「よう、空港まで出迎えご苦労!」
浅黒い肌に猛禽の笑い。
パイロットスーツの男は、クワトロ・バジーナを一応は笑顔で迎えた。
「遠路、助かる、ヤザン・ゲーブル。」
クワトロ・バジーナは素直に礼を言った。
「なあに、ネオ香港からギャプランでひとっ飛びだ。疲れるほどのこたあねえよ。」
「増設タンクをつけてやっとだよ、ヤザン。」
長身の男───ジェリド・メサが言った。
「ギャプランはもともと大気圏内での長距離移動はコンセプトにないんだ。」
「逆に言えば増設タンクがあれば、充分、大気圏内でも運用可能ってことだ。」
モビルスーツ嫌いで、大戦の終結まで戦闘機で戦い続けた伝説のパイロット……オリビエル・ポプランは肩を回しながら言った。
「……ったく、初めてのギャプランで、長距離移動させたあげくに、すぐ実戦だって?
ずいぶんと人使いの荒いクランだなあ、“大佐”殿。」
「わたしは元連邦軍クワトロ・バジーナ大尉だよ、ポプラン」
クワトロは静かに返した。
「……まあ、すきに名乗ればいいがね、“大佐”。」
ポプランはボヤいた。
「IDは偽造もできるが、そもそもあんたみたいな凄腕のパイロットを、俺もヤザンの旦那も知らないってだけで、その名乗りは無理があると思うぜ……おい、ヤザン!?」
ヤザンは手を振りながら、立ち去ろうとしていた。
「出撃は8時間後だな。1時間まえまでにはもどる。」
「ブリーフィングは!?」
「送ってもらったデータは読んだ。ようはガイエスブルクってとこを、クランバトルルールでめちゃめちゃにすればいいんだろう?」
「まったく、勝手なお人だな、ヤザン・ゲーブル。
おまえは一緒にいかなくていいのか、ジェリド?」
後ろ姿を見守りながら、ポプランは言った。
「……たぶん、デートなんだよ、ヤザン大尉殿は!」
「ああ、そう言えば、なんとかいうテストパイロットと付き合ってたかな。俺は一度、チラッと見かけたたけだったが、えらい美人だ。たしか……」
ジェリドはポプランに目配せしたが、付き合いの短いポプランには通じなかった。
「ソム・エドワウとかいったな。このところ姿を見てないんで、別れたのかと思ってたんだが……」
クワトロの唇が引きつったが、彼はなにも言わなかった。
「……軽い食事と飲み物を用意してある。
1時間後にブリーフィングだ。よろしく頼む。」
シェーンコップは、何冊かの紙の束を各人のまえに配った。
「“ガイエスブルク”なる敵の拠点の保有兵戦力だ。」
紙で配る……ということは、秘匿性の高いデータなのだろう。
フリードルフ夫妻の護衛は、部下に任せている。
彼自身は、ニューヤークを離れるつもりであったが、ガイエスブルク攻略にヤンが関わってしまったので、しかたなしにここにいる。
「モビルスーツ……20機。
半分はザクだが、ホバリング機能を備えたドムが3機。ゲルググの初期型が3機。軽キャノン改が4機。対応するサブフライトシステムも昨年、納入している。」
「ひょっとして連邦軍の補給基地だった頃より充実してませんか。」
ヤンは言った。
「単純に当時、連邦はモビルスーツなんぞ持っていなかったからな。
それ以外にも装甲車両16台。ヤツが脱出のときにつかった垂直離着陸機が6機。
そのほか基地そのものも対空砲や対地対空ミサイルを備えている。
兵員は、ざっと300名。戦いに役に立つかどうかわからんが、シュヴァイクについた親戚筋や、その護衛などもいるから、総人員は400といったところか。」
シェーンコップは、周りを見回した。
「で? こちらは?
モビルスーツが6機か?」
「そのほとんどが新鋭の可変機だ、シェーンコップ少佐。」
「ガンダムガーベラは可変機ではないし、スパルタニアンは可変機だが、練習機だ。
情報は正確に頼む、ロイエンタール中尉殿。」
シェーンコップの視線とロイエンタールの金銀妖瞳の怪しい輝きがぶつかり合う。
「ネオ香港から増援が到着した。」
クワトロが新顔を紹介した。
「新鋭のギャプランが3機。パイロットは、ヤザン・ゲーブル、ジェリド・メサ、オリビエル・ポプラン。」
「ヤザンとポプランは知ってる。
連邦軍のネームドのエースだ。
たしかポプラン中尉は、モビルスーツ嫌いで有名だったが」
ミッターマイヤーが言った。
ポプランは笑った。
「まあ、可変機だったら、半分は戦闘機だからなあ。“疾風”のミッターマイヤー中尉。」
「なんにせよ、心強いな……で、そっちのでっかい若僧がジェリドか?」
ジェリドはその言い様にむっとしたようだったが、冷静に答えた。
「ジェリド・メサだ。ヤザンとはクランバトルでM.A.V.を組んでいる。」
「先だっての鉱物輸出を賭けたクランバトルで、連邦の代表として出場した3人ですよ、ミッターマイヤー。」
雰囲気が悪くなる前に、キルヒアイスが口を挟んだ。
「クワトロさんは、ベストなメンバーを組んでくれました。」
「そうかな? 出し惜しみしてないか?
“白い悪魔”はどうした。“狂犬”は? “病み猫神”は?」
「アムロくんたちなら、グラナダですよ。」
ヤンが言った。
「ジュニアクランバトルスクールの講師を頼まれて、しばらく向こうに滞在するはずです。」
「ヤザンは?」
「デートだよ!」
ポプランが明るく言った。
ブリーフィングの参加メンバーはこれで全てだった。
オーベルシュタインは、「今後のフリードルフ家の運営の件で親戚筋と話をしてくる」と言って、欠席していたし、ラインハルトは、アンネローゼのところに招かれていた。
「ギャプランの補給が完了次第、作戦開始。でよろしいでしょか……クワトロ大尉。」
ミッターマイヤーのクワトロを見る目には、敬意がある。
その果敢な行動力と迅速さから、「疾風」と異名をとったミッターマイヤーは、敵軍ながら「赤い彗星」のファンなのである。
「相手は数が多い。」
クワトロは考え込むように言った。
「ミッターマイヤーとロイエンタールは、パイロットの経験もあるということだが、さきほど、シェーンコップも言った通り、スパルタニアンはもともと練習機だ。初心者用のリミッターを外していても武装には限界がある。
それに我々には、足手まといがいるし……な。」
「足手まとい……?」
ミッターマイヤーの目が険しくなった。
自分たちのことを言われたのかと、思ったのだ。
「それはたしかに、あなたのような大戦の英雄ではありませんが……」
「これは失礼。」
クワトロは素直に詫びた。
「誤解させてしまったようならすまない。
わたしが言っているのは、ジオン本国からの特使ミーア・キャンベル、クラバネームをソム・エドワウと名乗っている彼女のことだ。
もし、クランバトルにおいて彼女に何かあれば、それでジオンと連邦の休戦は終わる。」
「それはたしかに。わざわざ、派遣した特使が、怪我でもしたら外交上、まずいのはわかりますが」
ミッターマイヤーは怪訝そうに、クワトロを見返した。
「無理やり、参加を求めた訳でもなく、そもそも、クランの力を借りてシュヴァイクを討つことは、彼女の発案だったと……」
「彼女のいたパーティ会場がテロにあったことだけでも大問題だったのだ。
ジオン本国に知られるまえに、ケリをつけなければならない。
ラルやマ・クベにこのことが伝わったら、」
クワトロは大袈裟にため息をついた。
「まったく無茶をする。兄としては頭が痛いな。」
その言葉の意味が理解されるまでには、ミッターマイヤーやロイエンタールのような男でも数秒かかった。
「まさか!!」
「ミーア・キャンベルは、アルテイシアの影武者を務めていた女性だ。
今回派遣されたのは、公王府特別補佐官ミーア・キャンベルのはずだったのだが……」
彼は、唯一驚いていないヤンに目を向けた。
「きみは知っていたな、ヤン。」
「ああ、先日、会場まで送ってもらいがてら、地上のジオン大使館での勤務を打診されました。」
「ほう? それをきみが受けてくれるのは、ジオンにとっても連邦にとってもプラスだと思うが」
「……丁重にお断りしましたよ。わたしのような怠け者には、荷が重すぎる。」
ヤンは、タブレットを取り出した。
「ラインハルト専務から、作戦の打診を受けたので、立案してみました。」
テーブルの上に書類が投影された。
「基本的には、ラインハルト専務のアイデアを取り入れましたが、一部修正してあります……」
「さすがは奇蹟のヤンだな。」
ロイエンタールが冷たい笑みを浮かべた。
「専務の案に修正点を見つけたか。」
「はい。ミーア・キャンベルさんにもしものことがあれば、地球圏が大混乱になります。それは、ラインハルトさんも懸念されていたのですが、どうももうひとつ大事なものを忘れているようでした。」
「なんだろうか、それは?」
「ラインハルトさんご自身の命です。」
なんか、敵側が力不足だなあ。
オフレッサーさんが操るビグ・ザムでもいることにしようか……重力下だけど、脚あるし。