一方、クワトロは、オフレッサーの戦斧を前に苦戦を強いられていた……
ガッガッガッガッ
ザクのマシンガンになんとか耐えていた盾は、もはや元の形も分からぬほどに削られている。
ラインハルトは、ドムに向かってそれを投げつけた。
回避運動に移ったところに、踏み込んで、ヒート剣を振るう。ドムは自らも剣を抜いて、それを食い止めた。
ホバー走行に移行されては面倒だ。
そのまま、押し込もうとしたが、構わず相手はホバリングに移った。
そこに、ザクのマシンガンの弾が。
やはり平気でコクピットを狙ってくる。
ラインハルトはかわしたが、かわしきれなかった。
肩のバインダーが、外れて吹き飛んだ。
これで、もはや飛行形態に変形して逃げることも叶わない。
ミッターマイヤーとロイエンタールには、とんでもないことに巻き込んでしまったな。
ラインハルトは不敵に笑った。
ここで、死ぬつもりは毛頭ない。
だが────万が一のことがあれば、彼の姉アンネローゼは。
大丈夫だな。
ラインハルトは心の中で頷いた。
────キルヒアイスがいてくれる。
動けっ!
敵のほうが数が多いのだ。
止まったら、殺られる。
スパルタニアンの膝の調子が悪い。
被弾はしていないから、ここまでの酷使が原因なのか。それともスパルタニアンそのものが、練習用可変機なので、モビルスーツ形態での歩行については耐性が充分ではないのか。
ラインハルトは、一瞬の遅延もなく、スパルタニアンを操作しながら、自分の考えに驚いていた。
そうか。
姉上には、キルヒアイスが。
キルヒアイスが、アンネローゼを好きなのは分かっていた。
だが、それは幼い少年が手の届かぬ大人の女性へいだく一種の憧れのようなものであり、恋愛感情とは似て非なるものだ。
そして、アンネローゼもキルヒアイスを好んでいるのはわかっていたが、それは弟の親友である幼い少年に対するものであり。
なるほど!!
それはラインハルトの心の中に、痺れを残した。それは苦くて甘いものだった。
キルヒアイスはもう子供ではない。
そして、姉上は、
フリードルフは思ったよりマシな人物ではあったが、老人だ。彼に先立たれたあと、アンネローゼは……
ラインハルトは苦笑いを浮かべた。
とんでもない時に、とんでもない真相に気づくものだ。
これは!
キルヒアイスに確かめてやるまでは、死ぬに死ねないな!
バーニヤをふかして、ザクの一機に接近する。
ザクのマシンガンに、スパルタニアンを一撃で仕留める性能はない。
接近することで、周りの敵から攻撃しにくくする。敵の機体を盾がわりに使うのだ。
ザクは、マシンガンを投げ捨てて、ヒートホークを引き抜いた。
弾が切れたらしい。
ラインハルトもヒート剣を振りかざす。
倒すよりも、ここは時間を稼ぐ。
相手は接近戦に慣れていた。
リーチでは、ヒート剣が勝るのだが、タックルでもするような勢いで、接近し、斧を振るう。
ラインハルトは実戦に出たことはない。
だが、不思議と恐怖はなかった。
ヒート剣を逆手に持ち替え、ザクの首を薙ぐ。頭部を走るパイプのひとつを切断したが、致命傷ではない。
後ろ向きに倒れたラインハルトのスパルタニアンに、ザクがのしかかる。
振り下ろされたヒートホークとヒート剣が噛み合った。
ある意味。膠着状態を作ることは悪くない。
ほかの敵からの攻撃を避けられるためだ。
そうして、時間を稼げば。
凄まじい衝撃に、スパルタニアンは吹き飛んだ。
コンソールパネルに体を叩きつけられ、ラインハルトは呻いた。
バズーカだ。
ドムに、バズーカを撃ち込まれたのだ。
味方を巻き添えにするのも厭わず、ザクと格闘するラインハルト目掛けて、バズーカを撃ったのだ。
直撃を受けたザクは、バラバラの残骸になっている。
ラインハルトのスパルタニアンは。
脚が動かない。
「てめえには、賞金がかかってるんだ!」
一般回線を通して、下卑た男の声が響く。
「一生遊んで暮らせる大金だ!」
近寄るドムは、バズーカを投げ捨てた。
今の射撃が最後の一発だったのだろう。
ヒート剣を引き抜いた。
「ほう? そのために仲間を犠牲にしたのか?」
「当たり前だろう。なにを青臭いことを抜かしてんだ?」
「そうか……おまえたちの部隊がそんな状態なら、わたしの首をとってもそれを主のもとに持ち帰れるか心配だな。」
ラインハルトは言い放った。
「帰り道で、おまえは仲間から狩られるそぞ!」
そんなバカな。
と、言いかけてドムのパイロットは口を噤んだ。
現にいま彼自身が、仲間を砲撃の巻き添えにしている。
そして、彼らの指揮官オフレッサー。
あの男なら、「うっかり」彼を切り倒してしまって、手柄を独り占めしかねない。
ラインハルトは薄く笑った。
稼げたのは、ほんの数秒だったが、それで充分だ。
空からの射撃が、ドムの腕をヒート剣ごと吹き飛ばした。
ザッ。
駆け抜けたのは、風。
ド派手なトリコロールカラーの機体が、ラインハルトの傍らに降り立つ。
「わたしはいい。ミッターマイヤーとロイエンタールを」
「あの二人は、なんとか互角にやり合ってるよ。」
ガンダムガーベラ。
パイロットは当然、シーマ・ガラハウ。
「き、貴様ッ!!」
ドムのパイロットは、落としたヒート剣を拾おうとした。その手もまたシーマの正確な射撃が吹き飛ばす。
「命はとらない。
クランバトルルールだからね。でももう戦えないだろう?」
シーマは恐ろしく優しい声で言った。
「さあ、とっとと、城に逃げ帰って、主に海兵隊のシーマ・ガラハウが来たって伝えるんだね!」
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ミッターマイヤーは、呆然としている。
片腕と銃を失ったスパルタニアン。
その状態で、粘り、生命ながらえたのは、自分を褒めてやってもいいだろうか。
彼が苦戦していた軽キャノン改。
その両腕が、同時に肩口から吹っ飛んのだ。
使用された弾は二発。
呆れるばかりに正確な射撃だ。
それを行った黒い機体は、そのまま高度を下げて、モビルスーツへと変形する。
ミーア・キャンベル……いや、ソム・エドワウか。
変形したモビルスーツはすでに、鉄球を握っていた。
あの向こうには、ロイエンタールが複数敵機を相手に奮戦しているはずだ。
戦場で呆けている暇はない。無事なほうの腕でヒート剣を握り直して、ミッターマイヤーは、スパルタニアンをジャンプさせた。
ロイエンタール機の隣に着地したときには、戦いはすでに終わっていた。
ザクは二機ともまだ立っていた。
だがそれだけだ。
一機は。頭部を爆ぜるように吹き飛ばされ、もう一機は、左腕ごと肩まで抉られている。
「勝負はついたわ。」
レイダーのパイロットが言った。
「まだなんとか動けるでしょ? とっとと、住処に逃げ帰りなさい────
相手がわたしでよかったわ。シーマ・ガラハウならこうも優しくは無いわよ!」
「大戦のエースってのは、あんな化け物揃いなのか?」
ミッターマイヤーは、ロイエンタールのスパルタニアンに無事なほうの手を触れながら言った。
こうすることで、他のものには聞かれずに会話をすることが出来る。
「しかも……あのミーア・キャベル……ソム・エドワウ……っていうのは、ジオンの元首アルテイシア姫なんだろう。こんなアニメみたいなことが……」
ロイエンタールは低い声でこたえた。
「あれは知ってるぞ。あの戦い方は、見たことがある。」
「……そうか? 俺は知らんが…ジオンにあんな戦い方をするパイロットがいたか?」
「違うぞ、ミッターマイヤー。味方だ。連邦軍に、だ。」
ロイエンタールの声は地の底から響くようだった。
「ドズルのビグ・ザムを落とした『戦鎚』セイラ・マスだ!!」
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「目標は金髪の小僧だが!
ついでにおまえの首ももらってやるぞ、赤い彗星!」
「わたしは元連邦軍のクワトロ・バジーナ大尉だが?」
装甲を増加していても、黒いザクは疾い。スラスターも強化されているのだろう。
巨大な戦斧の一撃を、クワトロは、ヒート剣で迎え撃ったが、剣を飛ばされた。
ビームサーベルならいざ知らず、ここは武器そのものの持つ質量が物を言う。
唸りを上げる戦斧をかわしながら、クワトロは相手との距離を取る。
アサルトライフルを至近距離で放つ。
外すはずのない距離だ。
だが、巨大な戦斧を盾がわりに掲げ、黒いザクはクワトロの射撃を防いでみせた。
「きさまの機体は、機動性に特化した可変機だ!」
相変わらず、一般回線ではない。拡声器である。
「盾も装備せず、その派手な金色は、ビームコーティング剤だろう。つまりおまえは俺の攻撃を遮るものはなにも持たない。」
蛮人かと思えばなかなか頭も回る!
だが、クワトロはこの男に付き合う気は全くなかった。
戦斧がうち下ろされる。
まともに当たれば、最新の装甲材を使用した百式も、致命傷になる。
クワトロは、大きく百式をジャンプさせた。
ガン!ガン!
メインカメラを狙った射撃は、またも斧の刃に止められた。
「もたもたするな! 援護しろっ!」
黒ザクのパイロットが叫んだ。
後方に控えたザク隊が動き出す。
走りながら、マシンガンを。
バズーカを発射する。さらにその後ろから装甲車両が見える。
城壁の向こうから、次々と垂直離着陸機が、発進する。
だがそれらが、攻撃を開始する前に、緑に塗装された重戦闘機が、接近した。
ギャプランだ。
そのメイン兵装であるビームキャノンは、ビーム攪乱幕のためまだ使えない。
モビルスーツに変形。
離陸途中の垂直離着陸機を次々と、ビームサーベルで、両断する。
とは言っても、ローターの一部のみだ。
離陸途中の垂直離着陸機がバランスを失い、要塞内部に落下する。
さらに、地面スレスレを飛行形態のまま、駆け抜ける機体がいる。
ビームサーベルが切断したのは、砲やキャタピラ、タイヤなどの一部のみ。
クワトロは、なんどめかの苦笑を浮かべた。
────ヤザンとポプランは、クラバルールを守っている!!
クランバトルに、援護兵器が途中乱入することはないのだが、「パイロット」を攻撃しないことを頑固に守ってくれている。
ならば!
クワトロは、黒いザクから距離を取りつつ、迫るモビルスーツたちを狙撃した。
メインカメラ。
武器をもつ腕。
脚。
恐らくは指揮官だったのだろう。黒いザク周りのモビルスーツは次々と戦闘不能に追い込まれていく。
「卑怯者があ! 俺と戦えっ!」
「集団戦闘に一騎打ちなど、場違いなのだよ。」
クワトロは、黒いザクにアサルトライフルを向ける。
「無駄だ。」
刃の部分を盾のように掲げる。
たしかに使い慣れてはいるようだし、ビームが使えないこの状況ではおそらくは、最強の近接武器かもしれない。
クワトロのアサルトライフルの弾丸は、ただの一点。
斧の柄の部分に集中した。
長大な戦斧は、長い柄をもつ両手持ちの斧だ。その柄が半ばから折れた。
こうなっては、もう斧を振り回すことは出来ない。
その時。
傷ついたモビルスーツの一群が現れた。
そのすべてが、戦闘不能なまでに壊されている。
先の雑木のある辺りに降りた敵機を、迎撃に出た連中だ。
「き、きさまら! 勝手に撤退してくるとは! 許さんぞ。」
黒いザクが喚く。
「シーマだっ! シーマ・ガラハウが来ている。」
両手を失ったドムが叫んだ。
「なんだと……元海兵隊のシーマか!?」
「俺たち以外は、みんな惨たらしく殺されました。」
「オフレッサー司令!
やつは悪魔です!」
黒いザクのパイロット……おそらくは指揮官で、オフレッサーというのだろう。彼はまだまだ戦う気があった。
だが、撤退する味方に流されるように、後退せざるを得ない。
「赤い彗星っ!」
撤退しながら、彼は叫んだ。
「俺たちはまだ負けてないっ!
負けてはおらんぞおっ。」
クランバトルとしては、クワトロチームの勝ちなのですが、ガイエスブルク城塞そのものを攻略するとなると……?