪魔にならぬよう、マクレーンは優しく男の頭を踏みにじって失神させた。
ひょい。
そのマクレーンの手から肉切り包丁が取り上げられた。
しっかりと握っていたはずだが、それは無造作で……しかも圧倒的な行為だった。
あの握力を自慢した男だった。
肉切り包丁を両手で握りしめる。
刃のついた側を、だ。
そのまま、包丁を折り曲げる。
さらに折り曲げ、捻り、団子のようにしてポイと投げ捨てた。
ガンダリウム云々はジョークとしても!とんでもない怪力だった。
人間の体など掴まれたらそのまま、握りつぶされてしまう。
「……あー、逃げた方がいいんじゃないかな?」
マクレーンは通路の奥を指さした。
「あんたらの仲間に、薔薇騎士団は、かかり切りになってるはずだから、とこかで着替えて、一般スタッフに紛れてしまえば、ここから脱出できる。」
「いいアイデアだ。」
握力男は笑った。
「おまえを捻り殺してから、そうしよう。」
「そんなことを、言ってると増援が来ちまうぜ……おおいっ、こっちだ。」
マクレーンの視線の方向に、一瞬、男が注意をそらした瞬間に、マクレーンは殴りかかっていた。
拳が、男の手のひらに吸い込まれた。
指の関節が悲鳴を上げる。骨まで軋むような圧力だ。このまま握られ続ければ、拳ごと砕かれる。
「言ったろ、俺の握力は、な」
「聞いたよ、さっき」
マクレーンはそのまま振り回された。
あえて力には逆らわない。逆らえば、手首か肘か肩のいずれか(あるいはその全て)を、骨折か脱臼していただろう。
ボロ雑巾のようにマクレーンは振り回されて、投げだされた。とっさに頭は庇ったが、背中を強かに打ち付けた。
呻きながら身体を起こした。
握力男は、かがみこみ―――仲間ふたりの生死を確認していた。
ほう、仲間思いのところもあるのか―――
次の瞬間、マクレーンは、手近のワゴンから、皿をとって、握力男に投げつけていた。
後頭部を狙って飛んだ皿を、俯いたまま、握力男は受け止めた。
そのまま、その手の中で皿は砕けた。
「邪魔するな。」
「殺人未遂の現行犯だな。」
マクレーンは身体を起こした。
「……おまえ、仲間にとどめを刺そうとしたしただろ?」
「そうか?」
にやっと握力男は笑った。
「ニューヤークの一、アンラッキーな刑事ジョナサン・マクレーンが、賊2人と相打ちになって、殉職をとげた……それだけのことじゃないのか?」
握力男は、壁に手を伸ばした。
建材には詳しくない。
だが、少なくとも人間が指を突っ込めるほど、壁が柔らかい素材で出来ているなどはありえない。
ズズ。
そのまま、男は指を動かした。
ズズズ。
壁が抉れ、深く傷が刻まれていく。
「握られれば潰され、摘まれれば引きちぎられる。」
男は肩を竦めた。
「おっと、実は触っただけでも抉られるのが俺の指だ。
さっき、俺に握りつぶせないものを用意するとか言っていたな?」
「……」
「楽しみにしているぜ?」
痛みに顔を歪めながら後退したマクレーンの背中が、何かに当たった。また放置されたワゴンだ。
なにか、武器になるようなものは。
だが、今度のワゴンは料理中心だ。
切り分けられて綺麗に並べられた食材。
茹でた野菜やチーズ、ハムなどが、大輪の華のごとく並べられた大皿。
ニューヤークの高層ビル街を模して、積み上げたサンドイッチの山。
米を握ったもののうえに、色とりどりの肉片や魚の切り身をのせたものは、東洋の島国が宇宙世紀に残した数少ない文化であるスシだろう。
取り分け用の小皿。
蓋の隙間から、まだ白い湯気を吐き続けている、ずんぐりとした保温鍋があった。
(――そうか)
マクレーンの口の端が、少しだけ上がった。
握力男の顔に、勝ち誇った笑みが浮かんだ。その顔のまま、彼はもう一歩、詰め寄ってきた。
指を壁から引き抜く。
「おまえのアドバイス通りに、ここからとっとと逃げ出すことにするよ。」
その笑みは加虐趣味者のそれだ。
「だからおまえをゆっくりと、潰したり、捻ったり、ちぎったりする時間はない。」
手のひらをマクレーンに見せつけるように開いて、また閉じる。
「おまえの心の臓を掴み取る。
どうだろう? 痛みすら感じるヒマが無いかもしれない。幸せな死に方だろう?」
「老衰で大往生以外の死に方は、ご遠慮したいな。」
マクレーンは、背中に当たったワゴンの縁を、そっと確かめた。
鍋の蓋を持ち上げて、盾にする。
大きさはそこそこあるが―――
「なんだ、それは!?」
握力男は嘲った。
「そんな薄っぺらい蓋がなんの役にたつ?
いいだろう。
それごとおまえの心臓を貫いてやろう。」
「知らんのか?」
マクレーンは真顔で言った。
「なにが、だ。」
「この鍋は、グリーンノアのテム・レイ博士の新型で、ガンダリウムγで出来てるんだ。」
からかわれた、と悟ったのだろう。顔面が朱に染まる。
「くたばれ!」
鉤爪を作った両手が同時に、突き出された。
片方が鍋の蓋を弾き飛ばして、マクレーンに迫る。
マクレーンは、鍋の本体のほうを構えていた。
もちろん、鍋は鍋であって、モビルスーツ開発の第一人者テム・レイ博士が、調理器具の分野に手を伸ばしているはずもない。
なべの底など、この超人的体力をもつこの男ならば、やすやすと引き裂き、貫いただろう。
だか。
ぐわあああっ!
男は、悲鳴を上げた。
鍋の中は、どろりとした熱々のスープで満たされていたのだ!!
「新鮮野菜のミネストローネは、握り潰せそうかな?」
マクレーンは、心配そうにその顔を覗き込んだ。
「あるいは貫く、でも千切るでもいいが。
まあ、俺としては素手でスープに挑むのは感心しないね。」
「お、おのりゃ」
喚こうとした男の口に、マクレーンは容赦なく、お玉を突っ込んだ。
「スープにはスプーンを使うんだ。」
そのまま、お玉の柄をカチあげた。
顎が外れ、歯が飛び散った。
「スープの飲み方を教えてくれるいい場所があるぞ?
刑務所っていうんだがな!」
巨体が、スープの飛沫とともに仰向けに倒れて沈黙する。二、三度痙攣したのち、動かなくなった。
しばし、熱いスープと消火剤とワインの匂いだけが、通路を支配した。
「……クリーニング代は、フリードルフ卿に請求してもらうか」
背中と肩が痛む。
握力男に振り回され、叩きつけられたときに痛めたものだ。
フォークで刺された肩の傷も、まだ出血していた。
「派手にやったな、マクレーン警部補。」
通路の角から、装甲服の一団が現れた。先頭に立つ男だけは、軍礼装だ。連邦軍というよりはジオンの軍服に似ている。それを勝手にカスタマイズして胸に薔薇騎士団の徽章をつけた長身の男こそ、ウォルター・フォン・シェーンコップ。
倒れた三人と、スープまみれの床と、団子のように折り曲げられた肉切り包丁の残骸を、彼は順番に見回した。
「清掃費と料理の弁償は、市警に請求するぞ。」
「……逃げた連中は?」
「全員拘束済みだ。」
薔薇騎士団の団員たちが、倒れた三人を手際よく拘束していく。
「請求書はフリードルフ卿に回わしてくれ。」
マクレーンは肩を押さえたまま、壁に背をもたせかけた。
「少佐殿。
こいつ“カウボーイ”ですよ。」
装甲服のひとりがシェーンコップに耳打ちした。
「分かってる。
どの戦場にいても酷いことになるが、最悪にだけはならない男だ。」
「その評価は高いのか、低いのか?」
マクレーンは、ぶっきらぼうに尋ねた。
「人生と一緒だ。いいときも悪いときもある。」
シェーンコップは笑った。
「少なくともオデッサでおまえが、核ミサイルの発射を阻止したおかげで生命長らえている兵隊は多いが、な。」
「昔話だ。
……もう5年……6年まえになるか。
それよりも会場はどんな具合だい、少佐殿?」
「さっき、妙な毒殺騒ぎがあったところだ。」
「……毒殺? ビュッフェ式の立食パーティで、か?」
マクレーンは首を傾げた。
「そうだ。乾杯をしようとしたフリードルフ卿と夫人のグラスに毒物が付着していた。
寸前のところで、ラインハルト専務が阻止したが……」
「わからんな。」
マクレーンはブツブツと独り言を言うように言った。肩や背中は痛いし、ロクなことがない。
「まるで、ラインハルト専務が毒殺を阻止して『見せる』ためのイベントのような気がするな!」
「……なるほどな」
シェーンコップは、マクレーンの呟きを聞いて、少しの間だけ沈黙した。
「進行中の陰謀はひとつではない……ということか。」
「いや、それは言い過ぎだ、少佐殿。
すこし、妙な気がしただけだよ。
だいたいラインハルト専務の名をあげたところで、フリードルフ家の親族になにかメリットがあるか?」
「それはそうだ。
……ところでこれで、厄介なご親戚筋の打てる手はもう打ち止めだと思うか?」
「いや」
なんの確証もない。だが、ここまでやるような奴らはそもそも『諦める』ということを知らないケースが多いのだ。
「フリードルフ卿が正式に後継者を指名するまで……これは続く。」
「後継者を発表すれば収まる、と?」
「いや、誰を指名しても全員が納得はしないから、結局、暴発することになるだろうさ。
そこで、やっと打ち止めになる。」
「OK、カウボーイ。おまえらしい答えだ。
なら、こちらも打つ手はある。」
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大ホールでは、式の進行がゆっくりと再開されようとしていた。
参列者たちは、新たに配られたシャンパングラスを片手に、フリードルフ卿の『乾杯』の合図を待った。
だが。
老人は、グラスを片手に、動かなかった。
その視線は、フリードルフ家の親族たちに。
とくに、シュヴァイク公爵とその派閥が集まる一角に注がれていた。
自ずと、会場の視線もそこに集まった。
フリードルフ家の親族たちはさすがに居心地悪そうに、誰も口を開かず、誰も隣と目を合わせようとしない。
口をへの字に曲げたシュヴァイク公ブラウンの耳元で彼の護衛がなにやら耳打ちした。
シュヴァイク公の顔が歪む。
「なんだと! 別班のものが全員……」
そのとき。
会場のドアが開いた。
何人かが、悲鳴を上げかけた。
入ってきた人数はそれほど多くはない。
だが、宇宙戦闘用の装甲服に、身を包んだ一団は、威圧感という意味では、1個連隊にも勝っただろう。
彼らは、壇上のフリードルフ卿とその夫人の傍らに屹立した。
装備は、ニューヤーク市において、持っているだけで逮捕される心配はないもののみ。
制圧用のアサルトライフルや爆発物は、いっさい所持していない。
だが、そのトレードマークとなったハルバードだけでも、皆を恐怖に陥れるに充分だった。
さらに別働隊は、フリードルフの親族席に乗り込んできた。
シュヴァイク公の周りを、がっちりと固める。
「な、なんのつもりだ!」
シュヴァイクは喚いたが、装甲服の男たちは身動ぎもしない。
「なんの?―――護衛に決まっている。」
軍礼装の男は、最後に現れた。
会場中の注目を浴びた男―――薔薇騎士団団長ウォルター・フォン・シェーンコップ。
「本来なら我らのような武張ったものは、引っ込んでいるつもりだったが、会場でも毒殺未遂があり、裏でも10数名、怪しげなやつらを捕縛したところだ。
もう手段は構っていられない。」
「だったら、フリードルフ卿を守ればよいだろう。なんで我々の席にまで―――」
「契約は、フリードルフ『家』を守る、というものですからな。」
シェーンコップは、迫力のある笑顔を浮かべた。
「ご親族一同にもなにかあってからでは遅い。
しっかりとガードさせていただきますよ。」
「シェーンコップ少佐! なんて無茶を?」
ユリアンの顔色は青ざめている。
「これじゃあ、式はめちゃくちゃですよ!」
「まあ、それよりも卿とご夫人の安全を最優先した、というところなんだろう。」
ヤンは、言った。
「それなら、フリードルフ閣下とアンネローゼ様の周りだけを固めればよいのではなくて?
なぜ親族まで」
ジオン公国公王府特別補佐官ミーア・キャンベルは首を傾げた。
「いえ、あれはむしろ、シュヴァイク公爵の周りを固めることがメインです。」
「それってどういう……」
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「要するに、薔薇騎士団は、暗殺者の首魁であるシュヴァイク公自身を人質にとったのだ。」
ラインハルトは、顔をしかめたまま言った。
沈着冷静なキルヒアイスもさすがに驚いた様だった。
ラインハルトは、さっきからあまり愉快そうではない。
なにか―――分からないものが進行していて、自分がその渦中に置かれている。自分で自分の運命を切り開いてきた彼のようなタイプの人間は、そのことがあまり嬉しくないのだ。
「手段を選ばず、仕掛けてくるようなら、委細構わず、おまえの首を取る―――あれはそういう宣言だ。」
「無茶です! だいたい、まだシュヴァイク公が黒幕と決まった訳でもない。そもそもなんの証拠もありません。」
「それでも―――だ。
警察ならそうは出来ないだろうが。
彼らは傭兵団『薔薇騎士団』だ。」
「――ご列席の皆様。少々、騒がしいことになってしまいましたな」
フリードルフ卿が、口を開いた。
先ほどまでの朗々とした調子とは違う、静かな重みのある声だった。
「しかし、こうして皆様とともに、無事にこのグラスを傾けられることを、わたしは心から喜んでおります。……そして、せっかくのこの機会だ。いくつか、皆様に申し上げたいことがある」
会場が、静まった。
「わたしは、五十年前、この家を継ぐのが嫌で医者になった男だ。兄弟も従兄弟も、誰もが殺し合うような一族の中で、“誰かが継がねばならないなら、わたし以外であってほしい”と、本気で願っていた。」
自嘲するように、老人は笑ってみせた。
「それなのに、わしはこの半世紀、当主の座に居座り続けてきた。理由は簡単だ。
ここに座っていろ、と命じたものがいたからだ。
個人の名をあげてそれを責めるつもりはない。
わたし自身、フリードルフ家を離れて生活する気力は無くしてしまっていたし、まあ、これはお集まりの諸兄にも多かれ少なかれ当てはまるだろうが、名家と呼ばれるところでの暮らしは、それはそれで快適なものなのだからね。」
フリードルフ卿は、ため息をついた。
「これで、わたしに子どもがいれば、傀儡の当主がまた誕生する。そうして、何事もなくフリードルフ家は歴史を紡いでいく―――そうなった可能性は高い。
だが、残念ながら、わたしは子宝に恵まれず、この歳になってしまった。」
自嘲するように老人は、笑って見せた。
「このような場合、どうするか―――
わたしは、フリードルフ家の家系図をたぐってみた……
まず、妻が当主となる。
これはまずない。
一時的に女性が当主となったのは、不幸にして子に先立たれたフリードルフ家の娘が、適当な親戚筋から養子を貰い、その子が成人するまでの繋ぎとして、せいぜい数年、臨時の当主を務めたケースがあるだけだ。
ゆえに、もしわたしになにかあってもアンネローゼが、フリードルフ家の家督を預かる―――これはありえないと断言しておく!」
フリードルフ家の親戚たちの何人か―――かなり多くの者に安堵の色が浮かんだ。
そのような者は、現実的な利益や権勢よりも、当主が、若い女に溺れて、家督をアンネローゼに譲ってしまうことを恐れていたのだ。
「……これで、少なくとも姉上は、直接の排除の対象からは外れるわけだ。」
ラインハルトはいまいましそうに言った。
「ついでに、誰でもよいのだ。
ここで後継者を指名してしまってくれ!
古ぼけた旧王家の飾り物の当主など誰にでも務まるさ。」
フリードルフの話は続く。
「一方で、近しい親類同士が角付き合って、誰を後継者にしても家が割れる危険がある場合など、遠縁からわざわざ養子をとって、あとを継がせたケースは往々にして見られた。
とくに、情勢穏やかならぬ乱世には多かったようだ。」
「……そんなうまい具合に、ちょうどいい遠縁に男子がいるものですかね。」
キルヒアイスが、疑問を呈したが、ラインハルトは切って捨てた。
「中世の家系図など、実に偽造しやすい。
これは、と見込む人物がいて、背に腹はかえられぬと思えば、血が繋がっていなくても後継者にするだろう。そういう強かさのある家系だ。」
「……なので、わたしは、この前例に習おうと思う。
わたしは、我妻アンネローゼの実弟であるラインハルト・ローエングライムを養子に迎え、フリードルフ家を継がせることをここに宣言する!」
あとは、マイナスワンだな……どうしよう。
畳みきれない伏線が。