またオリジナルでない新キャラに登場いただきました。
アイリーンは、戦争が始まるまでは、ニューヤークで武器屋を営んでいた。
大型兵器では無い。護身用に地味に銃を販売する仕事だ。銃器の取扱には当然、長けていたし、腕前だって、なかなかのものだったはずだ。
だが、戦争が、すべてを台無しにした。
彼女は徴兵された。
狙撃兵として地上に配備されたが、先行配備のモビルスーツが支給されると、最小限のシミュレーターだけで、それに乗せられた。
戦闘機が落とされすぎて、パイロットが不足していたのだろう。
終盤には、ソロモンやルナツーに配備され、宇宙での戦いも経験している。
五体満足で生きて帰ってきただけでも、文句を言うべき立場にはない。
ただ、帰ってきたときのアイリーンが、「壊れていた」ことを自覚していただけの話だ。
店の経営の傍ら、バウンティハンターのような仕事もしていたから、ひとを撃つことへの抵抗はなかった。
だが、そこでのルールは「目標を撃て」「撃ってくるやつを撃て」である。
「この制服を着ているやつは全員撃て」
「この識別信号を出してないやつは全部撃て」
は、アイリーンをしても精神をすり減らすものだったのだ。
そんなふうに「作り替えられて」しまった彼女を、連邦軍は「軍縮」だとして、適当に放り出した。
店を再建する資力も気力もなく、それでも食っていくために、アイリーンが選んだのは、とある財閥の自警団だ。
それがまたハズレくじだったのに気がついたのは、数年してからだった。
「全軍出撃!
やつらは、最新鋭の可変機だが、恐れることはないっ!」
オフレッサーが叫ぶ。
「あいつらの機体は、クランバトル用に、実弾仕様に改装されている。
ビームを使えるこちらが有利だ。」
もとは連邦軍の大佐だったそうだが。
こいつの指揮下の連隊で戦うのはごめんだ。
戦略的な駆け引きや補給など、念頭にないし、まして部下の生命をぞんざいに扱いすぎる。
だが、現場の指揮官としてそうでもない。
公式には認められていないが、彼もまた「エース」のひとりである。
彼ひとりで。ただの1戦で5機のザクをおとしている。ただし、それはルナツーが降伏した後の戦果であったので、連邦はこれを認めてはいない。
「アイリーン・ヴィンセント。軽キャノンスナイパーカスタム。発進する。」
『ミノフスキー粒子戦闘濃度へ散布!』
『ニューヤークより発進。機影……5!』
ガイエスブルクからさほど離れずに戦え。
というのが基本方針である。
城壁は、ビームコーティングされており、流れ弾程度で重大な損傷の心配はない。
むしろ、引き付けて、城砦そのものの援護射撃も当てにしたほうが有利に戦いが運べるはずだ。
一応、クランバトルルールのはずなので、きっと、いや絶対に反則である。
だが、オフレッサーは気にもしていない。
「いいか!
奴らはクランバトルの『つもり』だ。こっちのコクピットは狙ってこない。思い切って接近しろ! こちらのビームライフルのほうが威力は上だ!」
アイリーンは狙撃手上がりで、モビルスーツ戦闘も格闘戦よりは、射撃を好む。
とはいえ、『狙撃』に特化している訳では無い。
『スナイパー』と名はついているが、運動性、出力、装甲など総合的に底上げされたこの機体は、彼女向きと言えた。
空にむかって赤い閃光が爆ぜた。
所詮は傭兵の集まりだ。統一的な射撃もなにもあったものではない。
軽キャノン改のビームガンは、その原型機となったガンキャノンや、ジオン勢のゲルググよりは威力も射程も劣る。
「敵は……5機?」
光学モニターがその姿を映し出す。
可変機だ。
その登場前に、軍を除隊してしまったアイリーンだが、機構の複雑さ、メンテの繁雑さ、それに操縦したときの取り回しの悪さは容易に想像がつく。
先頭は。
金色に輝く機体だ。
オフレッサーの分析は間違ってはいない。
実弾兵器しかもたないクラバ用の機体と、ビームライフルを装備したこちらの機体では、一撃の威力に雲泥の差があるのだ。
「当てる!」
アイリーンはスコープに、金色を捉えた。
しかし────
彼女は別にニュータイプではなかった。
だが戦場に身を置いたものならではのカンはあった。
「上から……来る?」
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「いいぞいいぞ。」
別段、今のところ良いことも悪いことも起こっていない。
だが、戦いのもたらす高揚感がシュヴァイクを興奮させている。
味方はすでに派手に発砲している。
大気圏内におけるビームの減衰を考慮しても、射程距離ではあるのだが、『届く』のと『当たる』のは別問題だ。
つまりは、エネルギーパックを消耗させているだけなのだが。
傍らで見つめるアインスバッハの瞳には、憂慮しかない。
オフレッサーが来るまでは、彼がシュヴァイク家の警備の責任者だった。
戦争で徴兵され……士官学校から軍大学を卒業していたため、少佐としてジャブロー勤務だったのは助かったが……
連邦軍内での地位が上のオフレッサーが来ると、裏方に回された。
「衛星軌道上より、高熱源体降下!」
オペレーターが叫んだ。
「戦闘機……いえ、モビルスーツのようです。」
「敵か! 味方か!?」
味方のわけはないよなあ……
アインスバッハは、最小限のことしか口に出さない。
「可変機のようです。」
手元のコンソールパネルで、データを照合する。
「オーガスタ研究所のギャプラン……ですね。先日の鉱物資源をめぐってのクランバトルで、連邦側が採用した機体です。
その後、戦闘データ収集のため、ネオ香港のクランに貸し出されたようですが……」
「迎撃だっ!」
シュヴァイクは喚いた。
「ギャプランを迎撃させろ。
全砲門、急降下する敵を落とすんだ!」
不味いな。
アインスバッハは、苦いものを噛み殺した。
ガイエスブルクの対空砲はすべて、ニューヤークから飛来するモビルスーツ隊の迎撃に振っている。
それを超高高度からの迎撃に変更するには。
────練度が足りない。
射角をあげる前に、ギャプランが撃って来た。
狙いは────
対空砲だ。
恐ろしく腕がいい。
しかも実弾ではない。
ビームだ。
ギャプランは翼と一体になったバインダーにビーム砲を内蔵している。
そして、対ビームコーティングは、対空砲にまでは、塗布されていない。
次々と破壊される。
別に各砲に砲座があって、兵員を配置しているわけではないから、人員的な損失はないのだが、これは、シュヴァイクに冷水を浴びせるのには十分だった。
「くそっ! 反則だっ!
クランバトルではビームは反則だ!!」
シュヴァイクは、デスクを叩いた。
「ビーム攪乱幕だ。ビーム攪乱幕を張りつつ、ミサイルと機銃で対抗しろ。
弾幕でやつらを近づけるな。」
別にクランバトルは、ビーム兵器を禁止しているわけではない。
アインスバッハは主を冷ややかに見つめながら思う。
もともとクラバに参加するのが、払い下げのザクが中心だったため、ビームライフルの搭載機そのものが少なく、合法化されてからは、パイロットをやたらに殺さないように、大半の試合でビーム兵器をオミットしただけだ。
そこらは、極端に言ってしまえば試合ごとに違う。
今回は────
少なくともこちらもビームライフルを装備した機体を出撃させているのだから、文句を言う筋合いではないはずだ。
そして、ビーム攪乱幕の指示。
ガイエスブルクの防衛だけを考えれば正解である。ギャプランの主要武装は、そのビーム砲にあるのだから。
だが────
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「ほう」
クワトロの百式の左前方をビームが走る。
いままでの子ども騙しの射撃とは違う。明らかに狙った攻撃だ。
次の一射は、右下を掠めた。
「やる!」
狙いは正確。軽キャノン改が通常装備しているビームガンよりはかなりマシなものを装備している。
パイロットの腕もいいが、そういう機体でもあるのだろう。
高度を下げるか、いっそ着地して遮蔽物を探すか。
だが、そうすれば、後方のモビルスーツが狙われるだけだ。
アルテイシア。
そして、ラインハルト。
この2機は落とさせるわけにはいかない。こんなところで死ぬ人間ではないのである。
クワトロが百式の性能に物を言わせて先行したのは、何も性能を見せつけたかったからではない。どうしても死んでもらっては困る者たちのために。自ら囮なるつもりだったのだ。
(アムロやヤンが聞いたら「いやあんたもだよ!」と頭を抱えただろうが)
クワトロは百式を横滑りさせた。
たったいままで、彼がいた場所を、ビームが駆け抜ける。
「チィ! わたしにプレッシャーを与えるパイロットだと!?」
そのとき。
ガイエスブルク城砦で、閃光が走った。
続いて。爆発。
そしてもたもたと打ち上がる。対空砲火。
ギャプランだ。
ヤザンたちのギャプランが間に合ったのだ。
クワトロは百式を変形させた。
飛行機形態でトップスピードからの変形である。
凄まじいGが体を歪ませる。
ビームが前方を走り抜ける。
そのまま進んでいたら直撃だ。
「大丈夫なの!?」
通信機から、アルテイシアの声が響いた。いや、ソム・エドワウか。それともミーア・キャンベルと呼ぶべきだろうか。まったく我が肉親ながら適当な偽名を使いすぎる!!
(ララァが聞いてたら「あなたもでしょう? 大佐」と言われることは必至である)
「いい腕のパイロットだ。ぜひうちのクランに欲しいな。」
「それなら、ジオンに来るべきよ。
クランバトルなんて興行より正規軍のほうがいいでしょう?」
「それはどうかなあ。」
割って入ったシーマの声はどこか嘲るようで、それでいて、楽しそうだった。
「軍隊なんてほかに行き場がないときだけでいい。」
クワトロは、モニターに目をこらした。
対空砲の中身が替わり。
城砦とその周辺が、淡い煙幕に包まれていく。
ガイエスブルクのモビルスーツが放つビームは、それに攪乱されて、雲散霧消していった。
「なにを……してくれてんのよ!」
アイリーンは呻いた。
味方が張ったビーム攪乱幕。
それが、彼女たちのもつ優位を無効化していく。
「ニューヤークから発進したモビルスーツが5機」って言っちゃってるのは、ガーベラ乗っけたレイダーをニコイチで数えてるからです。