生き残った「門閥貴族」側の者たちが、また登場の機会がありましたら、よろしくお願いいたします。
次なる舞台はグラナダ。謎の作家『フロド』を巡って、様々の思惑が衝突いたします。
宇宙世紀0077に始まったジオン独立戦争において、コロニー落としに勝る汚点と言われるのが、実は中立コロニーに対する毒ガス攻撃である。
コロニー落としは、まだ地球連邦という圧倒的な物量を誇る相手に、致命の一打を与える方法として、有り得なくはなかった。
特に、連邦軍がその総司令部を置くジャブローが、厚い岩盤に守られた地下基地であり、そこに有効な打撃を与えられるのは、この方法以外にはその後の検討でも見つからない。
たが、コロニーへの毒ガス注入は。
被害にあったコロニーは、特に連邦よりの姿勢を示していた訳ではない。強いて言うなら、サイド6のように『中立』の立場を明示してはいなかったが、それは、彼らがどうしたらいいのか、分からなかったからだ。
そして、連邦軍に組みするとジオンが困るような戦力も特に保有していなかった。
無差別攻撃────ですらない。
ひたすら、一般市民を殺すための攻撃。おそらくは、日和見すら許さないという見せしめのための殺戮である。
この作戦に当たったシーマ・ガラハウの海兵隊は、ジオンが勝ったあとでも冷や飯を食うことになった。
離反したデラーズ・フリートの原隊復帰への説得に功績があったとしてシーマが昇格し、シーマ艦隊が、公王府直属部隊となったのは、正規軍がシーマたちを受け入れることを嫌がった…そんな一面もある。
ジオンの公式の見解では、シーマたちは、注入するガスについて単なる「無力化ガス」としか知らされていなかった。すべて責任は、命令した当時のジオン中枢部=ザビ家にある、と発表されてたはいたが、それでもシーマたちには、暗い影が付きまとう。
ガイエスブルクは、一瞬で崩壊した。
地上の要塞(もとは連邦の補給基地)である。
各ブロックに気密性などはない。
宇宙服の用意もない。
毒ガスをまかれれば、即全滅である。
脱出しようとするものたちはまず、装甲車両や垂直離着陸機に殺到したが、昨日の出撃で数を減らしていたそれらには、ほとんど使えるものがなかった。
一般の傭兵たちは、基地内部で銃は持てない。
少数の衛兵や、フリードルフの親戚たちの中で、特に何名かの護衛以外は武器がなかった。
だが、恐ろしい、確実な死を免れるために、全員が必死だった。
拳銃をもっていたものも、弾をうち尽くしたあとは、殴り合い、蹴飛ばしあって、なんとか装甲車や飛行機に乗り込もうとした。
凄惨な修羅場をさらに切り裂いたのは、戦斧だった。
「まず、俺が脱出する!」
身長2メートル強。装甲服の胴衣を身につけた大男は、両手持ちの大斧を引っさげていた。
一応、彼は兵たちの総司令官であったが、もはや彼の命令に従おうとするものは、いなかった。
罵声と投石。
だが、オフレッサーには悪態も石も効果がなかった。
構わずに戦斧を一旋。
威嚇ですらない。
頭を割られたもの。肩口から腰まで両断されたもの。
血しぶきの中、まだ弾の残っていた銃が火を吹いたが、オフレッサーの装甲服は、その程度ではびくともしなかった。
「どけっ!」
腹部を切り裂かれた衛兵が倒れる。
「どけい!」
彼の部下のはずの傭兵が、血しぶきを上げて吹っ飛んだ。
「どけ! どけ! どけいっ!」
さながら殺戮マシーンと化したオフレッサーの前に、ひとりの女兵士がたった。
「オフレッサーっ!」
「おまえは……たしかアイリーンか?」
返り血を浴びて真っ赤に染った顔で、オフレッサーが笑う。
アイリーンは、小型の拳銃を構えていた。
「よく、武器を手に入れたな。だがその口径では俺は止められんよ。」
ニヤリと笑った口からこぼれた舌が、口の周りの血を舐めとった。
「どうだ? 一緒にくるか? 南米に逃げれば、雇ってくれる組織はいくつかある。おまえのモビルスーツの腕はいいウリになるはずだ。」
肉食獣の視線が、アイリーンの肢体を上から下まで舐めまわした。
「あとはおまえが、どれだけを俺を満足させられるかで待遇が変わってくるわけだが。」
アイリーンは、無言。
オフレッサーは言葉を重ねた。
「その口径で、俺を止めるには急所を撃ち抜く敷かない。だが、狙いやすい身体はご覧のように装甲服を着用済みだ。
となるとヘッドショットだが……こいつは難しい。動いている相手には実際にはそうそう弾は当てられるものではない。
で、一発はずせば次の瞬間には、おまえは真っ二つだ。」
アイリーンはにっこりと笑った。
タンタン!
銃声は、屋外では乾いて聞こえた。
とっさに身構えたオフレッサーだが、胴体には弾は当たっていなかった。
外したのか。
モビルスーツでの射撃には慣れていても、生身の人間はなかなか……
踏み出そうとしたとき。
ずるり。
足元に戦斧が落ちた。
いや。
たしかにしっかりと握りしめていたはず……
オフレッサーは、己の手を見た。
両手の親指が吹き飛ばされていた。
「あ……あ、あ……?」
タンタンッ!
両膝が撃ち抜かれた。
オフレッサーは、ガックリとその場にしゃがみ込んだ。
「まともに離陸できる飛行機も、長距離を走れる装甲車もないわ。」
アイリーンは皆に叫んだ。
「歩いて脱出しなさい。風上に逃げれば逃れられるわっ。」
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同様な混乱は、ガイエスブルクのいたるところで起こった。
幸いにもオフレッサーはひとりだけだったので、発着場で起こったような大量殺戮はなかったものの、気密服をめぐっての争いや、狭い通路で転倒したものを、後続が踏みつけたことによる死傷者。
さらに兵の脱走を恐れたシュヴァイクが、城門をしっかりロックしていたことが仇となり、混乱の中、多くの者が負傷し、生命を落としたものさえ、少なくない。
やがて、城門が一部破壊され、ニューヤーク市警と連邦軍の軍警が、侵入してきたとき、抵抗するものはひとりもいなかった。
それどころか、彼らは(シュヴァイク派の親戚たちも含め)口々に、警察への庇護を求める始末だった。
シュヴァイクは砦の中で発見された。
踏み込んだニューヤーク市警が見つけた時、彼は、オフレッサーに殴り倒されて、気を失っていた。
ただ、同じ部屋に倒れていたものたちの中には、同じく殴られ、複雑骨折や脳挫傷を起こしたものもいたので、比較的軽傷と言えた。
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「バウンティハンター。アイリーン・ヴィセント。
……ラリー・ヴィンセントって名乗った方が通りがいいかしらね。」
“賞金首”として、オフレッサーを差し出した女性は悪びれる風もなく、警官に自分の銃を差し出し、ボディチェックを受けた。
「おいっ! ラリー! ラリー・ヴィンセントか。」
口ひげをたくわえた刑事が、駆け寄った。
「コールマン警部。危ないです。」
制服の警官が、止めようとしたが、構わずコールマン警部は、アイリーンの肩を掴んだ。
「5年……いや6年ぶりか。連邦軍に引っ張られたと聞いたが、こんなところで何をしてる?」
「まあ……一言じゃあなかなか話せないわ。」
アイリーンは肩を竦めた。
「つもる話はたくさんあるんだけど、そっちは取調べ室でいいわ。
コーヒーとサンドイッチをつけてくれると、とっても口が軽くなるんだけど?」
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シーマは、しばらくは現場に待機していた。
まだ、稼働できるモビルスーツを、ガイエスブルク側が用意しているかもしれない。
だが、そんな様子は毛頭なく、彼女は、ガンダムガーベラで野営地に戻ってきた。
「どうだい、わたしの『悪名』は!?」
コクピットから降りたシーマは、胸を張った。
クランバトルチーム。そして急遽、呼び寄せられたヤンは、無言で彼女を見つめた。
「思い切った手だが、有効ではあった。」
クワトロがポツリと言った。
だが彼の妹はそんなものではすまない。
つかつかと、シーマに詰め寄ると、凍るような視線で彼女を睨んだ。
「……あなたが本当に使う気だったとは思わない!
だけどガスを持ち出した時点で、ジオンの名誉は地に落ちたわ!
いくらわたしが『知らなかった』ことにしても収拾はつかないのよ!?」
「それに、投下によるタンクの損傷の危険もある。」
ラインハルトが冷静に言った。
「もし破損箇所からガスが漏れれば、非戦闘員も含めて、ガイエスブルクは全滅だ。風向きによってはこの野営地も危ない。」
「まあまあ……」
ヤンが、のんびりと言った。どこか眠そうですらある。
実際に彼は眠かった。
ガイエスブルクの攻略のため、叩き起されて、ヘリでここまで連れてこられたのである。
「シーマはあくまで脅しとした使っただけだが、それでも、だ。
シーマ・ガラハウが脅しとして毒ガスを持ち出すことの影響力を、きみは分かっていない。」
クワトロがサングラスの奥からヤンを睨んだ。
「毒ガス?」
「そうだ。かつて、中立コロニーのいくつかを全滅させた毒ガスだ。」
「あれは単なるタンクです。毒ガスなんてひと言もシーマさんは言ってませんよ?」
我が意を得たり、と言うふうに、シーマのニヤニヤ笑いが濃くなった。
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「わしはシュヴァイク公爵だぞ!
こんなところで取り調べを受ける謂れはないっ!
礼をわきまえろ! 」
シュヴァイクは叫んだ。
こちらからは見えない窓がある。
監視カメラ。録画装置。
デスクを挟んで、強面の刑事が腰を下ろす。
シュヴァイクの頭には包帯が巻かれている。
さらに、奥歯が何本か欠損しているので、いずれ再生治療が必要だろう。
「たしかにそうだ!」
少し頭が薄くなりかけた強面の刑事は、大仰に手を広げてみせた。
「ここまで、証拠、証言が揃ってしまうと、別に閣下個人の証言などはどうでもいいのかもしれません。
ただ、正直に話してくれることにより、多少の情状酌量が発生する可能性も皆無ではない────」
「わしはシュヴァイク公爵だっ!」
「ニューヤークでは公式の地位にはそんなものはありませんな。」
マクレーンは、結構、この尋問を楽しんでいた。
肩の傷は癒えたが、背中はまだ痛む。
その元凶であるこの男が少々酷い目にあってもそれは自業自得であろう。
「それに、あなたは昨日付で、公爵家の当主ではなくなったようですよ。」
「そんな勝手なことが出来るものかっ!」
「ご当主しか出来ない判断があるのに、肝心のご当主と連絡がつかないとき、フリードルフ家の許可を得て、当主の交代が認められているそうです。
現在のシュヴァイク公爵は、あなたのお孫さんのエリザベートが継いでいますよ。」
「だ、だれがそんなことを……」
「そうですねえ。たしかにまだエリザベートちゃんは三歳だ。
でも心配無用です。後見には、フリードルフ家の正当な後継者であるラインハルト氏がついてくれてますから。」
シュヴァイクは、わけの分からないことを喚きながら、デスクを叩いた。
────デスクは充分頑丈だったから、マクレーンは、シュヴァイクが自分の拳を勝手に痛め続けるのを、微笑ましく見守った。
「そ、そうだ!」
シュヴァイクは体を起こした。
「ラインハルト……やつは毒ガスを使ったんだぞ!?」
マクレーンは、黙ってシュヴァイクを見返した。
「そうだ……毒ガスだ。個人としては所有するだけで重罪のはずだ。
奴らはそれをガイエスブルクに対して使おうとしたのだ!
これは大犯罪だ。ラインハルトを逮捕しろっ! ジオンにも厳重抗議だ! シーマ・ガラハウを戦争犯罪者として捕まえるんだ!」
「毒ガス……とは?」
「やつらが、城の前に投下したタンクだ!」
「ああ、あれですか」
マクレーンはモニターを操作した。
「なにしろ、こいつは『クランバトル』としてライブ中継もされてましたのでね。」
モニターの中に、巨大な円柱の傍らに立つガンダムガーベラが映し出された。
流れた音声は女性のものだった。
『いやあ、諸君。シーマ・ガラハウからのプレゼントだ。』
「…別に毒ガスだとも、それをあなた方に使うとも言ってませんが」
「し、しかし」
「このタンクの中には気体が入ってました。」
「そ、それ見ろ!」
「窒素78%、酸素21%。そのほかアルゴン、二酸化炭素、水蒸気そんなものです。普通に呼吸できるまったく無害な大気が100%です。」
「た、たとえ無害な気体が100%でも残りの1%が……」
「そんなものはないっ!!」
グラナダでは謎の作家フロドの原作による『シャイの逆襲』の先行上映会が。
物語的には、こっちが本筋だったりします。