ヤンの策によって戦場の優位を覆されたガイエスブルク軍。
混乱する敵陣へ、ラインハルトたちは容赦なく食い込んでいく。
“さすがは、ヤンだな。
ギャプランによる奇襲。たまりかねたやつらがビーム攪乱幕を使って、ビーム兵器の有利を自ら捨て去ってしまう。ここまで読んでいるとは。”
ラインハルトは、スパルタニアンを変形させた。モビルスーツタイプに変形までの時間は、1秒。
その間にコクピットは回転し、パイロットは振り回される。
宇宙空間ならまだしも、有重力下ではそれだけでかなりの負担だ。
込み上げる嘔吐感を抑えながら、モビルスーツを着地させる。
そこはすでに、ビーム攪乱作用のあるガスの中だ。
ゲルググが、ビームライフルをこちらに向ける。
銃口が光ったが、ビームは形成されず、虚しく拡散した。
ラインハルトはマシンガンを構える。
『クランバトルのルールで戦う。
目的は相手の行動不能だ。コクピットは狙わないように。』
レクチャーのときに聞いたクワトロの冷静な声が、脳裏に響いた。
その提言に従って、ラインハルトが放った銃弾は、相手の頭部を破壊した。メインセンサーが集合している部分だ。たいていの場合はこれで、行動不能となる。
『だが、向こうもクランバトルのルールを適用してくれるとは限らない。』
ラインハルトは、丁寧にゲルググの両手、両足を破壊した。
地面に倒れ込む巨体はもう動けない。
“ミッターマイヤーは?
ロイエンタールは、無事か?”
ラインハルトとは違って彼らは、大戦時に従軍していた。モビルスーツ搭乗の経験もある。
だが、可変機ははじめてのはずだ。
上空を一機のスパルタニアンが駆け抜けた。
ミッターマイヤー機か?
まだ飛行機形態のままだ。
それにむかって火線が伸びる。
ビームライフルを標準装備しているゲルググ、軽キャノン改のメイン武装は無効化したが、逆に旧式のザクはマシンガン装備のままだ。
最新の装甲だと、理論値はザクのマシンガンの直撃にも耐えるはずではあるが、スパルタニアンはもともとが練習機だ。
初心者用のリミッターは外してあっても、装甲がそこまでの防御力持っているかは、心もとない。
ラインハルトは、ザクにむかって、マシンガンを放った────外れた。
だが数発は、体を掠め、ザクはこちらに銃口をむける。
その瞬間。
ミッターマイヤー機は、モビルスーツに変形し、そのままザクにむかって飛び降りた。
抜き放ったヒート剣が、マシンガンを握るザクの腕を切断。
よろけるザクの頭部を、さらに刺し貫く。
「専務! ご無事ですか?」
ラインハルトは苦笑した。
そのセリフは、まさにいま、自分がミッターマイヤーに言おうとおもっていたセリフだったのだ。
「大丈夫だ。そちらは?」
「援護射撃ありがとうございます! こちらは問題ありません。」
通信機の向こうから、ミッターマイヤーの明るい声が返ってくる。
「しかし……可変機というのは、思ったより難物です。」
「ああ。やたらに変形を繰り返すのは、控えた方がいいだろう。
ロイエンタールは?」
その言葉に応えるように別の通信が割り込んだ。
「右側面に、ザク一機、軽キャノン改一機。混乱している。まだこちらには気づいていないようです。」
ロイエンタールだった。
「ザクのマシンガンは健在だ。」
ラインハルトは素早く言った。
「ザクから潰す。ミッターマイヤーは左から。ロイエンタールは後方を抑える。」
「「了解!」」
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百式のコクピットから、クワトロは指示を出した。
「ソム・エドワウ! シーマ!
ラインハルトたちの援護に回ってくれ。敵の密集している辺りに降りたはずだ。
いまは混乱しているが、取り囲まれる危険がある。」
「あんたはどうするんだい、“大佐”殿?」
「あの狙撃手をなんとかする。」
クワトロは百式を変形させた。
戦場を見渡せるポジションを確保したかったが、まずはあの正確な射撃をする軽キャノン改をなんとかしなければ、と考えたのだ。
ビームが使えなくなったからといって、相手が無力になったわけではない。
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アイリーンは舌打ちした。
戦況はよくは、ない。
だがそう悪くも無いはずだ。
もともとの標準装備が実弾兵器のザクやドムもいる。それらに援護させながら、接近戦に持ち込めば、数の優位が勝る。
だが、味方は混乱していた。
決して絶望的に不利になったわけでもない。ただ、圧倒的な優位が失われた。そのことで、混乱している。
金色の機体は、こちらを見つけたようだ。
上空で、モビルスーツに変形する。
だが、アイリーンの隣のドムもザクも動こうとはしない。
完全に狼狽しきっている。
金色がアサルトライフルを向けた。
アイリーンは、バーニヤをふかして、横っ飛び。
ドムが。
ザクが。
頭部や膝を撃ち抜かれて、ドウと倒れた。
“なんて射撃なの!”
アイリーンは舌を巻いた。
ブリーフィングルームでの傭兵仲間たちとの会話を思い出す。
『どうも、金髪の小僧の仲間には、ジオンのエース級がいるって話だぜ?』
『噂だけじゃねえのか?
そんなものはいくらでも名乗り放題……』
『いや、それがどうも……』
そいつは声を顰めた。
『ハイネ家の雇った傭兵部隊が、何度も撃破されてるんだと!
ネオ香港のクランオーナーで!クワトロ・バジーナとか名乗ってるらしい。』
『おい! それってジオンの』
「赤い彗星!」
アイリーンは、倒れたザクの体を抱き起こした。
金色のアサルトライフルが、その体を貫く。だが、防御力も強化されたアイリーンの軽キャノンスナイパーカスタムの装甲はザクを貫いた弾丸を食い止めた。
ザクの手からマシンガンをもぎ取る。
ザクを金色目掛けて投げつけながら、マシンガンを乱射。
機動力に勝る金色には、正確な射撃よりも『面』での制圧しかない。
そう考えたのだ。
────投げつけてしまったザクのパイロットには申し訳ないが。
金色の機体が、投げつけたザクの陰から飛び出した。
アイリーンは、とっさにマシンガンを横薙ぎに振った。
弾丸が空を裂く。
当たらない。
金色は、まるでこちらの動きを読んでいるかのようだ。
ジャンプして、アイリーンの頭上を駆け抜ける。
「速い……!」
振り返る。
振り返りざまに、ビームサーベルを抜いた。
金色が空中で反転している。
同時に剣を抜く。
ビームサーベルとヒート剣が噛み合った。
互いに反発し、アイリーンの軽キャノンスナイパーカスタムがよろける。金色が追撃を仕掛けようとしたが、その動き逆らわずに、アイリーンは後方に飛んだ。
金色のアサルトライフルが火を吹く。
盾を上げて受け止める。
弾丸が深い穴を穿つが、貫通は免れた。
アイリーンはスラスターを全開にした。
飛び上がったその下を弾丸が走る。
ジャンプしなかったから両膝を撃ち抜かれていただろう。
相手が「クランバトル」のルールで戦ってくれているのは、理解していた。
最初の射撃は、盾で防ぐことを理解していての囮。
盾を挙げさせておいて、脚部を撃ち抜くのが本命だ。
「……赤い彗星が、いるってきいたんだけど?」
一般回線から、若い男の声が返った。
「わたしは元連邦軍の大尉でクワトロという。」
「へえ。大当たりをひいてしまったわけね?」
「そういう、きみもいい腕だ。」
「わたしは別に英雄様じゃない。」
アイリーンは笑った。
「よかったら、ぜひ、うちのクランにスカウトしたいんだが。」
「考えておくわ。」
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軽キャノン改を倒したとき、ラインハルトは自分たちが包囲されつつあるのに、気がついた。
軽キャノン改はよく粘った。
あるいは、最新の装甲材を使った比較的新しいロットの機体だったのなかもしれない。
ラインハルトたちの、スパルタニアンの機銃は汎用性だけがウリの代物だ。
狙える場所が、コクピットのある胴体以外でなければならないのもやりにくい。
なんとか軽キャノン改が、動きをとめたとき。
「高熱源体!」
ホバー走行で移動するドムが、その巨大なバズーカを放った。
とっさに、ラインハルトは、身体を倒す。
直撃ではない。
だが、至近距離で炸裂したバズーカの爆風に、ラインハルトのスパルタニアンは飛ばされた。
ミッターマイヤーが倒れたラインハルトのスパルタニアンの前に、盾を掲げた。
次のバズーカ弾が吸い込まれる。
盾は一撃で砕け散った。
ロイエンタールがマシンガンを放つが、高速でホバリングするドムには、致命傷を与えられない。
続いて飛来するザクのマシンガンらしき銃弾から、ラインハルトは盾をあげて、自分とミッターマイヤーの機体を守った。
「ドム1。軽キャノン改1、ザク1。」
ロイエンタールが報告する。
ミッターマイヤーがラインハルトを突き飛ばした。
そうしなければ、飛び込んできた軽キャノン改のビームサーベルに切り裂かれていただろう。
スパルタニアンが、装備しているのはヒート剣だ。高熱を帯びた刃が発生する磁場の反発で、ビームサーベルと切り結べることにはなっていたが#敢えて試す気にもならない。
援護射撃に回ろうとしたロイエンタール機に、ザクが体当たりをした。
バランスを崩しながらも、ロイエンタールはザクを掴み、払い腰の要領で投げつける。
地面を転がりながら、ザクはマシンガンを掃射した。
致命傷でもないものの、数箇所に被弾する。
劣勢に追い込まれながらもロイエンタールは、戦場を見通すことを辞めない。
「さらにザクが2機、接近します。一機はバズーカを装備!」
ドムが肩口にバズーカを構えて迫る。
狙ったミッターマイヤーのマシンガンの銃身を軽キャノン改のビームサーベルが切り裂いた。
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戦いに高揚することなど、久しぶりだ。
生命をかけたギリギリのやり取り。プロフェッショナルとしての矜恃。
アイリーンは、このクワトロという人物に感謝した。ここまで自分という存在を鍛え上げてきた自分に感謝した。自分自身の技量に、その成長を助けてくれた父親に。バウンティハンターとしての自分を誇りに思った。
“死んでたまるか!”
だが、死ぬ気でなければ、『赤い彗星』には歯が立たない。
得意とはいえないが、いま、彼女が勝るのは接近戦。クラバ用にヒート剣仕様にしている金色に対し、彼女の軽キャノンスナイパーカスタムは、ビームサーベルだ。
思い切って突っ込んだ。
ガードはメインカメラだ。
コクピットのある胴体はがら空きだ。
クワトロ・バジーナが、クランバトルルールに則って戦ってくれているのにつけこんだズルだが、なりふりはかまっていられなかった。
クワトロは正面から受けてくれた。
ヒート剣とビームサーベルが噛み合う。
そのまま、力をいなすように、クワトロは足を引きながら体をかわす。
させない!
体重をのせて、金色にのしかかる。
腰にマウントした実体剣のダガーは隠し武器だ。このまま、倒れ込んで、メインカメラか。または片脚を動かなくする。
厳密にクラバルールでは、勝ちになるかどうかは分からない。だが、こいつを行動不能に出来れば────!!
ドン。
金色の足が、軽キャノンスナイパーカスタムを蹴飛ばした。
僅かに、機体が離れる。
軽キャノンスナイパーカスタム。
その機体が背後から切り裂かれた。
「な……に……」
一瞬で、モニターがすべてブラックアウトした。
だが損傷の具合は分かる。
実によくわかる。
コクピットの右半分が消滅していた。
空が見える。
火花をあげて、脱落していくのは、右腕だけでは無い。肩口から胸まで。
あと、ほんの数十cmで、アイリーンの体も同じ状態になったはずだ。
崩れ落ちる軽キャノンスナイパーカスタムのコクピットから、ワイヤーを使って飛び降りる。
なにが起きたかはわかる。
もみ合うように接近戦を続ける軽キャノンスナイパーカスタムと金色を。
まとめて、切り倒そうとしたのだ。
「オフレッサー……っ!!」
次回でちゃんと書きますが、要するにオフレッサーは、アイリーンもろともクワトロを切り倒そうとして、斧を振るった、と。
クワトロは、ちゃんとオフレッサーの接近には気がついていましたが、まさか味方ごと切り倒しに来るとは思ってませんでした。