あとはいろいろと後始末。そのなかには、シュヴァイクの籠るガイエスブルク城塞の攻略や、ラインハルトとその幕僚たちの会談も含まれます。
なので、もうちっとだけ続くんじゃ
(と書いてからの方が長い!!)
式典は、あとは滞りなく進んだ。
まあ、主催者が毒殺されかけたり、会場目がけてミサイルが発射されたりして「滞りなく」と言われても、列席者には異論があっただろうが。
フリードルフ家の親戚筋は、最後まで残っていたが、どこか惚けたように大人しくなっていた。
彼らは全員が、当主である現フリードルフ卿が、若い妻にうつつを抜かした挙句に、その弟にフリードルフの家督を譲ってしまうことに不満であった。
だが、それは単なる不満であって、そのためにフリードルフ夫妻を殺してやると考える短絡的な者も皆無だった。
彼らは「フリードルフ」という大樹があってこその自分たちだとよく、自覚していた。
「フリードルフ」を切り倒してしまったら、小枝でしかない彼らも枯れるしかない……
彼らの栄誉も安楽な暮らしも消えてなくなってしまう!
そんな危険を犯すわけがない!!
彼らのリーダー格であったシュヴァイクが、そのような極端なことをしでかす悪人であったとは、彼らのうち誰1人として、考えたことの「ない」者はいなかった。
中には、具体的な計画や恐るべき最終兵器『マイナスワン』の話を聞かされていた者すらいたが、彼らはひとり残らず「きいてない」ことにした。
彼らは品良く、酒を飲み、料理を嗜み、話しかけてくれるものがいれば、シュヴァイクが普段かはいかに残忍で悪辣であったかを声高に語ったが、幸か不幸か彼らに話しかけようとするものは少なかったのである。
一方、本人がまだ受諾してないにせよ、後継者として指名を受けたラインハルトの周りは、黒山の人だかりだった。
見かねた薔薇騎士団が、列の整理に当たったが、混乱は避けられても、一言、ラインハルトに挨拶をしたいと思う者たちの列は途切れることはない。
ラインハルトは、乾杯させられた数を99回までは覚えていたが、そこから先は、数えるのをやめた。
なんだったら、考えるのもやめた。
さすがの彼もこの状況は「やり過ごす」以外の対処方法がなかったのである。
もっとも―――
一部の者たちの間では、まだこの事態は終わってはいなかった。
シュヴァイクの乗った機体が、ミサイルを撃ったのだ。
エッシェンバッハ市長や連邦軍のトップも含めて、参列していたこの会場に向かって!
市警総監(いい具合に会場にいた)と、連邦軍の北米東海岸地区司令官(会場にいた)は、連れ立って、ガルマ・エッシェンバッハを探し出した。
彼は同年代と思われる若者たちと談笑していた。
「ガルマ議員!」
市警総監は、まずは頭を下げた。
「申し訳ない。我々が警護に当たっていながら、このような事態を」
「誰も怪我はしてませんからっ!」
ガルマ・エッシェンバッハは明るく笑った。
「それより、シュヴァイク氏はどうなりました? 当然逮捕案件ですよね?」
普段ならここまで状況がそろっていても、
「実際に発射命令をきいたものがいない」
「機体のたまたまの誤動作の可能性もある」
などと言って、逮捕を免れるのは、VIPというものであるのだが、今回は相手が悪すぎた。
ニューヤーク市長を長年務めるエッシェンバッハ家をはじめとする名家や、ゴップ将軍など、連邦軍のトップまでも命の危険に晒したのだ。
「そうだ。
ダウンタウン地区の高熱源体! あれはどうなりました?」
「あれは……」
市警総監は変な顔をした。隣の地区司令官の顔を眺める。
「ああ……昨年、シュヴァイク公爵が、サイコミュの研究のためとして、ムラサメ研究所からモビルアーマーをレンタルしたことは、軍にも、届けが出ておりました。
まあ……危険物には違いありませんが、強化人間またはニュータイプのパイロットが、居なければ動かせないものですから。」
「その後、ニューヤーク市内への持ち込み申請が出されました。」
市警総監が気まずそうに言った。
「市内へのモビルスーツやモビルアーマーの持ち込みは許可制になっておりますが、そこら辺を当時の監察局の局長が、シュヴァイクの名前に、気を利かせたのか、ニューヤーク市内へは、『サイコミュ搭載の大型空調機』ということで入っております。」
「そんな馬鹿なものが存在するものか、ねえ?」
ガルマは、友人たちを振り返り、芝居がかったように手を広げて見せた。
「そうか! 大型空調機と偽ったモビルアーマーがシュヴァイクの切り札だったんだ!
だが……それはうまく作動しなかった!
―――そういう事ですね、市警総監?」
「高熱源体反応を感知後、10分で我々は駆けつけました。」
市警総監は、言いにくそうに言った。
「そこで、見たものは―――」
「サイコミュ搭載の大型モビルアーマーだった……と?」
「空調機でした。」
ガルマの顎がガクンと落ちた。
「は……」
「コロニー用の大型空調機でした。」
「そんな馬鹿な。」
「馬鹿げているとは、思う。」
市警総監は、タブレット型の端末を取り出して、画面を表示させた。
「現場にいたのは四人。
ムラサメ研究所のムラサメ博士を名乗る女と、ジャーナリストのカイ・シデン。ほか2名。」
「ゼロが?」
「彼女をご存知なのですか、ガルマ議員。」
「彼女は―――わたしとラインハルト氏の依頼で動いてくれていた。先日のフリードルフ邸襲撃事件の首謀者と目されるハイネ家のリッテンを独自に追ってもらっていた。」
「彼女が言いますには……大型空調機は、ムラサメ研究所がレンタルしたもので、レンタル期間が終了したので回収に来た……と。
納品伝票の控えももっていた。」
差し出したタブレットに写だされたのは
―――『コロニー仕様空調機1台(サイコミュ搭載)』
そう書かれた伝票だった。
「本当に、大型空調機だったのか……!」
「はい。
女の身元もムラサメ研究所に確認とれました。
信じられませんが、本当のことを言っているようです。
所有権もたしかにムラサメ研究所にある。
ですが気になる点も―――警察が踏み込む直前まで、現場にはもう2人か3人。ひとがいたようなのです。」
「あなたが警察長官?」
ガルマと話していたスーツの女性が、突然話しかけてきた。
女はたしか、会場にいた。
ラインハルトとフリードルフ卿の会話に割って入った礼儀しらずの女だ。
「そう……だが?」
「本命のシュヴァイクを捕まえられそうなら、それ以外の小物はこの際、どうでもよいと思うわ。
シュヴァイクはいまどこへ?」
若い―――ガルマ・エッシェンバッハよりも年下。おそらくは20歳を超えたばかりだろう。
だが、その威厳!
「彼女は、ミーア・キャンベル。」
ガルマが口をはさんだ。
「ジオン公国公王府の特使だよ。今回のパーティにわざわざジオン本国からお越しになったんだ。
全く危ないところだったんだよ。
もし、ミサイルが被弾して、彼女が怪我でもしようものなら」
市警総監も東海岸地区司令官も震えた。
不慮の事故ならまだしも、外交官がテロの巻き添えで殺されるようなことがあったら!!
タダではすまない。外交問題になる!
もちろん、現実にはそんなものではすまないのだが。
「ガイエスブルク城に逃げ込んだのは確認しております。」
「なにかしら、それは?」
東海岸地区司令官が口を挟む。
「元連邦軍の物資集積所です。ジオンの降下部隊に破壊され―――ああ、失礼しました」
「かまわないよ。」
ガルマは鷹揚に応じた。
「続けてください。」
「破壊され、放棄されていたのですが、戦後、フリードルフ家が買取り、城塞化しました。
場所的には、ニューヤークの管轄外になります。」
「なら、連邦軍がなんとかしてくださるのかしら?」
「そ、それは……」
司令官は口ごもったが、思い切ったように言った。
「東海岸地区の戦力では……ミーア・キャンベル殿からゴップ将軍にお口添えをいただけないか、と。」
「わかりました。」
ジオンの特使は静かに言った。
「そちらは、公王府の海兵隊の精鋭と、わたしの『レイダー』でなんとかいたしましょう。」
「は……いや、しかし……」
「彼らはわたしくが会場にいることを知って、攻撃をしかけてきたのです。
ジオンとしては受けて立たざるを得ません。」
市警総監と司令官は真っ青になった。
が、外交問題どころではない!
これでは戦争ではないかっ!
「それはいくらなんでも過激すぎます。」
紅茶のカップを抱えた青年が後ろから言った。
「ヤン。彼らは『わたし』を攻撃したのよ?
むしろ、このことがランバ・ラルやマ・クベに知れるまえにケリをつけておかないと……」
「ならこうしましょう!」
ヤンはカップをテーブルに戻して宣言した。
「クランバトルってことにしましょう。
ステージは、ガイエスブルク城。
要塞攻略をテーマにしたスペシャルマッチです。」
ミーア・キャンベルは子どものように膨れた。
「だ、ダメでしょうか、ミーアさん」
まだ15、6に見える少年が恐る恐る声をかける。
「これなら、すくなくともモビルスーツで攻撃を仕掛ける口実にはできるし……」
「そうよね、ユリアン。いいアイデアだけど。
そうすると自動的にクランオーナーである『アレ』の手を借りることになるわ。」
ミーアはなにかに気づいたように眉をひそめた。
「……そうか。そうすると、攻撃中に、うっかりハンマーがアレのコクピットを潰してしまっても、不幸な事故ですむかも……」
さて、ラインハルトの個性豊かな幕僚たちをちゃんと本人たちっぽく描けるかどうか。